スターマップ【投手】
大里隆也 [ 著者コラム一覧 ]
1.投手タイプの分類
選手タイプと得点能力の理解は、その選手をより知れるだけではなく、周りの選手との比較やチームの傾向などを知ることができる。この「タイプ」と「能力」が一目で理解出来る図“スターマップ”を紹介し、2010年度の投手の傾向を見ていく。
まず、投手のスターマップについて紹介する。なお、このスターマップはJohn Burson氏が作成したもので、ACTA SPORTSのGRAPHICAL PLAYER2009を参考にしている。投手のスターマップは円の位置で“タイプ”を、円の大きさで“控え投手に比べ防いだ失点の大きさ”を表す図である。投手タイプは「奪三振タイプ」「打たせて取るタイプ」「コントロールタイプ」に大きく分けられると考え、これらを表す指標である「奪三振率」、「GOAO」(=ゴロアウト数/ フライアウト数)、「与四死球割合」(=(打席数-与四死球)/打席数)を軸に取り各選手の位置を決定する。特徴のある選手は中心から離れて分布する。例えば奪三振率が飛び抜けて高い選手は奪三振率軸の先の方へ分布される。ここでGOAOというフライアウトよりもゴロアウトを評価する指標を軸に取るかと疑問に感じる人がいるかもしれない。フライはゴロよりも失点に影響する割合が大きく、フライでアウトを取らなければならない投手は、ゴロでアウトを取る投手に比べ、潜在的に失点のリスクが大きい。
2.控え投手との比較
円の大きさの指標にはVORP(=Value Over Replacement Player)を用いる。円が大きいほど控え投手に比べ失点を多く防いだということを表している。VORPはBaseball Prospectusのキース・ウルナーが開発した指標で、控え選手(リプレイスメントレベル)に比べ、対象の選手がどれだけ失点を抑えるのに貢献したかを計る。投手の場合はリーグの平均失点を基にして算出し、先発投手・救援投手別に基準が異なる。最初に、先発・救援投手それぞれで控え投手の失点率を定義する。今回はMLBで使用されている算出式をそのまま適用している。算出された失点率に、対象投手の先発での投球イニング、救援での投球イニングを掛け合わせ控え選手が投げた場合の想定される失点を算出する。この想定される失点から対象投手の失点を減じることで、控え選手に比べどれだけ失点を防いだかを算出している。
算出式
控え先発投手の失点率=1.37×リーグ平均失点率-0.66
控え救援投手の失点率=1.70×リーグ平均失点率-2.27
控え先発投手の想定失点=対象投手の先発イニング/9×控え先発投手の失点率
控え救援投手の想定失点=対象投手の救援イニング/9×控え救援投手の失点率
VORP=控え先発投手の想定失点-対象投手の先発時の失点+
控え救援投手の想定失点-対象投手の救援時の失点
VORPは故障などにより出場が不可能になれば、控えの投手を出さなければならない点を基準としている。これまでリーグの平均防御率などと比較し、劣っている投手などはそれほど評価されなかった。しかし、控えレベルと比較して評価するという方法は、投手の希少性をあぶり出し、チーム全体の構成を考える上で不可欠な視点と言える。必然的に長いイニングを投げる先発投手の方が大きな値を出しやすい。また、どれだけ優秀でも故障などで投球イニングが少なければ値は大きくならず、健康面の評価にもつながる。
3.マッピング
ここから2010年度の投手スターマップについて見ていく。なお、対象投手は2010年度投球イニング数45以上である。

この図から、杉内周辺の選手は奪三振タイプ、岩隈や小野周辺の選手は打たせて取るタイプ、武田勝や榊原周辺の選手はコントロールタイプ、中心付近の選手は万能タイプといったタイプ分けができる。また、前田健やダルビッシュ、チェン、武田勝など円の大きい選手は控え選手に比べてチームに大きく貢献していることが分かる。岩瀬や藤川など抑え・中継ぎ投手の円が小さいのは、投球イニング数が少ないためVORPの値が大きくならないからである。先発と抑え・中継ぎで分けたのが次の図である。


・この図の全体の傾向から、抑え投手は大きく二つのタイプ、つまり、ファルケンボーグ周辺の「奪三振タイプ」と山口鉄周辺の「打ち取るタイプ」、に分られる。奪三振タイプについては、選手数が多く、円の大きい選手が比較的多いことが分かる。三振を取る能力が高いことが基本的な抑えになるための条件なのであろう。一方、打ち取るタイプには円の大きい選手は少ないが、中には浅尾や馬原など円の大きい選手もいる。円の大きい浅尾と馬原に注目すると、この二人は与四死球率が低い(浅尾:1.232、馬原:1.929、2010年度の平均:3.414)。抑え投手として打者を打ち取って失点を防ぐには、四死球が少ないことが必要条件になってくるのである。
・牛田やクルーンは先発投手には見られない抑え投手特有のタイプである。クルーンは奪三振率が12.96、与四死球率が5.151で、一方牛田は奪三振率が11.94、与四死球率が5.019であり、奪三振率も与四死球率も非常に高い値になっている(2010年度の平均奪三振率:6.963)。
4.チーム別
次にチームとリーグの傾向を見ていく。チーム別に分けたのが次の図である。


・パリーグでは、成瀬や武田勝、ケッペルなど中心から離れている投手でも円の大きい選手がいる。中心から離れて円が大きくなっているのは、自分の特徴を生かして成績を伸ばしていることを意味している。例えば、ケッペルはGOAOの軸の先に分布していて円が大きい。ケッペルはゴロをフライの約2.1倍多く打たせ、打球管理ができていた。その結果、失点を多く防げているのである。パリーグにはダルビッシュのような万能型や、成瀬や武田勝などの特徴を生かせる投手が存在するのである。一方、セリーグで円の大きい選手が中心から離れて分布する傾向は見られない。セリーグには特徴をもちながらも傑出した投手が少ないことが分かる。
・横浜や広島は首位と大きくゲーム差が離れていたが、この2チームは円の小さい選手が多いため投手力で劣っていることが分かる。一方、中日や日ハム、ヤクルトなどの円の大きい投手が多いチームはシーズンの終了時にゲーム差が大きく離れてはいない。上位に入るためには、ある程度の円の大きさをもつ投手が複数人必要なのである。
・VORPから、チームに最も貢献したのはセリーグで前田健太、パリーグでダルビッシュである。前田健太は楽天の田中投手などがいる“黄金世代”と呼ばれている世代であるが、彼らの実績はその世代の中で一歩リードしているところであろう。来年は斉藤や中央の沢村など大卒組がプロに入るが、この“黄金世代”がこれからどのような活躍をするのか、この図でどのように分布するのか、比較するのが非常に楽しみである。
・横浜や広島のファンは、ゲーム差が開きすぎて、シーズン中盤でリーグ優勝やクライマックス進出を諦め、チームに失望していることであろう。打者と投手のスターマップを見るだけでもこれほどの差があるのだから、優勝やクライマックス進出を毎年期待しているファンのためにもチームの考え方そのものをもう一度見直す必要があるだろう。
選手タイプと得点能力の理解は、その選手をより知れるだけではなく、周りの選手との比較やチームの傾向などを知ることができる。この「タイプ」と「能力」が一目で理解出来る図“スターマップ”を紹介し、2010年度の投手の傾向を見ていく。
まず、投手のスターマップについて紹介する。なお、このスターマップはJohn Burson氏が作成したもので、ACTA SPORTSのGRAPHICAL PLAYER2009を参考にしている。投手のスターマップは円の位置で“タイプ”を、円の大きさで“控え投手に比べ防いだ失点の大きさ”を表す図である。投手タイプは「奪三振タイプ」「打たせて取るタイプ」「コントロールタイプ」に大きく分けられると考え、これらを表す指標である「奪三振率」、「GOAO」(=ゴロアウト数/ フライアウト数)、「与四死球割合」(=(打席数-与四死球)/打席数)を軸に取り各選手の位置を決定する。特徴のある選手は中心から離れて分布する。例えば奪三振率が飛び抜けて高い選手は奪三振率軸の先の方へ分布される。ここでGOAOというフライアウトよりもゴロアウトを評価する指標を軸に取るかと疑問に感じる人がいるかもしれない。フライはゴロよりも失点に影響する割合が大きく、フライでアウトを取らなければならない投手は、ゴロでアウトを取る投手に比べ、潜在的に失点のリスクが大きい。
2.控え投手との比較
円の大きさの指標にはVORP(=Value Over Replacement Player)を用いる。円が大きいほど控え投手に比べ失点を多く防いだということを表している。VORPはBaseball Prospectusのキース・ウルナーが開発した指標で、控え選手(リプレイスメントレベル)に比べ、対象の選手がどれだけ失点を抑えるのに貢献したかを計る。投手の場合はリーグの平均失点を基にして算出し、先発投手・救援投手別に基準が異なる。最初に、先発・救援投手それぞれで控え投手の失点率を定義する。今回はMLBで使用されている算出式をそのまま適用している。算出された失点率に、対象投手の先発での投球イニング、救援での投球イニングを掛け合わせ控え選手が投げた場合の想定される失点を算出する。この想定される失点から対象投手の失点を減じることで、控え選手に比べどれだけ失点を防いだかを算出している。
算出式
控え先発投手の失点率=1.37×リーグ平均失点率-0.66
控え救援投手の失点率=1.70×リーグ平均失点率-2.27
控え先発投手の想定失点=対象投手の先発イニング/9×控え先発投手の失点率
控え救援投手の想定失点=対象投手の救援イニング/9×控え救援投手の失点率
VORP=控え先発投手の想定失点-対象投手の先発時の失点+
控え救援投手の想定失点-対象投手の救援時の失点
VORPは故障などにより出場が不可能になれば、控えの投手を出さなければならない点を基準としている。これまでリーグの平均防御率などと比較し、劣っている投手などはそれほど評価されなかった。しかし、控えレベルと比較して評価するという方法は、投手の希少性をあぶり出し、チーム全体の構成を考える上で不可欠な視点と言える。必然的に長いイニングを投げる先発投手の方が大きな値を出しやすい。また、どれだけ優秀でも故障などで投球イニングが少なければ値は大きくならず、健康面の評価にもつながる。
3.マッピング
ここから2010年度の投手スターマップについて見ていく。なお、対象投手は2010年度投球イニング数45以上である。

この図から、杉内周辺の選手は奪三振タイプ、岩隈や小野周辺の選手は打たせて取るタイプ、武田勝や榊原周辺の選手はコントロールタイプ、中心付近の選手は万能タイプといったタイプ分けができる。また、前田健やダルビッシュ、チェン、武田勝など円の大きい選手は控え選手に比べてチームに大きく貢献していることが分かる。岩瀬や藤川など抑え・中継ぎ投手の円が小さいのは、投球イニング数が少ないためVORPの値が大きくならないからである。先発と抑え・中継ぎで分けたのが次の図である。


・この図の全体の傾向から、抑え投手は大きく二つのタイプ、つまり、ファルケンボーグ周辺の「奪三振タイプ」と山口鉄周辺の「打ち取るタイプ」、に分られる。奪三振タイプについては、選手数が多く、円の大きい選手が比較的多いことが分かる。三振を取る能力が高いことが基本的な抑えになるための条件なのであろう。一方、打ち取るタイプには円の大きい選手は少ないが、中には浅尾や馬原など円の大きい選手もいる。円の大きい浅尾と馬原に注目すると、この二人は与四死球率が低い(浅尾:1.232、馬原:1.929、2010年度の平均:3.414)。抑え投手として打者を打ち取って失点を防ぐには、四死球が少ないことが必要条件になってくるのである。
・牛田やクルーンは先発投手には見られない抑え投手特有のタイプである。クルーンは奪三振率が12.96、与四死球率が5.151で、一方牛田は奪三振率が11.94、与四死球率が5.019であり、奪三振率も与四死球率も非常に高い値になっている(2010年度の平均奪三振率:6.963)。
4.チーム別
次にチームとリーグの傾向を見ていく。チーム別に分けたのが次の図である。


・パリーグでは、成瀬や武田勝、ケッペルなど中心から離れている投手でも円の大きい選手がいる。中心から離れて円が大きくなっているのは、自分の特徴を生かして成績を伸ばしていることを意味している。例えば、ケッペルはGOAOの軸の先に分布していて円が大きい。ケッペルはゴロをフライの約2.1倍多く打たせ、打球管理ができていた。その結果、失点を多く防げているのである。パリーグにはダルビッシュのような万能型や、成瀬や武田勝などの特徴を生かせる投手が存在するのである。一方、セリーグで円の大きい選手が中心から離れて分布する傾向は見られない。セリーグには特徴をもちながらも傑出した投手が少ないことが分かる。
・横浜や広島は首位と大きくゲーム差が離れていたが、この2チームは円の小さい選手が多いため投手力で劣っていることが分かる。一方、中日や日ハム、ヤクルトなどの円の大きい投手が多いチームはシーズンの終了時にゲーム差が大きく離れてはいない。上位に入るためには、ある程度の円の大きさをもつ投手が複数人必要なのである。
・VORPから、チームに最も貢献したのはセリーグで前田健太、パリーグでダルビッシュである。前田健太は楽天の田中投手などがいる“黄金世代”と呼ばれている世代であるが、彼らの実績はその世代の中で一歩リードしているところであろう。来年は斉藤や中央の沢村など大卒組がプロに入るが、この“黄金世代”がこれからどのような活躍をするのか、この図でどのように分布するのか、比較するのが非常に楽しみである。
・横浜や広島のファンは、ゲーム差が開きすぎて、シーズン中盤でリーグ優勝やクライマックス進出を諦め、チームに失望していることであろう。打者と投手のスターマップを見るだけでもこれほどの差があるのだから、優勝やクライマックス進出を毎年期待しているファンのためにもチームの考え方そのものをもう一度見直す必要があるだろう。
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野球を客観視した独自の論評、分析、および研究を特徴として、野球に関するさまざまな考察をしています。
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