日本版Ultimate Zone Rating(UZR)プロトタイプ
岡田友輔 [ 著者コラム一覧 ]
1.守備指標の変化
MLBでは守備データが年を追うごとに進化し、選手の守備能力を評価する方法が進んでいます。MLBの守備に関する取り組みは古く、B.ジェームズはレンジ・ファクター(以後「RF」)と呼ばれる指標を作って守備力の判断をしています(RF=(刺殺数+補殺数)/守備イニング×9)。これは失策を基本とした考え方(守備率)から、実際にアウトを奪った数で守備力を評価する意図があります。RFはこれまでの失策・守備率よりも鮮やかに選手の実像を浮かび上がらせています。特に9イニングでいくつアウトを奪えるかという視点は、選手の守備範囲をある程度評価する事が出来ました。しかし、RFもチームの投手能力(三振を多く奪うチームは必然的にRFが下がる)や運による守備機会の増減など、選手の守備力を厳密に評価する上ではまだまだ改良が必要でした。B.ジェームズは2006年に発売された「The Fielding Bible」でRFの弱点を修正するRRF(Relative Range Factor)を発表し、刺殺・補殺など基礎データしか無い中で守備を評価する方法に修正を加えています。
従来の刺殺・補殺・失策数などで守備を評価する手法を変えたのはアメリカのデータ会社のSTATSです。STATS社はボールが球場のどこに飛んだかを記録し、そのデータから守備範囲を含めた能力を評価するゾーン・レーティング(以後「ZR」)を開発しています。これは各ポジションに受け持つゾーンを割り当て、受け持ちのゾーンに飛んできた打球をどれだけ処理出来たかが数値の基本となっています。
ZR=(受け持ちのゾーンの打球処理数+ゾーン外での処理数)/受け持ちのゾーンの打球総数
データのインプット部分の変更で、守備力を測る手法は大きく変わりました。これはアウトが基準だったRF等に比べ、選手の守備範囲を数値化出来る部分が拡大した事を意味します。ただZRにも、受け持ちゾーンで打球処理に難易度を付けられないなど問題もありました。例えば、三遊間の深い打球と野手正面のゴロでも同じ処理数となってしまう点などです。しかし、ZRも開発から20年がたちRZR(Revised Zone Rating)などZRが進化した指標が生まれています。
さらにMitchel Lichtmanが改良したUltimate Zone Rating(以下「UZR」)は、ゾーンの難易度と安打になった場合の影響を考慮し、さらに内野手の併殺能力、外野手の肩の影響を加え、総合的に選手の守備力を評価しています。現在でもその完成度や信頼性から守備能力を評価する上で欠かせないものとなっています。今回NPBのゾーンデータを使用した指標作りをする上で、UZRが最も守備能力を反映出来るのではないかと考え、これを基準にプロトタイプを作成しています。
2.ゾーンの分割と失点換算
日本版のUZRはフィールドに飛んだ打球を22(C~X)×8(1~8 1が最もホームベースに近く、8はフェンス際)の176ゾーンに切り分けて入力されたデータが基になっています。このゾーン分割はアメリカの有力サイトThe Hardball Timesを参考にしています。この分割図を基にデータスタジアムで映像を見直し素データを入力しています(フィールド分割図参照)。

この分割図を基に打球がどこにどれだけ飛んだのかを集計するのが最初のステップとなります。さらに、ゴロ・フライ・ライナー別に、打球が飛んだエリアのヒットにどのくらいの価値があるのかを求めます。これはエリアに飛んだ打球の安打種類(単打・二塁打・三塁打・まれに本塁打)と得点期待値から求めた安打別の得点価値を掛け合わせる事で算出する事が出来ます。

具体的にどのような作業を行っているのか、左中間に位置するJゾーンを参考にしてみましょう。Jゾーンのフライの打球は表のように距離によって、安打の割合が変わっていきます。フェンス際まで打球が飛べば必然的に長打の割合が増えていきます。
得点価値は、
① 安打の種類ごとの得点期待値と安打数を掛け合わせる。
② ①をエリアへの安打総数で割る。
③ ②にアウトの得点期待値を加えたものになります。
安打の価値を計るのに、なぜアウトを加えなければならないのでしょう。これは安打になると相手の攻撃が継続してしまい、アウトを取り直さなければならないのが原因です。守備側の視点で安打とヒットの違いを見てみましょう。例えば、二死走者なしで三遊間へゴロが打たれました。仮に遊撃手が一塁へ送球して3アウトになった場合はチェンジ、セーフの場合は、二死一塁となり攻撃が継続します。アウトになっていれば、この攻撃は発生しないはずでした。フィールドに飛んだ打球がヒットになってしまうと、(次の打者以降から)アウトを取り直さなければなりません。守備側から見ると、ヒットになってしまう事は、①「出塁の価値」に加えて、②「次打者以降でアウトの再奪取」をしなければなりません。このアウト(アウト一つあたりの得点貢献はLWTSで-0.26)を取る分の0.26を加えた値が、そのエリアに飛んだ安打の得点価値となります。
エリア別安打の得点価値= ([1B]*0.45+[2B]*0.78+[3B]*1.14+[HR]*1.41)/安打数+0.26
これを全エリア・打球別に算出する事でゾーン別にヒットを防いだ場合に失点をどのくらい防げるか(増やすか)を見積もる事が出来ます。次の工程では、守備を評価する上で対象にする打球、打球の処理割合や安打の責任について具体的に考え、記録されたゾーンデータを失点に変換していきましょう。
3.プレーの評価
■内野手・外野手評価の担当範囲
内野手の評価はUZRの算出方法に従いゴロの打球に対してのみ行っています(バントを含む)。内野フライを対象から外したのは、ほとんどの打球がアウトになるためです。ライナーも選手の能力以上に飛んだコースなどの影響が多いため排除しています。反対に外野手の評価はゾーンごとにフライ・ライナーを処理した割合になります。ファウルフライなどの処理については球場の差などを考慮し、本家UZRと同様に排除して考えています。
■打球データの分割定義
ゾーンデータを取得する上で今回は打球データを178のゾーンに分割して記録しています。これはMLBに比べかなり細かい分割です。本来はデータを78ゾーンにまでまとめていますが、NPBで初めてのゾーン評価となるため、今回は178ゾーンそのままで評価を進めてみました。
■具体的な算出方法
各ゾーンで以下の3つの点が評価のベースとなります
・ゾーンに打たれた打球数
・ゾーンに打たれた打球の得点価値
・ポジション別に対象ゾーンでアウトを記録した数
これに加えポジションのエラーも算出しています。ここでのエラーは失策による出塁を伴ったものを意味しています(後ほどエラーのマイナス分を算出して評価します)。
例えば2009年NPB全体でG-3ゾーン(三遊間の打球)の打球データはこのように処理されました。

これに対して2009年巨人三遊間のG-3ゾーンの成績は、総打球数が77、そのうち39をアウトにしています。アウトは遊撃手35、三塁手4と遊撃手の処理割合が高いようです。このゾーンに飛んできたゴロで安打になったのは38となっています。

■G-3ゾーンで巨人の遊撃手の処理を失点化
Zone G-3で巨人の遊撃手はどのように評価されるのでしょうか。まずは、G-3のアウト処理率との比較が基準になります。G-3ゾーンにゴロの打球が飛んできた場合、NPB全体で46.2%(464/(540+464))がアウトになります。このゾーンでアウトを取る事の貢献を、1-0.462(アウトになる割合)=0.538。このゾーンはアウトになる割合がやや少ないゾーンです。それゆえに、アウトを取る事が出来たときの見返りはやや大きくなります。この数値にアウト数を掛ける事で実際にアウトを取った貢献を算出する事が出来ます(18.83)。
もちろんこれだけで正しい評価は出来ません。アウトを取るプラスの評価に加え、このゾーンに飛んできた打球をヒットにしてしまった、マイナス面を合わせないと正確な評価になりません。巨人の遊撃手がこのゾーンに飛んだゴロのヒットにどれくらいの責任があるのでしょうか。この責任の素となるのもアウトの数です。NPB全体を見ると、G-3ゾーンで記録されたアウトの84.5%(392÷464)が遊撃手のものです。この数値から三塁手との責任分担については、遊撃手84.5%、三塁手に15.5%と見積もります。巨人はG-3で38安打を許していますが、そのうち遊撃手が責任を持たなければならないのは、38×0.845=32.1本になります。このゾーンでゴロを安打としてしまう事のマイナス価値は、プラス価値とは反対にG-3でアウトになる割合46.2%をそのまま積算する事で求められます(0.462×32.1=14.83)。アウトに取ったプラス(18.83)とマイナス(14.83)を合わせる事で、巨人の遊撃手はNPBの平均的な遊撃手に比べこのゾーンで、4つ多くアウトを取っている計算になります。
さらにこの余分に取ったアウトを、防いだ失点に変換しなければなりません。ここで先ほど求めた、エリア別に安打になった場合の得点価値が必要になります。G-3のゴロの打球は得点価値が0.71、これにアウト4つ分を掛ける事で、巨人の遊撃手はNPBの平均的な遊撃手に比べこのゾーンで2.84失点を減らしたと評価する事が出来ます。この作業をすべてのゾーン・ポジション・打球種別に算出していきます。本来ならそれぞれの選手に対してもこの作業を行いますが、残念ながらゾーンを守っているときに安打になった数を、選手単位では集計出来ていません。そのため今回は、各チームのポジションまでの評価となります(アウトを取った数と出場イニング数からおおよその推測は可能)。それぞれのゾーンでまとめたものを守備範囲の評価とします。
■エラーの処理
ここまでアウトに組み込まれていましたが、ここで失策の評価について説明します。ここでいうエラーは、失策によって打者が出塁したものと出塁を伴わない失策を別に扱っています。ここまでの工程では、出塁が伴う失策はアウトの一部として処理されています。
リーグの平均的な遊撃手は、4946のアウトを取れたであろう打球(アウト+失策)に対して、115個の失策を許し打者に出塁を許しています。アウトと失策から平均的な遊撃手がエラーを犯す割合は、2.33%程度になります。巨人の遊撃手を例に取ると、408アウトを取る機会に対して12の失策を記録しています。失策割合はリーグの平均的なショートに比べやや高い2.941%です。平均的な遊撃手が同じだけ打球を処理した場合の予想失策数は408×0.0233=9.5となります。予想失策の9.5から実際の失策12を引いた-2.5は平均的な遊撃手に比べ2.5個失策が多かった事を表します。さらに失策は一つあたり0.482の失点が見込まれ、これにアウトの0.26を足した0.742が、失策を一つ犯した際の得点価値となります。巨人の遊撃手は2.5回(多い失策)に0.742を掛け合わせ、-1.9余分に失点を増やしたと考えられます。
失策出塁以外のエラーについても同じように算出します。巨人の遊撃手は失策出塁以外でエラーを7つ犯しています(エラー率は1.72%)。リーグ全体のエラー率は0.69%で、予想失策はおよそ2.8個。リーグの平均的な遊撃手に比べ、失策出塁以外のエラーがおよそ4.2個多くなっています。これを失点に変換しますが、出塁を伴わないエラーの得点価値はMLBの0.3を参考にしています(失策以外のエラーについてLWTSで検証出来ていないため)。失策出塁に比べ失点の影響が小さくなっていますが、これは主に送球などで余分な進塁を許した失策と見込まれるからです。巨人・遊撃手の4.2個に0.3を掛け合わせ、それ以外の失策で1.3ほど失点を増やした計算になります。エラー全体では失策出塁(-1.9)とそれ以外の失策(-1.3)で平均的な遊撃手に比べ3.2失点増やした事になります。この作業をすべてのポジションで行い、守備範囲の部分とは別に失策の失点増減を計算します。
UZRは守備範囲・失策以外の要素でも失点化を行っています。内野手の併殺打を取る割合や外野手の肩の評価については、前回(外野手の肩part1、part2参照)のコラムで紹介した方法(得点期待値を基にしたライナーウェイトシステム)で守備範囲とは別に守備能力の失点化を行っています(算出に関しては割愛)。
4.ポジション別のUZR
これで守備範囲・失策・肩・併殺すべての成績を失点に変換出来ました。すべての項目の値を合算したものがUZRとなります。2009年のポジション別UZRは以下の通りです。

一般的に守備の能力が高いといわれる日本ハムや中日は優秀な成績を残しています。広島のセンターは31.8もの失点を防ぐという驚異的な数字を残しています(あくまで同ポジションとの比較。他のポジションとの比較は、ポジション毎に選手の分布が異なるので参考程度)。ロッテの外野陣の損失は非常に大きく、ドラフトで荻野・清田選手を補強したのはタイムリーな対応だったのかもしれません。広島の赤松選手は、本塁打をキャッチしたスーパープレーでその守備力を認知されゴールデングラブ賞に選出されましたが、(各種)守備データは評価が定着していない昨年も、その飛びぬけた能力を示していました(アウトをどれだけ記録したかを計るレンジのデータでも昨年から傑出した数字を記録)。守備力は一般的に過去の実績や眼に見えるプレーで評価されてきましたが、それは打撃や投球を評価するのに比べさらに困難な作業なのかもしれません。守備能力に関しては、相対的な比較を長い期間かけて行った方が妥当な評価を下せる割合は高まりそうです。
チームの失点に対して投手能力(FIP)と今回算出したUZRで関係を探るとかなりの部分を説明出来そうです。もちろん、1年限りのデータなので各ポジション(選手)の守備能力を本当に表しているのか検証するにはもう少し時間がかかるでしょう。また、ゾーンの最適な割り振り方や走者の有無による守備位置の変更(特に一塁手への影響が大きい)なども、複数年のデータを扱わないと自信を持った評価は出来ません。しかし、NPBでもレンジファクターや処理割合から守備を推察する手法に加えて、ゾーンデータの視点からチーム・選手の守備能力を見る意義は大きいです。
5.UZRがもたらす次のステージ
守備成績を失点に変換することは更なる恩恵を我々にもたらします。すでに攻撃成績の得点化が一般的になっています。攻撃面の評価(当サイトだと打者のwRAA)と合わせ、野手がどのくらいチームに影響(得失点差)を与えたのかを計れます。そうすることで、投手・野手を同じ土俵(チームに対して何勝分の価値があるのか)で評価する下地になります。メジャーリーグでは古くから選手の活躍を勝利数に変換する手法があります(Total WinやWin Sharesなど)。今回のUZRは精度が高いと考えられているWAR(Win Above Replacement-控え選手レベルに比べてチームに何勝分の勝利をもたらしたかを計る指標)を算出する上で欠かせないものです。
さて、ゾーンデータの計測方法がある程度見えてきた中で、今シーズンのUZR評価が気になるところかもしれません。2010年のゾーンデータについては、現在データを取得中です。このゾーンデータを加えて当サイトの著者と「データから見た守備の優れた選手」の特集を1月中に予定しています。これは前述のSTATS社から独立したJohn Dewanが、新たに設立した会社Baseball Info SolutionsのFielding Bible Awardをイメージしたものです。Dewan自身ZRの進化版であるプラスマイナスシステムと呼ばれる評価方法で守備力のさらなる解明を進めています(UZRより打球データをさらに細分化して取得)。NPBではようやくゾーンデータに手がかかった段階ですが、データからの守備力解明と評価を一般化していきたいところです。もちろん今回紹介したゾーンデータもサイトの選考に加えたものになり、特集はより多面的に選手の守備能力を評価したものになるでしょう。昨年の赤松選手の様に、ゴールデングラブ賞に選出されなかった選手でも優秀な守備力を発揮した選手がいたのかもしれません。
MLBでは守備データが年を追うごとに進化し、選手の守備能力を評価する方法が進んでいます。MLBの守備に関する取り組みは古く、B.ジェームズはレンジ・ファクター(以後「RF」)と呼ばれる指標を作って守備力の判断をしています(RF=(刺殺数+補殺数)/守備イニング×9)。これは失策を基本とした考え方(守備率)から、実際にアウトを奪った数で守備力を評価する意図があります。RFはこれまでの失策・守備率よりも鮮やかに選手の実像を浮かび上がらせています。特に9イニングでいくつアウトを奪えるかという視点は、選手の守備範囲をある程度評価する事が出来ました。しかし、RFもチームの投手能力(三振を多く奪うチームは必然的にRFが下がる)や運による守備機会の増減など、選手の守備力を厳密に評価する上ではまだまだ改良が必要でした。B.ジェームズは2006年に発売された「The Fielding Bible」でRFの弱点を修正するRRF(Relative Range Factor)を発表し、刺殺・補殺など基礎データしか無い中で守備を評価する方法に修正を加えています。
従来の刺殺・補殺・失策数などで守備を評価する手法を変えたのはアメリカのデータ会社のSTATSです。STATS社はボールが球場のどこに飛んだかを記録し、そのデータから守備範囲を含めた能力を評価するゾーン・レーティング(以後「ZR」)を開発しています。これは各ポジションに受け持つゾーンを割り当て、受け持ちのゾーンに飛んできた打球をどれだけ処理出来たかが数値の基本となっています。
ZR=(受け持ちのゾーンの打球処理数+ゾーン外での処理数)/受け持ちのゾーンの打球総数
データのインプット部分の変更で、守備力を測る手法は大きく変わりました。これはアウトが基準だったRF等に比べ、選手の守備範囲を数値化出来る部分が拡大した事を意味します。ただZRにも、受け持ちゾーンで打球処理に難易度を付けられないなど問題もありました。例えば、三遊間の深い打球と野手正面のゴロでも同じ処理数となってしまう点などです。しかし、ZRも開発から20年がたちRZR(Revised Zone Rating)などZRが進化した指標が生まれています。
さらにMitchel Lichtmanが改良したUltimate Zone Rating(以下「UZR」)は、ゾーンの難易度と安打になった場合の影響を考慮し、さらに内野手の併殺能力、外野手の肩の影響を加え、総合的に選手の守備力を評価しています。現在でもその完成度や信頼性から守備能力を評価する上で欠かせないものとなっています。今回NPBのゾーンデータを使用した指標作りをする上で、UZRが最も守備能力を反映出来るのではないかと考え、これを基準にプロトタイプを作成しています。
2.ゾーンの分割と失点換算
日本版のUZRはフィールドに飛んだ打球を22(C~X)×8(1~8 1が最もホームベースに近く、8はフェンス際)の176ゾーンに切り分けて入力されたデータが基になっています。このゾーン分割はアメリカの有力サイトThe Hardball Timesを参考にしています。この分割図を基にデータスタジアムで映像を見直し素データを入力しています(フィールド分割図参照)。

この分割図を基に打球がどこにどれだけ飛んだのかを集計するのが最初のステップとなります。さらに、ゴロ・フライ・ライナー別に、打球が飛んだエリアのヒットにどのくらいの価値があるのかを求めます。これはエリアに飛んだ打球の安打種類(単打・二塁打・三塁打・まれに本塁打)と得点期待値から求めた安打別の得点価値を掛け合わせる事で算出する事が出来ます。


具体的にどのような作業を行っているのか、左中間に位置するJゾーンを参考にしてみましょう。Jゾーンのフライの打球は表のように距離によって、安打の割合が変わっていきます。フェンス際まで打球が飛べば必然的に長打の割合が増えていきます。
得点価値は、
① 安打の種類ごとの得点期待値と安打数を掛け合わせる。
② ①をエリアへの安打総数で割る。
③ ②にアウトの得点期待値を加えたものになります。
安打の価値を計るのに、なぜアウトを加えなければならないのでしょう。これは安打になると相手の攻撃が継続してしまい、アウトを取り直さなければならないのが原因です。守備側の視点で安打とヒットの違いを見てみましょう。例えば、二死走者なしで三遊間へゴロが打たれました。仮に遊撃手が一塁へ送球して3アウトになった場合はチェンジ、セーフの場合は、二死一塁となり攻撃が継続します。アウトになっていれば、この攻撃は発生しないはずでした。フィールドに飛んだ打球がヒットになってしまうと、(次の打者以降から)アウトを取り直さなければなりません。守備側から見ると、ヒットになってしまう事は、①「出塁の価値」に加えて、②「次打者以降でアウトの再奪取」をしなければなりません。このアウト(アウト一つあたりの得点貢献はLWTSで-0.26)を取る分の0.26を加えた値が、そのエリアに飛んだ安打の得点価値となります。
エリア別安打の得点価値= ([1B]*0.45+[2B]*0.78+[3B]*1.14+[HR]*1.41)/安打数+0.26
これを全エリア・打球別に算出する事でゾーン別にヒットを防いだ場合に失点をどのくらい防げるか(増やすか)を見積もる事が出来ます。次の工程では、守備を評価する上で対象にする打球、打球の処理割合や安打の責任について具体的に考え、記録されたゾーンデータを失点に変換していきましょう。
3.プレーの評価
■内野手・外野手評価の担当範囲
内野手の評価はUZRの算出方法に従いゴロの打球に対してのみ行っています(バントを含む)。内野フライを対象から外したのは、ほとんどの打球がアウトになるためです。ライナーも選手の能力以上に飛んだコースなどの影響が多いため排除しています。反対に外野手の評価はゾーンごとにフライ・ライナーを処理した割合になります。ファウルフライなどの処理については球場の差などを考慮し、本家UZRと同様に排除して考えています。
■打球データの分割定義
ゾーンデータを取得する上で今回は打球データを178のゾーンに分割して記録しています。これはMLBに比べかなり細かい分割です。本来はデータを78ゾーンにまでまとめていますが、NPBで初めてのゾーン評価となるため、今回は178ゾーンそのままで評価を進めてみました。
■具体的な算出方法
各ゾーンで以下の3つの点が評価のベースとなります
・ゾーンに打たれた打球数
・ゾーンに打たれた打球の得点価値
・ポジション別に対象ゾーンでアウトを記録した数
これに加えポジションのエラーも算出しています。ここでのエラーは失策による出塁を伴ったものを意味しています(後ほどエラーのマイナス分を算出して評価します)。
例えば2009年NPB全体でG-3ゾーン(三遊間の打球)の打球データはこのように処理されました。

これに対して2009年巨人三遊間のG-3ゾーンの成績は、総打球数が77、そのうち39をアウトにしています。アウトは遊撃手35、三塁手4と遊撃手の処理割合が高いようです。このゾーンに飛んできたゴロで安打になったのは38となっています。

■G-3ゾーンで巨人の遊撃手の処理を失点化
Zone G-3で巨人の遊撃手はどのように評価されるのでしょうか。まずは、G-3のアウト処理率との比較が基準になります。G-3ゾーンにゴロの打球が飛んできた場合、NPB全体で46.2%(464/(540+464))がアウトになります。このゾーンでアウトを取る事の貢献を、1-0.462(アウトになる割合)=0.538。このゾーンはアウトになる割合がやや少ないゾーンです。それゆえに、アウトを取る事が出来たときの見返りはやや大きくなります。この数値にアウト数を掛ける事で実際にアウトを取った貢献を算出する事が出来ます(18.83)。
もちろんこれだけで正しい評価は出来ません。アウトを取るプラスの評価に加え、このゾーンに飛んできた打球をヒットにしてしまった、マイナス面を合わせないと正確な評価になりません。巨人の遊撃手がこのゾーンに飛んだゴロのヒットにどれくらいの責任があるのでしょうか。この責任の素となるのもアウトの数です。NPB全体を見ると、G-3ゾーンで記録されたアウトの84.5%(392÷464)が遊撃手のものです。この数値から三塁手との責任分担については、遊撃手84.5%、三塁手に15.5%と見積もります。巨人はG-3で38安打を許していますが、そのうち遊撃手が責任を持たなければならないのは、38×0.845=32.1本になります。このゾーンでゴロを安打としてしまう事のマイナス価値は、プラス価値とは反対にG-3でアウトになる割合46.2%をそのまま積算する事で求められます(0.462×32.1=14.83)。アウトに取ったプラス(18.83)とマイナス(14.83)を合わせる事で、巨人の遊撃手はNPBの平均的な遊撃手に比べこのゾーンで、4つ多くアウトを取っている計算になります。
さらにこの余分に取ったアウトを、防いだ失点に変換しなければなりません。ここで先ほど求めた、エリア別に安打になった場合の得点価値が必要になります。G-3のゴロの打球は得点価値が0.71、これにアウト4つ分を掛ける事で、巨人の遊撃手はNPBの平均的な遊撃手に比べこのゾーンで2.84失点を減らしたと評価する事が出来ます。この作業をすべてのゾーン・ポジション・打球種別に算出していきます。本来ならそれぞれの選手に対してもこの作業を行いますが、残念ながらゾーンを守っているときに安打になった数を、選手単位では集計出来ていません。そのため今回は、各チームのポジションまでの評価となります(アウトを取った数と出場イニング数からおおよその推測は可能)。それぞれのゾーンでまとめたものを守備範囲の評価とします。
■エラーの処理
ここまでアウトに組み込まれていましたが、ここで失策の評価について説明します。ここでいうエラーは、失策によって打者が出塁したものと出塁を伴わない失策を別に扱っています。ここまでの工程では、出塁が伴う失策はアウトの一部として処理されています。
リーグの平均的な遊撃手は、4946のアウトを取れたであろう打球(アウト+失策)に対して、115個の失策を許し打者に出塁を許しています。アウトと失策から平均的な遊撃手がエラーを犯す割合は、2.33%程度になります。巨人の遊撃手を例に取ると、408アウトを取る機会に対して12の失策を記録しています。失策割合はリーグの平均的なショートに比べやや高い2.941%です。平均的な遊撃手が同じだけ打球を処理した場合の予想失策数は408×0.0233=9.5となります。予想失策の9.5から実際の失策12を引いた-2.5は平均的な遊撃手に比べ2.5個失策が多かった事を表します。さらに失策は一つあたり0.482の失点が見込まれ、これにアウトの0.26を足した0.742が、失策を一つ犯した際の得点価値となります。巨人の遊撃手は2.5回(多い失策)に0.742を掛け合わせ、-1.9余分に失点を増やしたと考えられます。

失策出塁以外のエラーについても同じように算出します。巨人の遊撃手は失策出塁以外でエラーを7つ犯しています(エラー率は1.72%)。リーグ全体のエラー率は0.69%で、予想失策はおよそ2.8個。リーグの平均的な遊撃手に比べ、失策出塁以外のエラーがおよそ4.2個多くなっています。これを失点に変換しますが、出塁を伴わないエラーの得点価値はMLBの0.3を参考にしています(失策以外のエラーについてLWTSで検証出来ていないため)。失策出塁に比べ失点の影響が小さくなっていますが、これは主に送球などで余分な進塁を許した失策と見込まれるからです。巨人・遊撃手の4.2個に0.3を掛け合わせ、それ以外の失策で1.3ほど失点を増やした計算になります。エラー全体では失策出塁(-1.9)とそれ以外の失策(-1.3)で平均的な遊撃手に比べ3.2失点増やした事になります。この作業をすべてのポジションで行い、守備範囲の部分とは別に失策の失点増減を計算します。
UZRは守備範囲・失策以外の要素でも失点化を行っています。内野手の併殺打を取る割合や外野手の肩の評価については、前回(外野手の肩part1、part2参照)のコラムで紹介した方法(得点期待値を基にしたライナーウェイトシステム)で守備範囲とは別に守備能力の失点化を行っています(算出に関しては割愛)。
4.ポジション別のUZR
これで守備範囲・失策・肩・併殺すべての成績を失点に変換出来ました。すべての項目の値を合算したものがUZRとなります。2009年のポジション別UZRは以下の通りです。

一般的に守備の能力が高いといわれる日本ハムや中日は優秀な成績を残しています。広島のセンターは31.8もの失点を防ぐという驚異的な数字を残しています(あくまで同ポジションとの比較。他のポジションとの比較は、ポジション毎に選手の分布が異なるので参考程度)。ロッテの外野陣の損失は非常に大きく、ドラフトで荻野・清田選手を補強したのはタイムリーな対応だったのかもしれません。広島の赤松選手は、本塁打をキャッチしたスーパープレーでその守備力を認知されゴールデングラブ賞に選出されましたが、(各種)守備データは評価が定着していない昨年も、その飛びぬけた能力を示していました(アウトをどれだけ記録したかを計るレンジのデータでも昨年から傑出した数字を記録)。守備力は一般的に過去の実績や眼に見えるプレーで評価されてきましたが、それは打撃や投球を評価するのに比べさらに困難な作業なのかもしれません。守備能力に関しては、相対的な比較を長い期間かけて行った方が妥当な評価を下せる割合は高まりそうです。
チームの失点に対して投手能力(FIP)と今回算出したUZRで関係を探るとかなりの部分を説明出来そうです。もちろん、1年限りのデータなので各ポジション(選手)の守備能力を本当に表しているのか検証するにはもう少し時間がかかるでしょう。また、ゾーンの最適な割り振り方や走者の有無による守備位置の変更(特に一塁手への影響が大きい)なども、複数年のデータを扱わないと自信を持った評価は出来ません。しかし、NPBでもレンジファクターや処理割合から守備を推察する手法に加えて、ゾーンデータの視点からチーム・選手の守備能力を見る意義は大きいです。
5.UZRがもたらす次のステージ
守備成績を失点に変換することは更なる恩恵を我々にもたらします。すでに攻撃成績の得点化が一般的になっています。攻撃面の評価(当サイトだと打者のwRAA)と合わせ、野手がどのくらいチームに影響(得失点差)を与えたのかを計れます。そうすることで、投手・野手を同じ土俵(チームに対して何勝分の価値があるのか)で評価する下地になります。メジャーリーグでは古くから選手の活躍を勝利数に変換する手法があります(Total WinやWin Sharesなど)。今回のUZRは精度が高いと考えられているWAR(Win Above Replacement-控え選手レベルに比べてチームに何勝分の勝利をもたらしたかを計る指標)を算出する上で欠かせないものです。
さて、ゾーンデータの計測方法がある程度見えてきた中で、今シーズンのUZR評価が気になるところかもしれません。2010年のゾーンデータについては、現在データを取得中です。このゾーンデータを加えて当サイトの著者と「データから見た守備の優れた選手」の特集を1月中に予定しています。これは前述のSTATS社から独立したJohn Dewanが、新たに設立した会社Baseball Info SolutionsのFielding Bible Awardをイメージしたものです。Dewan自身ZRの進化版であるプラスマイナスシステムと呼ばれる評価方法で守備力のさらなる解明を進めています(UZRより打球データをさらに細分化して取得)。NPBではようやくゾーンデータに手がかかった段階ですが、データからの守備力解明と評価を一般化していきたいところです。もちろん今回紹介したゾーンデータもサイトの選考に加えたものになり、特集はより多面的に選手の守備能力を評価したものになるでしょう。昨年の赤松選手の様に、ゴールデングラブ賞に選出されなかった選手でも優秀な守備力を発揮した選手がいたのかもしれません。
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Baseball Lab「Archives」とは?
Baseball Lab「Archives」では2010~2011年にかけてラボ内で行われた「セイバーメトリクス」のコンテンツを公開しております。
野球を客観視した独自の論評、分析、および研究を特徴として、野球に関するさまざまな考察をしています。
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