出塁率、長打率と1試合得点数との関係
大里隆也 [ 著者コラム一覧 ]
「つなぐ野球」は、出塁率の高い打者を集めて、出塁を重ねアウトを取られないように得点する戦術のことである。今年は千葉ロッテにこの傾向が見られた。2010年度のロッテは、西岡や井口など出塁率の高い選手が多く、チームの出塁率も0.352と非常に高い(出塁率・ソフトバンク:0.323、西武:0.343、日ハム:0.331、オリックス:0.335、楽天:0.328)。一方、この戦術の対極にあるのが、近年の巨人に見られるような「大型打線」である。これは長打率の高い選手を集めて得点する戦術のことである。
しかしながら、これら戦術が本当にそのチームにフィットしていて機能しているかどうかは分かっていない。そこで、出塁率と長打率が与える得点への影響を考え、これらの戦術について考察をしていく。
まず1試合の得点数について見ていく。得点の特徴や傾向を分かりやすくするために、各チームの得点数別の試合割合を基に曲線を当てはめて、得点の情報を曲線にまとめた。以下はその図であり、2010年度のセリーグを用いた。縦軸が試合割合、横軸が1試合得点数、赤色の曲線が当てはめた曲線、灰色の曲線は6チームの平均、点がデータ値を表している。






当てはめた曲線は、とびとびになっている試合割合を平らなものにし、得点能力の傾向を表せている。例えば、巨人と阪神は6チームの平均と比べて当てはめた曲線の右側が高くなっていることから、得点の多い試合数がほかのチームより多いことが分かる。横浜の得点能力が劣っているのも、0点から3点の試合数が多いことから読み取れる。以下では当てはめた曲線を“得点曲線”と呼ぶことにする。
得点曲線を用いて打撃指標と得点の関係について考えていくが、まずは得点と打撃指標に関連があることを示していく。過去のデータにも同様に得点曲線を当てはめ、以下では得点に対する出塁率と長打率の関係の代表的なものを載せている(グラフの名前はチーム名と年度、赤い線は得点曲線、緑の線は各リーグに対する1994~2010年までの平均を表している)。



中日03は長打率と出塁率がそれぞれ0.403と0.330で平均的な値であり、得点曲線も平均とほぼ同じである。長打率と出塁率がともに高いダイエー04と、長打率と出塁率がともに低い横浜02は、対照的な得点曲線である。長打率が非常に高く出塁率が平均的な巨人04と、長打率が平均的で出塁率が高い横浜96はともに平均より高いことが分かる。ここでは代表的なものしか載せていないが、他にもこの様な得点と打撃指標の関係が見られた。これから、打撃指標が高ければ得点能力も高いことが分かり、得点と打撃指標には関連があることが分かった。
ここで余談だが、2004年度の巨人についてピックアップする。当てはめ曲線は各チームの得点力を表していて、過去15年で最も高い得点能力を持っていたのが2004年度の巨人である。この年の巨人は、ローズや小久保、二岡、阿部、ペタジーニ、清原を擁し、長島終身名誉監督からは「史上最高打線」と呼ばれ大きな期待をされていた。上の巨04を見てほしい。平均と比べてグラフの右側が高いことから、1試合の得点数が平均と比べて多いことが分かる。特に0点になる確率が非常に少ない。攻撃面だけで見ると、期待どおりの数値を残しており、この年のペナントレースは巨人のダントツの優勝かと思われる。しかし、2004年度の巨人は3位に終わっている。シーズン終了後、打撃に関して大きな批判があった。しかし、得点分布から見れば打撃は間違いなく良い成績を残しているので、ディフェンスに問題があり優勝を逃したと考えるのが自然だ。
次に、本題の出塁率と長打率がそれぞれ得点にどのような影響を与えているのか見ていく。上述の結果から得点と打撃指標には関連があった。平均得点と打撃指標の相関を見ると、長打率は0.888で、出塁率は0.837となっていて、2つとも大きな相関がある。この相関を用いて、「得点と長打率」と「得点と出塁率」の関係を統計モデルに表す。
まず、長打率が得点に与える影響を見るために、出塁率を固定して(0.33)、長打率を変化させた。以下がその結果である。
次に出塁率の影響を見るために、長打率を固定して(0.40)、出塁率を変化させた。以下がその結果である。

次の図は、“大型打線”(長打率0.45、出塁率0.32)と“つなぐ野球”(長打率0.39、出塁率:0.38)の得点分布を表している(長打率と出塁率の和であり得点との相関が最も高いOPSはどちらも等しくなっているため、得点能力には大きな差がないと考える)。

これらは興味深い結果を示している。
①“出塁率を高くしても完封される可能性はほとんど変化しない。“
長打率の影響の図で、無得点の確率を見てほしい。長打率の変化によって、無得点になる可能性が変動していることが分かる。長打率を上げると単打より本塁打など長打の可能性が高まるので1点以上取る可能性が長打率の変動に関連している、という解釈が正しいのであろう。出塁率の影響の図で、無得点の確率を見てほしい。出塁率が変化しても、無得点の可能性はあまり変化していない。この様なプロのレベルで1点以上取るには、長打力の影響が大きいようだ。
②“コンスタントに3点4点取るなら、出塁率よりも長打率を高めるべきだ。”
3つ目の図を見てほしい。長打率の良いチーム(青)と出塁率の良いチーム(赤)を比べると、長打率の良いチームは2、3、4点付近が高く、出塁率の良いチームは6、7、8、9点付近が高くなっている。これから、出塁率を高めることは1回の攻撃を長く継続させるので“大量得点”を取る可能性を高め、長打率を高めることは“3点前後で、得点をコンスタントに取る”可能性を高める、ということが分かる。
以上の結果からまとめると次のようになる。
・「つなぐ野球」は大量得点の可能性は高いが、無得点の可能性も高い。
・「大型打線」は大量得点の可能性は低いが、毎試合コンスタントに点が取る。
もし、投手力が非常に高く、少ない失点を望めるのならば、勝つ可能性を高めるには打撃に関して「大型打線」の戦術を取るのが良いのである。しかしながら、大型打線にしたことで守備力が大幅に落ちてしまうと失点が大きくなってしまうので、注意が必要である。
しかしながら、これら戦術が本当にそのチームにフィットしていて機能しているかどうかは分かっていない。そこで、出塁率と長打率が与える得点への影響を考え、これらの戦術について考察をしていく。
まず1試合の得点数について見ていく。得点の特徴や傾向を分かりやすくするために、各チームの得点数別の試合割合を基に曲線を当てはめて、得点の情報を曲線にまとめた。以下はその図であり、2010年度のセリーグを用いた。縦軸が試合割合、横軸が1試合得点数、赤色の曲線が当てはめた曲線、灰色の曲線は6チームの平均、点がデータ値を表している。
当てはめた曲線は、とびとびになっている試合割合を平らなものにし、得点能力の傾向を表せている。例えば、巨人と阪神は6チームの平均と比べて当てはめた曲線の右側が高くなっていることから、得点の多い試合数がほかのチームより多いことが分かる。横浜の得点能力が劣っているのも、0点から3点の試合数が多いことから読み取れる。以下では当てはめた曲線を“得点曲線”と呼ぶことにする。
得点曲線を用いて打撃指標と得点の関係について考えていくが、まずは得点と打撃指標に関連があることを示していく。過去のデータにも同様に得点曲線を当てはめ、以下では得点に対する出塁率と長打率の関係の代表的なものを載せている(グラフの名前はチーム名と年度、赤い線は得点曲線、緑の線は各リーグに対する1994~2010年までの平均を表している)。
中日03は長打率と出塁率がそれぞれ0.403と0.330で平均的な値であり、得点曲線も平均とほぼ同じである。長打率と出塁率がともに高いダイエー04と、長打率と出塁率がともに低い横浜02は、対照的な得点曲線である。長打率が非常に高く出塁率が平均的な巨人04と、長打率が平均的で出塁率が高い横浜96はともに平均より高いことが分かる。ここでは代表的なものしか載せていないが、他にもこの様な得点と打撃指標の関係が見られた。これから、打撃指標が高ければ得点能力も高いことが分かり、得点と打撃指標には関連があることが分かった。
ここで余談だが、2004年度の巨人についてピックアップする。当てはめ曲線は各チームの得点力を表していて、過去15年で最も高い得点能力を持っていたのが2004年度の巨人である。この年の巨人は、ローズや小久保、二岡、阿部、ペタジーニ、清原を擁し、長島終身名誉監督からは「史上最高打線」と呼ばれ大きな期待をされていた。上の巨04を見てほしい。平均と比べてグラフの右側が高いことから、1試合の得点数が平均と比べて多いことが分かる。特に0点になる確率が非常に少ない。攻撃面だけで見ると、期待どおりの数値を残しており、この年のペナントレースは巨人のダントツの優勝かと思われる。しかし、2004年度の巨人は3位に終わっている。シーズン終了後、打撃に関して大きな批判があった。しかし、得点分布から見れば打撃は間違いなく良い成績を残しているので、ディフェンスに問題があり優勝を逃したと考えるのが自然だ。
次に、本題の出塁率と長打率がそれぞれ得点にどのような影響を与えているのか見ていく。上述の結果から得点と打撃指標には関連があった。平均得点と打撃指標の相関を見ると、長打率は0.888で、出塁率は0.837となっていて、2つとも大きな相関がある。この相関を用いて、「得点と長打率」と「得点と出塁率」の関係を統計モデルに表す。
まず、長打率が得点に与える影響を見るために、出塁率を固定して(0.33)、長打率を変化させた。以下がその結果である。

次に出塁率の影響を見るために、長打率を固定して(0.40)、出塁率を変化させた。以下がその結果である。

次の図は、“大型打線”(長打率0.45、出塁率0.32)と“つなぐ野球”(長打率0.39、出塁率:0.38)の得点分布を表している(長打率と出塁率の和であり得点との相関が最も高いOPSはどちらも等しくなっているため、得点能力には大きな差がないと考える)。

これらは興味深い結果を示している。
①“出塁率を高くしても完封される可能性はほとんど変化しない。“
長打率の影響の図で、無得点の確率を見てほしい。長打率の変化によって、無得点になる可能性が変動していることが分かる。長打率を上げると単打より本塁打など長打の可能性が高まるので1点以上取る可能性が長打率の変動に関連している、という解釈が正しいのであろう。出塁率の影響の図で、無得点の確率を見てほしい。出塁率が変化しても、無得点の可能性はあまり変化していない。この様なプロのレベルで1点以上取るには、長打力の影響が大きいようだ。
②“コンスタントに3点4点取るなら、出塁率よりも長打率を高めるべきだ。”
3つ目の図を見てほしい。長打率の良いチーム(青)と出塁率の良いチーム(赤)を比べると、長打率の良いチームは2、3、4点付近が高く、出塁率の良いチームは6、7、8、9点付近が高くなっている。これから、出塁率を高めることは1回の攻撃を長く継続させるので“大量得点”を取る可能性を高め、長打率を高めることは“3点前後で、得点をコンスタントに取る”可能性を高める、ということが分かる。
以上の結果からまとめると次のようになる。
・「つなぐ野球」は大量得点の可能性は高いが、無得点の可能性も高い。
・「大型打線」は大量得点の可能性は低いが、毎試合コンスタントに点が取る。
もし、投手力が非常に高く、少ない失点を望めるのならば、勝つ可能性を高めるには打撃に関して「大型打線」の戦術を取るのが良いのである。しかしながら、大型打線にしたことで守備力が大幅に落ちてしまうと失点が大きくなってしまうので、注意が必要である。
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野球を客観視した独自の論評、分析、および研究を特徴として、野球に関するさまざまな考察をしています。
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