横浜・三浦大輔投手について考えたこと
岡田友輔 [ 著者コラム一覧 ]
2010年に新任の尾花監督に開幕投手に指名されながら、オープン戦で14失点を喫するなど調子が上がらず開幕戦の登板を断念。シーズンに入ってからも調子が上がらず、主力投手となった1995年以降、最も苦しいシーズンとなりました。横浜投手陣を長年支えた三浦投手も、昨年の12月に37歳になっています。昨年の不調が年齢によるものか、公にされない故障の影響なのか気になるところです。三浦投手の正確な状況を知ることはできませんが、三浦投手に何が起こったのかデータから推測していきましょう。
1.三浦投手の年度別成績



横浜のエースとして君臨した三浦投手は、「年度別 三浦投手の主要投手成績グラフ」で見ると、まずまず高い奪三振能力(左軸)に加え、与四球率(右軸)が年を追うごとに低下(四球は年齢が経過すると低下する傾向があります)し、97~02年に総合力が全盛期を迎えています。その後も先発の柱として申し分ない成績を残していましたが、ここ3年間の被本塁打率の高止まり、さらに昨年の与四球率の悪化は気になるところです。

与四球率の上昇で少し気になるデータがあります。表2は2008~2010年のスイング率とコンタクト率のデータになります。これはボール(ストライク)に対して、打者がスイングした割合、さらにスイングに対してボールに当たった割合をそれぞれ表しています。ここで注目したい数字はボールゾーンのスイング率です。2010年は前年に比べ10%も落ち込んでいます。ボールゾーンでのスイング割合が減ることで、必然的にストライクゾーンで勝負する割合は増えることが予想されます。また、ボールゾーンを相手打者に振ってもらえないので、四球が増えた可能性もあります。。
2.過去3年の球種別評価(Pitch Type Values)
三浦投手の成績下降を与四球率以外の部分でもう少し見ていきましょう。昨年はBABIPが大幅に上昇していますが、この点を球種別のRun Value評価で運などの要素を極力排除してみていきたいと思います。球種毎の評価については、リーグの先発投手の平均と比較することで明らかにしていきます。細かい計測法については以前に掲載したコラム(投手の球種価値(Pitch Type Value)~Part1 ダルビッシュ投手)を参考にしてください。要点は平均的な先発投手の球種に比べ、三振・内野フライ・ゴロが多ければその球種は失点を抑える力があると考えられます。逆に三振が少なく、四球・ライナー・外野フライが増えれば、失点するリスクは高くなります。

表3は三浦投手の過去3年分の球種別評価になります。2008年からそれぞれ見ていきましょう。
2008年はリーグの平均的な先発投手の球種に比べ同等かそれ以上の数字を残しています。ストレートはリーグの平均的な先発投手に比べ、奪三振を5.3積み増し、与四球を4.6減らしています。その他にもシュートやフォークなどが良い数字です。スライダーは外野に多く打球を飛ばされ(内野フライの多さでカバー)、ややリスクのあった球と言えそうです。この年は故障もありましたが、球種別の評価では何れの球種もマイナスを計上せずまずまずの内容と言えそうです。
2009年はストレート・シュート・カットボールで平均的な先発投手よりも三振を多く取れています。また、この3球種は得点へのリスクが少ないゴロが少なく、外野フライが多いマイナス面を内野フライで補っています。この年はスライダー・フォークと三浦投手の決め球とも言える球種が数字を落としています。スライダー・フォークともに三振を奪えない点が投球の内容を苦しくさせたようです。それでも全体で見ればリーグ平均程度の内容になっています(ややBABIPが味方をしてくれたともとれる内容です)。この年の大きな変化はスライダーの投球割合が大幅に上昇していることです。それ程有効でなかったスライダーを多投しなければならなかった理由は分かりませんが、三浦投手の投球に変化があったのは事実の様です。
2010年は前年最も良かったストレートが大きく数字を落としてしまっています。09年は三振・内野フライが多かったのですが、昨年は三振・内野フライを奪えていません。しかも、バットにボールが当たってしまうと、これまで内野フライだったものの多くがライナー・外野フライに代わっています。投球割合の高いストレート・スライダー・フォークのいずれもが、リーグの平均的な先発投手の同じ球種より威力が無くなっています。

表4はここ3年間の打球別の割合を表していますが、昨年はリスクの高いフライの割合が増えているのが分かります。さらに前年マイナスだった球種もそのまま好転しておらず、頼りになるボールが無かった状況と言えます。中でもストレートの劇的な変化は三浦投手の成績低下の要因となっていそうです。
3.ストレートの球速と影響
それでは三浦投手のストレートにいったい何が起こったのでしょうか。大きな変化に球速の低下があげられます。三浦投手は08・09年に140キロ近くの球速がありましたが、昨年は09年から平均2キロもスピードが落ちています。2キロのスピードが落ちることはデータで見るとかなりの影響があるようです。

上のグラフはストレートの平均球速とストレート100球あたりのPitch Type Valueになります(左の軸が平均球速、右の軸がPitch Type Valueになります)。140キロ近くを記録していた08,09年はストレートに失点を抑える力がありました。しかし、球速を失った昨年は大きく数字を落としています(ストレート100球あたり、平均的な先発投手のストレートに比べ0.864失点を増やしている計算です)。



その他の主だった球種もストレートの球速と連動して威力を失っているようにも見えます。実際は複雑な球種間の働きがあるのでしょうが、今のところそれを理解するには時間がかかりそうです。
もちろん、ストレートの球速が落ちたことだけで三浦投手の投手成績全てを説明できるわけはありません。さらに過去3年分のデータ(打球データを厳密に入力したのが2008年以降の為)しかなく、球速と他の球種の関連について断定できる内容でもありません。しかし、各種データは今季の三浦投手を占う上で重要な示唆を与えてくれています。まず、三浦投手が以前の投球を取り戻すにはストレートにある程度の球速が戻ってくることがひとつの指針になりそうです。幸い紅白戦の登板後に三浦投手自身が「昨年より球の走りは全然いい」と好感触を得ているのは良い知らせです。さらに、ボールゾーンの球を打者にどれだけスイングさせるのかも、三浦投手の調子を測る上で参考になりそうです。
先発投手陣に課題を抱える横浜は、三浦投手の力がまだまだ必要です。また、三浦投手が復調すれば、チームメートだけでなく編成・現場首脳陣にも心強いものとなりそうです。
1.三浦投手の年度別成績
横浜のエースとして君臨した三浦投手は、「年度別 三浦投手の主要投手成績グラフ」で見ると、まずまず高い奪三振能力(左軸)に加え、与四球率(右軸)が年を追うごとに低下(四球は年齢が経過すると低下する傾向があります)し、97~02年に総合力が全盛期を迎えています。その後も先発の柱として申し分ない成績を残していましたが、ここ3年間の被本塁打率の高止まり、さらに昨年の与四球率の悪化は気になるところです。
与四球率の上昇で少し気になるデータがあります。表2は2008~2010年のスイング率とコンタクト率のデータになります。これはボール(ストライク)に対して、打者がスイングした割合、さらにスイングに対してボールに当たった割合をそれぞれ表しています。ここで注目したい数字はボールゾーンのスイング率です。2010年は前年に比べ10%も落ち込んでいます。ボールゾーンでのスイング割合が減ることで、必然的にストライクゾーンで勝負する割合は増えることが予想されます。また、ボールゾーンを相手打者に振ってもらえないので、四球が増えた可能性もあります。。
2.過去3年の球種別評価(Pitch Type Values)
三浦投手の成績下降を与四球率以外の部分でもう少し見ていきましょう。昨年はBABIPが大幅に上昇していますが、この点を球種別のRun Value評価で運などの要素を極力排除してみていきたいと思います。球種毎の評価については、リーグの先発投手の平均と比較することで明らかにしていきます。細かい計測法については以前に掲載したコラム(投手の球種価値(Pitch Type Value)~Part1 ダルビッシュ投手)を参考にしてください。要点は平均的な先発投手の球種に比べ、三振・内野フライ・ゴロが多ければその球種は失点を抑える力があると考えられます。逆に三振が少なく、四球・ライナー・外野フライが増えれば、失点するリスクは高くなります。

表3は三浦投手の過去3年分の球種別評価になります。2008年からそれぞれ見ていきましょう。
2008年はリーグの平均的な先発投手の球種に比べ同等かそれ以上の数字を残しています。ストレートはリーグの平均的な先発投手に比べ、奪三振を5.3積み増し、与四球を4.6減らしています。その他にもシュートやフォークなどが良い数字です。スライダーは外野に多く打球を飛ばされ(内野フライの多さでカバー)、ややリスクのあった球と言えそうです。この年は故障もありましたが、球種別の評価では何れの球種もマイナスを計上せずまずまずの内容と言えそうです。
2009年はストレート・シュート・カットボールで平均的な先発投手よりも三振を多く取れています。また、この3球種は得点へのリスクが少ないゴロが少なく、外野フライが多いマイナス面を内野フライで補っています。この年はスライダー・フォークと三浦投手の決め球とも言える球種が数字を落としています。スライダー・フォークともに三振を奪えない点が投球の内容を苦しくさせたようです。それでも全体で見ればリーグ平均程度の内容になっています(ややBABIPが味方をしてくれたともとれる内容です)。この年の大きな変化はスライダーの投球割合が大幅に上昇していることです。それ程有効でなかったスライダーを多投しなければならなかった理由は分かりませんが、三浦投手の投球に変化があったのは事実の様です。
2010年は前年最も良かったストレートが大きく数字を落としてしまっています。09年は三振・内野フライが多かったのですが、昨年は三振・内野フライを奪えていません。しかも、バットにボールが当たってしまうと、これまで内野フライだったものの多くがライナー・外野フライに代わっています。投球割合の高いストレート・スライダー・フォークのいずれもが、リーグの平均的な先発投手の同じ球種より威力が無くなっています。
表4はここ3年間の打球別の割合を表していますが、昨年はリスクの高いフライの割合が増えているのが分かります。さらに前年マイナスだった球種もそのまま好転しておらず、頼りになるボールが無かった状況と言えます。中でもストレートの劇的な変化は三浦投手の成績低下の要因となっていそうです。
3.ストレートの球速と影響
それでは三浦投手のストレートにいったい何が起こったのでしょうか。大きな変化に球速の低下があげられます。三浦投手は08・09年に140キロ近くの球速がありましたが、昨年は09年から平均2キロもスピードが落ちています。2キロのスピードが落ちることはデータで見るとかなりの影響があるようです。
上のグラフはストレートの平均球速とストレート100球あたりのPitch Type Valueになります(左の軸が平均球速、右の軸がPitch Type Valueになります)。140キロ近くを記録していた08,09年はストレートに失点を抑える力がありました。しかし、球速を失った昨年は大きく数字を落としています(ストレート100球あたり、平均的な先発投手のストレートに比べ0.864失点を増やしている計算です)。
その他の主だった球種もストレートの球速と連動して威力を失っているようにも見えます。実際は複雑な球種間の働きがあるのでしょうが、今のところそれを理解するには時間がかかりそうです。
もちろん、ストレートの球速が落ちたことだけで三浦投手の投手成績全てを説明できるわけはありません。さらに過去3年分のデータ(打球データを厳密に入力したのが2008年以降の為)しかなく、球速と他の球種の関連について断定できる内容でもありません。しかし、各種データは今季の三浦投手を占う上で重要な示唆を与えてくれています。まず、三浦投手が以前の投球を取り戻すにはストレートにある程度の球速が戻ってくることがひとつの指針になりそうです。幸い紅白戦の登板後に三浦投手自身が「昨年より球の走りは全然いい」と好感触を得ているのは良い知らせです。さらに、ボールゾーンの球を打者にどれだけスイングさせるのかも、三浦投手の調子を測る上で参考になりそうです。
先発投手陣に課題を抱える横浜は、三浦投手の力がまだまだ必要です。また、三浦投手が復調すれば、チームメートだけでなく編成・現場首脳陣にも心強いものとなりそうです。
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野球を客観視した独自の論評、分析、および研究を特徴として、野球に関するさまざまな考察をしています。
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