統一球について報じられている範囲で
道作 [ 著者コラム一覧 ]
統一球について報じられている範囲で
既に新聞・ウェブサイトなどで報道されているように、今シーズンは全球団で統一されたボールを使う初年度となる。球団間で使用されるボールが異なっていることが競技の公正を損なっている点や、国際試合で使用されるボールの仕様に少しでも近づけたい、というのがその理由であるようだ。
具体的に変わる点は以下のとおり
①縫い目の高さは低く、幅は広くなり、国際試合で使用されるボールと仕様を近づけることにより国際試合で違和感を生じないようにすること。
②牛皮の仕様部位は、従来は背中側だけだったが、これも国際試合使用球に倣って脇腹の一部まで使用すること。
③ボールの反発係数(以下CDRと表記)を下げることにより打球の飛距離を抑えるようにすること。
このうち①と②については打者に与える影響よりも、主に投手の側に大きな影響をもたらす。確かに国際大会で使用されるボールに近い感触のものになるだろうが、守備時の送球についても開幕までにこのボールに馴染んでおかなくてはならない。
仕様表
このあたりは特に異論はない。ただし、他の変更点についてはかなり細かく報道されており、例を挙げると牛皮の使用部位なんてものまで報道されていたにも関わらず、牛皮やウールが国産から中国産になったことは(けっこう重要な変更点だと思うが)日本野球機構の公式リリースでしか確認できなかったことは意外であった。
次に③の反発係数について。日本野球機構からは、「中心のコルクを覆うゴム材について新開発の低反発素材を用いることで限りなく規格値下限の0.4134に近づけて製造していく」旨の発表がなされている。
でもこの発表はちょっとおかしい。1980年のコミッショナー通達以後、公式球の条件としてCDRは秒速75メートルの非弾性衝突で(※1)0.41~0.44の間に収まることとなっており、その後この数字は変更されていないはずである。
何故このような小数点以下第4位まで規定するような、元来の数字とは微妙に異なる数字が発表されているのだろうか。だいたいボールのCDRをこんなに細かく刻んでも仕方がない。均一のマテリアルで作るものならいざ知らず、コルクにゴムでコーティングしウールを巻いた上、牛の皮でくるんだ物体である。これのCDRなど、上下の誤差を抑えきれるようなものではなく、末尾の1ケタはハッキリ言うとムダ数字である。また、もしもこのような細かく刻んだ数字を基準として、基準下限ぴったりの数字を製品の規格としたならば、製品のうち半分は不合格、すなわち「はねもの」になってしまう。
報道の内容をよく読んでみるとCDR基準はそのままに、上の方すなわち0.42~0.44の部分は現実には使えないものとして棄却。さらに残った0.41~0.42の1/3を誤差の許容範囲として認め、通達の下限近くに張り付いた状態にしようとしたもののようである。
今回の目標値は0.4134であるため、ガイドライン下限の0.41までの間に誤差は0.0034まで、1980年当時の2/9までしか誤差は認められない。かなり厳しい目標だが、「0.41以上」のガイドラインを生かして現実的に運用しようとすればこれが限界だろう。この結果、「規格値下限に限界まで近付けるため0.4134を目標にする」とした話が、機構から発表されるまでのどこかで「規格値下限の0.4134に近づけて製造していく」に化けてしまったようだ。ガイドラインを決めた人間と発表を書いている人間が別で、そのために機構内部で情報伝達の誤りが発生していないだろうか。この文言のままではコミッショナー通達を担当者が勝手に書き換えたことになる。
さらに今回、注目したいのが「投手の球速を144キロ、打者のスイングスピードを126キロ、最も距離が出るとされる飛び出し角度27度として計測した飛距離は、従来の約110・4メートルから約1メートル減の約109・4メートルになるという。」というスポーツ新聞の記事。
投手の球速144キロと打者のスイングスピード126キロを正面衝突するものとして合計すると270キロで、これはCDR検査の秒速75mと全く同じになる。
さらに打者のスイングスピードを126キロと想定したのは、機構側から提供された数字なのかメーカーが独自に掴んでいる数字なのかは不明だが、スイートスポットの移動速度と考えられ好感が持てる。流通しているスイングスピードの数字はかなり怪しげなものが多く、観測者が変わると同じものを計測したとはとても思えないようなバラツキがある。どうやらバット先端部分で測ったりスイートスポットの移動速度で測ったりと統一が取れていないようである。ここで採用された数字はナショナルリーグ専属物理学者の発表の数字に近く、バット先端の移動速度を計測しても仕方がないと考えられるので、これはかなり実践的な計測であることは言える。
次に打球の仰角。記事中、「最も距離が出るとされる飛び出し角度27度」として表現されている。これも誤解を招きそうな表現だが、最も距離が出る飛び出し角度はこの程度の打球初速なら38度程度である。初速が大きくなればなるほど理想的な角度は下がる。(※2)ただし、バットの軌道は標準的なスイングで10度から11度ほど上向きの軌跡をたどっている。このため、理想的な38度程度の飛び出し角度のとき、バットから見た角度は27度程度になる。ここはバットとボールの衝突に関する規格なので、これも相当に実際に即した見方である。ここで言う27度とは地面から見た角度ではなくバットから見た飛び出し角度なのだ。
ボールの飛び方については色々と批判されているようだが、現実のメーカーの努力・準備はそれらの批判の遥かに先を行っているようだ。
(※1)弾力のない相手にぶつけてCDRを計測する。この場合はボールを鉄の板などにぶつけ、ボールの反発力だけを正確に計測することになる。ぶつける相手に弾力があればそちらのCDRまで一緒に計測してしまうことになるからである。
(※2)理想の角度がこのような数字になるのはもちろん空気抵抗があるためである。45度が理想の角度であるのは真空の場合に限られるほか、ボールの形状にも影響される。ゴルフのドライバーショットともなれば20度で既に上がり過ぎという記述がWeb上に散見される。最近はこの手の常識がWeb経由でメディアにも浸透したせいだろうか、45度の理想的な角度というアナウンスはさっぱり聞かれなくなった。
そろそろ国内のCDR基準も見直されるべき時期に来ているのかもしれない。0.41~0.44と定められて以後30年もの年月を経て選手の能力が向上したため、0.42~0.44の部分は既に使いにくくなっている。安心して使える部分より使いにくい部分の方が広くなってしまっているのだ。
当時よりもボールの真球度が向上していることもこの傾向に拍車をかけている。上で挙げたCDRは飛び出しのスピードを規定するが真球度の方は飛び出した後の減速に影響する。もしも今後新たに定められる基準があるとすれば、真球度が過去のボールとは異なっていることを考慮すべきだろうし、重量・体積についても研究が必要である。
さて、今回競技上の公正をも目指して統一された公式球、方向性としては賛同すべきものと認めた上での話であるが、これが戦力差を縮小する方向に働くのかは微妙である。過去のNPBにはチーム力の劣るチームがマギレを起こすため、あるいは自軍よりチーム力で勝るチームに対抗するため、故意に飛び過ぎるボールや全く飛ばないボールを使ってきた歴史がある。
V9時代の巨人、82年頃から10年ほどの西武といった圧倒的なチームはあくまで頑固に平均的なボールを使い続けた。標準的な状況になれば力の差で勝てるからである。これに対してそれ以外のチームの中にはあえてバランスを崩し極端な状況を作ることによって対抗しようと考えるチームも多くあった。これ以外の時代にも異常なパークファクターの推移を示す球場というのは恒常的に存在した。
これらは資金力等で他チームに対抗しえない状況のチームも含まれており、「ボールの選択」は持たざるチームにとっては自爆を覚悟したうえでの最後の手段(またはカンフル剤)である。今回の決定は「持たざるチーム」から選択できる手段を一つ排除することになる。
以下はパークファクターが相当に変わった推移を示した例である。
川崎球場
神宮球場
日生球場
「パークファクター」は本塁打の出方に関して本拠地同士の値を比較したもの
「予想本塁打」は1年間のリーグ全試合をこの球場で行った場合に予想される本塁打総数
これらは使用球の特性を選ぶことにより戦略的に何かをやろうとした球団である。長いNPBの歴史で、このような球団は枚挙に暇がないが、ここでは明らかに人為的な操作が行われている。例えば1959年最下位の大洋(川崎)はボールを変えた1960年にいきなり優勝するなど、数こそ少ないが成功例も現実に存在する。(ただし、上表の神宮球場の例は逆に他球場との均衡を図ったもののようでもある)
なお、ボールの性能により影響が与えられるのは本塁打数だけに留まらない。フィールド内の打球速度にも相当な影響を与えるため、極端な手段を講じた球団の野球は1年間を通じて相当に変わったものであっただろう。なお、はっきりそれと意図してボールの選択を戦略の中に組み込んだのは、確認できる限りにおいて1960年の三原監督が最初のようである。
最後にどうしても気になるのが「国内で使用されるボールと国際試合で使用されるボールで言われているほどの違いがあるのか」という点。確かに国際試合では日本の打者はあまり長打を打てていない。しかし、このことは
①国内で使われているボールが国際試合で使われるボールより飛び過ぎること
②外国勢投手との力関係でそもそも遠くまで打球が飛ばないこと
以上の2つのうちいずれが理由でも、また割合は不明でも2つの理由の混合でも成立することになる。今回の設定では40m/sの球速とスイングスピード35m/s、仰角推計38度のときに飛距離の相違は約1mに過ぎない。また、開発者の証言によれば、今回のボールは五輪等で使用されたボールより飛ばないとのことである(同じメーカーの製品である)。このことから、もしも今シーズンの本塁打発生状況に顕著な変化が現れない場合、国際試合において日本代表の打撃が振るわない理由はより多く②の側に求められるべきであることになる。初めてボールの影響を排除した本来のパークファクターが見られることもあり、今シーズンの打撃状況は目が離せない。
「日本では飛び過ぎるボールを使ってきたため、本当にパワーのある打者が育っていない」ことが国際試合において代表の打撃が振るわないことの理由の一つとして巷間語られてきた。今シーズンの打撃状況いかんによっては、この言論の是非が問われることになるのだろう。
過去にCDRと本塁打の出方を並べてみたところでは、固い根拠とまでは言えないが、CDR0.425よりも上では、CDRの2乗が1%上がるとき総本塁打は3%ほど増える関係が見られた。投手の負傷者が多いなどの特殊要件を除き、このままなら今シーズンはせいぜい1割以内の本塁打減少に留まると予想される。このレベルではもしかすると本塁打数増減よりインプレー打球の速度変化の方が大きな影響をもたらす可能性だってある。予想としては全般的に影響軽微なラインに落ち着きそうなところだが、CDRが0.413の周辺に来たときにどのような変化を見せるのか、サンプル数の増により関係する数値をより正しく修正する結果になるのかもしれない。また、予想は裏切られCDR0.415のあたりに本塁打数減少のカタストロフィーポイントが発見される事態になるのかもしれない。こちらの方も注目されるところである。
既に新聞・ウェブサイトなどで報道されているように、今シーズンは全球団で統一されたボールを使う初年度となる。球団間で使用されるボールが異なっていることが競技の公正を損なっている点や、国際試合で使用されるボールの仕様に少しでも近づけたい、というのがその理由であるようだ。
具体的に変わる点は以下のとおり
①縫い目の高さは低く、幅は広くなり、国際試合で使用されるボールと仕様を近づけることにより国際試合で違和感を生じないようにすること。
②牛皮の仕様部位は、従来は背中側だけだったが、これも国際試合使用球に倣って脇腹の一部まで使用すること。
③ボールの反発係数(以下CDRと表記)を下げることにより打球の飛距離を抑えるようにすること。
このうち①と②については打者に与える影響よりも、主に投手の側に大きな影響をもたらす。確かに国際大会で使用されるボールに近い感触のものになるだろうが、守備時の送球についても開幕までにこのボールに馴染んでおかなくてはならない。
仕様表
2010年まで | 2011年から | |
コルク芯を覆うゴム材 | 低反発素材 | 新低反発素材 |
縫目幅 | 7mm | 8mm |
縫目高さ | 1.1mm | 0.9mm |
牛皮 | 背中側部位のみ使用 |
背中側の他に脇や腹 の一部も使用 |
牛皮・ウール材生産国 | 日本 | 中国 |
変更なし | バージンウール使用・中国産綿糸・ポルトガル産コルク芯・台湾産縫い糸 |
このあたりは特に異論はない。ただし、他の変更点についてはかなり細かく報道されており、例を挙げると牛皮の使用部位なんてものまで報道されていたにも関わらず、牛皮やウールが国産から中国産になったことは(けっこう重要な変更点だと思うが)日本野球機構の公式リリースでしか確認できなかったことは意外であった。
次に③の反発係数について。日本野球機構からは、「中心のコルクを覆うゴム材について新開発の低反発素材を用いることで限りなく規格値下限の0.4134に近づけて製造していく」旨の発表がなされている。
でもこの発表はちょっとおかしい。1980年のコミッショナー通達以後、公式球の条件としてCDRは秒速75メートルの非弾性衝突で(※1)0.41~0.44の間に収まることとなっており、その後この数字は変更されていないはずである。
何故このような小数点以下第4位まで規定するような、元来の数字とは微妙に異なる数字が発表されているのだろうか。だいたいボールのCDRをこんなに細かく刻んでも仕方がない。均一のマテリアルで作るものならいざ知らず、コルクにゴムでコーティングしウールを巻いた上、牛の皮でくるんだ物体である。これのCDRなど、上下の誤差を抑えきれるようなものではなく、末尾の1ケタはハッキリ言うとムダ数字である。また、もしもこのような細かく刻んだ数字を基準として、基準下限ぴったりの数字を製品の規格としたならば、製品のうち半分は不合格、すなわち「はねもの」になってしまう。
報道の内容をよく読んでみるとCDR基準はそのままに、上の方すなわち0.42~0.44の部分は現実には使えないものとして棄却。さらに残った0.41~0.42の1/3を誤差の許容範囲として認め、通達の下限近くに張り付いた状態にしようとしたもののようである。
今回の目標値は0.4134であるため、ガイドライン下限の0.41までの間に誤差は0.0034まで、1980年当時の2/9までしか誤差は認められない。かなり厳しい目標だが、「0.41以上」のガイドラインを生かして現実的に運用しようとすればこれが限界だろう。この結果、「規格値下限に限界まで近付けるため0.4134を目標にする」とした話が、機構から発表されるまでのどこかで「規格値下限の0.4134に近づけて製造していく」に化けてしまったようだ。ガイドラインを決めた人間と発表を書いている人間が別で、そのために機構内部で情報伝達の誤りが発生していないだろうか。この文言のままではコミッショナー通達を担当者が勝手に書き換えたことになる。
さらに今回、注目したいのが「投手の球速を144キロ、打者のスイングスピードを126キロ、最も距離が出るとされる飛び出し角度27度として計測した飛距離は、従来の約110・4メートルから約1メートル減の約109・4メートルになるという。」というスポーツ新聞の記事。
投手の球速144キロと打者のスイングスピード126キロを正面衝突するものとして合計すると270キロで、これはCDR検査の秒速75mと全く同じになる。
さらに打者のスイングスピードを126キロと想定したのは、機構側から提供された数字なのかメーカーが独自に掴んでいる数字なのかは不明だが、スイートスポットの移動速度と考えられ好感が持てる。流通しているスイングスピードの数字はかなり怪しげなものが多く、観測者が変わると同じものを計測したとはとても思えないようなバラツキがある。どうやらバット先端部分で測ったりスイートスポットの移動速度で測ったりと統一が取れていないようである。ここで採用された数字はナショナルリーグ専属物理学者の発表の数字に近く、バット先端の移動速度を計測しても仕方がないと考えられるので、これはかなり実践的な計測であることは言える。
次に打球の仰角。記事中、「最も距離が出るとされる飛び出し角度27度」として表現されている。これも誤解を招きそうな表現だが、最も距離が出る飛び出し角度はこの程度の打球初速なら38度程度である。初速が大きくなればなるほど理想的な角度は下がる。(※2)ただし、バットの軌道は標準的なスイングで10度から11度ほど上向きの軌跡をたどっている。このため、理想的な38度程度の飛び出し角度のとき、バットから見た角度は27度程度になる。ここはバットとボールの衝突に関する規格なので、これも相当に実際に即した見方である。ここで言う27度とは地面から見た角度ではなくバットから見た飛び出し角度なのだ。
ボールの飛び方については色々と批判されているようだが、現実のメーカーの努力・準備はそれらの批判の遥かに先を行っているようだ。
(※1)弾力のない相手にぶつけてCDRを計測する。この場合はボールを鉄の板などにぶつけ、ボールの反発力だけを正確に計測することになる。ぶつける相手に弾力があればそちらのCDRまで一緒に計測してしまうことになるからである。
(※2)理想の角度がこのような数字になるのはもちろん空気抵抗があるためである。45度が理想の角度であるのは真空の場合に限られるほか、ボールの形状にも影響される。ゴルフのドライバーショットともなれば20度で既に上がり過ぎという記述がWeb上に散見される。最近はこの手の常識がWeb経由でメディアにも浸透したせいだろうか、45度の理想的な角度というアナウンスはさっぱり聞かれなくなった。
そろそろ国内のCDR基準も見直されるべき時期に来ているのかもしれない。0.41~0.44と定められて以後30年もの年月を経て選手の能力が向上したため、0.42~0.44の部分は既に使いにくくなっている。安心して使える部分より使いにくい部分の方が広くなってしまっているのだ。
当時よりもボールの真球度が向上していることもこの傾向に拍車をかけている。上で挙げたCDRは飛び出しのスピードを規定するが真球度の方は飛び出した後の減速に影響する。もしも今後新たに定められる基準があるとすれば、真球度が過去のボールとは異なっていることを考慮すべきだろうし、重量・体積についても研究が必要である。
さて、今回競技上の公正をも目指して統一された公式球、方向性としては賛同すべきものと認めた上での話であるが、これが戦力差を縮小する方向に働くのかは微妙である。過去のNPBにはチーム力の劣るチームがマギレを起こすため、あるいは自軍よりチーム力で勝るチームに対抗するため、故意に飛び過ぎるボールや全く飛ばないボールを使ってきた歴史がある。
V9時代の巨人、82年頃から10年ほどの西武といった圧倒的なチームはあくまで頑固に平均的なボールを使い続けた。標準的な状況になれば力の差で勝てるからである。これに対してそれ以外のチームの中にはあえてバランスを崩し極端な状況を作ることによって対抗しようと考えるチームも多くあった。これ以外の時代にも異常なパークファクターの推移を示す球場というのは恒常的に存在した。
これらは資金力等で他チームに対抗しえない状況のチームも含まれており、「ボールの選択」は持たざるチームにとっては自爆を覚悟したうえでの最後の手段(またはカンフル剤)である。今回の決定は「持たざるチーム」から選択できる手段を一つ排除することになる。
以下はパークファクターが相当に変わった推移を示した例である。
川崎球場
1958年 | 1959年 | 1960年 | 1961年 | |
パークファクター | 1.907 | 1.552 | 0.614 | 0.618 |
予想本塁打 | 815 | 718 | 326 | 301 |
神宮球場
2000年 | 2001年 | 2002年 | 2003年 | 2004年 | |
パークファクター | 1.418 | 1.001 | 0.828 | 0.729 | 1.400 |
予想本塁打 | 1084 | 782 | 704 | 754 | 1410 |
日生球場
1977年 | 1978年 | 1979年 | 1980年 | |
パークファクター | 1.104 | 0.612 | 1.868 | 1.942 |
予想本塁打 | 759 | 474 | 1524 | 2007 |
「予想本塁打」は1年間のリーグ全試合をこの球場で行った場合に予想される本塁打総数
これらは使用球の特性を選ぶことにより戦略的に何かをやろうとした球団である。長いNPBの歴史で、このような球団は枚挙に暇がないが、ここでは明らかに人為的な操作が行われている。例えば1959年最下位の大洋(川崎)はボールを変えた1960年にいきなり優勝するなど、数こそ少ないが成功例も現実に存在する。(ただし、上表の神宮球場の例は逆に他球場との均衡を図ったもののようでもある)
なお、ボールの性能により影響が与えられるのは本塁打数だけに留まらない。フィールド内の打球速度にも相当な影響を与えるため、極端な手段を講じた球団の野球は1年間を通じて相当に変わったものであっただろう。なお、はっきりそれと意図してボールの選択を戦略の中に組み込んだのは、確認できる限りにおいて1960年の三原監督が最初のようである。
最後にどうしても気になるのが「国内で使用されるボールと国際試合で使用されるボールで言われているほどの違いがあるのか」という点。確かに国際試合では日本の打者はあまり長打を打てていない。しかし、このことは
①国内で使われているボールが国際試合で使われるボールより飛び過ぎること
②外国勢投手との力関係でそもそも遠くまで打球が飛ばないこと
以上の2つのうちいずれが理由でも、また割合は不明でも2つの理由の混合でも成立することになる。今回の設定では40m/sの球速とスイングスピード35m/s、仰角推計38度のときに飛距離の相違は約1mに過ぎない。また、開発者の証言によれば、今回のボールは五輪等で使用されたボールより飛ばないとのことである(同じメーカーの製品である)。このことから、もしも今シーズンの本塁打発生状況に顕著な変化が現れない場合、国際試合において日本代表の打撃が振るわない理由はより多く②の側に求められるべきであることになる。初めてボールの影響を排除した本来のパークファクターが見られることもあり、今シーズンの打撃状況は目が離せない。
「日本では飛び過ぎるボールを使ってきたため、本当にパワーのある打者が育っていない」ことが国際試合において代表の打撃が振るわないことの理由の一つとして巷間語られてきた。今シーズンの打撃状況いかんによっては、この言論の是非が問われることになるのだろう。
過去にCDRと本塁打の出方を並べてみたところでは、固い根拠とまでは言えないが、CDR0.425よりも上では、CDRの2乗が1%上がるとき総本塁打は3%ほど増える関係が見られた。投手の負傷者が多いなどの特殊要件を除き、このままなら今シーズンはせいぜい1割以内の本塁打減少に留まると予想される。このレベルではもしかすると本塁打数増減よりインプレー打球の速度変化の方が大きな影響をもたらす可能性だってある。予想としては全般的に影響軽微なラインに落ち着きそうなところだが、CDRが0.413の周辺に来たときにどのような変化を見せるのか、サンプル数の増により関係する数値をより正しく修正する結果になるのかもしれない。また、予想は裏切られCDR0.415のあたりに本塁打数減少のカタストロフィーポイントが発見される事態になるのかもしれない。こちらの方も注目されるところである。
Baseball Lab「Archives」とは?
Baseball Lab「Archives」では2010~2011年にかけてラボ内で行われた「セイバーメトリクス」のコンテンツを公開しております。
野球を客観視した独自の論評、分析、および研究を特徴として、野球に関するさまざまな考察をしています。
野球を客観視した独自の論評、分析、および研究を特徴として、野球に関するさまざまな考察をしています。
月別著者コラム
最新コラムコメント
|
|
|
|
|
コメント