投手の球種価値(Pitch Type Value)~Part1 ダルビッシュ投手
岡田友輔 [ 著者コラム一覧 ]
1.球種の特性
投手の重要な要素としてコントロールやスピードに加えて持ち球は野球を語る上で欠かせないでしょう。野球中継でも配球を考える上で投手の持っている球種が拠り所になっています。岩隈投手のフォーク、藤川投手のストレート、岸投手のカーブなど投手をイメージする上で球種は切り離せない要素です。今のところ球種については、キレといった漠然とした評価や一般的な被打率といった所で評価されるのがほとんどですが、失点に対する影響という視点で今回は見ていきましょう。
失点を考える上でそれぞれの球種の特性を理解しなければいけません。下の表は、セ・パ両リーグの先発・救援別の球種別の成績になります。

恐らくイメージしていた球種毎の評価とは違っているかもしれません。今回は球種を安打や凡打として評価する方法とは違ったアプローチをとっています。球種を評価する上で最初にバットにボールが当たるケースと当たらないケースで大きく2つのカテゴリーに分かれます。これは投手の能力を測るFIPと同じ考えが基になっています。球種を評価する上で、バットにボールを当てさせずにアウトを取る三振や出塁を許す四死球の割合は球種(投手)の能力を計る一つの基準になります。特にバットにボールを触れさせずにアウトを取れることは失点のリスクを小さくします。次にバットにボールが当たった場合のケースを検討していきます。
バットにボールが当たったケースでは、投手が主体的に影響力を行使できる範囲は、打たれる打球の性質(ゴロやフライ)までと考えています。これはバットにボールが当たった打球に対してヒットかアウトになるかは運の要素などの影響が強いためです。打球の分類はライナー・ゴロ・内野フライ・外野フライ(本塁打を含む)に分けています。
2.パ・リーグの平均的な先発投手の球種特性

それでは平均的なパ・リーグの先発投手の球種の特性を見ていきましょう。最初に目につくのはフォークボールの三振を奪う力です。追い込んでから決め球として投じられるケースが多いフォークですが、バットにボールを当てさせないという意味でやはり威力のあるボールと言えそうです。三振を奪う力ではスライダーがフォークに次ぐ力を持っているようです。
次に四球の項目ではストレートが最も多い割合となっています。比較的コントロールをつけやすい球種と考えられますが、意外な結果と言えるのかもしれません。死球ではシュートやカッターなど内角を攻める球種が他に比べ多くの死球を出しています。これはイメージ通りと言えそうです。
バットにボールが当たったケースも同じように見ていきましょう。最も注目したいのはゴロの割合です。ゴロを打たせる球種としてはシュートやシンカーなどが代表と思われるかもしれません。しかし、先発投手(セ・リーグも含め)ではフォークが最もゴロを打たせる割合が高いようです。次に注目したいのが内野フライです。内野フライはほぼすべてがアウトになり失点の抑止として高い効果を発揮します。ここではスライダーやストレートが内野フライを多く打たせるのが分かります。ゴロや内野フライが増えれば、必然的にリスクの高いライナーや外野フライの割合が少なくなります。フォークやスライダーといった球種は空振りを奪える点がメリットで、さらにフォークはリスクの少ない打球を打たせています。スライダーやフォークを持ち球にする投手が多いのは理にかなっていそうです。
3.球種の評価
平均的なパ・リーグの先発投手の球種の威力はある程度理解できました。それでは、実際に日本ハムのダルビッシュ投手を例にして各持ち球の評価を行っていきましょう。
上の表はダルビッシュ投手の球種別の結果になります。ダルビッシュ投手の持ち球はストレート・カーブ・シュート・スライダー・フォーク・チェンジアップ・カットボールの7種類で非常に多彩です。投球割合は、ストレート・スライダー・シュート(2シーム含む)の割合が多く、そのほかの球種は200球前後になっています。各球種による打席数と打撃内容が評価の基になります(BIPはBall In Playの略でバットにボールが当たった総数になります)。
ダルビッシュ投手の各球種の打席数とリーグの平均的な投手の球種別結果を掛け合わせることで平均的な先発投手が投げた場合の結果を導くことが出来ます。その値とダルビッシュ投手の実際の成績を比べることで球種の力をある程度測ることが出来ます。
■ダルビッシュ投手のスライダーの評価

ダルビッシュ投手のスライダーは216の結果球となっています。同じ216打席が平均的な先発投手のスライダーだったのなら結果はどう違っていたのでしょう。最初にバットにボールが当たらないケースを考えていきます。パ・リーグの平均的な先発投手のスライダーは打席のうち19.9%の三振を奪う割合です。結果球216打席に19.9%を掛けることで、平均的な投手のスライダーなら43の三振を記録するだろうと見込めます。同じように四球も216に6.7%を掛けることで14.5、死球も1.9と求めていくことが出来ます。
次にバットにボールが当たったケースを考えていきましょう。ダルビッシュ投手のスライダーがバットに当てられてインプレーになったのは124打席ありました(表中のBIP)。パ・リーグの平均的な先発投手のスライダーが同じようにバットに当てられた場合を計算していきます。最初にライナーはBIPに対して6.7%発生しています。124打席に6.7%を掛けることで平均的な先発投手ならおよそ8.3のライナーを打たれているはずです。ゴロは一番割合が多く45.7%が発生します。これにも124を掛けて56.7のゴロを打たれる計算になります。内野フライ・外野フライもそれぞれ算出し、平均的先発投手のスライダーを投げた場合の結果を導くことができました。この値とダルビッシュ投手の実際の結果を比べることで、ダルビッシュ投手のスライダーの力を見ることが出来ます(表最終段)。
最も優れている点は平均的な先発投手のスライダーに比べ42もの三振を上乗せしていることです。さらに四死球も少なくバットにボールを当てさせない項目の成績は文句なしです。加えてバットにボールを当てられたケースでもライナー・外野フライといった投手にリスクのある打球が非常に少なく(ゴロの数が増える)、打球の管理面でもリスクを最小限に抑えているのが分かります。
ダルビッシュ投手の他の球種はどうなっているのでしょう。同じようにリーグの平均的な先発投手と比べた値が上の表です。ダルビッシュ投手はどの球種でも基本的に三振の数が平均よりも上回り、リスクの大きい打球に対する管理も出来ているのが分かります。その中でもスライダーの数字は飛びぬけたものがあります。
4.球種力の失点化
平均的な投手と比較した差分を見ることで、そのボールの力を見ることが出来ました。これをさらに発展させ、失点をどのくらい抑止したのかという視点で見ていきましょう。これは以前に道作さんがRuns Value増減から見た2010年NPBディフェンスで行った手法と全く変わりません。

投手の球種それぞれの結果に対して、見込まれる得点価値を掛け合わせていきます。今回、外野フライだけは本塁打を含めた外野フライの期待値で球種の力を算出しています。これは用語集のxFIPの部分でも説明がありますが、投球回が多ければ投手毎に外野フライあたりの本塁打の割合はほぼ一定の範囲に収束するとされる立場をとっているからです。

上の表で平均的な先発投手に比べどれだけ失点を防いだか(増やしたか)を見ることが出来ます。 Runs Valueの項目が平均的な先発投手に比べダルビッシュ投手が抑えた失点になります(プラスが失点を抑えた数)。Runs Valueの隣にあるRuns Value per 100は、その球種100球あたりの失点抑止を表します。Runs Valueだけでは、多くの投球数を投げれば数字が積み上がる可能性がありますが、100球あたりの貢献とすることで球種そのものの失点抑止効果を見られるのが利点です。
ダルビッシュ投手のスライダーを見ると平均的な先発投手のスライダーに比べ、17.8失点を防いでいることになります。さらに他の球種でもフォークやカットボールに力があるのが伺えます。すべての球種がプラス評価で、どの球種もリーグの平均的な先発投手を上回る質で、欠点がみつからない投手と言えそうです。
明日はダルビッシュ投手以外の先発投手の持ち球を検証していきましょう。
投手の重要な要素としてコントロールやスピードに加えて持ち球は野球を語る上で欠かせないでしょう。野球中継でも配球を考える上で投手の持っている球種が拠り所になっています。岩隈投手のフォーク、藤川投手のストレート、岸投手のカーブなど投手をイメージする上で球種は切り離せない要素です。今のところ球種については、キレといった漠然とした評価や一般的な被打率といった所で評価されるのがほとんどですが、失点に対する影響という視点で今回は見ていきましょう。
失点を考える上でそれぞれの球種の特性を理解しなければいけません。下の表は、セ・パ両リーグの先発・救援別の球種別の成績になります。


恐らくイメージしていた球種毎の評価とは違っているかもしれません。今回は球種を安打や凡打として評価する方法とは違ったアプローチをとっています。球種を評価する上で最初にバットにボールが当たるケースと当たらないケースで大きく2つのカテゴリーに分かれます。これは投手の能力を測るFIPと同じ考えが基になっています。球種を評価する上で、バットにボールを当てさせずにアウトを取る三振や出塁を許す四死球の割合は球種(投手)の能力を計る一つの基準になります。特にバットにボールを触れさせずにアウトを取れることは失点のリスクを小さくします。次にバットにボールが当たった場合のケースを検討していきます。
バットにボールが当たったケースでは、投手が主体的に影響力を行使できる範囲は、打たれる打球の性質(ゴロやフライ)までと考えています。これはバットにボールが当たった打球に対してヒットかアウトになるかは運の要素などの影響が強いためです。打球の分類はライナー・ゴロ・内野フライ・外野フライ(本塁打を含む)に分けています。
2.パ・リーグの平均的な先発投手の球種特性

それでは平均的なパ・リーグの先発投手の球種の特性を見ていきましょう。最初に目につくのはフォークボールの三振を奪う力です。追い込んでから決め球として投じられるケースが多いフォークですが、バットにボールを当てさせないという意味でやはり威力のあるボールと言えそうです。三振を奪う力ではスライダーがフォークに次ぐ力を持っているようです。
次に四球の項目ではストレートが最も多い割合となっています。比較的コントロールをつけやすい球種と考えられますが、意外な結果と言えるのかもしれません。死球ではシュートやカッターなど内角を攻める球種が他に比べ多くの死球を出しています。これはイメージ通りと言えそうです。
バットにボールが当たったケースも同じように見ていきましょう。最も注目したいのはゴロの割合です。ゴロを打たせる球種としてはシュートやシンカーなどが代表と思われるかもしれません。しかし、先発投手(セ・リーグも含め)ではフォークが最もゴロを打たせる割合が高いようです。次に注目したいのが内野フライです。内野フライはほぼすべてがアウトになり失点の抑止として高い効果を発揮します。ここではスライダーやストレートが内野フライを多く打たせるのが分かります。ゴロや内野フライが増えれば、必然的にリスクの高いライナーや外野フライの割合が少なくなります。フォークやスライダーといった球種は空振りを奪える点がメリットで、さらにフォークはリスクの少ない打球を打たせています。スライダーやフォークを持ち球にする投手が多いのは理にかなっていそうです。
3.球種の評価
平均的なパ・リーグの先発投手の球種の威力はある程度理解できました。それでは、実際に日本ハムのダルビッシュ投手を例にして各持ち球の評価を行っていきましょう。
上の表はダルビッシュ投手の球種別の結果になります。ダルビッシュ投手の持ち球はストレート・カーブ・シュート・スライダー・フォーク・チェンジアップ・カットボールの7種類で非常に多彩です。投球割合は、ストレート・スライダー・シュート(2シーム含む)の割合が多く、そのほかの球種は200球前後になっています。各球種による打席数と打撃内容が評価の基になります(BIPはBall In Playの略でバットにボールが当たった総数になります)。
ダルビッシュ投手の各球種の打席数とリーグの平均的な投手の球種別結果を掛け合わせることで平均的な先発投手が投げた場合の結果を導くことが出来ます。その値とダルビッシュ投手の実際の成績を比べることで球種の力をある程度測ることが出来ます。
■ダルビッシュ投手のスライダーの評価
ダルビッシュ投手のスライダーは216の結果球となっています。同じ216打席が平均的な先発投手のスライダーだったのなら結果はどう違っていたのでしょう。最初にバットにボールが当たらないケースを考えていきます。パ・リーグの平均的な先発投手のスライダーは打席のうち19.9%の三振を奪う割合です。結果球216打席に19.9%を掛けることで、平均的な投手のスライダーなら43の三振を記録するだろうと見込めます。同じように四球も216に6.7%を掛けることで14.5、死球も1.9と求めていくことが出来ます。
次にバットにボールが当たったケースを考えていきましょう。ダルビッシュ投手のスライダーがバットに当てられてインプレーになったのは124打席ありました(表中のBIP)。パ・リーグの平均的な先発投手のスライダーが同じようにバットに当てられた場合を計算していきます。最初にライナーはBIPに対して6.7%発生しています。124打席に6.7%を掛けることで平均的な先発投手ならおよそ8.3のライナーを打たれているはずです。ゴロは一番割合が多く45.7%が発生します。これにも124を掛けて56.7のゴロを打たれる計算になります。内野フライ・外野フライもそれぞれ算出し、平均的先発投手のスライダーを投げた場合の結果を導くことができました。この値とダルビッシュ投手の実際の結果を比べることで、ダルビッシュ投手のスライダーの力を見ることが出来ます(表最終段)。
最も優れている点は平均的な先発投手のスライダーに比べ42もの三振を上乗せしていることです。さらに四死球も少なくバットにボールを当てさせない項目の成績は文句なしです。加えてバットにボールを当てられたケースでもライナー・外野フライといった投手にリスクのある打球が非常に少なく(ゴロの数が増える)、打球の管理面でもリスクを最小限に抑えているのが分かります。
ダルビッシュ投手の他の球種はどうなっているのでしょう。同じようにリーグの平均的な先発投手と比べた値が上の表です。ダルビッシュ投手はどの球種でも基本的に三振の数が平均よりも上回り、リスクの大きい打球に対する管理も出来ているのが分かります。その中でもスライダーの数字は飛びぬけたものがあります。
4.球種力の失点化
平均的な投手と比較した差分を見ることで、そのボールの力を見ることが出来ました。これをさらに発展させ、失点をどのくらい抑止したのかという視点で見ていきましょう。これは以前に道作さんがRuns Value増減から見た2010年NPBディフェンスで行った手法と全く変わりません。

投手の球種それぞれの結果に対して、見込まれる得点価値を掛け合わせていきます。今回、外野フライだけは本塁打を含めた外野フライの期待値で球種の力を算出しています。これは用語集のxFIPの部分でも説明がありますが、投球回が多ければ投手毎に外野フライあたりの本塁打の割合はほぼ一定の範囲に収束するとされる立場をとっているからです。
上の表で平均的な先発投手に比べどれだけ失点を防いだか(増やしたか)を見ることが出来ます。 Runs Valueの項目が平均的な先発投手に比べダルビッシュ投手が抑えた失点になります(プラスが失点を抑えた数)。Runs Valueの隣にあるRuns Value per 100は、その球種100球あたりの失点抑止を表します。Runs Valueだけでは、多くの投球数を投げれば数字が積み上がる可能性がありますが、100球あたりの貢献とすることで球種そのものの失点抑止効果を見られるのが利点です。
ダルビッシュ投手のスライダーを見ると平均的な先発投手のスライダーに比べ、17.8失点を防いでいることになります。さらに他の球種でもフォークやカットボールに力があるのが伺えます。すべての球種がプラス評価で、どの球種もリーグの平均的な先発投手を上回る質で、欠点がみつからない投手と言えそうです。
明日はダルビッシュ投手以外の先発投手の持ち球を検証していきましょう。
Baseball Lab「Archives」とは?
Baseball Lab「Archives」では2010~2011年にかけてラボ内で行われた「セイバーメトリクス」のコンテンツを公開しております。
野球を客観視した独自の論評、分析、および研究を特徴として、野球に関するさまざまな考察をしています。
野球を客観視した独自の論評、分析、および研究を特徴として、野球に関するさまざまな考察をしています。
月別著者コラム
最新コラムコメント
|
|
|
|
|
コメント