勝利への貢献~Win Probability Added~ Part2
大里隆也 [ 著者コラム一覧 ]
1、はじめに
前回はWPAの定義や性質について紹介してきましたが、今回は2010年日本シリーズ中日対ロッテに当てはめ日本シリーズで活躍した打者と投手を見ていき、オリジナルのMVPを選出していく。
打撃は、盗塁などの走塁評価をせずに、打撃による結果だけを純粋に評価することにし、また投手に関しても純粋に投球の評価だけとしている。
2、打撃部門
次の2つの表は、WPAの値が0.1以上増加した打席と-0.1以下減少した打席の状況とその結果をまとめたものである。


どちらの表も2アウトの状況が多い。WPAは2アウトでのチャンスは振れ幅が大きいので、プラスもマイナスも大きくなる。
次の表は2010年の日本シリーズ計7戦の打撃に関するWPAの合計値を表している。ただし、打席数5以上の選手に限定している。

この表から、大島が飛び抜けて高いWPAとなっている。日本シリーズの大島について考察してみる。大島は、点差が2点以内で得点圏に走者がいる状況で5打数4安打という驚異的な成績を残し、第4戦では試合を決める三塁打を放つ活躍をした。僅差でチャンスの場面は人よりも多いが、チャンスをほとんど生かしている大島は打撃部門で、WPAが示す通りの活躍をしている。
大島に続く和田は、最終戦の9回・1点差で負けている状況から同点のきっかけとなった三塁打が大きなWPAの増加をもたらしているが、得点圏などチャンスの場面では四球と凡打が多いため、WPAの値は大島ほど大きくはならなかった。しかし、0.45という数字は大きく、和田の活躍でチームに約1勝をもたらしている。
実際に優秀選手賞を取った清田やMVPを取った今江も高いWPAになっている。
中日の主砲・ブランコや200本安打を記録した西岡などは逆に活躍することができなかった。WPAが-0.1以下の減少したときの表を見てほしい。西岡と里崎は点差が小さくチャンスで回ってきたが、凡退しているためWPAが低くなっている。
次の表は日本シリーズの打率と出塁率、長打率を示した表である(打率の高い順)。この表から分かるように、WPAが低い選手は基本的に安打や出塁が出来ていない。

以上のことから、勝利への貢献という観点において2010年度日本シリーズの打撃部門で最も活躍したのは大島選手と勝率の変動から考えられる。
3、投手部門
続いて投手部門に移るが、投手の評価は打者の評価の逆で、投手は自分が投げ相手の勝率を減少させることで評価される。
前回のコラムで述べた通り、先発投手と中継ぎ・抑え投手はわけて評価しなければならない。まず、先発に対して見ていく。
3.1、先発投手
次の表は2010年の日本シリーズ計7戦の先発投手に対するWPAの合計値を表している。

先発投手の中で、チェンと成瀬の二人だけ大きくなっている。チェンと成瀬は第6戦で投げ合っていて、第6戦が二人のWPAを大きくしたようだ。
第6戦は、初回にお互い1失点してから6回裏の成瀬の失点まで0点差が続く投手戦になった。その緊迫した状況でお互い抑え続けたことでWPAが大きくなったと考えられる。
成瀬がチェンよりも低い大きな原因は、この試合で森野とブランコに打たれ失点したことだと思われる(表・WPAが0.1以上増加を参照)。
勝利への貢献という観点において2010年度日本シリーズの先発投手部門で最も活躍したのはチェン投手と勝率の変動から考えられる。
3.2、中継ぎ・抑え投手
次の表は2010年の日本シリーズ計7戦の先発投手に対するWPAの合計値を表している。

WPAが最も高かったのは内であるが、高橋も同等のWPAを持っている。内は第1戦と第4戦、第6戦、第7戦に中継ぎとして登板し、打者31人に対して無失点で抑える好投をした。中でも、第4戦と第6戦、第7戦は僅差のゲームでこの3試合を無失点で切り抜けたのがWPAを大きくした要因になっている。
高橋は第2戦と第4戦、第6戦、第7戦に中継ぎとして登板し、打者16人に対してこちらも無得点で抑える好投をした。第4戦と第6戦、第7戦の僅差のゲームでWPAが大きくなったのは内と変わりないが、打者16人でこのように大きなWPAになっている。これは、第4戦・11回裏・0点差・1アウト満塁の状況から登板し抑えたことによりWPAが一気に0.321大きくなったからである。
僅差ではあるが、勝利への貢献という観点において2010年度日本シリーズの中継ぎ・抑え投手部門で最も活躍したのは内選手であった。
4、日本シリーズでのMVP
勝率の変動から日本シリーズでの優勝チームのロッテからMVPを決めるとしたら、私は内投手を推薦する。理由は、中継ぎと先発は一緒に比べてはいけないと言ったが内のWPAはロッテの中で最も高いことと、全体的な総括として日本シリーズでのロッテはピンチを何度も抑えて粘り勝ちしたことである(コラム「重要な場面を計る~Leverage Index~Part2」参照)。
今回MVPを選ぶうえで勝率の増加量を用いて選手を評価したが、この評価法は1年間のシーズンに対しても適用が可能である。今後のコラムで、長期間のWPAについてと2010年レギュラーシーズンのWPAについて触れていきたい。
前回はWPAの定義や性質について紹介してきましたが、今回は2010年日本シリーズ中日対ロッテに当てはめ日本シリーズで活躍した打者と投手を見ていき、オリジナルのMVPを選出していく。
打撃は、盗塁などの走塁評価をせずに、打撃による結果だけを純粋に評価することにし、また投手に関しても純粋に投球の評価だけとしている。
2、打撃部門
次の2つの表は、WPAの値が0.1以上増加した打席と-0.1以下減少した打席の状況とその結果をまとめたものである。
どちらの表も2アウトの状況が多い。WPAは2アウトでのチャンスは振れ幅が大きいので、プラスもマイナスも大きくなる。
次の表は2010年の日本シリーズ計7戦の打撃に関するWPAの合計値を表している。ただし、打席数5以上の選手に限定している。
この表から、大島が飛び抜けて高いWPAとなっている。日本シリーズの大島について考察してみる。大島は、点差が2点以内で得点圏に走者がいる状況で5打数4安打という驚異的な成績を残し、第4戦では試合を決める三塁打を放つ活躍をした。僅差でチャンスの場面は人よりも多いが、チャンスをほとんど生かしている大島は打撃部門で、WPAが示す通りの活躍をしている。
大島に続く和田は、最終戦の9回・1点差で負けている状況から同点のきっかけとなった三塁打が大きなWPAの増加をもたらしているが、得点圏などチャンスの場面では四球と凡打が多いため、WPAの値は大島ほど大きくはならなかった。しかし、0.45という数字は大きく、和田の活躍でチームに約1勝をもたらしている。
実際に優秀選手賞を取った清田やMVPを取った今江も高いWPAになっている。
中日の主砲・ブランコや200本安打を記録した西岡などは逆に活躍することができなかった。WPAが-0.1以下の減少したときの表を見てほしい。西岡と里崎は点差が小さくチャンスで回ってきたが、凡退しているためWPAが低くなっている。
次の表は日本シリーズの打率と出塁率、長打率を示した表である(打率の高い順)。この表から分かるように、WPAが低い選手は基本的に安打や出塁が出来ていない。
以上のことから、勝利への貢献という観点において2010年度日本シリーズの打撃部門で最も活躍したのは大島選手と勝率の変動から考えられる。
3、投手部門
続いて投手部門に移るが、投手の評価は打者の評価の逆で、投手は自分が投げ相手の勝率を減少させることで評価される。
前回のコラムで述べた通り、先発投手と中継ぎ・抑え投手はわけて評価しなければならない。まず、先発に対して見ていく。
3.1、先発投手
次の表は2010年の日本シリーズ計7戦の先発投手に対するWPAの合計値を表している。
先発投手の中で、チェンと成瀬の二人だけ大きくなっている。チェンと成瀬は第6戦で投げ合っていて、第6戦が二人のWPAを大きくしたようだ。
第6戦は、初回にお互い1失点してから6回裏の成瀬の失点まで0点差が続く投手戦になった。その緊迫した状況でお互い抑え続けたことでWPAが大きくなったと考えられる。
成瀬がチェンよりも低い大きな原因は、この試合で森野とブランコに打たれ失点したことだと思われる(表・WPAが0.1以上増加を参照)。
勝利への貢献という観点において2010年度日本シリーズの先発投手部門で最も活躍したのはチェン投手と勝率の変動から考えられる。
3.2、中継ぎ・抑え投手
次の表は2010年の日本シリーズ計7戦の先発投手に対するWPAの合計値を表している。
WPAが最も高かったのは内であるが、高橋も同等のWPAを持っている。内は第1戦と第4戦、第6戦、第7戦に中継ぎとして登板し、打者31人に対して無失点で抑える好投をした。中でも、第4戦と第6戦、第7戦は僅差のゲームでこの3試合を無失点で切り抜けたのがWPAを大きくした要因になっている。
高橋は第2戦と第4戦、第6戦、第7戦に中継ぎとして登板し、打者16人に対してこちらも無得点で抑える好投をした。第4戦と第6戦、第7戦の僅差のゲームでWPAが大きくなったのは内と変わりないが、打者16人でこのように大きなWPAになっている。これは、第4戦・11回裏・0点差・1アウト満塁の状況から登板し抑えたことによりWPAが一気に0.321大きくなったからである。
僅差ではあるが、勝利への貢献という観点において2010年度日本シリーズの中継ぎ・抑え投手部門で最も活躍したのは内選手であった。
4、日本シリーズでのMVP
勝率の変動から日本シリーズでの優勝チームのロッテからMVPを決めるとしたら、私は内投手を推薦する。理由は、中継ぎと先発は一緒に比べてはいけないと言ったが内のWPAはロッテの中で最も高いことと、全体的な総括として日本シリーズでのロッテはピンチを何度も抑えて粘り勝ちしたことである(コラム「重要な場面を計る~Leverage Index~Part2」参照)。
今回MVPを選ぶうえで勝率の増加量を用いて選手を評価したが、この評価法は1年間のシーズンに対しても適用が可能である。今後のコラムで、長期間のWPAについてと2010年レギュラーシーズンのWPAについて触れていきたい。
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野球を客観視した独自の論評、分析、および研究を特徴として、野球に関するさまざまな考察をしています。
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