ポジションの現状と編成の対応~ソフトバンク・ホークス
岡田友輔 [ 著者コラム一覧 ]
2月1日にプロ野球各球団が一斉にキャンプインし、いよいよ2011年のプロ野球開幕が近づいてきました。前回に引き続きこのオフに各球団の編成がどのような課題を持ち戦力補強を行ったのか確認していきましょう。今回は精力的に動いたソフトバンク編成の対応についてです。
1.補強前の状況
ポジションの現状を評価する手法は前回と変わりません。編成が戦力補強を考えるには、現状のチームの強みや弱みを把握していなければなりません。ソフトバンクの現状については攻守両面をデータの部分からある程度把握する事が可能です。具体的にポジション毎にリーグの平均的な値と比較する事で、リーグ内での力関係を見る事が出来ます。同じポジションの打撃成績に比べどれだけ得点を上乗せしたのかをwOBAを基に算出(ポジション毎のwRAA)。同じようにポジションの平均に比べどれだけ失点を防いだかUZRを参照します。この2つを使う事で、ポジションの攻撃・守備を得失点への貢献という形で見る事が出来ます。
■ポジション攻撃の評価(三塁の場合)
チーム三塁手のwRAA=(三塁手(チーム)のwOBA - リーグ三塁手のwOBA) / 1.15 * 三塁手(チーム)の総打席数
下の表はソフトバンクのポジション別の得失点貢献になります。赤いグラフが守備、青いグラフは攻撃の結果を表しています。グラフが上に伸びるほど貢献が高く、攻撃なら同ポジションの平均的な選手より得点を上乗せした扱いとなり、守備では同ポジションの平均的な選手に比べ失点を抑えたという評価になります。赤・青を合わせた値がそのポジションがもたらしたチームへの得失点への貢献になります。項目の「SP」は先発投手、「RP」は救援投手全体を表します。「他」は代打などでポジションが決められていない打席をまとめたものです。さらにその下の表は、月別の勝敗と最もそのポジションで出場した選手が記載してあります(先発は登板数、打者は打席数をベース)。この推移を見る事で、主力選手の離脱や戦力の入れ替えなどを時系列で見る事が出来ます。


ポジションの得失点評価を見てまず目につくのが投手の貢献です。エースの杉内投手の成績が伸びなかったにも関わらず(xFIPなど能力部分で問題は見受けられない)、先発全体でプラス評価とするなど優秀です。さらに、馬原・摂津・ファルケンボーグに代表されるブルペンの貢献は、非常に大きなものになっています。主力の移籍もなく、今オフの主眼が野手に向いたとしてもおかしくないでしょう。
ポジション別に野手の貢献を見ていくと、昨季はライト(多村選手)の活躍が目立ちます。一方で内野陣(捕手・二塁手・三塁手)の攻撃力、外野の守備面(主にレフトの守備力)で課題があるのが分かります。昨季のソフトバンクはポジションプレーヤーをある程度固定出来ていました。しかし、小久保・松中など長年攻撃の中心としてチームを支えてきた選手が、ポジションに求められる攻撃力を割り込んでしまっています。ソフトバンクは投手力である程度の得失点差を生みだすことが見込め、野手陣は投手の得失点差を食いつぶすことが無いようDHを含め9つのポジションの運用を考えなければなりません。
2.ソフトバンク編成の選択
上の2つの表はソフトバンクの編成が今オフに実施した主な選手の入れ替えをまとめたものになります。目玉はFAで獲得した細川捕手(前西武)、内川選手(前横浜)とオリックスから移籍してきたカブレラ内野手になるでしょう。

3人の補強がもたらす利得を少し細かく見ていきましょう。一番上の表はパ・リーグのポジション別の打撃成績です。2つめの表はFAで入団する選手とポジションが被る主な選手の成績。最後が移籍選手の打撃成績です。まず細川選手ですが、山崎・田上両捕手に比べ攻撃面での上積みはそれ程期待できないと思われます(リーグの平均的な捕手よりやや攻撃力は小さいようです)。細川捕手には高い盗塁阻止など守備面でのマイナスをプラスにする働きが求められるかと思います。守備の優れた細川捕手ですが、このポジションで得失点を大幅なプラスにする可能性はそれ程大きくなさそうです。
続いて内川選手についてです。内川選手は一塁・外野(ライト・レフト)・指名打者の選択肢があります。リーグを跨いでの移籍なので単純に成績を比較するのは適当ではありませんが、オーティズ選手と同じようにレフトだと利得が稼げるかもしれません(パ・リーグはややレフトの打撃成績が低調)。しかし、一塁だとリーグの平均的なポジション選手の打撃に対して大きな利得を生みだすのは難しそうです。ライトは多村選手がいるので除きますが、内川選手が守れるファーストやレフトは攻撃的なポジションで、求められる打撃のレベルは基本的に上がります。 打撃が売りの内川選手ですが、守れるポジションと攻撃力を加味すると、レフトでなら大きなプラスをもたらせるかもしれません(ソフトバンクは野手のマイナスを減らす事が大事で、他のポジションを守ったとしても意味のない補強ではありません)。
内川選手獲得を最大限生かすには、守備面がポイントになりそうです。守備面でのマイナスが大きいオーティズ選手のレフトと入れ替え、LF内川、DHオーティズが最も得失点を生み出せる運用になりそうです(恐らくレフトの守備マイナス20点が大幅に減る事が予想されます)。また、内川選手は昨年全試合出場、最近3年間でも130試合以上出場しており、健康面と運用面(複数のポジションこなす)でのプラスは意外と大きいかもしれません。
最後にカブレラ選手になります。FA二人の補強はどちらかというとマイナスを小さくする視点の補強でしたが、カブレラ選手に関しては攻撃で大きな利得を望める選手です。wOBAが.427とパ・リーグで最も高く、ポジションの打撃力(1B/DH)を加味しても攻撃力の大幅な改善につながりそうです。カブレラ選手のポジションは、内川選手の運用にも影響があり(オーティズ選手の守備でのマイナス部分の削減)、健康ならば一塁で多くの試合に出場してもらう事が最も利得の幅を大きくしそうです。健康や性格を考慮し上手くカブレラ選手をマネジメントすることは、監督・コーチの大事な仕事になりそうです。
私自身、FA2人の補強だけではソフトバンクのチーム力向上に与える影響は限定的だとおもっていました。しかし、カブレラ選手の加入はFA2人を獲得したメリットを増幅させるものになると考えています。
3.今季にかけるソフトバンク編成
前回も話しましたが、先発・リリーフを合わせると11のカテゴリーがあり、それらを全てプラスにするのはコスト・人材を考えると困難です。過去のデータからリーグ優勝を狙うなら得失点がプラス100程度、Aクラス入りを狙うなら得失点をプラス20~30作れればかなりの割合で目的を達成する事が出来そうです。この得失点をどこで稼ぐのかを戦略的に考える事が編成の役割になります。
ソフトバンク編成は、精力的な補強でマイナスを計上しているポジション(C細川捕手、LF内川選手)の手当てと、攻撃力の問題を改善できる補強(カブレラ選手)を行いました。今後はシーズン中の緊急補強などがありますが、2011年シーズンを戦うにあたり編成が行った準備は、優勝を目指す(得失点差を100程度積み上げる)算段を付けたと言ってよいかもしれません。
一方で、今オフのデメリットは、契約した選手たちの年齢と契約期間です。30代の選手に対してかなり長い期間の契約を交わしており、主力の高齢化と衰えの問題はついてまわります。ただ、2011年オフになると主力選手がFA権を獲得しチーム力をどの程度維持できるかわかりません。来年のオフを見越して今季はどうしても勝ちたいという意思が今回の補強から感じられます。
1.補強前の状況
ポジションの現状を評価する手法は前回と変わりません。編成が戦力補強を考えるには、現状のチームの強みや弱みを把握していなければなりません。ソフトバンクの現状については攻守両面をデータの部分からある程度把握する事が可能です。具体的にポジション毎にリーグの平均的な値と比較する事で、リーグ内での力関係を見る事が出来ます。同じポジションの打撃成績に比べどれだけ得点を上乗せしたのかをwOBAを基に算出(ポジション毎のwRAA)。同じようにポジションの平均に比べどれだけ失点を防いだかUZRを参照します。この2つを使う事で、ポジションの攻撃・守備を得失点への貢献という形で見る事が出来ます。
■ポジション攻撃の評価(三塁の場合)
チーム三塁手のwRAA=(三塁手(チーム)のwOBA - リーグ三塁手のwOBA) / 1.15 * 三塁手(チーム)の総打席数
下の表はソフトバンクのポジション別の得失点貢献になります。赤いグラフが守備、青いグラフは攻撃の結果を表しています。グラフが上に伸びるほど貢献が高く、攻撃なら同ポジションの平均的な選手より得点を上乗せした扱いとなり、守備では同ポジションの平均的な選手に比べ失点を抑えたという評価になります。赤・青を合わせた値がそのポジションがもたらしたチームへの得失点への貢献になります。項目の「SP」は先発投手、「RP」は救援投手全体を表します。「他」は代打などでポジションが決められていない打席をまとめたものです。さらにその下の表は、月別の勝敗と最もそのポジションで出場した選手が記載してあります(先発は登板数、打者は打席数をベース)。この推移を見る事で、主力選手の離脱や戦力の入れ替えなどを時系列で見る事が出来ます。
ポジションの得失点評価を見てまず目につくのが投手の貢献です。エースの杉内投手の成績が伸びなかったにも関わらず(xFIPなど能力部分で問題は見受けられない)、先発全体でプラス評価とするなど優秀です。さらに、馬原・摂津・ファルケンボーグに代表されるブルペンの貢献は、非常に大きなものになっています。主力の移籍もなく、今オフの主眼が野手に向いたとしてもおかしくないでしょう。
ポジション別に野手の貢献を見ていくと、昨季はライト(多村選手)の活躍が目立ちます。一方で内野陣(捕手・二塁手・三塁手)の攻撃力、外野の守備面(主にレフトの守備力)で課題があるのが分かります。昨季のソフトバンクはポジションプレーヤーをある程度固定出来ていました。しかし、小久保・松中など長年攻撃の中心としてチームを支えてきた選手が、ポジションに求められる攻撃力を割り込んでしまっています。ソフトバンクは投手力である程度の得失点差を生みだすことが見込め、野手陣は投手の得失点差を食いつぶすことが無いようDHを含め9つのポジションの運用を考えなければなりません。
2.ソフトバンク編成の選択
上の2つの表はソフトバンクの編成が今オフに実施した主な選手の入れ替えをまとめたものになります。目玉はFAで獲得した細川捕手(前西武)、内川選手(前横浜)とオリックスから移籍してきたカブレラ内野手になるでしょう。
打者名 | POS | 打席 | 打率 | 出塁率 | 長打率 | OPS | ISO | wOBA |
小久保 裕紀 | 1B | 469 | .279 | .335 | .436 | .771 | .157 | .348 |
オーティズ | LF | 457 | .270 | .329 | .489 | .818 | .219 | .357 |
松中 信彦 | OF/DH | 267 | .235 | .311 | .403 | .714 | .168 | .318 |
田上 秀則 | C | 255 | .203 | .238 | .341 | .578 | .138 | .244 |
山崎 勝己 | C | 236 | .210 | .256 | .283 | .539 | .073 | .239 |
打者名 | POS | 打席 | 打率 | 出塁率 | 長打率 | OPS | ISO | wOBA |
内川 聖一 | 1B/OF | 637 | .315 | .371 | .438 | .809 | .123 | .366 |
細川 亨 | C | 341 | .191 | .255 | .321 | .576 | .130 | .243 |
カブレラ | 1B/DH | 481 | .331 | .428 | .569 | .997 | .238 | .427 |
3人の補強がもたらす利得を少し細かく見ていきましょう。一番上の表はパ・リーグのポジション別の打撃成績です。2つめの表はFAで入団する選手とポジションが被る主な選手の成績。最後が移籍選手の打撃成績です。まず細川選手ですが、山崎・田上両捕手に比べ攻撃面での上積みはそれ程期待できないと思われます(リーグの平均的な捕手よりやや攻撃力は小さいようです)。細川捕手には高い盗塁阻止など守備面でのマイナスをプラスにする働きが求められるかと思います。守備の優れた細川捕手ですが、このポジションで得失点を大幅なプラスにする可能性はそれ程大きくなさそうです。
続いて内川選手についてです。内川選手は一塁・外野(ライト・レフト)・指名打者の選択肢があります。リーグを跨いでの移籍なので単純に成績を比較するのは適当ではありませんが、オーティズ選手と同じようにレフトだと利得が稼げるかもしれません(パ・リーグはややレフトの打撃成績が低調)。しかし、一塁だとリーグの平均的なポジション選手の打撃に対して大きな利得を生みだすのは難しそうです。ライトは多村選手がいるので除きますが、内川選手が守れるファーストやレフトは攻撃的なポジションで、求められる打撃のレベルは基本的に上がります。 打撃が売りの内川選手ですが、守れるポジションと攻撃力を加味すると、レフトでなら大きなプラスをもたらせるかもしれません(ソフトバンクは野手のマイナスを減らす事が大事で、他のポジションを守ったとしても意味のない補強ではありません)。
内川選手獲得を最大限生かすには、守備面がポイントになりそうです。守備面でのマイナスが大きいオーティズ選手のレフトと入れ替え、LF内川、DHオーティズが最も得失点を生み出せる運用になりそうです(恐らくレフトの守備マイナス20点が大幅に減る事が予想されます)。また、内川選手は昨年全試合出場、最近3年間でも130試合以上出場しており、健康面と運用面(複数のポジションこなす)でのプラスは意外と大きいかもしれません。
最後にカブレラ選手になります。FA二人の補強はどちらかというとマイナスを小さくする視点の補強でしたが、カブレラ選手に関しては攻撃で大きな利得を望める選手です。wOBAが.427とパ・リーグで最も高く、ポジションの打撃力(1B/DH)を加味しても攻撃力の大幅な改善につながりそうです。カブレラ選手のポジションは、内川選手の運用にも影響があり(オーティズ選手の守備でのマイナス部分の削減)、健康ならば一塁で多くの試合に出場してもらう事が最も利得の幅を大きくしそうです。健康や性格を考慮し上手くカブレラ選手をマネジメントすることは、監督・コーチの大事な仕事になりそうです。
私自身、FA2人の補強だけではソフトバンクのチーム力向上に与える影響は限定的だとおもっていました。しかし、カブレラ選手の加入はFA2人を獲得したメリットを増幅させるものになると考えています。
3.今季にかけるソフトバンク編成
前回も話しましたが、先発・リリーフを合わせると11のカテゴリーがあり、それらを全てプラスにするのはコスト・人材を考えると困難です。過去のデータからリーグ優勝を狙うなら得失点がプラス100程度、Aクラス入りを狙うなら得失点をプラス20~30作れればかなりの割合で目的を達成する事が出来そうです。この得失点をどこで稼ぐのかを戦略的に考える事が編成の役割になります。
ソフトバンク編成は、精力的な補強でマイナスを計上しているポジション(C細川捕手、LF内川選手)の手当てと、攻撃力の問題を改善できる補強(カブレラ選手)を行いました。今後はシーズン中の緊急補強などがありますが、2011年シーズンを戦うにあたり編成が行った準備は、優勝を目指す(得失点差を100程度積み上げる)算段を付けたと言ってよいかもしれません。
一方で、今オフのデメリットは、契約した選手たちの年齢と契約期間です。30代の選手に対してかなり長い期間の契約を交わしており、主力の高齢化と衰えの問題はついてまわります。ただ、2011年オフになると主力選手がFA権を獲得しチーム力をどの程度維持できるかわかりません。来年のオフを見越して今季はどうしても勝ちたいという意思が今回の補強から感じられます。
Baseball Lab「Archives」とは?
Baseball Lab「Archives」では2010~2011年にかけてラボ内で行われた「セイバーメトリクス」のコンテンツを公開しております。
野球を客観視した独自の論評、分析、および研究を特徴として、野球に関するさまざまな考察をしています。
野球を客観視した独自の論評、分析、および研究を特徴として、野球に関するさまざまな考察をしています。
月別著者コラム
最新コラムコメント
|
|
|
|
|
コメント