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見込まれる勝率

大里隆也 [ 著者コラム一覧 ]

投稿日時:2010/12/22(水) 10:00rss

1、はじめに

 「残り4イニングで、1点差で勝っている。この状況からどれくらいの確率で勝つことができるのだろう」
野球をしてきた方、観戦してきた方はこのような疑問を感じたことがあるかもしれない。今回はこの問いに答えて、もう少し細かい状況(アウト数や進塁状況)を加味できる勝率の計算法について紹介する。今回は数学的な要素が強いが、状況別の勝率は選手の活躍度の評価や重要な場面の選定などが出来る指標なので非常に重要である。


2、得点分布

 勝率の求め方はさまざまあるが、今回は1イニングの得点分布から求める勝率について紹介したい。この得点分布から求める方法は計算が多少複雑なので、注意深く追っていただきたい。算出する流れとしては「得点確率→残りイニングの得点確率→攻撃終了時の勝率」と導いていく。
まず基本となる1イニングに入る得点の確率分布(以下では得点分布と呼ぶ)だが、これはデータから得られた得点分布を用いる。得点分布をまとめたのが次の表である。



 6点以上は確率が小さいためまとめて表記した。この得点分布を用いて、残りイニング数で入る得点数の確率を求めることが出来る。計算法は上記の確率の組み合わせである。
今回の計算法を実際の算出方法にならって見ていこう。
例えば、1回から9回までの得点が0点となる確率を求める。この確率は、9イニング全てで0点が続かなければならないので

0.736×0.736×⋯×0.736=0.736の9乗=0.063
(0得点の確率×0得点の確率×・・・・×0得点の確率(9イニング分なので9個))となる。

 また、6回から9回までの残り4イニングで得点が2点の確率を同様に求める。残り4イニングで2点は、0点を2回と1点を2回、もしくは0点を3回と2点を1回でなるが、計算において点をどのイニングで取るかを考慮に入れなくてはならない。その点数とイニングの組み合わせは次の表に示す。

 


 
この組み合わせを考慮に入れて、残り4イニングで2得点の確率は次のようになる。



 次の表は1回から9回までの残りイニングの得点確率を同様な計算で求めたものである。ただし、縦軸は残りのイニング、横軸は残りのイニングで取れる得点の割合を表している。得点はすべて延長を考慮していないため、あくまで9回までに入る得点としている。




3、攻撃終了時の勝率

 この残りイニングの得点確率を用いて、“攻撃終了時の勝率”を求める。計算法は組み合わせなのだが、ここも前と同様に例を挙げて説明する。例えば“5回表終了・1点差でビジターチームが勝っている”とし、この5回表終了時での勝率を求める。ビジターチームが勝つにはホームチームの得点を上回らなければならない。想定される勝率を求めるにはビジターチームの残りイニングの得点とホームチームの残りイニングの得点を考慮しなければならない。
 
 もしビジターチームの6回以降の得点が1点だとすると、ホームチームは5回以降の得点が0点か1点でなければビジターチームの勝利にはならない。この「ビジターチームが1得点で、ビジターチームが勝利する」確率は、
 


 

0.228    (ビジターチームが1点取る確率)
×(0.215 (ホームチームが残り5回で無得点の確率)
+0.209  (ホームチームが残り5回で1得点の確率)
+0.176  (ホームチームが残り5回で2得点の確率)
×0.5)
=0.1167
(ビジターチームが1点×( ホームチームが0点+ホームチームが1点+ホームチームが2点×0.5 )  


 と求められる。ただし、引き分け(同点)は勝ちの半分と考えて、同点になる場合は同点になる確率を勝利と敗北に均等に分けあうように、その確率に0.5をかけている。あとは同様の計算を別の得点数(0点、2点、3点・・・)に対して行うと、5回終了1点差の時のビジターチームの勝率は
 
0.0938 (ビジターチームが0得点で勝利する確率)+
0.1167 (ビジターチームが1得点で勝利する確率)+
0.1224 (ビジターチームが2得点で勝利する確率)+
0.1001+0.0746+0.0490+0.0301+0.017
=0.6049
 
と計算できる。

 次の表は勝率を上記の計算法を用いて算出し、その結果をまとめたものである。上の表はビジターチームが勝つ確率を示していて(ビジターチームが攻撃を終了時点の勝率)、下の表はホームチームが勝つ確率(ホームチームの攻撃終了時の勝率)を表している。得点差は攻撃チームの得点を基準としている。
 






 ビジターチームの確率がホームチームよりも小さいのはホームチームの攻撃が残っているためである。延長に関しては、9回の確率値を適用するものとする。

 この表から“5点差をつけられると、逆転するのは非常に厳しい”ことが言える。ビジターチームの-5点の列を見ていただきたい。5点差がついた時点で勝率は5%以内になってしまう(5%とは一般的に想定する誤差の範囲と同等)。野球観戦をする方は、「これまで5点差なら何度も逆転してきたから、この値はおかしい」と疑問を感じるかもしれない。しかしながら、その感覚はひとの錯覚であり、実際には5点差を逆転するのは難しいのである。ただし、これはあくまでプロの得点分布で算出した結果なので、アマチュアでも同じ結果になるとは限らないことに注意していただきたい。
 

4、アウト・進塁状況別勝率

 この勝率を用いる例として、走者の進塁状況とアウト数を考慮できる勝率について紹介する。

“8回表の攻撃・2点差で負けている・1アウト・満塁”

 この状況からどのくらいの確率で勝つことができるであろうか。この値を計算するために必要なのが上で求めた勝率と状況別の得点分布である。状況別得点分布については、実際のデータから得られる値を用いる。次の表はこれらをまとめたものである。



 これからこの状況での勝率を求めるが、ここの計算の考え方として“期待値”を適用する。期待値は平均と似ていて、見込みの値である。また期待値は、一般的な平均とは異なり“発生確率”をかけることで見込みの値を求める。

 この状況で見込める勝率を求めていく。この回で取る得点により回終了後の勝率は変化する(0得点なら勝率は0.059、1点なら勝率は0.129となる)。また、満塁の状況で得られる点数の確率は実値データから得られている(0点になる確率は0.357、1点になる確率は0.232、…)。勝率の期待値を求めるには発生確率が必要であるが、“得点確率”が発生確率の役割をしてくれるのである。

 つまり、「0点の勝率は0.059で、勝率が0.059になる確率は0.357」
という解釈が出来る(勝率と得点確率は両方とも率なので混乱しやすいが、ここでは勝率は“率”ではなく、ひとつの“値”として見てほしい。)。これから、勝率の期待値の計算は次のようになる:

0.357×0.059(0点になる確率×0点のときの勝率)+
0.232×0.129(1点になる確率×1点のときの勝率)+
・・・・+
0.006×0.983(7点になる確率×7点のときの勝率)
=0.317
 
 この攻撃が始まった時の勝率は0.130(ホームチームの7回終了時の勝率)なので、満塁のチャンスによって勝率が大きく上昇したことが分かる。

 試合開始から移り変わる状況の勝率を算出していけば、例えば1試合で最も勝敗に影響を与えたプレーや選手を特定することが出来る。年間でこの値を見ていけば、成績から選手を評価する指標(Batting RunやwRAAなど)とは違う新たな評価を行える。これはWin Probability Added(WPA)などと呼ばれMLBではかなり認知されている。

 当サイトでも今後WPAや状況別の勝率を基にした議論も出てくるだろう。その基になる状況別の見込まれる勝率
の一つの求め方として理解してもらえれば幸いである。



・追記 ~実データとの比較~
実データとの比較がなければ実用性を 感じられないというお声をいただきましたので、
勝率を実データとの比較と比較していきます。
このデータは2004年から2007年までの3300試合を用いています。
次の表は、イニング終了時の後攻チームの勝利数と敗北数、勝率を表しています。




 得点分布からの勝率の計算と比較しても、大きな違いがないことが見られます。実データを適用しない理由は、7点差や8点差など点差が大きいところはデータ数が少ないため、勝率のばらつきが大きくなってしまうからです。
 
 

コメント

みんなの評価:3stars-3-0.gif

うーん(´・ω・`)机上だけでなく、
「では、実際の結果とあわせて、この算出方法がどの程度正確であるか」
という、現実との比較が欲しかったところですねぇ。でないと、この算出方法の有効性がよくわからないかと。

評価:stars-3-0.gif Posted by いわん at 2010/12/22 11:05:29 PASS:

いわん様
ご指摘ありがとうございます。
いわん様の仰る通りです、
これでは有効性が見えてきませんね。

実際のデータで勝率を算出するコラムを作成し、
このサイト上で公開しようと思っています。
それと照らし合わせていただければ幸いです。

Posted by 大里 at 2010/12/28 14:58:47 PASS:
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