ゾーンパークファクター
森嶋俊行 [ 著者コラム一覧 ]
1.目的と手法
先月の守備企画につき,読者の関心も高かろうと思われるゾーンパークファクターについて,件(くだん)のゾーンデータを使って調べてみた.
ここで話題にしようと思うのは,ゾーン別BABIP(この場合は打率と言っても出塁率と言ってもいいとは思うが)のパークファクター(以下PF)である.すなわち,「同じような打球でも,フェンスが高い球場ならフェンス際の打球は安打になりやすいのでは」というような話である.
計算方法は,本塁打PFで用いられているものを踏襲する.つまり全ゾーンで「あるチームの本拠地球場における全チーム合計BABIP」と「本拠地球場以外でそのチームが試合を行った時の全チーム合計BABIP」を比較する.そんなややこしいことをしなくても,球場別BABIPを単に比較すればいいのでは,とも考えられるが,それだと本拠地チームの投手や守備,打者特性の影響が出てしまう.従って,各チームの特性を帳消しにできる,本塁打PFの算出法が必要である.
本稿ではBABIPを,「そのゾーンに飛んだ打球のうち,安打か失策か野選で打者走者がアウトにならなかった割合」とする.また,話を球場特性に絞るため,「本拠地球場」は各チーム最も多くの試合が行われた球場一つとし,リーグ戦のみを対象とする.さらに,全打球のうちライナーに関しても,そもそものサンプル数がゴロ・フライと比べて少なすぎること,最も球場の影響がなさそうな種類の打球であることから,今回は分析対象としない.
2. 結果
1) ゴロ
ゴロのゾーン別PFを示したのが以下のグラフである.例えばPF1.2ということは,そのゾーンではその球場以外で本拠地球団が行った試合と比べ,1.2倍出塁しやすかったということである.距離帯や打球の強さを分けると,ゾーン一つ当たりのサンプル数が少なくなりすぎてぶれが大きくなってしまうので打球方向のみで集計している.


結論から言ってしまえば,私がこのグラフを出したのは,「ゾーンごとに集計してみたが,球場ごとの差はよくわからなかった」ということを言うためである.見れば「神宮や宮城,西武ドームでは遊撃右方の打球で出塁しやすい」というような特徴は確かに読み取れる.しかし,そこに規則性,「何でこういう現象が起きるの?」というところが見いだせないのである.特徴が出るとすれば,土のグラウンドである甲子園と広島に真っ先に何らかの特徴が出てしかるべきであるのだが,このグラフからは読み取れない.下の距離帯別PFでは距離帯1~2のゴロが安打になりにくい傾向が見られるが,そもそもこの距離帯のゴロの数自体かなり少ないので,値のぶれがかなり大きいはずである.


ゴロ全体の安打になりやすさをまとめたのが以下のグラフである.

おおむね0.9~1.1に収まっている.甲子園と広島はいずれも中位で,この結果をもって、ゴロで出塁しやすい球場,出塁しにくい球場がなぜあるかを記述的に説明するということは,私にはできそうにない.
2) フライ
フライについても同様に分析する.まず,打球方向別のPFはゴロと似たり寄ったりで特に傾向が見いだせなかったので説明を割愛する.もし「見たい」という意見があれば後日upしたいと思う.
問題はこの後である.以下が,サンプル数が一定程度確保できる距離帯4(二遊間定位置よりやや後方に相当する)より後ろの距離帯別PF.


そしてフライBABIP全体のPF.

この辺からPF分散を「ただのまぎれ」と片づけてしまうには少々厳しくなってくる.平均以上の7球場のうち5球場が屋外球場であり,平均以下の5球場のうち4球場がドーム球場である.さらに距離8の打球,つまりフェンス直撃に近い打球のPFを抜き出してみる.

フェンスの高さとBABIP PFにかなりの一致が見られる.「フェンスが高い球場の野手後方の打球は打球をアウトにしにくいのでは?」というツッコミはそれなりに意味をなしていそうである.
これらのことから,フライに関して言えば,球場特性のゾーンPFへの影響を考えなければいけないのかもしれない.
さて,ここで,「もしゾーン別BABIPのPFがすべて球場特性によるものとして,UZRの指標などにはどの程度影響が出るのか」というのを試算してみた.各球場を見ると平均的には1試合1チームあたり12のフライが観測されている.またフライ平均BABIPは3分の1程度である.上のグラフから,フライBABIP最大の球場と最小の球場で2割程度差があるようなので,低いところで0.3,高いところで0.36程度であろうか.この差0.06がもたらすフライアウトの差は1試合あたり0.72.ホームでのリーグ戦は年間60試合なので,フライを最もアウトにしやすい球場では,最もアウトにしにくい球場に比べ,43.2個フライアウトの数に差がつく.単打とフライアウトの得点価値の差異は0.72点.単純計算で年間31.1点得している.これを主に二塁・遊撃・左翼・中堅・右翼の5人でシェアすることになる.一ポジションあたり6点.この値が,ゾーン系指標に対し,本拠地球場が与える影響の最大値であると言える.
守備企画からゾーンデータを見てきた者にとっては,相当な数値に見える.実際にこれだけずれてしまうと,相当順位にも影響が出てしまうであろう.ただ,この誤差がすべて球場特性によるものかというところは,まだ何とも言えない.上のグラフのように,球場特性と出塁しやすさの関係がよくつかめなかったゴロBABIP PFでも,最大の球場と最小の球場で1割以上差がある.フライBABIP PFにも「単にサンプル数の不足による偏り」が少なからず含まれているであろう.例えば,屋外球場でフライBABIP PFが高い原因として,風の影響を挙げるとすると,真っ先に値のぶれが大きそうな球場として挙げられそうな甲子園のフライBABIP PFがほとんど目立たない値になっているなど変なところがある.今後,経年変化を見るなど,この年31点のうち,どの程度が球場特性によるものか,見ていく必要がありそうだ.
最後に,今回あまり意味のなさそうなグラフまで一応掲載してみた意図として,「ほら,規則性が見いだせませんでしたよ」というのを明示するのともう一つ,自分の要素見落としが怖かった,というのがある.もしかしたら,これらのグラフから,自分が見落としていた要素を誰かが発見してくれるかもしれないということである.読者の皆さまがもしうまい解釈法を思いついたら,ぜひご教示願いたいところである.
先月の守備企画につき,読者の関心も高かろうと思われるゾーンパークファクターについて,件(くだん)のゾーンデータを使って調べてみた.
ここで話題にしようと思うのは,ゾーン別BABIP(この場合は打率と言っても出塁率と言ってもいいとは思うが)のパークファクター(以下PF)である.すなわち,「同じような打球でも,フェンスが高い球場ならフェンス際の打球は安打になりやすいのでは」というような話である.
計算方法は,本塁打PFで用いられているものを踏襲する.つまり全ゾーンで「あるチームの本拠地球場における全チーム合計BABIP」と「本拠地球場以外でそのチームが試合を行った時の全チーム合計BABIP」を比較する.そんなややこしいことをしなくても,球場別BABIPを単に比較すればいいのでは,とも考えられるが,それだと本拠地チームの投手や守備,打者特性の影響が出てしまう.従って,各チームの特性を帳消しにできる,本塁打PFの算出法が必要である.
本稿ではBABIPを,「そのゾーンに飛んだ打球のうち,安打か失策か野選で打者走者がアウトにならなかった割合」とする.また,話を球場特性に絞るため,「本拠地球場」は各チーム最も多くの試合が行われた球場一つとし,リーグ戦のみを対象とする.さらに,全打球のうちライナーに関しても,そもそものサンプル数がゴロ・フライと比べて少なすぎること,最も球場の影響がなさそうな種類の打球であることから,今回は分析対象としない.
2. 結果
1) ゴロ
ゴロのゾーン別PFを示したのが以下のグラフである.例えばPF1.2ということは,そのゾーンではその球場以外で本拠地球団が行った試合と比べ,1.2倍出塁しやすかったということである.距離帯や打球の強さを分けると,ゾーン一つ当たりのサンプル数が少なくなりすぎてぶれが大きくなってしまうので打球方向のみで集計している.
結論から言ってしまえば,私がこのグラフを出したのは,「ゾーンごとに集計してみたが,球場ごとの差はよくわからなかった」ということを言うためである.見れば「神宮や宮城,西武ドームでは遊撃右方の打球で出塁しやすい」というような特徴は確かに読み取れる.しかし,そこに規則性,「何でこういう現象が起きるの?」というところが見いだせないのである.特徴が出るとすれば,土のグラウンドである甲子園と広島に真っ先に何らかの特徴が出てしかるべきであるのだが,このグラフからは読み取れない.下の距離帯別PFでは距離帯1~2のゴロが安打になりにくい傾向が見られるが,そもそもこの距離帯のゴロの数自体かなり少ないので,値のぶれがかなり大きいはずである.
ゴロ全体の安打になりやすさをまとめたのが以下のグラフである.
おおむね0.9~1.1に収まっている.甲子園と広島はいずれも中位で,この結果をもって、ゴロで出塁しやすい球場,出塁しにくい球場がなぜあるかを記述的に説明するということは,私にはできそうにない.
2) フライ
フライについても同様に分析する.まず,打球方向別のPFはゴロと似たり寄ったりで特に傾向が見いだせなかったので説明を割愛する.もし「見たい」という意見があれば後日upしたいと思う.
問題はこの後である.以下が,サンプル数が一定程度確保できる距離帯4(二遊間定位置よりやや後方に相当する)より後ろの距離帯別PF.
そしてフライBABIP全体のPF.
この辺からPF分散を「ただのまぎれ」と片づけてしまうには少々厳しくなってくる.平均以上の7球場のうち5球場が屋外球場であり,平均以下の5球場のうち4球場がドーム球場である.さらに距離8の打球,つまりフェンス直撃に近い打球のPFを抜き出してみる.
フェンスの高さとBABIP PFにかなりの一致が見られる.「フェンスが高い球場の野手後方の打球は打球をアウトにしにくいのでは?」というツッコミはそれなりに意味をなしていそうである.
これらのことから,フライに関して言えば,球場特性のゾーンPFへの影響を考えなければいけないのかもしれない.
さて,ここで,「もしゾーン別BABIPのPFがすべて球場特性によるものとして,UZRの指標などにはどの程度影響が出るのか」というのを試算してみた.各球場を見ると平均的には1試合1チームあたり12のフライが観測されている.またフライ平均BABIPは3分の1程度である.上のグラフから,フライBABIP最大の球場と最小の球場で2割程度差があるようなので,低いところで0.3,高いところで0.36程度であろうか.この差0.06がもたらすフライアウトの差は1試合あたり0.72.ホームでのリーグ戦は年間60試合なので,フライを最もアウトにしやすい球場では,最もアウトにしにくい球場に比べ,43.2個フライアウトの数に差がつく.単打とフライアウトの得点価値の差異は0.72点.単純計算で年間31.1点得している.これを主に二塁・遊撃・左翼・中堅・右翼の5人でシェアすることになる.一ポジションあたり6点.この値が,ゾーン系指標に対し,本拠地球場が与える影響の最大値であると言える.
守備企画からゾーンデータを見てきた者にとっては,相当な数値に見える.実際にこれだけずれてしまうと,相当順位にも影響が出てしまうであろう.ただ,この誤差がすべて球場特性によるものかというところは,まだ何とも言えない.上のグラフのように,球場特性と出塁しやすさの関係がよくつかめなかったゴロBABIP PFでも,最大の球場と最小の球場で1割以上差がある.フライBABIP PFにも「単にサンプル数の不足による偏り」が少なからず含まれているであろう.例えば,屋外球場でフライBABIP PFが高い原因として,風の影響を挙げるとすると,真っ先に値のぶれが大きそうな球場として挙げられそうな甲子園のフライBABIP PFがほとんど目立たない値になっているなど変なところがある.今後,経年変化を見るなど,この年31点のうち,どの程度が球場特性によるものか,見ていく必要がありそうだ.
最後に,今回あまり意味のなさそうなグラフまで一応掲載してみた意図として,「ほら,規則性が見いだせませんでしたよ」というのを明示するのともう一つ,自分の要素見落としが怖かった,というのがある.もしかしたら,これらのグラフから,自分が見落としていた要素を誰かが発見してくれるかもしれないということである.読者の皆さまがもしうまい解釈法を思いついたら,ぜひご教示願いたいところである.
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野球を客観視した独自の論評、分析、および研究を特徴として、野球に関するさまざまな考察をしています。
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