クォリティ・スタート~Part1
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今回よりクォリティ・スタート(QS)について、何回かに分けて考えて行きたい。
QSとは言うまでも無く、先発投手が6回以上3自責点以内で降板したケースのことを指す。もちろん完投や完封も含まれるが、3点よりも多く失ってしまえばQSとは認められない(9回4自責点の場合など)。また、チームの勝敗に影響されることは無く、失点絡みの運を除けば投手としての純粋な結果が得られるのがメリットでもある。
このQSが取りざたされるようになったのは、勝利投手(以下Win)という記録が現代の野球にフィットしなくなってきていることが根拠とされ、その代替的な指標としてとらえられているのが主な理由だといえる。フィットしない理由とは、「先発完投型から分業制へ」という時代の流れを理解していればすぐにでも察しがつくだろう。
もともと、Winは投手の働きを鮮明に映し出すことに関しては妥協点の多い指標だった。完投すれば文句の付けようも無いが、それでもRS(ランサポート、援護点)は必要であり、さらに試合途中で降板とあればリードを保つ条件も加わってくる。9回無失点と5回5失点では明らかにアウティング(投球結果)の質も違うが、条件を満たせばどちらにもWinがつき、その記録数も1と同じである。また、救援登板でもWinがつくルールの盲点を突き、タイトル争いなどでこの方法を利用し意図的にWinを稼ごうとしたケースは過去に何度もあった。
このように、何かと不純物の多い指標と見られるようになってきたWinよりもQSの方が質的には確かさを感じる。それ故にこの指標が考案されたこともあるのだが、QSがWinの不足分を完全に網羅しているとはいえず、またQSよりもWinの方に有意義な点もある。
ここで少しまとめてみると、
<QSの長所>
<Winの長所>
このように並べてみると、Winの長所はとにかく曖昧である。曖昧の中にも良さはあると思うが、一選手個人の働きを評価する手段としてはQSの方が優れているといっても良いだろう。しかし、QSの基準自体は曖昧さこそ無いが物足りなさが残ることも確かだ。6回3自責点とは、防御率にして4.50。規定投球回に達した投手が並ぶランキングでは下位に沈むどころか、規定イニングに達しないレベルともいえなくもない。加えて、先発完投を期待する声が根強い日本球界の現状から見て、指標としてのQSは必要不可欠なものとは思われていないと見るべきだろう。まやかしの部分があったとしても、プロ野球の誕生と共につづられてきたWinという指標に取って代わる価値のあるものとは評価されない理由がそこにはあると思う。
正直なところ、最も求められているのは「好投に対する物差し」だろう。
しかし、QSの意義はそこで思考停止するものではない。QSの価値はWinの代替品ということではなく、
また好投に対する物差しでもない。QSの定義とは、「役割の明確化」にほかならないというのが筆者の考え方で、指標としての役割はWinと明らかに違う。よくよく考えて見ればそれは当たり前のことなのだが、両者の似た性質(試合単位で記録される個数)とWinに代わる指標との期待からか、どうもこの2つを比較することはあまり意味が無かったように思う。
それではあらためてQSの役割を検証してみたいと思う。
まずは、QSを記録する絶対条件として、
①1回から6回までは必ずマウンドにいること=続投
②失点に制限は無いが、自責点は3以内に抑えること
この2つのみだが、あえて①と②に分けてみたのはQSを達成した時点での試合経過を連想していただきたいからだ。仮に6回3失点(同自責点)で降板したとしても、その段階では既にゲームの2/3ほどを消化しており、チームがリードをしていれば守りを固める体制を組むことが可能で、反対にリードを許していたとしても3点も奪えばゲームは振り出しに戻る状況だ。仮にスタジアム観戦している中でこのような得点状況だった場合、相手チームの投手が段違いな実力者でない限り、応援側としてもあきらめるようなスコアだとは思わないだろう。
従って、QSを達成するということは野球というゲームを最後まで楽しめるようにする最大限の工夫といっても大げさではない。ファンによって投手戦、打撃戦などの好みは様々だが、スタジアムで最も味わいたいのは接戦ではないだろうか。そういう意味では、やや傾きがちな印象論ではあるものの、6回を3点以内に賄える先発投手とはファンを球場に運ぶ格好の材用といえる。
では、QSに関する各種データを見ていただきたい。

年度別に全球団合算したものを載せている。6年間の内で最もQS率が高かったのが2009年の54.17%で、反対に最も低かったのは2010年の47.22%となっている。最大値と最小値でこの程度の開きであれば、6年平均の50.27%というのもすんなりと受け入れられる。すなわち、今のプロ野球では2試合に1回ないしは毎試合どちらかのチームにQSの機会があるといって良い。
そしてQSを達成した試合でのチーム勝率。これが良い意味で予想を裏切ってくれている。
球団毎に仕分ければ格差は当然出てくるが、分母が約二倍のQS率よりもさらに接近した確率となっている。これをチームとしての年間勝率と重ねてイメージすると、平均値の68.50%はもちろんのこと最小値である2009年の67.48%でさえリーグ優勝をほぼ手中に出来るほどの確率である。極端な話、全ての試合でQSを達成すれば即リーグ優勝という筋道が立てられる。
ここまで数字が似通うのもなにか理由があるだろうと思い、年度別の平均得点を調べてみたが
2005年 4.34
2006年 3.94
2007年 4.03
2008年 4.14
2009年 4.13
2010年 4.39
最大で0.45点ほどの開きがあるが(2010年と2006年)、QSチーム勝率には然(さ)したる影響は無かった様子。残念ながら、現時点では遠い過去のQSまでは調査することが不可能なため長期に亘る検証こそ出来ないが、近年についてはほぼ一定の信頼度は得たといえるだろう。
では、メジャーリーグではどうだろうか?

これも年度別に全球団を合わせた統計となっている(引分が無い点のみ相違がある)が、驚いたことにMLBも似たような水準でQS率、QSチーム共に推移している。同質といえっても差し支えない程だ。
こちらについても平均得点値を出してみるが、
2005年 4.60
2006年 4.86
2007年 4.80
2008年 4.65
2009年 4.61
2010年 4.38
NPBよりも若干高い。最大で0.92点もの開きがある(共に2006年)。しかし、QS率もQSチーム勝率も代わり映えしない。特に、QS率については完投意識の面や平均得点のことを考えるとNPBの方が絶対有利な条件をそろえているはずだが、結果は遜色(そんしょく)の無いものであった。これについては、良くも悪くも(悪い方には限度もあるだろうが)100球まで続投させたいMLBと、投手によって信頼度が隔たる傾向の強いNPBとの戦術面の違いが考えられる。
いずれにしても、QSを記録すれば2/3の確率で試合を制することが判明した。最後にQSの最低基準である6回3自責点でのチーム勝率も調べてみたので紹介したい。

イニング途中降板について、6.1、6.2回のも入っている。これは案の定ともいえうべきか、かなりの開きが出た。サンプル数も少ない上に、5割は勝てるという保証も得られなかった。よって、「全試合QSならリーグ優勝」という説は半分ジョークとして受け取っていただきたい。
次回以降は球団、投手別にQSを紹介する予定。
QSとは言うまでも無く、先発投手が6回以上3自責点以内で降板したケースのことを指す。もちろん完投や完封も含まれるが、3点よりも多く失ってしまえばQSとは認められない(9回4自責点の場合など)。また、チームの勝敗に影響されることは無く、失点絡みの運を除けば投手としての純粋な結果が得られるのがメリットでもある。
このQSが取りざたされるようになったのは、勝利投手(以下Win)という記録が現代の野球にフィットしなくなってきていることが根拠とされ、その代替的な指標としてとらえられているのが主な理由だといえる。フィットしない理由とは、「先発完投型から分業制へ」という時代の流れを理解していればすぐにでも察しがつくだろう。
もともと、Winは投手の働きを鮮明に映し出すことに関しては妥協点の多い指標だった。完投すれば文句の付けようも無いが、それでもRS(ランサポート、援護点)は必要であり、さらに試合途中で降板とあればリードを保つ条件も加わってくる。9回無失点と5回5失点では明らかにアウティング(投球結果)の質も違うが、条件を満たせばどちらにもWinがつき、その記録数も1と同じである。また、救援登板でもWinがつくルールの盲点を突き、タイトル争いなどでこの方法を利用し意図的にWinを稼ごうとしたケースは過去に何度もあった。
このように、何かと不純物の多い指標と見られるようになってきたWinよりもQSの方が質的には確かさを感じる。それ故にこの指標が考案されたこともあるのだが、QSがWinの不足分を完全に網羅しているとはいえず、またQSよりもWinの方に有意義な点もある。
ここで少しまとめてみると、
<QSの長所>
- 投球内容およびその結果(自責点)に準拠した点はWinよりも優れている
- 救援勝利などによる水増しが不可能
<Winの長所>
- 降板するまでにリードを保つ責任
- チームの勝利と連動している点
- 過去の記録との摺り合わせ
このように並べてみると、Winの長所はとにかく曖昧である。曖昧の中にも良さはあると思うが、一選手個人の働きを評価する手段としてはQSの方が優れているといっても良いだろう。しかし、QSの基準自体は曖昧さこそ無いが物足りなさが残ることも確かだ。6回3自責点とは、防御率にして4.50。規定投球回に達した投手が並ぶランキングでは下位に沈むどころか、規定イニングに達しないレベルともいえなくもない。加えて、先発完投を期待する声が根強い日本球界の現状から見て、指標としてのQSは必要不可欠なものとは思われていないと見るべきだろう。まやかしの部分があったとしても、プロ野球の誕生と共につづられてきたWinという指標に取って代わる価値のあるものとは評価されない理由がそこにはあると思う。
正直なところ、最も求められているのは「好投に対する物差し」だろう。
しかし、QSの意義はそこで思考停止するものではない。QSの価値はWinの代替品ということではなく、
また好投に対する物差しでもない。QSの定義とは、「役割の明確化」にほかならないというのが筆者の考え方で、指標としての役割はWinと明らかに違う。よくよく考えて見ればそれは当たり前のことなのだが、両者の似た性質(試合単位で記録される個数)とWinに代わる指標との期待からか、どうもこの2つを比較することはあまり意味が無かったように思う。
それではあらためてQSの役割を検証してみたいと思う。
まずは、QSを記録する絶対条件として、
①1回から6回までは必ずマウンドにいること=続投
②失点に制限は無いが、自責点は3以内に抑えること
この2つのみだが、あえて①と②に分けてみたのはQSを達成した時点での試合経過を連想していただきたいからだ。仮に6回3失点(同自責点)で降板したとしても、その段階では既にゲームの2/3ほどを消化しており、チームがリードをしていれば守りを固める体制を組むことが可能で、反対にリードを許していたとしても3点も奪えばゲームは振り出しに戻る状況だ。仮にスタジアム観戦している中でこのような得点状況だった場合、相手チームの投手が段違いな実力者でない限り、応援側としてもあきらめるようなスコアだとは思わないだろう。
従って、QSを達成するということは野球というゲームを最後まで楽しめるようにする最大限の工夫といっても大げさではない。ファンによって投手戦、打撃戦などの好みは様々だが、スタジアムで最も味わいたいのは接戦ではないだろうか。そういう意味では、やや傾きがちな印象論ではあるものの、6回を3点以内に賄える先発投手とはファンを球場に運ぶ格好の材用といえる。
では、QSに関する各種データを見ていただきたい。
年度別に全球団合算したものを載せている。6年間の内で最もQS率が高かったのが2009年の54.17%で、反対に最も低かったのは2010年の47.22%となっている。最大値と最小値でこの程度の開きであれば、6年平均の50.27%というのもすんなりと受け入れられる。すなわち、今のプロ野球では2試合に1回ないしは毎試合どちらかのチームにQSの機会があるといって良い。
そしてQSを達成した試合でのチーム勝率。これが良い意味で予想を裏切ってくれている。
球団毎に仕分ければ格差は当然出てくるが、分母が約二倍のQS率よりもさらに接近した確率となっている。これをチームとしての年間勝率と重ねてイメージすると、平均値の68.50%はもちろんのこと最小値である2009年の67.48%でさえリーグ優勝をほぼ手中に出来るほどの確率である。極端な話、全ての試合でQSを達成すれば即リーグ優勝という筋道が立てられる。
ここまで数字が似通うのもなにか理由があるだろうと思い、年度別の平均得点を調べてみたが
2005年 4.34
2006年 3.94
2007年 4.03
2008年 4.14
2009年 4.13
2010年 4.39
最大で0.45点ほどの開きがあるが(2010年と2006年)、QSチーム勝率には然(さ)したる影響は無かった様子。残念ながら、現時点では遠い過去のQSまでは調査することが不可能なため長期に亘る検証こそ出来ないが、近年についてはほぼ一定の信頼度は得たといえるだろう。
では、メジャーリーグではどうだろうか?
これも年度別に全球団を合わせた統計となっている(引分が無い点のみ相違がある)が、驚いたことにMLBも似たような水準でQS率、QSチーム共に推移している。同質といえっても差し支えない程だ。
こちらについても平均得点値を出してみるが、
2005年 4.60
2006年 4.86
2007年 4.80
2008年 4.65
2009年 4.61
2010年 4.38
NPBよりも若干高い。最大で0.92点もの開きがある(共に2006年)。しかし、QS率もQSチーム勝率も代わり映えしない。特に、QS率については完投意識の面や平均得点のことを考えるとNPBの方が絶対有利な条件をそろえているはずだが、結果は遜色(そんしょく)の無いものであった。これについては、良くも悪くも(悪い方には限度もあるだろうが)100球まで続投させたいMLBと、投手によって信頼度が隔たる傾向の強いNPBとの戦術面の違いが考えられる。
いずれにしても、QSを記録すれば2/3の確率で試合を制することが判明した。最後にQSの最低基準である6回3自責点でのチーム勝率も調べてみたので紹介したい。
イニング途中降板について、6.1、6.2回のも入っている。これは案の定ともいえうべきか、かなりの開きが出た。サンプル数も少ない上に、5割は勝てるという保証も得られなかった。よって、「全試合QSならリーグ優勝」という説は半分ジョークとして受け取っていただきたい。
次回以降は球団、投手別にQSを紹介する予定。
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