重要な場面を計る ~Leverage Index~ Part1
大里隆也 [ 著者コラム一覧 ]
1、はじめに
勝負事には勝敗を決める重要な場面、すなわち“勝負どころ”が存在する。この重要な場面において活躍することはファンの人気や新聞記者の評価に影響を与え、選手として生き残るのに重要になってくる。今回は、試合の重要な場面を具体的に“数値化”して計る指標Leverage Index(以下LIと略)について紹介していく。数値化するのに状況別勝率(コラム「見込まれる勝率」)を用いるので、参照していただきたい。流れとしては、初めにこの指標の考え方と計算方法を紹介し、次回のコラムで今年の日本シリーズで印象的だった中日対ロッテ第4戦にLIを当てはめていく。
2、重要な場面の数値化
重要な場面とは“勝率が大きく変化する可能性のある場面”のことである。同点から試合の決着がつく可能性のある打席や逆転する可能性のある打席が重要と感じるのは、打つことが出来れば勝率が大幅に上昇するからだ。打席において、この“勝率の変化の幅”が算出できれば、重要な場面を数値化できるのである。
では、重要な場面を数値化していく。ここで用いられる状況別勝率についてはコラム「見込まれる勝率」を参照していただきたい。勝率の変化の幅は現打席での勝率からさまざまな打撃結果に対する勝率を求める事で出すことが出来る。ここからは、例を用いて計算法を説明する。例えば、
“8回裏・1点ビハインド・1アウト・走者3塁2塁”
の状況を考える。この場面の勝率は0.397。
ここから打撃結果が凡打であったとすると状況は“8回裏・1点ビハインド・2アウト・走者3塁2塁”となり、この状況の勝率は0.279となる。ここで、凡打でもいろいろな進塁状況になると感じた人がいるかと思うが、ここはあくまで結果の予想なので細かい進塁結果を考えるのは計算が複雑になるだけなので、凡打の場合は進塁しないと仮定した。他の打撃結果でも同様の定義で処理している。
打撃結果が犠飛であったとすると、“8回裏・0点差・2アウト・走者2塁”と状況は変化し、勝率は0.589となる(犠飛は3塁走者以外進塁しないと仮定)。
あとは、同様に他の打席結果に対して起こる状況を仮定し勝率を算出するが、単打については同様の定義では問題があり、進塁状況の考慮が必要となる。例えば2・3塁の状況から単打を打てば、2塁走者が返る場合と返らない場合がある。これまでの定義のままでは下記の問題がある。
①両者とも発生確率が高い。
1アウト・走者が2塁にいる状況から、単打で2塁走者が生還する確率は0.55、生還しない確率は0.45となっている。両者とも大きな違いはなくどちらか一方に仮定してしまうと、現実値との乖離(かいり)が大きくなってしまう。
②進塁結果によって勝率が大きく変化する。
2塁走者が生還する場合は、2得点追加され1アウト走者1塁で勝率は0.889。2塁走者が生還できなかった場合は、1得点追加され1アウト走者3・1塁で勝率は0.703。両者の違いは約2割になってしまう。
上記の理由から単打の場合は生還する場合としない場合で分けて検討する。次の表は打撃結果に対する勝率をまとめたものである。

表のアウト数に関しては全ての打撃結果で1アウトになるので、アウト数は表にいれていない。これから、現打席からの勝率の変化量を求める事が出来る。
結果が凡打なら勝率は、
0.397 - 0.279
(現在の勝率)-(凡打の時の勝率)
=0.118
と凡打のときの勝率の変化量が求められる。他の打撃結果に関しても計算を行うが、この幅が必ず正(+)になるようにする。つまり、犠飛などの現在の勝率よりも勝率が高くなってしまう打撃結果に関しては、「現在の勝率を引く」計算を行うのである。以下でこの計算結果のまとめを示す。

次はこの変化量をまとめて一つの数値として表していく。この数値の算出法は複数あるが、今回は打撃結果の発生確率を用いて、変化量をまとめていく。今回の打撃結果の発生確率を次の表に示した。

この表の値は、データ値を用いた。この発生確率と先ほどの勝率の変化量を掛け合わせ勝率の期待値を求めると、
0.118×0.485(凡打の時の勝率×凡打の発生確率)+
0.192×0.123(犠飛の時の勝率×犠飛の発生確率)+
0.125×0.084(四死球の時の勝率×四死球の発生確率)+
0.306×0.131(単打(生還せず)の時の勝率×単打(生還せず)の発生確率)+
0.492×0.107(単打(生還した)の時の勝率×単打(生還した)の発生確率)+
0.503×0.041(二塁打の時の勝率×二塁打の発生確率)+
0.510×0.004(三塁打の時の勝率×三塁打の発生確率)+
0.550×0.025(本塁打の時の勝率×本塁打の発生確率)
=0.2205
となる。期待値とは見込みの値のことで、今回の指標は「この打席に見込まれる勝率の変化量」と定義できる。よって、この0.2205という結果から、
「8回裏・1点ビハインド・1アウト・走者2塁3塁の状況では
平均的に0.2205の勝率が変化する」と言える。
3、Leverage Index
他の状況に対しても同様の計算を行い、勝率の変化量の期待値を算出した。他の状況との比較を行いやすくするため、幅が最も大きい場面(9回裏・1点差で負けている・2アウト・満塁)を最大値10と基準を設け、全ての状況に対して値を定義した。米国に倣い、この値を“Leverage Index”と呼ぶことにする。次の表は点差が-2点から2点・各イニング・表裏開始時のLIをまとめたものである。ただし、点差は「後攻チームの得点-先攻チームの得点」としている。

どの状況も1点で負けているときのLI値が高くなっている(表開始は点差+1、裏開始時は点差-1を見てください)。1点差で負けているときの変化量が大きいのは、同点あるいは逆転したときの勝率の上昇幅とできなかったときの下降幅が大きいからだと思われる。一般的な話に置き換えても、この「1点差で負けている状況での攻撃」が両チームにとって重要なのは納得できる。また、回を重なるごとにLI値が大きくなっていくが、終盤になれば重要になるのも納得できるであろう。
しかし、8回裏・1点差(+1)で勝っているときのLI値1.5は、0点差のLI値3.6と比べると非常に小さい値になっていて、疑問を感じる方もいるかと思う。コラム「見込まれる勝率」を参考にしていただきたいが、この原因は8回裏の攻撃開始時・1点差で勝っている状況での勝率は0.843と高いため変化率が少ないからである。試合終盤・1点差で勝っている時点で勝利の可能性は高く、追加点はそこまで重要でないのである。
次の表はLI値上位30位までを表している。点差は先ほどと同様の設定にしている(後攻-先攻)。

ここで選ばれている状況はどれも重要な場面であるのは納得できると思う。
以上で、重要な場面を選定するためのLeverage Indexの算出法についての説明を終わりにする。しかしながら、これだけでは説明不足や検証不足なのは明らかなので、次回のコラムでこの指標を2010年日本シリーズに当てはめる。実際の試合に適用することで、この指標の意義や有効性を理解していただけると思う。
勝負事には勝敗を決める重要な場面、すなわち“勝負どころ”が存在する。この重要な場面において活躍することはファンの人気や新聞記者の評価に影響を与え、選手として生き残るのに重要になってくる。今回は、試合の重要な場面を具体的に“数値化”して計る指標Leverage Index(以下LIと略)について紹介していく。数値化するのに状況別勝率(コラム「見込まれる勝率」)を用いるので、参照していただきたい。流れとしては、初めにこの指標の考え方と計算方法を紹介し、次回のコラムで今年の日本シリーズで印象的だった中日対ロッテ第4戦にLIを当てはめていく。
2、重要な場面の数値化
重要な場面とは“勝率が大きく変化する可能性のある場面”のことである。同点から試合の決着がつく可能性のある打席や逆転する可能性のある打席が重要と感じるのは、打つことが出来れば勝率が大幅に上昇するからだ。打席において、この“勝率の変化の幅”が算出できれば、重要な場面を数値化できるのである。
では、重要な場面を数値化していく。ここで用いられる状況別勝率についてはコラム「見込まれる勝率」を参照していただきたい。勝率の変化の幅は現打席での勝率からさまざまな打撃結果に対する勝率を求める事で出すことが出来る。ここからは、例を用いて計算法を説明する。例えば、
“8回裏・1点ビハインド・1アウト・走者3塁2塁”
の状況を考える。この場面の勝率は0.397。
ここから打撃結果が凡打であったとすると状況は“8回裏・1点ビハインド・2アウト・走者3塁2塁”となり、この状況の勝率は0.279となる。ここで、凡打でもいろいろな進塁状況になると感じた人がいるかと思うが、ここはあくまで結果の予想なので細かい進塁結果を考えるのは計算が複雑になるだけなので、凡打の場合は進塁しないと仮定した。他の打撃結果でも同様の定義で処理している。
打撃結果が犠飛であったとすると、“8回裏・0点差・2アウト・走者2塁”と状況は変化し、勝率は0.589となる(犠飛は3塁走者以外進塁しないと仮定)。
あとは、同様に他の打席結果に対して起こる状況を仮定し勝率を算出するが、単打については同様の定義では問題があり、進塁状況の考慮が必要となる。例えば2・3塁の状況から単打を打てば、2塁走者が返る場合と返らない場合がある。これまでの定義のままでは下記の問題がある。
①両者とも発生確率が高い。
1アウト・走者が2塁にいる状況から、単打で2塁走者が生還する確率は0.55、生還しない確率は0.45となっている。両者とも大きな違いはなくどちらか一方に仮定してしまうと、現実値との乖離(かいり)が大きくなってしまう。
②進塁結果によって勝率が大きく変化する。
2塁走者が生還する場合は、2得点追加され1アウト走者1塁で勝率は0.889。2塁走者が生還できなかった場合は、1得点追加され1アウト走者3・1塁で勝率は0.703。両者の違いは約2割になってしまう。
上記の理由から単打の場合は生還する場合としない場合で分けて検討する。次の表は打撃結果に対する勝率をまとめたものである。

表のアウト数に関しては全ての打撃結果で1アウトになるので、アウト数は表にいれていない。これから、現打席からの勝率の変化量を求める事が出来る。
結果が凡打なら勝率は、
0.397 - 0.279
(現在の勝率)-(凡打の時の勝率)
=0.118
と凡打のときの勝率の変化量が求められる。他の打撃結果に関しても計算を行うが、この幅が必ず正(+)になるようにする。つまり、犠飛などの現在の勝率よりも勝率が高くなってしまう打撃結果に関しては、「現在の勝率を引く」計算を行うのである。以下でこの計算結果のまとめを示す。

次はこの変化量をまとめて一つの数値として表していく。この数値の算出法は複数あるが、今回は打撃結果の発生確率を用いて、変化量をまとめていく。今回の打撃結果の発生確率を次の表に示した。

この表の値は、データ値を用いた。この発生確率と先ほどの勝率の変化量を掛け合わせ勝率の期待値を求めると、
0.118×0.485(凡打の時の勝率×凡打の発生確率)+
0.192×0.123(犠飛の時の勝率×犠飛の発生確率)+
0.125×0.084(四死球の時の勝率×四死球の発生確率)+
0.306×0.131(単打(生還せず)の時の勝率×単打(生還せず)の発生確率)+
0.492×0.107(単打(生還した)の時の勝率×単打(生還した)の発生確率)+
0.503×0.041(二塁打の時の勝率×二塁打の発生確率)+
0.510×0.004(三塁打の時の勝率×三塁打の発生確率)+
0.550×0.025(本塁打の時の勝率×本塁打の発生確率)
=0.2205
となる。期待値とは見込みの値のことで、今回の指標は「この打席に見込まれる勝率の変化量」と定義できる。よって、この0.2205という結果から、
「8回裏・1点ビハインド・1アウト・走者2塁3塁の状況では
平均的に0.2205の勝率が変化する」と言える。
3、Leverage Index
他の状況に対しても同様の計算を行い、勝率の変化量の期待値を算出した。他の状況との比較を行いやすくするため、幅が最も大きい場面(9回裏・1点差で負けている・2アウト・満塁)を最大値10と基準を設け、全ての状況に対して値を定義した。米国に倣い、この値を“Leverage Index”と呼ぶことにする。次の表は点差が-2点から2点・各イニング・表裏開始時のLIをまとめたものである。ただし、点差は「後攻チームの得点-先攻チームの得点」としている。

どの状況も1点で負けているときのLI値が高くなっている(表開始は点差+1、裏開始時は点差-1を見てください)。1点差で負けているときの変化量が大きいのは、同点あるいは逆転したときの勝率の上昇幅とできなかったときの下降幅が大きいからだと思われる。一般的な話に置き換えても、この「1点差で負けている状況での攻撃」が両チームにとって重要なのは納得できる。また、回を重なるごとにLI値が大きくなっていくが、終盤になれば重要になるのも納得できるであろう。
しかし、8回裏・1点差(+1)で勝っているときのLI値1.5は、0点差のLI値3.6と比べると非常に小さい値になっていて、疑問を感じる方もいるかと思う。コラム「見込まれる勝率」を参考にしていただきたいが、この原因は8回裏の攻撃開始時・1点差で勝っている状況での勝率は0.843と高いため変化率が少ないからである。試合終盤・1点差で勝っている時点で勝利の可能性は高く、追加点はそこまで重要でないのである。
次の表はLI値上位30位までを表している。点差は先ほどと同様の設定にしている(後攻-先攻)。

ここで選ばれている状況はどれも重要な場面であるのは納得できると思う。
以上で、重要な場面を選定するためのLeverage Indexの算出法についての説明を終わりにする。しかしながら、これだけでは説明不足や検証不足なのは明らかなので、次回のコラムでこの指標を2010年日本シリーズに当てはめる。実際の試合に適用することで、この指標の意義や有効性を理解していただけると思う。
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