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SHINGO [ 著者コラム一覧 ]

投稿日時:2011/05/27(金) 14:00rss

 今年でメジャー5年目を迎えるボストン・レッドソックスの松坂大輔投手(以下敬称略)が、相変わらず不安定な投球を続けていた矢先、右肘の故障により通算6度目の故障者リスト(DL)入りが決まってしまいました。復帰時期は未定なようですが、短期間で戦列に戻れる見込みは薄いようで本人共々ファンの方々も悔しさで一杯のことかと思います。この分だと、今季もファンが期待するような結果(10勝以上、規定投球回数)を出すことは、かなり厳しい状況になってきました。
 
 これまでの松坂本人の投球内容についてはあれこれ語りつくされた感もありますが、依然として彼にたいするメディアやファンの声は厳しく、そして期待はとてつもなく大きなものです。1試合ごとに細かな寸評が入り、その試合の内容によって全く正反対の前途が語られる。そもそも松坂自身のアウティングがドミネイトレベルの好投か、或いは四球乱発による自滅&炎上かという具合に良い意味でも悪い意味でも派手なことが原因だといえなくも無いですが。
 
 少なくとも、契約はあと1年残されていますので、そこで復活を印象付けるような成績を残せば次回の契約も見通しが立ちますし、恐らく本人もやり残したことが数多くあるので、もうひと頑張りしてくれるのではないでしょうか。しかし、楽観的な期待を掛けるファンばかりではないのも事実で、特に毎年ワールドチャンピオンを狙っているレッドソックスのローテーションに留まるだけでも過酷なプレッシャーとの戦いであり、現状を見る限りでは年俸負担などを譲歩した上でトレード放出というシナリオも十分考えられます(一応、本人の契約にはトレード拒否条項というものが入っています。しかし、条件次第でこの条項を破棄する選手は何人もいます)。ですが、そうした想像を張り巡らせる前に、メジャーリーグでの松坂はどんな投手なのか客観的に知る必要はあると思います。
 
 今回は、MLBで松坂がこれまでに残した成績をおさらいする意味で、幾つかのデータを参照しながら振り返ってみたいと思います。
 
 
1.松坂が残してきた結果
 
 「結果が全て」といわれる世界だけにあって、どんなに良いボール(球種、スピード、制球)を持っていても「結果に繫らなければ評価されない」のは勝負の世界における常識。MLBにおける(先発投手の)結果の源とは、勝利数よりもQS(クォリティ・スタート)の数や割合だとされています。そこで、松坂が渡米してからの投球内容をQS、DS、そして炎上した回数などを交えて解析してみます。
 


 
 今日現在、松坂はMLBで105試合に先発しQSを47回ほど記録しています。内、DSは22回となっています。
Poorと表記されているのは、私自身が考案しました「炎上」を指摘する基準(Poor Outingという造語)で、これはいわゆる先発投手がノックアウトされた状況を表しており、色々と試行錯誤した面もありますが、
 

・投球イニング以上の失点(ゲームERA9.00以上)
・投球イニングにつき2人以上の被安打もしくは与四球(ゲームWHIP2.00以上)
 
 というラインで集計しております。また、グラフ上のDS比率はQSの分も網羅しています。松坂が記録した炎上の回数は14回で、何も記録されないゲームは44回という結果となっています。
 
 これらを比率で表すと、横に並べているMLBの平均に驚くほど接近しているという事実が残っています。与四球が多く、WHIPの面で不利な松坂のDSは全体の24%に留まっていますが、かといってQSでカバーしているとは言い難く、トータルでのQS率45%はMLB全体平均の50%を下回っており、非常に残念な結果が出ています。炎上については、僅かではありますが平均を下回ることはありませんでした。集約すると、MLBでの松坂は「平均よりやや下回る貢献度ではあるが、ゲームを壊す頻度は僅かに平均以上を保っている」と見てよさそうです。課題はなんといってもOthersの部分、非QS試合をQS試合に持っていけるかどうかでした。
 
 では、MLBトップレベルの投手はどのような比率関係にあるのか、フィラデルフィア・フィリーズのクリフ・リーと(現在最も制球力があるといわれている投手)、サンフランシスコ・ジャイアンツのティム・リンスカム(デビューが松坂と同じ2007年)、そうして同僚でありライバルでもあるジョシュ・ベケット、ジョン・レスターの例も出してみることにします。
 




 
 あきらかに違いがあることに気がつきます。リーはDS、リンスカムはQSに秀でており、Poor Outingは非常に近い数字で、「調子が悪いときは誰でも似たようなもの」という結果も示唆しているものと読み取れます。松坂と決定的に違う点は非QS試合の少なさです。特に、リンスカムの非QS試合は全体の14%しかなく「殆ど良いか、或いは稀に駄目か」という具合に、スコア的には非常に計算の立て易い投手だといえるでしょう。
 
 ベケット、レスターについては若干後れを取ってはいますが、DSのラインについてはリンスカムとほぼ同等で、何れもMLB平均を上回るレベルを証明しています。
 
 松坂の非QS試合が多い理由は、大方の察し通り3失点(自責点)以内に抑えているのに6回未満で降板というケースが他の投手に比べて多いせいでもあります。これは例の球数制限に引っかかるものであり、NPB時代により多くの球数を放ってきた松坂にとっては勝利数やQS数以上に難題ともいわれてきました。
 
 この球数制限というもの、表現の仕方が悪いせいか「100球までしか投げさせない」といったような意味で捉えている方が多いように見受けますが、実際には「100球を目途に降板」というものと考えた方が良いでしょう。前者だと、誰でも100球で交代と受け取られてしまいますが、実際には100~120球の間で交替が行われているというのが今のMLBの実情で、より強靭でまた、(チームからの)信頼が厚い投手ほどプラスの部分が大きくなってくる傾向があります。
 
 
2.MLBの100球伝説は本当か?
 

 
 上の表は、2010年中に120球以上の登板が3回以上あった投手のリストです。僅か13人しか名を連ねておりませんが、最も回数の多かったジャスティン・バーランダーは33試合ほど先発し、1/3に相当する11機会で120球以上の登板を残しています。また、リストにある投手は何れもチームの1番手(エース)として投げているピッチャーが殆どで、「信頼が厚い投手」の意味をカバーしています。「強靱」といえる部分では、現ホワイトソックスのエドウィン・ジャクソンが1試合最多となる149球を記録しています(これはノーヒット・ノーランがかかった試合でした)。
 
 この通り、MLBでも100球を大きく越える投球数を記録する投手は存在しますが、多くても120球台で降板することが殆どです。130球以上投げたのは、上記ジャクソンの他にフィリーズのロイ・ハラディ(132)とブルワーズのクリス・ナーヴソン(130)の、都合3件のみです。120球登板の常連でさえ、130球を越えることはありませんでした。よって、球数制限の実情は「100球を目安に120球台を上限とする」が正解ではないでしょうか。
 
 実は松坂もメジャー1年目では120球以上を6回ほど記録しているのですが、2年目以降は1度もありません。度重なる故障と不調により強靭さを証明出来なくなり、またチームからの信頼度も薄れていったように思います。投球結果がMLB平均を前後する投手が100球を超えても続投を容認されるためには、NPB時代の実績ではなくMLBで証明すべきことが沢山あったということです。
 
 因みに、レッドソックス首脳陣が(投球数に関するデリケートさが)過保護だという声もありますが、これについてはどうでしょうか?
 

 
 今度は松坂が入団してからの4年間で、チーム別に120球以上の登板が記録された回数を並べてみました。チーム毎に格差が大きいのは、それに耐え得る投手が存在している点と、もう一つチーム事情が入り込んでいます。前述のバーランダーのいるタイガース、ロイ・ハラディが長期間在籍していたブルージェイス、リンスカムやマット・ケインなど、屈指のパワーピッチャーがいるジャイアンツなどは高い数字を出しています。実はレッドソックスもこの部類に入り、松坂だけでなくベケット、レスターらを抱える投手陣は平均を上回っています。
 
 特徴として興味深いのは、DH制度を敷かないナショナル・リーグの方が120球以上続投させているのが目立つことです。日本では投手に代打という筋書きが典型的なセオリーの一つですが、延長戦に制限が無く、時には20回を超える死闘を繰り広げるMLBでは、おいそれと交替という具合に行かない場合もあるので、例えリードを許していても投手の打席では判を押したように代打というオプションが取れないのが現状で、投手を打席に立たせた上で次イニングから交代という場面を幾度と無く見かけます。戦術的な違いでしかありませんが、DH制の有無はあまり影響を受けないといって良いでしょう。
 
 
 話は戻りますが、現在のMLBは投球数にたいするリミットが随分と管理されている印象をお持ちになったかと思います。しかし、この状態はいつから始まったのでしょうか。調べてみた中で判ったことは、10年前まではもう少し縛りが緩い状況でした。
 

 
 上のグラフは、MLBで120球以上記録した登板の総数を年度別に集計したものです。手作業による集計のため、精度に若干の不安があるのとこれ以前の集計はしていないことをご承知おきいただきたのですが、2000年には何と456回も記録していました。それが2001年にはほぼ半減し(234)、2008年の72回が最小なのをピークに微量ながらも再上昇していますが、2010年は77回で11年前の16%にしか相当していません。
 
 2000年といえば、殿堂入りが確実視されているランディ・ジョンソン(当時ダイヤモンドバックス)とペドロ・マルティネス(当時レッドソックス)が全盛期で、また薬物疑惑問題が沸く直前という時代でもありました。今よりも力と力のぶつかり合いというイメージが強く、数々の大記録が生まれた頃でもありました。そうした背景から、今の時代よりも選手にタフさがあったという想像はわりと容易につきやすいので、このような(投球数の)データもすんなりと受け入れられるのかもしれませんが、それにしてもこの極端な移り変わりは驚きを通り越して不思議さを感じます。
 
 このデータは、それだけを見れば「今の投手はスタミナが無い、タフさも無い」ということになってしまいますが、そうした捉え方をしないためにもう一つ違った角度からの傾向を出してみます。

 

 今度は、同じく年度別に全登板数から120球以上登板した割合と完投を記録した割合を比較したグラフです。例の456回を記録した2000年の120球以上の割合は全体の9.39%に相当しますが、この年の完投数は227回でしたので、4.39%にしかなっておらず、球数が多くてもそれが完投に繫がるケースは少なかったのです。2005年には「完投」が「120球」を完全に追い抜き、以降はその差が開くばかりです。こうしたことから、今のMLBでは「120球以内に完投」というシナリオを描くことが出来ます。そういった意味では投球回数が投球数にコントロールされている状態ともいえますが、11年前と比べても完投発生率は極端に落ち込んでいないため(寧ろ平行線といえるかもしれません)、(球数)効率の良いピッチングをすることが現代のニーズであると、そう捉えていただいた方が良いと思います。
 
 とにかく、MLBに挑戦した松坂のこれまでの軌跡は、結果を出すことに四苦八苦しまた、投球数管理の壁に苦汁を嘗めさせられながらここまで来ました。高校野球を含めての、数々の実績を引っ提げての腕試しは、残念ながら失敗という結末に近付きつつあります。しかし、野球選手としての人生はまた別のものでもあるかと思いますので、心身共にリフレッシュした状態で再びマウンドに姿を現して欲しいと願っています。

コメント


やはりメジャーと日本球界ではだいぶ違いがあるように思えます。
ひとつお願いですが、現状先発型でもっともメジャーで活躍している
黒田投手はどうなのでしょうか?

Posted by MTL at 2011/05/27 13:57:14 PASS:

MTL様

コメントありがとうございます。早速ですが黒田投手の件、調べました。

2008年から2011年の途中まで92試合に先発中、
DS35%、QS26%、Poor9%、Others30%でした。
ベケット、レスターの水準とほぼ同等ですね。
やはり評価されているだけのことはあると思います。

Posted by SHINGO at 2011/05/28 07:54:27 PASS:

お早いご返事ありがとうございます
やはり黒田投手はすばらしい数字をだしてますね

Posted by MTL at 2011/05/28 22:41:37 PASS:
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