投手の成績と守備力の関連について~DERを用いて
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1.はじめに
投手の成績を示すデータには様々なものがありますが,中でも奪三振・与四死球・被本塁打は守備力の影響を受けない投手自身の実力を示すデータと考えられています。現在,これらのデータを元にいろいろな指標が開発されています。一方,防御率,WHIP,被打率などの指標は,投手の実力に加えて守備力の影響も受けた成績であるといわれています。
しかしながら,投手の成績がチームの守備力の影響を受けていることは,理論的には理解できますが,実際にどの程度の影響を受けているのかはよくわからない所でもあります。あまり気にする必要のないレベルであるのか,それとも大きな影響を受けるのかもわかりません。
また,これまでのコラムで分析してきたように,一言で投手といっても様々なタイプがいることがわかっています。これらのタイプの異なる投手に、守備力が及ぼす影響は同じなのでしょうか?それとも守備力の影響を受けやすいタイプの投手や受けにくいタイプの投手がいるのでしょうか?というのが今回のテーマです。
2.分析データ
2008年から2010年までのNPB12球団で1軍の試合に登板し,年間100名以上の打者と対戦成績のある552名を分析対象者としました。
投手の分類
打者との対戦成績(本塁打・四死球・三振・ゴロ・フライ・ライナー)の割合を元に,6つのグループに分類しました。分類した投手の特徴を表1と図1に示します。


各グループの名称はそれぞれ特徴となるデータからつけています。これらの投手の成績の指標として防御率と被打率を用います。
チームの守備力
チームの守備力については,DER(Defense Efficiency Ratio)を用いました。DERは守備力の簡易指標といったデータです。詳しくは「DERの考え方」というコラムで解説してくださっているのでそちらをご覧になってください。
DERについて1992年から2010年までのNPB12球団,全228チーム分のデータでは,平均値は0.688でした。ここから値が大きくなると守備力は高くなります。値が小さくなるほど守備力は下がります。
チームの守備力が所属する投手に平等に影響したとは到底考えることはできませんが,各投手が登板したときの守備力を示す適当な指標が無いため,チームの年間DERを各投手に当てています。
3.チームの守備力と投手成績の関連
では,チームの守備力と投手の成績の関連を分析していきたいと思います。まずは全投手を対象に,DERと防御率,被打率との相関係数を求めました。続いて,グループごとにDERと防御率,被打率との相関係数を求めました。結果を表2に示します。

データの無いところは,相関関係の認められなかったところです。
全投手を対象に,DERと防御率,被打率との関連を分析したところ,弱い負の相関関係が認められました。図2にデータを示します。

この結果は,守備力が向上することで防御率,被打率ともにやや低下することを示しています。
次に,グループごとにDERと防御率,被打率との関連を分析しました。各グループの分析結果を以下に示します。
平均型
防御率,被打率ともに全体よりも強い守備力との負の相関関係が認められました。この結果は,平均型の投手はチームの守備力の影響を受けやすいことを示しています。
三振Ⅰ型
防御率は守備力との相関関係は認められませんでした。一方,被打率は全体よりも強い守備力との負の相関関係が認められました。この結果は,三振Ⅰ型の投手は被安打に関しては守備力の影響を受けるものの,その後の失点は守備力の影響を受けにくいことがわかりました。
三振Ⅱ型
防御率,被打率ともに守備力との相関関係は認められませんでした。この結果は,三振Ⅱ型の投手の成績は守備力の影響を受けにくいことがわかりました。
フライ型
防御率,被打率ともに全体,平均型よりも強い守備力との負の相関関係が認められました。この結果は,フライ型の投手はチームの守備力の影響を受けやすいことを示しています。
ゴロⅠ型
防御率,被打率ともに全体よりも強い負の相関関係が認められました。データを図3に示します

他のグループと比較して,最も強い相関が認められています。この結果は,ゴロⅠ型の投手はチームの守備力の影響を一番受けやすいことを示しています。
ゴロⅡ型
防御率,被打率ともに守備力との相関関係は認められませんでした。データを図4に示します

この結果より,ゴロⅡ型の投手の成績は守備力の影響を受けにくいことがわかりました。
以上の結果をまとめると,
・三振型の投手は守備力の影響を受けにくい。
・フライ型の投手は守備力の影響を受けやすい。
ということがわかります。しかし,ゴロ型の投手の結果は一貫していません。
ゴロⅠ型は守備力の影響を受けやすく,ゴロⅡ型の投手の成績は守備力の影響を受けにくいという結果になっています。
このゴロⅠ型とゴロⅡ型の投手の違いとしては,フライの多さが挙げられます。ゴロⅠ型の方がフライの割合が多いです。ということは,ゴロⅠ型が守備力の影響を受け易いのはフライのお陰で,ゴロの割合自体は守備力の影響を受けないのでしょうか?
4.ゴロとフライと守備力と
この問題を解決するために,グループごとの分析からは少し離れて,552名の全データを用いて,ゴロとフライと守備力の関係を見ていきたいと思います。
まずは,フライと守備力の関係を分析してみました。結果を図5-1に示します。

各投手のフライの割合とDERの成績から,以下の4つのグループを作りました。
・「フライ:少,守備:低」グループ(191名)
・「フライ:少,守備:高」グループ(78名)
・「フライ:多,守備:低」グループ(206名)
・「フライ:多,守備:高」グループ(77名)
フライの割合が平均値である28.9%未満の投手が「フライ:少」,フライの割合が平均値である28.9%以上の投手が「フライ:多」のグループに所属します。DERの場合は平均値である0.688が基準となります。
分析の結果,フライの多い投手は,チームの守備力が低いとき防御率が高くなることがわかりました。この結果は,フライ型の投手の分析をしたときから見当はついていました。
では,ゴロの場合はどうなるのでしょうか。ゴロが守備力の影響を受けるのであれば,図5-1のように,どこかのグループの成績が飛び抜けて高くなったり低くなったりすることが予想されます。一方,ゴロが守備力の影響を受けないのであれば,4つのグループの成績は同じようなものになるでしょう。
では,分析の結果を図5-2に示します。基本的なグループ分けの方法はフライと同じです。

分析の結果,ゴロの多い投手はチームの守備力が高いとき防御率が低くなることがわかりました。この結果より,ゴロも守備力の影響を受けることがわかります。
以上の結果をまとめると,ゴロもフライも守備力の影響を受けることがわかりましたが,影響の受け方が違うこともわかりました。
フライの場合は,
・守備力の低さが,防御率の悪化につながる
・守備力が高くても,防御率が向上することはない
ゴロの場合は,
・守備力の高さが,防御率の向上につながる
・守備力が低くても,防御率が悪化することはない
ゴロⅠ型とゴロⅡ型の分析結果があのように異なった原因はよくわかりませんが,これらの要因が絡み合っていたことが予想されます。
5.まとめ
以上の結果をまとめると,
・三振型の投手は,守備力の影響を受けにくい
・フライ型の投手は,守備力が低い場合成績が悪くなりやすい
・ゴロ型の投手は,守備力が高い場合成績が良くなりやすい
と,いえるのではないでしょうか。しかし,今回分析に使用したデータは3年分で,個人的には少し足りない気もします。これはデータが蓄積されるのを待つしかありませんが,10年分くらいのデータがあればとは思います。また,DERも守備力の指標としては簡易指標のレベルですので,もう少し他の指標も使ってみたいとは思います。
というわけで,次回はUltimate Zone Rating(UZR)という守備指標を用いて,もう一度守備力の影響を検証してみたいと思います。
投手の成績を示すデータには様々なものがありますが,中でも奪三振・与四死球・被本塁打は守備力の影響を受けない投手自身の実力を示すデータと考えられています。現在,これらのデータを元にいろいろな指標が開発されています。一方,防御率,WHIP,被打率などの指標は,投手の実力に加えて守備力の影響も受けた成績であるといわれています。
しかしながら,投手の成績がチームの守備力の影響を受けていることは,理論的には理解できますが,実際にどの程度の影響を受けているのかはよくわからない所でもあります。あまり気にする必要のないレベルであるのか,それとも大きな影響を受けるのかもわかりません。
また,これまでのコラムで分析してきたように,一言で投手といっても様々なタイプがいることがわかっています。これらのタイプの異なる投手に、守備力が及ぼす影響は同じなのでしょうか?それとも守備力の影響を受けやすいタイプの投手や受けにくいタイプの投手がいるのでしょうか?というのが今回のテーマです。
2.分析データ
2008年から2010年までのNPB12球団で1軍の試合に登板し,年間100名以上の打者と対戦成績のある552名を分析対象者としました。
投手の分類
打者との対戦成績(本塁打・四死球・三振・ゴロ・フライ・ライナー)の割合を元に,6つのグループに分類しました。分類した投手の特徴を表1と図1に示します。


各グループの名称はそれぞれ特徴となるデータからつけています。これらの投手の成績の指標として防御率と被打率を用います。
チームの守備力
チームの守備力については,DER(Defense Efficiency Ratio)を用いました。DERは守備力の簡易指標といったデータです。詳しくは「DERの考え方」というコラムで解説してくださっているのでそちらをご覧になってください。
DERについて1992年から2010年までのNPB12球団,全228チーム分のデータでは,平均値は0.688でした。ここから値が大きくなると守備力は高くなります。値が小さくなるほど守備力は下がります。
チームの守備力が所属する投手に平等に影響したとは到底考えることはできませんが,各投手が登板したときの守備力を示す適当な指標が無いため,チームの年間DERを各投手に当てています。
3.チームの守備力と投手成績の関連
では,チームの守備力と投手の成績の関連を分析していきたいと思います。まずは全投手を対象に,DERと防御率,被打率との相関係数を求めました。続いて,グループごとにDERと防御率,被打率との相関係数を求めました。結果を表2に示します。

データの無いところは,相関関係の認められなかったところです。
全投手を対象に,DERと防御率,被打率との関連を分析したところ,弱い負の相関関係が認められました。図2にデータを示します。

この結果は,守備力が向上することで防御率,被打率ともにやや低下することを示しています。
次に,グループごとにDERと防御率,被打率との関連を分析しました。各グループの分析結果を以下に示します。
平均型
防御率,被打率ともに全体よりも強い守備力との負の相関関係が認められました。この結果は,平均型の投手はチームの守備力の影響を受けやすいことを示しています。
三振Ⅰ型
防御率は守備力との相関関係は認められませんでした。一方,被打率は全体よりも強い守備力との負の相関関係が認められました。この結果は,三振Ⅰ型の投手は被安打に関しては守備力の影響を受けるものの,その後の失点は守備力の影響を受けにくいことがわかりました。
三振Ⅱ型
防御率,被打率ともに守備力との相関関係は認められませんでした。この結果は,三振Ⅱ型の投手の成績は守備力の影響を受けにくいことがわかりました。
フライ型
防御率,被打率ともに全体,平均型よりも強い守備力との負の相関関係が認められました。この結果は,フライ型の投手はチームの守備力の影響を受けやすいことを示しています。
ゴロⅠ型
防御率,被打率ともに全体よりも強い負の相関関係が認められました。データを図3に示します

他のグループと比較して,最も強い相関が認められています。この結果は,ゴロⅠ型の投手はチームの守備力の影響を一番受けやすいことを示しています。
ゴロⅡ型
防御率,被打率ともに守備力との相関関係は認められませんでした。データを図4に示します

この結果より,ゴロⅡ型の投手の成績は守備力の影響を受けにくいことがわかりました。
以上の結果をまとめると,
・三振型の投手は守備力の影響を受けにくい。
・フライ型の投手は守備力の影響を受けやすい。
ということがわかります。しかし,ゴロ型の投手の結果は一貫していません。
ゴロⅠ型は守備力の影響を受けやすく,ゴロⅡ型の投手の成績は守備力の影響を受けにくいという結果になっています。
このゴロⅠ型とゴロⅡ型の投手の違いとしては,フライの多さが挙げられます。ゴロⅠ型の方がフライの割合が多いです。ということは,ゴロⅠ型が守備力の影響を受け易いのはフライのお陰で,ゴロの割合自体は守備力の影響を受けないのでしょうか?
4.ゴロとフライと守備力と
この問題を解決するために,グループごとの分析からは少し離れて,552名の全データを用いて,ゴロとフライと守備力の関係を見ていきたいと思います。
まずは,フライと守備力の関係を分析してみました。結果を図5-1に示します。

各投手のフライの割合とDERの成績から,以下の4つのグループを作りました。
・「フライ:少,守備:低」グループ(191名)
・「フライ:少,守備:高」グループ(78名)
・「フライ:多,守備:低」グループ(206名)
・「フライ:多,守備:高」グループ(77名)
フライの割合が平均値である28.9%未満の投手が「フライ:少」,フライの割合が平均値である28.9%以上の投手が「フライ:多」のグループに所属します。DERの場合は平均値である0.688が基準となります。
分析の結果,フライの多い投手は,チームの守備力が低いとき防御率が高くなることがわかりました。この結果は,フライ型の投手の分析をしたときから見当はついていました。
では,ゴロの場合はどうなるのでしょうか。ゴロが守備力の影響を受けるのであれば,図5-1のように,どこかのグループの成績が飛び抜けて高くなったり低くなったりすることが予想されます。一方,ゴロが守備力の影響を受けないのであれば,4つのグループの成績は同じようなものになるでしょう。
では,分析の結果を図5-2に示します。基本的なグループ分けの方法はフライと同じです。

分析の結果,ゴロの多い投手はチームの守備力が高いとき防御率が低くなることがわかりました。この結果より,ゴロも守備力の影響を受けることがわかります。
以上の結果をまとめると,ゴロもフライも守備力の影響を受けることがわかりましたが,影響の受け方が違うこともわかりました。
フライの場合は,
・守備力の低さが,防御率の悪化につながる
・守備力が高くても,防御率が向上することはない
ゴロの場合は,
・守備力の高さが,防御率の向上につながる
・守備力が低くても,防御率が悪化することはない
ゴロⅠ型とゴロⅡ型の分析結果があのように異なった原因はよくわかりませんが,これらの要因が絡み合っていたことが予想されます。
5.まとめ
以上の結果をまとめると,
・三振型の投手は,守備力の影響を受けにくい
・フライ型の投手は,守備力が低い場合成績が悪くなりやすい
・ゴロ型の投手は,守備力が高い場合成績が良くなりやすい
と,いえるのではないでしょうか。しかし,今回分析に使用したデータは3年分で,個人的には少し足りない気もします。これはデータが蓄積されるのを待つしかありませんが,10年分くらいのデータがあればとは思います。また,DERも守備力の指標としては簡易指標のレベルですので,もう少し他の指標も使ってみたいとは思います。
というわけで,次回はUltimate Zone Rating(UZR)という守備指標を用いて,もう一度守備力の影響を検証してみたいと思います。
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