打者の全盛期
岡田友輔 [ 著者コラム一覧 ]
これからピークを迎える選手と峠を越えた選手ではその価値に大きな差が出ます。選手の全盛期を見極めることは編成にとって大きな課題で、特に選手との複数年契約を考える場合は重要になります。現在の球界やメディアの報道を見ると、一般的に打者のピークは30代前後と考えられているようです。今回は過去のNPB選手を参考にしながら、打者の全盛期について考えていこうと思います。
1.年齢別の一軍出場選手数
最初に年齢別の一軍出場選手数を確認していきましょう。今回のデータは1940年以降のデータを参照しています。各年齢で1打席でも打席に立てば出場選手数に加算しています。過去のデータを見ると、高卒の19歳から年齢を経るごとに徐々に一軍での出場選手数が増えていき、大卒選手(23歳)の入団で一気に出場選手数がピークに近づきます。25歳(2573名)で一軍の試合に出場した選手数が最も多くなり、それ以降は出場選手数が減少に転じます。26歳以降は球団も育成から成果を求める割合が高くなり、実績を残さないと新たな人材に取って代わられます。一軍で一打席も出場出来なかった選手の数を考えると、本当に厳しい環境です。打席数で見ると28歳をピークに26~29歳の選手が多くを担当しているのがわかります。
2.打撃成績のピーク
年齢別の出場試合数を大まかに捉えた上で、打者のピークを考えていきましょう。打者のピークを考える上で基本となる指標をwOBAとして、wOBAを基に対象の打者によって合計でどれだけの得点が生み出されたかを評価するwRCと、リーグの平均的な打者と比較してどれくらいの得点を生み出したのかを評価するwRAAで選手のピークを探っていきます。下のグラフは、最も良いwRCやwRAAを記録した年齢の選手をカウントしたものになります。

最初に得点をどれだけ生み出したかを見るwRCのグラフです。対象になるのは最低でも通算1000以上の打席に立った選手になります(その他にも2000、3000、4000打席以上でグラフを作成しました)。外国人選手は除いていますが、1000打席以上の選手で900人のサンプル数があります。
このグラフを見るとwRCは1000~3000打席以上まで26歳でキャリア最高の成績を残した選手が多いことがわかります。4000打席以上では27歳でキャリア最高の数字を残す選手が多いようです。これはこれまで考えられていたピークよりもかなり早いといえます。1000打席の結果が突出しているだけならば、キャリアの早い段階でしか力を発揮できなかった選手が多かったと考えられますが、2000~3000打席とプロである程度の実績がある選手でもかなり早い段階でピークを迎えているのは驚きです。
wRCでは得点の積み重ねのため、攻撃者としてのピークを測れない可能性もあります。平均的な打者と比べたwRAAの方が、打者のピークを測るのに適しているかもしれません。wRAAで同じように年齢別のピーク人数をカウントしていきましょう。

wRAAのグラフで見ても26歳で最も良い打撃成績を残した選手が多いようです。打席別の各グラフで見てもwRCと同じように26歳から28歳にピークが来る選手が多いです。過去選手の傾向を見ていくと、打者のピークは26~28歳と考えた方が実情に近いようです。。
NPBの一般的な(平均的な)選手のキャリアパスについて考えてみましょう。下の表とグラフは前年wRCと比較したwRCの変化量になります(グラフは20歳でwRC40を記録した選手を参考にしています)。例えば20歳でwRC40を記録した打者が、21歳では28.8%wRCが増加することが見込まれます。26~28歳にピークを迎え、それ以降は下落していきます。NPBの過去データを参考にすると、35歳で急激な衰えを見せる選手の割合が高かったようです。


3.全盛期判明後の変化
年齢別にピークを算出する方法は、1982年にビル・ジェームズが出版したBaseball Abstractで検証された方法に倣っています。ビル・ジェームズは過去の選手を参考に、最も良い攻撃のパフォーマンスを記録した年齢を調査して、27歳が最も良い成績を残していた事を発見しました(それ以外の選手でも26、28歳のときに最高のパフォーマンスを見せた選手が多い)。Baseball Prospectusをはじめとした後の研究でもこの内容が正しいことが分かっています。
この研究はそれまで打者の全盛期は28~32歳で、フリー・エージェントになってからピークが来るという考え方を改めさせました。例えばドラフトから6年間は所属球団に拘束され、29歳でフリー・エージェントになった選手が、過去数年の成績をベースに3年契約を結ぶのは過大評価になります(もちろんピークが30歳以降に来る選手もいるので、一概にこの契約が悪いとは言えません)。
日米問わず打撃に求められる資質が、26~28歳でピークを迎えるのは興味深いところです。日本の場合は、球団の拘束期間がMLBよりも長いためこの内容はより重要かもしれません。選手の多くが26~28歳でピークを迎えるのなら、ドラフトでの選手獲得の重要性が高まります。高卒選手でも一軍に定着するのが遅ければ、ドラフトで指名された球団で全盛期を迎える選手が多くなるのは間違いないでしょう。逆に今の制度ならピークを過ぎてからフリー・エージェントの権利を得る選手が多いため、FAでの選手獲得は慎重になるべきかもしれません。晩成タイプの選手や、高いレベルで成績を残し続ける選手は存在しますが、ピークが過ぎている選手を高額で獲得してしまうかもしれません。
最近のMLBでは、選手のピークが比較的早い段階にあることが分かると、若い選手と長期契約を結ぶケースが増えてきています。チームの中核となる若手エリート選手と(比較的割安で)長期契約を結ぶのは、チーム力を安定させ総年俸を抑制できる可能性があります。この様な契約は日本の球団でも参考になるかもしれませんが、選手の見極めを間違えると、長期間低迷する原因ともなります。しかし、若い才能を優先的に確保し保持することは、総年俸に限りがある球団には魅力的な選択肢となるはずです。若手選手を戦略的に登用するチームが近い将来出現するかもしれません。
今回のデータはNPB全体を大まかに捉えたものです。今後はタイプ別にもう少し細かく選手の成長について検討していく予定です。鳥谷・川崎・中島 30代を迎える遊撃手の将来Part1 、 で 触れたように、身体情報や成績の傾向から選手をタイプ別に分類して、将来を予測する足掛かりにしたいところです。
参考文献
Baseball Abstract1982/Bill James
Baseball Between the Numbers/Baseball Prospectus
1.年齢別の一軍出場選手数
最初に年齢別の一軍出場選手数を確認していきましょう。今回のデータは1940年以降のデータを参照しています。各年齢で1打席でも打席に立てば出場選手数に加算しています。過去のデータを見ると、高卒の19歳から年齢を経るごとに徐々に一軍での出場選手数が増えていき、大卒選手(23歳)の入団で一気に出場選手数がピークに近づきます。25歳(2573名)で一軍の試合に出場した選手数が最も多くなり、それ以降は出場選手数が減少に転じます。26歳以降は球団も育成から成果を求める割合が高くなり、実績を残さないと新たな人材に取って代わられます。一軍で一打席も出場出来なかった選手の数を考えると、本当に厳しい環境です。打席数で見ると28歳をピークに26~29歳の選手が多くを担当しているのがわかります。

2.打撃成績のピーク
年齢別の出場試合数を大まかに捉えた上で、打者のピークを考えていきましょう。打者のピークを考える上で基本となる指標をwOBAとして、wOBAを基に対象の打者によって合計でどれだけの得点が生み出されたかを評価するwRCと、リーグの平均的な打者と比較してどれくらいの得点を生み出したのかを評価するwRAAで選手のピークを探っていきます。下のグラフは、最も良いwRCやwRAAを記録した年齢の選手をカウントしたものになります。

最初に得点をどれだけ生み出したかを見るwRCのグラフです。対象になるのは最低でも通算1000以上の打席に立った選手になります(その他にも2000、3000、4000打席以上でグラフを作成しました)。外国人選手は除いていますが、1000打席以上の選手で900人のサンプル数があります。
このグラフを見るとwRCは1000~3000打席以上まで26歳でキャリア最高の成績を残した選手が多いことがわかります。4000打席以上では27歳でキャリア最高の数字を残す選手が多いようです。これはこれまで考えられていたピークよりもかなり早いといえます。1000打席の結果が突出しているだけならば、キャリアの早い段階でしか力を発揮できなかった選手が多かったと考えられますが、2000~3000打席とプロである程度の実績がある選手でもかなり早い段階でピークを迎えているのは驚きです。
wRCでは得点の積み重ねのため、攻撃者としてのピークを測れない可能性もあります。平均的な打者と比べたwRAAの方が、打者のピークを測るのに適しているかもしれません。wRAAで同じように年齢別のピーク人数をカウントしていきましょう。

wRAAのグラフで見ても26歳で最も良い打撃成績を残した選手が多いようです。打席別の各グラフで見てもwRCと同じように26歳から28歳にピークが来る選手が多いです。過去選手の傾向を見ていくと、打者のピークは26~28歳と考えた方が実情に近いようです。。
NPBの一般的な(平均的な)選手のキャリアパスについて考えてみましょう。下の表とグラフは前年wRCと比較したwRCの変化量になります(グラフは20歳でwRC40を記録した選手を参考にしています)。例えば20歳でwRC40を記録した打者が、21歳では28.8%wRCが増加することが見込まれます。26~28歳にピークを迎え、それ以降は下落していきます。NPBの過去データを参考にすると、35歳で急激な衰えを見せる選手の割合が高かったようです。


3.全盛期判明後の変化
年齢別にピークを算出する方法は、1982年にビル・ジェームズが出版したBaseball Abstractで検証された方法に倣っています。ビル・ジェームズは過去の選手を参考に、最も良い攻撃のパフォーマンスを記録した年齢を調査して、27歳が最も良い成績を残していた事を発見しました(それ以外の選手でも26、28歳のときに最高のパフォーマンスを見せた選手が多い)。Baseball Prospectusをはじめとした後の研究でもこの内容が正しいことが分かっています。
この研究はそれまで打者の全盛期は28~32歳で、フリー・エージェントになってからピークが来るという考え方を改めさせました。例えばドラフトから6年間は所属球団に拘束され、29歳でフリー・エージェントになった選手が、過去数年の成績をベースに3年契約を結ぶのは過大評価になります(もちろんピークが30歳以降に来る選手もいるので、一概にこの契約が悪いとは言えません)。
日米問わず打撃に求められる資質が、26~28歳でピークを迎えるのは興味深いところです。日本の場合は、球団の拘束期間がMLBよりも長いためこの内容はより重要かもしれません。選手の多くが26~28歳でピークを迎えるのなら、ドラフトでの選手獲得の重要性が高まります。高卒選手でも一軍に定着するのが遅ければ、ドラフトで指名された球団で全盛期を迎える選手が多くなるのは間違いないでしょう。逆に今の制度ならピークを過ぎてからフリー・エージェントの権利を得る選手が多いため、FAでの選手獲得は慎重になるべきかもしれません。晩成タイプの選手や、高いレベルで成績を残し続ける選手は存在しますが、ピークが過ぎている選手を高額で獲得してしまうかもしれません。
最近のMLBでは、選手のピークが比較的早い段階にあることが分かると、若い選手と長期契約を結ぶケースが増えてきています。チームの中核となる若手エリート選手と(比較的割安で)長期契約を結ぶのは、チーム力を安定させ総年俸を抑制できる可能性があります。この様な契約は日本の球団でも参考になるかもしれませんが、選手の見極めを間違えると、長期間低迷する原因ともなります。しかし、若い才能を優先的に確保し保持することは、総年俸に限りがある球団には魅力的な選択肢となるはずです。若手選手を戦略的に登用するチームが近い将来出現するかもしれません。
今回のデータはNPB全体を大まかに捉えたものです。今後はタイプ別にもう少し細かく選手の成長について検討していく予定です。鳥谷・川崎・中島 30代を迎える遊撃手の将来Part1 、 で 触れたように、身体情報や成績の傾向から選手をタイプ別に分類して、将来を予測する足掛かりにしたいところです。
参考文献
Baseball Abstract1982/Bill James
Baseball Between the Numbers/Baseball Prospectus
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野球を客観視した独自の論評、分析、および研究を特徴として、野球に関するさまざまな考察をしています。
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