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被本塁打とパーク・ファクター

Student [ 著者コラム一覧 ]

投稿日時:2011/06/24(金) 10:00rss

1.はじめに
 
 投手の成績の評価基準としては,勝ち星や防御率が代表的ですが,これらの指標は投手の実力以外にも,打線の援護や野手の守備力に左右されてしまうという欠点があります。
 
 こうした投手の伝統的指標の問題を改善するために様々な試みがなされてきたわけですが,中でも,「奪三振」・「与四(死)球」・「被本塁打」は,野手の守備力の影響を受けていない,投手の実力を示す指標と考えられています。
 
 DIPS,FIPなどは,これらの3つの指標を元に作成された指標で,投手の総合力を示すデータとして重宝されています。今回はこれら3つの指標のうち,「被本塁打」に注目していきたいと思います。
 
 打球がスタンドインする過程で野手ができることはほとんどありません。ごく稀に,ホームランになるはずの打球を外野手がキャッチしたり,逆に外野手が飛球をトスしてスタンドインする場合もありますが,これは考えないものとします。したがって,「被本塁打」を守備力の影響を受けないというのは正しいと思うのですが,被本塁打が全て投手の責任であるとは言い切れません。球場の影響があるからです。
 
 球場によって本塁打の出やすい球場と出にくい球場があることを私たちは経験的に知っています。この球場別の得点の入りやすさや,本塁打の出やすさを数値化したものをパーク・ファクターといいます。詳しくはコラム一覧にある「パーク・ファクター」をご覧ください。
 
 では,このパーク・ファクター(以下PF)と投手の被本塁打の間にはどのような関係があるのでしょうか?ということをテーマに今回は分析していきたいと思います。
 
 
2.分析データ
 
 2006年から2010年までに1シーズンに40イニング以上登板した先発投手376名を分析対象としました。この投手達の所属するチームのホームゲームでの成績を分析していきます。PFのデータは,各投手が所属するホームスタジアムのデータを用いています。
 
 
3.投手の被本塁打とPF
 
 まずは,投手の被本塁打とPFの関係を分析します。データを図1-1に示します。
 

 
 相関分析の結果,相関係数は .251で弱い正の相関関係が認められました。この結果は,PFの値が高いほど,被本塁打が多くなることを示しています。
 
 さて,このPFの値は,球場別に得点の入りやすさを数値化したものですが,これを本塁打の出やすさで数値化したものに,パーク・ホームラン・ファクター(以下,PHRF)というものがあります。次に,投手の被本塁打とPHRFの関係を分析します。データを図1-2に示します。
 

 
 分析結果は,PFとそんなに変わりませんが,相関係数が .326と高くなっているので,こちらの方が投手の被本塁打との関係は強いといえます。
 
以上の結果より,投手の被本塁打は登板する球場の影響を受けているといえます。当たり前のことではありますが,投手の実力と考えられている指標で,投手の実力以外の要因が影響しているのであれば,その影響を除いた評価方法が必要になってきます。
 
 
4.投球回数の影響
 
 さて,各球場のホームランの出やすさが,投手の成績に影響することがデータの上でも確認できました。しかし,東京ドームで投げる投手が全て同じ影響を受けるとは考えられません。各投手とも登板している長さが異なるからです。
 
図2に投手の被本塁打と投球回数の関係を示しました。
 

 
 分析の結果は,相関係数が .536で,まずまず高い正の相関関係が認められました。この結果は,投球回数が長くなると被本塁打数が増えることを示しています。
 
 このように,球場とは別に投球回数が長くなることでも被本塁打は増えることがわかりました。ということは,本塁打の出やすい球場で,長く投げることが一番本塁打が多くなるリスクが高くなるとは考えられないでしょうか?そこで,PHRFのデータに投球回数を掛け算したデータ(PHRF×投球回数)と,被本塁打との関係を検討してみました。結果を図3に示します。
 

 
 分析の結果,相関係数が .608で,これまでで一番高い正の相関関係が認められました。この結果より,球場のホームランの出やすさとそこで登板した投球回数の値が高くなるほど,投手の被本塁打が多くなることがわかりました。
 
 
5.まとめ
 
 以上の相関分析の結果を,表1に示しておきます。
 

 
 さて,今回の分析は,ホームランの出やすい球場で長く投げるほど,被本塁打が多くなるという,いちいちデータで示すまでもないことがわかりました。しかし,この結果から以下の様なことがいえます。
 
・投手の被本塁打は,投手の実力だけを反映したデータではない
・球場のホームランの出やすさと投球回数によって,被本塁打数は左右される
・被本塁打のリスクを左右する球場側の要因は,定量的に評価できそう
 
 投手の実力を測る三種の神器のように思われていた「奪三振」」・「与四(死)球」・「被本塁打」の中で,被本塁打はどうも投手の実力だけを反映しているとは言えないようです。
 
 しかし,(PHRF×投球回数)のデータの様に,被本塁打のリスクを左右する球場側の要因を定量的に評価できるようであれば,球場側の要因の影響を除いた被本塁打を推定することは可能です。次回は,この推定値を計算してみたいと思います。あくまで推定値なので,数字遊びにすぎないのですが,しっかり数字遊びをすることが実際に役に立つデータを作るための第一歩になる,と信じてひとつ分析してみたいと思います。

コメント


こんにちは、はじめまして。
被本塁打と球場の関係についての分析、興味深く拝読させていただきました。
この分析の今後更なる展開が楽しみです。

さて、ひとつだけ違和感を感じたのが
-投手の実力を測る三種の神器のように思われていた「奪三振」」・「与四(死)球」・「被本塁打」の中で,
被本塁打はどうも投手の実力だけを反映しているとは言えないようです。
-という結論です。

もちろん、被本塁打のうち球場という要素の占める割合を見るということは
非常に素晴らしい着眼点で、必要な分析だと思いますが

それを投手の実力ではないとか、責任ではないとかとすることには
少々違和感を感じざるを得ません。

球場の要素ということで考えれば
奪三振や与四死球も球場ごとのマウンドの固さや高さに影響されることが推定されます。

要はそういった環境、というべき外部要因まで含めて投手の実力、責任ではないでしょうかということです。

FIPやDIPSといった指標が生まれ、投手の実力や責任が非常に限定的なものになったのは
それ以外の部分においては自分を含む9人のフィールディングという
自分ひとりではなく、守備につく9人の“人”の実力や責任が関与してくることだからであって
それは単純な環境といった外部要因とは異なる要因ですよね。

選手の残した結果から外部要因や運、こういったものを極力切り離していって
どんどんとその選手個人の能力に近づいていく試みは必要不可欠のものですが

それを外部要因の担うべき責任で投手のそれではないとすると
1つ1つの局面でそれこそ大きく状況や局面の異なってくる実際の勝負では
ほとんどが投手の実力や責任ではなくなってきますし

そもそも野球だけに限らず、私たち個々人に本来必要なのは
その置かれた環境や状況にあまり左右されることなく
その能力をうまく発揮し結果につなげることのできるタフさであって

決して純粋な“潜在能力”の高いブルペンエースになることではないですよね。

わかりにくい上に長文となってしまい申し訳ありません。
私の論旨、伝わったでしょうか?
このあたりのstudentさんのご見解をぜひお聞かせ願えれば幸いです。

Posted by ballgame_lover at 2011/06/25 07:08:12 PASS:

ballgame_lover様

 投手の成績に影響を及ぼす外的要因を明らかにすることは重要だが,
 そういった外的要因の中で結果を残すことこそ投手の責任ではないか,という理解でよろしいでしょうか?

 何をもって責任か?といわれると多分に心情的な側面も関わってきますので,正解を導くのは難しいと思いますが,
 個人的にはどんな環境であれ,結果を残すことが投手の仕事だという考えは理解できます。

 これは,次回のコラムでも触れることになりますが,
 1年間先発ローテーションを守れば,ホーム球場で投げる試合数は大体同じくらいになります。
 ということは,球場の効果も投球回数の効果も,毎年大体同じになります。
 そういう時には今回の分析で示したような結果はあまり役に立ちません。

 外的要因の影響を除いた評価が役に立つのは,他チームからFAやトレードなどで投手を獲得する場合だと思います。
 ホーム球場が変われば,新しいチームのホーム球場での登板が増えるからです。
 このような場合には,ブルペンでの潜在能力以上に価値のある情報になりうると思います。

 こうしたデータで投手の真の実力ランキングをつけることにはあまり意味がないかもしれませんが,
 投手がチームを移る際の評価方法としては,意味のある試みではないかと考えています。 

Posted by Student at 2011/06/25 21:53:56 PASS:

Student様

>投手の成績に影響を及ぼす外的要因を明らかにすることは重要だが,
そういった外的要因の中で結果を残すことこそ投手の責任ではないか,という理解でよろしいでしょうか?

はい、そのとおりです。

>こうしたデータで投手の真の実力ランキングをつけることにはあまり意味がないかもしれませんが,
投手がチームを移る際の評価方法としては,意味のある試みではないかと考えています。 

はい、私もこういった分析が非常に価値のある情報になることに異論をはさむものではありません。
ただ、こういった外部要因を除いていって残った、ある意味“潜在能力”に非常に近づいていくものを
「実力」と表記することに違和感を感じただけです。

例えば、逆に打者の立場で言うならば
本塁打の出やすい球場をホームとし本塁打を量産する打者がいて
その球場の本塁打の出やすさが数字として出て、それを除いたものをその選手の「実力」と表記することは
無用の誤解を招かないでしょうか。

こういった情報は一般公開する以上、様々な人に拡散する可能性があり
(こういった情報をきちんと理解しうまく利用できる専門家や球団関係者だけに公開するのならば特に問題ないと思うのですが)

単純に「あの打者が本塁打を量産できるのは球場のおかげで、実力はない」という、
悪意がそこにあるにせよないにせよ、そんな解釈をされ誤用される危険性がありますよね。

こういった指摘は外部の人間にとっては細かく感じられ、目くじらをたてることでもないと思われることでしょうが
生活を賭けて毎日勝負の場で闘っている選手たちにとっては非常に重要なことではないでしょうか。

この議論をこれ以上ここで続けることは差し控えさせていただきますが

素晴らしい情報を発信する素晴らしいコラムであるだけに
もっと丁寧に「実力」や「責任」という言葉を取り扱ってほしいと
そう願うだけです。

長々とたいへん失礼いたしました。

Posted by ballgame_lover at 2011/06/26 00:19:44 PASS:

ballgame_lover 様

 用語の使い方って難しいですね。

 この問題は、選手の成績=実力と考えるか、成績≠実力と考えるかの認識の違いになると思います。
 私の場合は後者ですが、前者の方からしてみれば、今回私が使った「実力」という言葉を「潜在能力」に置き換えたところで、
 誤解が起こる可能性はそんなに変わらないような気がします。

 1つの方法としては、こうした外的要因の影響を除いた評価についての専門用語を作ってしまうことです。
 しかし、専門用語を多用するのはあまり気が進みません。

 私としては、そういった誤解に対してはきちんとコミュニケーションをとっていくしか方法がないように思えますが、
 読んでくださった人が全てレスポンスを返してくれるわけではないのでそれも難しいところですね。

 結局のところ、「どこまでが投手の実力で、どこまでが投手の責任なのか」というテーマについて、
 みんなで新しい共通認識を作らなければいけない時期になってきているのではないでしょうか? 

Posted by Student at 2011/06/26 21:59:20 PASS:
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