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勝利への貢献 ~Win Probability Added~ Part1

大里隆也 [ 著者コラム一覧 ]

投稿日時:2011/02/02(水) 10:00rss

1、はじめに
 
 MVPや優秀選手を決める際に、どの程度チームの勝利に貢献したかを考慮するのは重要なことである。今回は、勝利への貢献度を数値化する指標WPA(Win Probability Added)を取り上げる。
 パート1でWPAについて紹介し、パート2で2010年度の日本シリーズでの打撃と投手について数字上で誰が活躍したかをみていく。
 
 
2、MVPと勝率
 
 最優秀選手いわゆるMVPは試合で最もチームの勝利に貢献した選手のことである。現状ではMVPを新聞記者の投票で選定しているが、印象で最も活躍した選手を選定するのは多くの人数を擁しても偏りが発生してしまう。では、どのようにMVPを決定するべきか。
 
 MVPを的確に選定する1つの方法は、勝利への貢献度を数値化することである。数値化することで、どの選手も公平に評価し、数字で貢献の順序を決定することができる。
 そもそも勝利への貢献を計る上で、残りイニング数や点差、走塁状況やアウト数などの状況を考慮しなくてはならない。緊迫した状況で打つこと、または、抑えることがMVPになるためには必要不可欠である。
 それら状況の情報を持っている指標が“勝率”である。勝率は緊迫した状況で打てば大きく上昇し、打てなければ大きく下降する。また、勝敗にほとんど関係ない状況ではほとんど変化しない。最も勝利に貢献した選手を“最も勝率を上昇させた選手”とするのは妥当である。
 
 
3、Win Probability Added
 
 勝率の増加量は走塁状況やアウト数などが変化する毎に求められる。その算出法は、状況が変化した後の勝率から状況が変化する前の勝率を引けば良い:
 
勝率の増加量  = 状況変化後の勝率 - 状況変化前の勝率    
 
 この勝率の増加量を一般的にWPA (Win Probability Added)と呼ぶ。
打撃によって状況が変化した場合には打者にWPAを与える。また、投手は相手チームの勝率の減少量で評価する。
 
 ここでWPAの例を挙げる。WPAで計ることのイメージが感じられたら幸いである。
“8回表の攻撃・2点差で負けている・1アウト・満塁の状況”から
①“二塁打により、1点差で勝っている・1アウト・2塁の状況”と
②“内野ゴロによりダブルプレーで、この回が終了した状況”に変化したとして、これらのWPAをそれぞれ求めていく。



 ここで用いる勝率はコラム「見込まれる勝率」の状況別勝率を用いた。
 
 ①の場合
 変化前の勝率は0.317、変化後の勝率は0.780となる。このときのWPAは、
 
 0.780 -0.317
(変化後の勝率)-(変化前の勝率)
= 0.463
 

と求められ、この二塁打を打った打者に0.463のWPA値が、打たれた投手には-0.463がそれぞれ寄与される。
 
②の場合
 変化前の勝率は0.317、変化後の勝率は0.059となる。このときのWPAは、
 
 0.059 -0.317
(変化後の勝率)-(変化前の勝率)
= -0.258
 

と求められ、この二塁打を打った打者に-0.258のWPA値が、抑えた投手には0.258がそれぞれ寄与される。
 
 
4、WPAの性質
 
 選手は状況を選べないため、WPAを能力の評価というには他の能力が加わりすぎている。WPAは、能力を示した指標ではなく、あくまで活躍したかどうかを計る指標であることに注意していただきたい。
 
 WPAの値の意味は明確で、WPA値0.5で1勝分の貢献をしたことを表している。これは、試合開始の勝率と勝利が決定した時の勝率の差が0.5になるためである。
 
 1 -0.5
(勝利が決定した時の勝率 - 試合開始時の勝率)
= 0.5
 
 例の中で二塁打の場合にはWPA 0.463が打者に与えられたが、この打者はこの打席だけでほとんど1勝分の働きをしたことになる。一方、投手は逆に1敗分の責任を負うことになる。
 
 勝率は進塁状況やアウト数で決まる。このため、WPAは安打で出塁しようが、エラーで出塁しようが結果が同じなら、同等の評価をすることになる。
 エラーには記録に残るものや残らないもの、普通の選手なら安打だが守備範囲が広いおかげでエラーになってしまったものなどがあり、1つのエラーに対する解釈が難しい。そのため、エラーした守備の責任とするより、エラーするような打球を打った打者の責任とし、WPAは結果にしか依存しないことにする。
 例において、二塁打ではなく1ヒット1エラーで同じ状況になったとしても、打った打者にはWPA0.463が与えられる。
 
 打撃によって状況が変化した場合に、どんな結果であろうが打者と走者でWPAの分配はしない。例の中で二塁打によって一塁走者が帰塁したが、一塁走者がどれだけ足の速い選手であろうが帰塁できたのは打者のおかげと考え、打者にWPA0.463を与える。
 厳密に言えば打者と走者に分配するべきなのであろうが、現状のデータや分析では走者を進めたのが走者能力なのかそれとも打球の性質なのか原因の所在を明確に判断し分配することができないため、このようにしている。
 投手についても同様で、投手と守備でWPAの分配はしないことにする。
 
 投手のWPAの特徴は、自分で作ったマイナス分を自分で挽回できることである。いくらピンチを作りWPAがマイナスになろうが、投手は交代しない限りそのピンチを抑えることができるため、失点しない限りプラス分を自分に加算出来るのである。
 
しかしながら、投手をWPAで評価する場合には大きな問題がある。WPAは、先発投手と中継ぎ・抑え投手でその変動に大きな差があるため、公平に評価することができない。次の表は1点差で勝っている状況で投手が抑え続けたときの勝率とWPA(勝率の減少量)を表している。
 

 
 1回を無失点で抑える事と9回を無失点で抑える事はWPAで評価すると3倍以上の違いがある。WPAは終盤になるほどその変化量が大きくなるため、2タイプを同等に評価することが出来ず調節が必要になってくる(打者でこの問題が起きなかったのは、終盤で打席がまわるかはランダムであるため)。
 これを解決する方法としては、Leverage Indexのような状況の重要性を考慮し調整することが挙げられる。今回は先発と中継ぎ・抑えに分けて貢献した選手を選出するため、また別のコラムで紹介することにする。
 
 以上でWPAの説明を終わりにするが、後編ではWPAを日本シリーズに適用しオリジナルのMVPを選出する。

コメント


>>と求められ、この二塁打を打った打者に-0.258のWPA値が、抑えた投手には 0.258がそれぞれ寄与される。

二塁打を打った打者ではなく、ダブルプレーに終った打者では?

Posted by 名無し at 2012/01/04 22:02:23 PASS:
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