得点期待値から見る盗塁
岡田友輔 [ 著者コラム一覧 ]
1.盗塁の状況別価値
これまで打撃・守備成績などを得点や失点の形に変換して、チームや選手を評価してきました。しかし、走塁の面についてはそれ程細かい分析は無かったので、今回は走塁の代名詞ともいえる盗塁について評価をしていきましょう。

基本になるのは各著者のコラムでも使用されてきた得点期待値になります。走者が盗塁をする前の状況と盗塁を成功(または失敗)させた後の得点期待値の差分を見ることで、盗塁が得点に及ぼした影響を測ることが出来ます。今回はパ・リーグで盗塁王を分け合った西武・片岡選手とソフトバンク・本多選手の成績を参考にして、盗塁の得点化をおこなっていきましょう。
手順は以下の通りになります。
① アウトカウント・走者状況から盗塁(盗塁死)前の得点期待値を求める
② 盗塁(盗塁死)後のアウトカウント・走者状況から得点期待値を求める
③ ②から①を引くことでその状況での盗塁(盗塁死)の得点価値を求める
④ 求められた状況毎の盗塁(盗塁死)価値に各選手の実際の盗塁(盗塁死)数を掛け合わせる
⑤ ④で求められた状況毎の盗塁(盗塁死)の価値を足す
盗塁前にアウトカウントや走者状況が変動するケースがあります(走者が盗塁を企図し打者が三振した場合、さらに塁が埋まっていない状況で四球を選んだ場合)。この場合、三振ならアウトカウントを一つ増やした状況での得点期待値を参考にしています(四球なら打者走者が一塁に進塁したと想定します)。例えば無死走者一塁・カウント2-0で一塁走者がスタートし打者が空振りした場合、手順①の盗塁前の状況は一死一塁の得点期待値を参考にします。
上記の①~⑤の工程を経ることでチーム・個人の盗塁と盗塁死による得点への影響を見ることが出来ます。
2.西武・片岡の盗塁による得点価値
それでは片岡選手の盗塁(盗塁死)による得点への貢献を見ていきましょう。下の表は各状況別での盗塁企図による得点の変動を表しています。

盗塁は走者一塁で企図されるのがほとんどですが、同じ一塁からの盗塁でもアウトカウントが少ない方が得られる利得は大きくなります。もちろんリターンが大きい分リスクも大きくなり、アウトカウントが少ない状況でアウトになると損益も大きいです。片岡選手は無死一塁での盗塁成功率が88.5%と非常に高く、無死一塁からの盗塁で4得点以上の利得を稼いでいます(23盗塁5.16から3盗塁-0.98を引く)。一死ではやや成功率が落ちますが、それでもマイナスを計上しなかったのはさすがです。走者一塁からの盗塁で6得点近くの利得を獲得しています。さらに、リスクの高い三塁への盗塁や、一三塁からの盗塁などで利得を伸ばし、昨年は59盗塁で11.14の利得、12盗塁死で-3.79の損益を記録し、合計で7.35の得点を上乗せしていると考えられます。打撃成績に換算するとそれ程大きくないと感じるかもしれませんが、Batting Runsの本塁打の係数1.411を参考にすると、およそ5.2本塁打に相当します。一般的に盗塁は得点への貢献がそれほど大きくないだけに、片岡選手はかなり優秀な収支になっています。
3.ソフトバンク・本多の盗塁による得点価値
片岡選手と盗塁王のタイトルを分け合った本多選手も同じように見ていきましょう。

本多選手は一塁からの盗塁成功率が思ったほど伸びていません。もっとも利得の大きい無死一塁からの盗塁成功率は68.8%と片岡選手に20%近く差をつけられています。一死・二死でも片岡選手に僅かに成功率で及ばず、走者一塁から盗塁での利得は2.69と片岡選手の半分程度にしかなりません。その他の状況でも大きな上積みはなくなかなか片岡選手との差は詰まりませんでした。無死一塁からの盗塁成功率が、得点への影響で差が付く結果になっています。昨年は59盗塁で9.48の利得、21盗塁死で-6.85の損益を記録し、合計で2.99の得点を上乗せしていると考えられます。Batting Runsの本塁打の係数1.411を参考にすると、およそ2.1本塁打に相当します。
4.20盗塁以上の俊足選手
ここまで西武・片岡選手やソフトバンク・本多選手の盗塁による得点への貢献を具体的に算出して比較をしました。西武の片岡選手は59盗塁12盗塁死の成績で、得点期待値から7.35得点の貢献がありました。対する本多選手は59盗塁21盗塁死で2.99の得点貢献になっています。得点期待値から判断すると、片岡選手の方が有効な盗塁の数が多かったと推察することができます。
ただ、本多選手の2.99得点が片岡選手との比較だけで劣っていると判断するのは早計です。本日は2004年以降に20盗塁以上を記録した選手と比較していきましょう。20盗塁以上を基準としたのは、本多選手の2.99を上回る可能性がある選手を効率よくピックアップ出来ると考えたためです。

上の表を見ると昨年の片岡選手はここ数年で見ても盗塁の貢献としては非常に高いものであることが分かります。トップ10圏内に赤星選手と並んで3度ランクインするなど、現在最も盗塁で利得を稼ぐ選手といってもよいでしょう。
本多選手も2009年に5得点ほどの利得を稼いでいます。20盗塁以上の選手を対象にしてもかなり高い得点への貢献ということが分かります。しかし、2004年からの7年で5得点以上の得点貢献が出来たのは僅か5回といくら俊足選手といえども、盗塁による得点への貢献には限界があるようです。
5.球団の盗塁収支
俊足選手でも限られた得点貢献にとどまるなかで、チーム全体で考えると盗塁をどの様に考えるべきでしょうか。今度はチームの盗塁・盗塁死を得点期待値で評価してみましょう(走塁の戦術評価といえるかもしれません)。

盗塁で改善できる得点は多くても10得点、マイナスを計上する球団も見られます。機動力の代表でもある盗塁の貢献は打撃や投手力にくらべそれほど大きくはありません。しかし、状況毎の選択の結果をまとめると、1つの盗塁は0.16程度の得点上昇をもたらし、盗塁死はおおよそ-0.31得点を減らしています。盗塁と盗塁死の収支はやや盗塁の効能を上手く引き出している球団が多く、プロの球団が状況(打者が打てないなどの状況など)を理解しながら盗塁という作戦を用いている結果と言えるのかもしれません。
過去を振り返ると、2リーグ制以降に200盗塁以上を記録した球団は18チームあります。50年代に13チーム、70年代に3チーム、80、90年代にそれぞれ1チームと盗塁を爆発的に記録する球団は少なくなっています(1997年の西武が最後)。長打力の限られた時代やバッターに不利な環境下で、盗塁は得点を挙げる上で見逃せない手段であったのは間違いないところです。近年は打者の能力アップや守備側の盗塁阻止技術の向上などもあり、次第に盗塁という作戦自体に旨味が無くなってきたのではないかと思います。しかし、盗塁の選択は各球団でまずまず問題のないレベルで選択されているのかもしれません(試合の状況によっては、得点期待値よりも得点確率を優先して作戦を選択するいケースはままあります)。
新任監督や下位からの反抗を目指す球団が決まって機動力の向上を旗印にリーグに戦いを挑むのはそれほど理にかなった戦略とは言えません。攻撃力の向上ならば、やはり出塁・長打の能力が根本にあるとみるのが良いでしょう。得点算出の基礎能力に加えて盗塁(走塁)という補助を得るのが順番としては自然な流れかと思います。
これまで打撃・守備成績などを得点や失点の形に変換して、チームや選手を評価してきました。しかし、走塁の面についてはそれ程細かい分析は無かったので、今回は走塁の代名詞ともいえる盗塁について評価をしていきましょう。

基本になるのは各著者のコラムでも使用されてきた得点期待値になります。走者が盗塁をする前の状況と盗塁を成功(または失敗)させた後の得点期待値の差分を見ることで、盗塁が得点に及ぼした影響を測ることが出来ます。今回はパ・リーグで盗塁王を分け合った西武・片岡選手とソフトバンク・本多選手の成績を参考にして、盗塁の得点化をおこなっていきましょう。
手順は以下の通りになります。
① アウトカウント・走者状況から盗塁(盗塁死)前の得点期待値を求める
② 盗塁(盗塁死)後のアウトカウント・走者状況から得点期待値を求める
③ ②から①を引くことでその状況での盗塁(盗塁死)の得点価値を求める
④ 求められた状況毎の盗塁(盗塁死)価値に各選手の実際の盗塁(盗塁死)数を掛け合わせる
⑤ ④で求められた状況毎の盗塁(盗塁死)の価値を足す
盗塁前にアウトカウントや走者状況が変動するケースがあります(走者が盗塁を企図し打者が三振した場合、さらに塁が埋まっていない状況で四球を選んだ場合)。この場合、三振ならアウトカウントを一つ増やした状況での得点期待値を参考にしています(四球なら打者走者が一塁に進塁したと想定します)。例えば無死走者一塁・カウント2-0で一塁走者がスタートし打者が空振りした場合、手順①の盗塁前の状況は一死一塁の得点期待値を参考にします。
上記の①~⑤の工程を経ることでチーム・個人の盗塁と盗塁死による得点への影響を見ることが出来ます。
2.西武・片岡の盗塁による得点価値
それでは片岡選手の盗塁(盗塁死)による得点への貢献を見ていきましょう。下の表は各状況別での盗塁企図による得点の変動を表しています。

盗塁は走者一塁で企図されるのがほとんどですが、同じ一塁からの盗塁でもアウトカウントが少ない方が得られる利得は大きくなります。もちろんリターンが大きい分リスクも大きくなり、アウトカウントが少ない状況でアウトになると損益も大きいです。片岡選手は無死一塁での盗塁成功率が88.5%と非常に高く、無死一塁からの盗塁で4得点以上の利得を稼いでいます(23盗塁5.16から3盗塁-0.98を引く)。一死ではやや成功率が落ちますが、それでもマイナスを計上しなかったのはさすがです。走者一塁からの盗塁で6得点近くの利得を獲得しています。さらに、リスクの高い三塁への盗塁や、一三塁からの盗塁などで利得を伸ばし、昨年は59盗塁で11.14の利得、12盗塁死で-3.79の損益を記録し、合計で7.35の得点を上乗せしていると考えられます。打撃成績に換算するとそれ程大きくないと感じるかもしれませんが、Batting Runsの本塁打の係数1.411を参考にすると、およそ5.2本塁打に相当します。一般的に盗塁は得点への貢献がそれほど大きくないだけに、片岡選手はかなり優秀な収支になっています。
3.ソフトバンク・本多の盗塁による得点価値
片岡選手と盗塁王のタイトルを分け合った本多選手も同じように見ていきましょう。

本多選手は一塁からの盗塁成功率が思ったほど伸びていません。もっとも利得の大きい無死一塁からの盗塁成功率は68.8%と片岡選手に20%近く差をつけられています。一死・二死でも片岡選手に僅かに成功率で及ばず、走者一塁から盗塁での利得は2.69と片岡選手の半分程度にしかなりません。その他の状況でも大きな上積みはなくなかなか片岡選手との差は詰まりませんでした。無死一塁からの盗塁成功率が、得点への影響で差が付く結果になっています。昨年は59盗塁で9.48の利得、21盗塁死で-6.85の損益を記録し、合計で2.99の得点を上乗せしていると考えられます。Batting Runsの本塁打の係数1.411を参考にすると、およそ2.1本塁打に相当します。
4.20盗塁以上の俊足選手
ここまで西武・片岡選手やソフトバンク・本多選手の盗塁による得点への貢献を具体的に算出して比較をしました。西武の片岡選手は59盗塁12盗塁死の成績で、得点期待値から7.35得点の貢献がありました。対する本多選手は59盗塁21盗塁死で2.99の得点貢献になっています。得点期待値から判断すると、片岡選手の方が有効な盗塁の数が多かったと推察することができます。
ただ、本多選手の2.99得点が片岡選手との比較だけで劣っていると判断するのは早計です。本日は2004年以降に20盗塁以上を記録した選手と比較していきましょう。20盗塁以上を基準としたのは、本多選手の2.99を上回る可能性がある選手を効率よくピックアップ出来ると考えたためです。

上の表を見ると昨年の片岡選手はここ数年で見ても盗塁の貢献としては非常に高いものであることが分かります。トップ10圏内に赤星選手と並んで3度ランクインするなど、現在最も盗塁で利得を稼ぐ選手といってもよいでしょう。
本多選手も2009年に5得点ほどの利得を稼いでいます。20盗塁以上の選手を対象にしてもかなり高い得点への貢献ということが分かります。しかし、2004年からの7年で5得点以上の得点貢献が出来たのは僅か5回といくら俊足選手といえども、盗塁による得点への貢献には限界があるようです。
5.球団の盗塁収支
俊足選手でも限られた得点貢献にとどまるなかで、チーム全体で考えると盗塁をどの様に考えるべきでしょうか。今度はチームの盗塁・盗塁死を得点期待値で評価してみましょう(走塁の戦術評価といえるかもしれません)。
盗塁で改善できる得点は多くても10得点、マイナスを計上する球団も見られます。機動力の代表でもある盗塁の貢献は打撃や投手力にくらべそれほど大きくはありません。しかし、状況毎の選択の結果をまとめると、1つの盗塁は0.16程度の得点上昇をもたらし、盗塁死はおおよそ-0.31得点を減らしています。盗塁と盗塁死の収支はやや盗塁の効能を上手く引き出している球団が多く、プロの球団が状況(打者が打てないなどの状況など)を理解しながら盗塁という作戦を用いている結果と言えるのかもしれません。
過去を振り返ると、2リーグ制以降に200盗塁以上を記録した球団は18チームあります。50年代に13チーム、70年代に3チーム、80、90年代にそれぞれ1チームと盗塁を爆発的に記録する球団は少なくなっています(1997年の西武が最後)。長打力の限られた時代やバッターに不利な環境下で、盗塁は得点を挙げる上で見逃せない手段であったのは間違いないところです。近年は打者の能力アップや守備側の盗塁阻止技術の向上などもあり、次第に盗塁という作戦自体に旨味が無くなってきたのではないかと思います。しかし、盗塁の選択は各球団でまずまず問題のないレベルで選択されているのかもしれません(試合の状況によっては、得点期待値よりも得点確率を優先して作戦を選択するいケースはままあります)。
新任監督や下位からの反抗を目指す球団が決まって機動力の向上を旗印にリーグに戦いを挑むのはそれほど理にかなった戦略とは言えません。攻撃力の向上ならば、やはり出塁・長打の能力が根本にあるとみるのが良いでしょう。得点算出の基礎能力に加えて盗塁(走塁)という補助を得るのが順番としては自然な流れかと思います。
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