西武ライオンズ中村剛也選手のホームランについて~Part2
時光順平 [ 著者コラム一覧 ]
1.はじめに
前回は、中村選手がシーズン55本のホームランを打つ可能性について考えていった。結果は、極めて低い確率となった。今シーズンのホームラン数を予測した結果、45本前後という数値が出た。これは、中村選手がホームラン王を獲得した時の本数とあまり変わらない本数である。今シーズンから統一球を導入し、ホームランが出にくくなったと言われる中、中村選手は統一球の影響を感じさせない。そこで今回は、今シーズンの本塁打における統一球の影響を考えていく。
2.日本球界全体におけるホームランへの影響
まず統一球が日本球界全体で本塁打に対してどのような影響を及ぼしているのかを見ていこう。今回は、HR/外野フライという指標から影響を探っていく。この指標は、外野フライに対するホームランの割合であり、打者の長打力を測るための要素である。
表2.1は昨年と今年のHR/外野フライである。2011年に関しては9月1日までの成績である。表を見ると昨年の方がHR/外野フライは高いことが分かる。では、昨年と今年では差があるのかを統計分野の1つである仮説検定を用いて検証をしていく。
仮説検定とは、ある仮説を立てその仮説が正しいかどうかを検定することである。この分析方法は、審判の偏りの分析の時にも用いた方法である。仮説検定ということでまず仮説を立てる。今回立てた仮説は
「昨年と今年のHR/外野フライの割合は等しい」
である。この仮説が正しいかどうかを検定する。検定を行う前に有意水準というものを定めなければならない。有意水準とは仮説が正しいかどうかを決める判断基準である。この有意水準は5%と設定することが多いので今回は5%と設定した。
次に統計量を求める。統計量とは、仮説が正しいかどうかを判断するために必要な値の事である。この値は、HR/外野フライを求めるために必要なHR数や外野フライ数から求める事が出来る。今回算出された統計量は9.28であった。
最後に棄却域を求める。棄却域とは、先ほど求めた統計量から最初に立てた仮説を採択するか棄却するかを判断するための範囲である。棄却域は、有意水準から求めることが出来る。有意水準5%における棄却域は(-∞,-1.96)U(1.96,∞)である。
統計量と棄却域から仮説が正しいかどうかを判断する。棄却域が(-∞,-1.96)U(1.96,∞)である事に対し統計量は9.28であった。これは、棄却域内に入るので最初に立てた仮説が棄却されることになる。つまり、昨年と今年のHR/外野フライの割合は違うということなになる。統計量の値がプラスであるため、これは昨年の方がHR/外野フライの割合が大きいという事を表している。以降は、このような手順で様々な仮説検定を行っていく。
次に球団別に影響を見ていく。ここで立てる仮説は
「各球団における昨年と今年のHR/外野フライの割合は等しい」
である。表2.2は各球団の昨年と今年のHR/外野フライである

これらのデータから仮説検定を行い各球団における統一球の影響を見ていく。各球団の統計量と検定結果は表2.3である。

表を見ると、統一球の影響を受けているチームと受けていないチームが半分に分かれた。
ここまで結果を見ていくと、球界全体においては統一球の影響を受けているという結果が出たがチーム別にみると影響を受けていないチームもあることがわかった。では、今度は選手に注目して分析を行っていく。
3.選手別による統一球への影響
はじめに選手をタイプ別に分けて検定を行う。ここでの選手を分ける基準はIsoPという指標である。IsoPとは打者の純粋な長打力を表す指標である。計算式は
IsoP=長打率-打率または(二塁打+三塁打*2+本塁打*3)/打数
である。今回は、昨年規定打席に到達した選手、または今年ここまで規定打席に到達している選手75人を分析対象とした。この75人の2010年のIsoPの値を高い順に並べ、それを今回は4つに分ける。各グループの選手とIsoPの値は表3.1である。

表を見ると第1グループがいわゆる長距離打者であることがわかる。では、グループごとに検定を行っていく。ここで立てた仮説は
「各グループにおける昨年と今年のHR/外野フライの割合は等しい」
とした。この仮説を基に行った検定結果は表3.2である。

表を見ると中村選手も属しているグループ1は統計量6.734と値が大きく、仮説を棄却するという結果になった。では最も統一球の影響を受けているとされているグループ1の各選手を検定してみる。今回の検定で立てた仮説は
「グループ1の各選手の昨年と今年のHR/外野フライの割合は等しい」
とした。この仮説を基に行った検定結果は表3.3である。

表3.3を見ると中村選手は棄却されないと判断された。統計量を見ると0.174と小さい値であった。これは昨年と今年とではあまり変わらないということを意味している。つまり、中村選手は本塁打に関して統一球の影響を受けていないと言えるだろう。
4.まとめ
今回は、本塁打に対しての統一球の影響を見ていった。球界全体では統一球の影響がみられチームごとに関しても巨人、阪神といった強力打撃陣をもっているチームは統一球の影響があるという結果になった。
中村選手を見ていくと、本塁打における統一球の影響はないという結果になった。しかし、長距離打者の中でも山崎選手(楽天)や畠山選手(ヤクルト)などの選手も統一球の影響を受けていないことが分かった。


上のグラフは、昨年と今年のIsoPをプロットした図である。縦軸が2011年、横軸が2010年IsoPの値である。この図から中村選手は1人だけ飛びぬけていることが分かる。先ほどHR/外野フライでの検定では影響を受けていないという結果が出た選手も今年のIsoPの値は昨年より下がっている。しかし、中村選手は昨年と今年のIsoPがいずれも0.3以上であり昨年よりも良い値となっている。この要因として考えられる事はバットの芯に上手く当てることが出来る事ではいかと思う。統一球の特徴の1つとしてバットの芯に当たらなければ飛距離が出ないと言われている。長打力を表すIsoPが下がっているということは、飛距離も少なからず落ちていると言えるだろう。しかし、中村選手に関してはIsoPの値が下がるどころか今年の方がよい値となっている。これは、他の選手よりボールをバットの芯に当てる技術が高いということが考えられる。しっかりとボールを芯でとらえることが出来ているためIsoPが下がっていないと考えられる。つまり、中村選手が多くの本塁打を打つ要因の1つとして考えられるのはボールをバットの芯に当てる技術が高いことであるだろう。
前回は、中村選手がシーズン55本のホームランを打つ可能性について考えていった。結果は、極めて低い確率となった。今シーズンのホームラン数を予測した結果、45本前後という数値が出た。これは、中村選手がホームラン王を獲得した時の本数とあまり変わらない本数である。今シーズンから統一球を導入し、ホームランが出にくくなったと言われる中、中村選手は統一球の影響を感じさせない。そこで今回は、今シーズンの本塁打における統一球の影響を考えていく。
2.日本球界全体におけるホームランへの影響
まず統一球が日本球界全体で本塁打に対してどのような影響を及ぼしているのかを見ていこう。今回は、HR/外野フライという指標から影響を探っていく。この指標は、外野フライに対するホームランの割合であり、打者の長打力を測るための要素である。
表2.1は昨年と今年のHR/外野フライである。2011年に関しては9月1日までの成績である。表を見ると昨年の方がHR/外野フライは高いことが分かる。では、昨年と今年では差があるのかを統計分野の1つである仮説検定を用いて検証をしていく。
仮説検定とは、ある仮説を立てその仮説が正しいかどうかを検定することである。この分析方法は、審判の偏りの分析の時にも用いた方法である。仮説検定ということでまず仮説を立てる。今回立てた仮説は
「昨年と今年のHR/外野フライの割合は等しい」
である。この仮説が正しいかどうかを検定する。検定を行う前に有意水準というものを定めなければならない。有意水準とは仮説が正しいかどうかを決める判断基準である。この有意水準は5%と設定することが多いので今回は5%と設定した。
次に統計量を求める。統計量とは、仮説が正しいかどうかを判断するために必要な値の事である。この値は、HR/外野フライを求めるために必要なHR数や外野フライ数から求める事が出来る。今回算出された統計量は9.28であった。
最後に棄却域を求める。棄却域とは、先ほど求めた統計量から最初に立てた仮説を採択するか棄却するかを判断するための範囲である。棄却域は、有意水準から求めることが出来る。有意水準5%における棄却域は(-∞,-1.96)U(1.96,∞)である。
統計量と棄却域から仮説が正しいかどうかを判断する。棄却域が(-∞,-1.96)U(1.96,∞)である事に対し統計量は9.28であった。これは、棄却域内に入るので最初に立てた仮説が棄却されることになる。つまり、昨年と今年のHR/外野フライの割合は違うということなになる。統計量の値がプラスであるため、これは昨年の方がHR/外野フライの割合が大きいという事を表している。以降は、このような手順で様々な仮説検定を行っていく。
次に球団別に影響を見ていく。ここで立てる仮説は
「各球団における昨年と今年のHR/外野フライの割合は等しい」
である。表2.2は各球団の昨年と今年のHR/外野フライである
これらのデータから仮説検定を行い各球団における統一球の影響を見ていく。各球団の統計量と検定結果は表2.3である。

表を見ると、統一球の影響を受けているチームと受けていないチームが半分に分かれた。
ここまで結果を見ていくと、球界全体においては統一球の影響を受けているという結果が出たがチーム別にみると影響を受けていないチームもあることがわかった。では、今度は選手に注目して分析を行っていく。
3.選手別による統一球への影響
はじめに選手をタイプ別に分けて検定を行う。ここでの選手を分ける基準はIsoPという指標である。IsoPとは打者の純粋な長打力を表す指標である。計算式は
IsoP=長打率-打率または(二塁打+三塁打*2+本塁打*3)/打数
である。今回は、昨年規定打席に到達した選手、または今年ここまで規定打席に到達している選手75人を分析対象とした。この75人の2010年のIsoPの値を高い順に並べ、それを今回は4つに分ける。各グループの選手とIsoPの値は表3.1である。
表を見ると第1グループがいわゆる長距離打者であることがわかる。では、グループごとに検定を行っていく。ここで立てた仮説は
「各グループにおける昨年と今年のHR/外野フライの割合は等しい」
とした。この仮説を基に行った検定結果は表3.2である。
表を見ると中村選手も属しているグループ1は統計量6.734と値が大きく、仮説を棄却するという結果になった。では最も統一球の影響を受けているとされているグループ1の各選手を検定してみる。今回の検定で立てた仮説は
「グループ1の各選手の昨年と今年のHR/外野フライの割合は等しい」
とした。この仮説を基に行った検定結果は表3.3である。

表3.3を見ると中村選手は棄却されないと判断された。統計量を見ると0.174と小さい値であった。これは昨年と今年とではあまり変わらないということを意味している。つまり、中村選手は本塁打に関して統一球の影響を受けていないと言えるだろう。
4.まとめ
今回は、本塁打に対しての統一球の影響を見ていった。球界全体では統一球の影響がみられチームごとに関しても巨人、阪神といった強力打撃陣をもっているチームは統一球の影響があるという結果になった。
中村選手を見ていくと、本塁打における統一球の影響はないという結果になった。しかし、長距離打者の中でも山崎選手(楽天)や畠山選手(ヤクルト)などの選手も統一球の影響を受けていないことが分かった。


上のグラフは、昨年と今年のIsoPをプロットした図である。縦軸が2011年、横軸が2010年IsoPの値である。この図から中村選手は1人だけ飛びぬけていることが分かる。先ほどHR/外野フライでの検定では影響を受けていないという結果が出た選手も今年のIsoPの値は昨年より下がっている。しかし、中村選手は昨年と今年のIsoPがいずれも0.3以上であり昨年よりも良い値となっている。この要因として考えられる事はバットの芯に上手く当てることが出来る事ではいかと思う。統一球の特徴の1つとしてバットの芯に当たらなければ飛距離が出ないと言われている。長打力を表すIsoPが下がっているということは、飛距離も少なからず落ちていると言えるだろう。しかし、中村選手に関してはIsoPの値が下がるどころか今年の方がよい値となっている。これは、他の選手よりボールをバットの芯に当てる技術が高いということが考えられる。しっかりとボールを芯でとらえることが出来ているためIsoPが下がっていないと考えられる。つまり、中村選手が多くの本塁打を打つ要因の1つとして考えられるのはボールをバットの芯に当てる技術が高いことであるだろう。
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野球を客観視した独自の論評、分析、および研究を特徴として、野球に関するさまざまな考察をしています。
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