投球の組み立て~初球
鳥越規央 [ 著者コラム一覧 ]
私の研究室には,セイバーメトリクスをはじめとするスポーツ統計学の研究を志す学生が集うことが多い.スポーツを科学的にとらえようとする試みが若い世代に浸透していることを実感する.今回はゼミナールで学生が主体となって行われている研究の一つを紹介する.それは配球に関する研究である.配球を統計学的に研究することは困難を極めることが多い.それは非常にノイズが大きいからだ.球種,球速に関しては投手の意図する通りに発生するが,コースに関してはその投手(もしくはバッテリー)の意図通りのものであるかどうかを即時に判定できないからである.この困難に立ち向かうべく,われわれの研究室ではソフトウエアを作成し,そこから配球分析を試みている.
図1 配球分析のソフトウエアのスクリーンショット

今回の研究の大きな目的は「投球の組み立て」を統計解析して「打ち取れる配球」と「打たれる配球」に判別することにある.そこでここではその導入として「初球」に絞って考察を行う.
打者にとって「ファーストストライク」を捕らえることは非常に重要なことである.表1 のデータから,ストライクを重ねていくほど打率が落ちて行くことが一目瞭然である.

そこで,有力打者が初球のストライクをスイングしたときのデータを分析し,初球において,どのような球をスイングする傾向があるかについて分析していく.なお,今回の分析では得点圏にランナーがいない時に限っている.
分析の対象として,2010年のペナントレースで活躍した選手を各球団から1名ずつ選出した.(表2参照)

今回の分析では,実際に初球でスイングを行ったデータを用いて,球速,球種,コースを説明変数としたロジスッティック回帰分析によって,選手の初球ストライクのスイング確率を求めて行った.コースに用いた変数は表3のダミー変数を用いている.コース内の番号1,2,3が右打者から見てインコース,左打者から見てアウトコースである.
この分析でわかることは「この選手はこの球が初球にくれば手を出す確率が高い」ということである.さらには「この選手は初球にこの球を待っている」ということも分析できるのである.その結果がグラフ1からグラフ6である.
グラフ1 145キロのストレートを投げたときのストライクゾーンスイング率その1

グラフ2 145キロのストレートを投げたときのストライクゾーンスイング率その2

グラフ3 130キロのスライダーを投げたときのストライクゾーンスイング率その1

グラフ4 130キロのスライダーを投げたときのストライクゾーンスイング率その2

グラフ5 110キロのカーブを投げたときのストライクゾーンスイング率その1

グラフ6 110キロのカーブを投げたときのストライクゾーンスイング率その2

この分析によってかなり興味深い結果が表れた.
例えば,中日の和田選手において,すべての球種,球速の場合でコース1,4,7のスイング確率が高いことがわかる.つまり,初球は高めの球をスイングする確率が高いのである.このような傾向にある打者は他にも
マートン 青木 内川 多村 西岡 嶋
がいる.西武の中島に関しては,高めより低めのスイング率が高いことがわかる.これらの選手は高さを基準として投球を待っていると想定される.
次に,コースによってスイング率に差が出た選手を挙げると
廣瀬 田中 T-岡田
の3選手である.彼らはいずれも外角より内角のスイング率の方が高い傾向にあることがわかる.
このように打者はコースや高さを絞り込んで初球を待つ傾向があることが読み取れたのだが,その傾向を持たない選手が1人いた.巨人のラミレスである.グラフからみても,高低やコースによるスイング率がほとんど変わらないことが読み取れる.では何を基準に待っているかというと,どうやら球種であると想定される.初球に145kmのストレートが投げられたときのスイング率が30%弱なのに対し,110kmカーブのスイング率はそれより10%も多い.このことより,ラミレス選手はコースで絞るのではなく,ストライクゾーンに来たカーブを狙っているといえるのである.このように球種,球速によるスイング率に差がある選手は他にもいるが,球種,球速のみによる差が顕著な例はラミレスだけであった.
次に,打者のタイプ別によるスイング率の差異を分析してみよう.まず長距離打者と中距離打者では初球に狙う球種が違うことが分かった.今シーズン本塁打王を獲得した巨人のラミレス,オリックスのT-岡田や37本の本塁打を放った和田といったいわゆる長距離打者は,カーブを狙っている傾向があることが読み取れる.対して,今シーズン200本安打を達成した阪神のマートンや東京ヤクルトの青木,千葉ロッテの西岡などのアベレージヒッターは,ストレートを狙っている傾向があると考えられる.
次に個々の選手で注視すべき傾向について挙げていく.スイング率が3球種とも高かったのが西武の中島であった.特に内角のストレートに関しては,他の選手よりスイング率が高いことが分かる.つまり中島は,初球を積極的にスイングしていることになる.逆に一番スイング率が低いのが日本ハムの田中である.特に,カーブ,スライダーに関しては内角,真ん中のスイング率が10%代である.田中は今シーズン1番打者として活躍した.つまり,じっくりとボールを良く見るタイプの1番打者と言えるだろう.
では,実際に投手はこれらの打者に対する初球にどのくらいの割合でストレート・カーブ・スライダーを投げているのだろうか.下の表は,今シーズン,各選手に投じられた初球のストレート・カーブ・スライダーの割合である.やはり,ストレートの割合がどの選手も高い事が分かるが,中島に関しては,ストレートの比率が低くカーブの比率が高くなっていることがわかる.
また,今シーズン200本安打を達成した3人にはストレートが50%近く投げられている.
■初球ストレートにおける打率
上の表を見るとストレートにおける打率が3人とも高い事が分かる.つまり,初球に1番投げてくるストレートを確実にヒットにしていることなる.この積極性が200本安打達成に少なからず影響を与えていることだろう.
今回の分析では,アウトカウント0,ボールカウント0 - 0,得点圏にランナーがいない状況でのスイング率を出したが,今後はいろんなシチュエーションにおけるスイング率を求めてみて,カウントによってスイング率がどのように変化していくかとか,選手による差異が出てくるのかについて分析していこうと考えている.
このコラムは東海大学理学部情報数理学科 時光順平君の研究をベースにゼミナール指導教員である鳥越が執筆いたしました.
図1 配球分析のソフトウエアのスクリーンショット

今回の研究の大きな目的は「投球の組み立て」を統計解析して「打ち取れる配球」と「打たれる配球」に判別することにある.そこでここではその導入として「初球」に絞って考察を行う.
打者にとって「ファーストストライク」を捕らえることは非常に重要なことである.表1 のデータから,ストライクを重ねていくほど打率が落ちて行くことが一目瞭然である.
そこで,有力打者が初球のストライクをスイングしたときのデータを分析し,初球において,どのような球をスイングする傾向があるかについて分析していく.なお,今回の分析では得点圏にランナーがいない時に限っている.
分析の対象として,2010年のペナントレースで活躍した選手を各球団から1名ずつ選出した.(表2参照)
この分析でわかることは「この選手はこの球が初球にくれば手を出す確率が高い」ということである.さらには「この選手は初球にこの球を待っている」ということも分析できるのである.その結果がグラフ1からグラフ6である.
グラフ1 145キロのストレートを投げたときのストライクゾーンスイング率その1
グラフ2 145キロのストレートを投げたときのストライクゾーンスイング率その2
グラフ3 130キロのスライダーを投げたときのストライクゾーンスイング率その1
グラフ4 130キロのスライダーを投げたときのストライクゾーンスイング率その2
グラフ5 110キロのカーブを投げたときのストライクゾーンスイング率その1
グラフ6 110キロのカーブを投げたときのストライクゾーンスイング率その2
この分析によってかなり興味深い結果が表れた.
例えば,中日の和田選手において,すべての球種,球速の場合でコース1,4,7のスイング確率が高いことがわかる.つまり,初球は高めの球をスイングする確率が高いのである.このような傾向にある打者は他にも
マートン 青木 内川 多村 西岡 嶋
がいる.西武の中島に関しては,高めより低めのスイング率が高いことがわかる.これらの選手は高さを基準として投球を待っていると想定される.
次に,コースによってスイング率に差が出た選手を挙げると
廣瀬 田中 T-岡田
の3選手である.彼らはいずれも外角より内角のスイング率の方が高い傾向にあることがわかる.
このように打者はコースや高さを絞り込んで初球を待つ傾向があることが読み取れたのだが,その傾向を持たない選手が1人いた.巨人のラミレスである.グラフからみても,高低やコースによるスイング率がほとんど変わらないことが読み取れる.では何を基準に待っているかというと,どうやら球種であると想定される.初球に145kmのストレートが投げられたときのスイング率が30%弱なのに対し,110kmカーブのスイング率はそれより10%も多い.このことより,ラミレス選手はコースで絞るのではなく,ストライクゾーンに来たカーブを狙っているといえるのである.このように球種,球速によるスイング率に差がある選手は他にもいるが,球種,球速のみによる差が顕著な例はラミレスだけであった.
次に,打者のタイプ別によるスイング率の差異を分析してみよう.まず長距離打者と中距離打者では初球に狙う球種が違うことが分かった.今シーズン本塁打王を獲得した巨人のラミレス,オリックスのT-岡田や37本の本塁打を放った和田といったいわゆる長距離打者は,カーブを狙っている傾向があることが読み取れる.対して,今シーズン200本安打を達成した阪神のマートンや東京ヤクルトの青木,千葉ロッテの西岡などのアベレージヒッターは,ストレートを狙っている傾向があると考えられる.
次に個々の選手で注視すべき傾向について挙げていく.スイング率が3球種とも高かったのが西武の中島であった.特に内角のストレートに関しては,他の選手よりスイング率が高いことが分かる.つまり中島は,初球を積極的にスイングしていることになる.逆に一番スイング率が低いのが日本ハムの田中である.特に,カーブ,スライダーに関しては内角,真ん中のスイング率が10%代である.田中は今シーズン1番打者として活躍した.つまり,じっくりとボールを良く見るタイプの1番打者と言えるだろう.
では,実際に投手はこれらの打者に対する初球にどのくらいの割合でストレート・カーブ・スライダーを投げているのだろうか.下の表は,今シーズン,各選手に投じられた初球のストレート・カーブ・スライダーの割合である.やはり,ストレートの割合がどの選手も高い事が分かるが,中島に関しては,ストレートの比率が低くカーブの比率が高くなっていることがわかる.
■2010年球種別割合
選手名 | ストレート | カーブ | スライダー |
和田 | 42.55% | 8.51% | 24.47% |
マートン | 51.06% | 7.80% | 22.70% |
ラミレス | 53.26% | 6.52% | 21.74% |
青木 | 49.61% | 7.75% | 24.81% |
廣瀬 | 54.65% | 8.14% | 23.26% |
内川 | 49.61% | 7.87% | 23.62% |
多村 | 44.83% | 5.75% | 21.84% |
中島 | 32.79% | 14.75% | 22.95% |
西岡(右) | 42.00% | 14.00% | 16.00% |
西岡(左) | 56.19% | 10.48% | 15.24% |
田中 | 52.08% | 6.25% | 24.31% |
T-岡田 | 32.86% | 14.29% | 30.00% |
嶋 | 56.72% | 8.96% | 16.42% |
■初球ストレートにおける打率
選手名 | 打数 | 安打 | 打率 |
マートン | 26 | 10 | .385 |
青木 | 13 | 5 | .385 |
西岡 | 22 | 10 | .455 |
上の表を見るとストレートにおける打率が3人とも高い事が分かる.つまり,初球に1番投げてくるストレートを確実にヒットにしていることなる.この積極性が200本安打達成に少なからず影響を与えていることだろう.
今回の分析では,アウトカウント0,ボールカウント0 - 0,得点圏にランナーがいない状況でのスイング率を出したが,今後はいろんなシチュエーションにおけるスイング率を求めてみて,カウントによってスイング率がどのように変化していくかとか,選手による差異が出てくるのかについて分析していこうと考えている.
このコラムは東海大学理学部情報数理学科 時光順平君の研究をベースにゼミナール指導教員である鳥越が執筆いたしました.
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