監督の指向~Part1
岡田友輔 [ 著者コラム一覧 ]
監督はフロントが集めた選手をうまく運用し、設定された目標の達成を目指します。目標を達成することで監督は名声を得ますが、失敗した場合はフロント・解説者・ファンなどから敗戦の責任を真っ先に問われます。厳しい環境のなかで、監督たちは、繰り返される選択からどのような采配傾向を持っているのか見ていきましょう。
一般的に監督はチームの勝敗に対し大きな影響を持っていると考えられています。しかし、客観的に見ていくと監督のできることは戦術面に限られています(NPBには編成権【戦略面】を持つ全権監督も存在します)。戦術面を担当する監督が主体的に選択できることを挙げてみました。
・打線のラインナップを決めるとこ
・投手陣の配置を決めること
・投手の継投について決めること
・各種作戦の企図
・選手(一軍と二軍の)の入れ替え
上記の項目は12球団で監督を務めるほどの人物ならそれほど差異を生むものではないかもしれません。しかし、大きな差に現れないとしてもそこに監督のこだわりや考え方が見えてきます。
1.先発投手の起用法

上の表は先発投手の起用方法についてまとめたものです。試合数の隣から見慣れない項目が続きます。DMはダメージ・スコアと呼ばれるもので、Bill James Handbookに掲載されている、監督が先発投手をどの様に扱っているのか見る指標になります。算出式は単純で、先発投手の失点に10を掛けた値と投球数を足したものです(試合ごとに集計しています)。たとえば102球で2失点ならDMの値は122になります。一般的にこの値が高ければ、先発投手に長いイニングか、失点をしても交代させなかったことになります。昨シーズンのセ・リーグでは広島の野村監督、パ・リーグでは楽天・ブラウン監督やオリックス・岡田監督が先発投手に長くマウンドを任せていたようです(投手の多投球による酷使などの影響について今回は触れません)。
次の2つの項目はダメージ・スコアが基になって算出されます。SHはスロー・フックで先発投手の登板毎のDMを計算し、DMの値がリーグの上限25%だった場合に記録されます(一般的な登板よりも、負担のかかった起用と考えます)。QHはクイック・フックと呼ばれ、SHとは逆にDMの値がリーグの下限25%だった場合に記録されます(負担をかけなかった登板)。SHとQHの割合をみるとこでDMとは別に先発投手の起用方法を見ています。
さらに110+~140+は先発投手の球数を表します(巨人の原監督なら110球以上が27回、120球以上が11回、130球以上が7回、140球以上が1回)。SHでひとくくりにされてしまった投球数を細分化してみることができます。
上記の項目で各監督を見ていくと、原・真弓・梨田監督は先発投手から早い継投が多いようです(もちろん先発陣の力も影響しています)。ブラウン監督はDMが最多(かなり意外な結果です)ですが、130球以上の投球にかなり高いハードルがあるのがわかります(彼のポリシーと言えるかもしれません)。監督それぞれで起用法が異なり、先発投手の起用について各監督の考え方に違いを感じます。
2.攻撃における作戦の選択

次は作戦面についてです。今回は盗塁・代打・バントを取り上げてみました。代打は先発投手の影響を受けてしまいます(特にセ・リーグ)が、盗塁とバントの企図は監督毎に差異がありそうです。セ・リーグでは真弓・野村の三盗が特徴的です。二人は現役時代、球界を代表するトップバッターだった影響があるかもしれません。逆にオリックス・岡田監督は盗塁企図が極めて少なくなっています。「機動力に対して過度な期待をかけない」とする信条なら、ひとつの見識といえるでしょう。日本ハムの梨田監督は野手が試みたバントが176回と突出しています。
3.監督版スターマップ
ここまで見てきた要素のうち、先発起用法・盗塁・バントの数字を基に、監督の采配傾向をプロットしてみました(大里君が以前紹介したスターマップと同じ方法でプロットしています)。先発投手起用なら、図の上部に行く(中央から離れる)ほど、リーグの平均に比べ先発投手のDMが高いことを表します。逆に図の下部にさがっていけば、先発のDMが平均に比べ低かったことを表します。盗塁やバント軸も同じで、リーグの平均に対して傑出するほど中央から離れてプロットされます(特徴的と言い換えられるかもしれません。スターマップでは選手の働きをwRC=円の大きさで表せましたが、このプロットは監督の能力を表すものではなく、あくまでタイプ分けになります)。

もっとも特徴的なのは日本ハムの梨田監督でしょう。先発投手の継投が早く、犠打を多く指示する傾向がよく出ています。横浜・尾花監督とヤクルト・小川監督の用兵はやや似ているようです。先発投手の交代時期などは平均的で、犠打を多く行うタイプのようです。オリックス・岡田監督や中日・落合監督は程度の差はありますが、先発を我慢して起用し、攻撃ではバントが多い傾向です。昨シーズン途中で辞任した高田前監督は先発を我慢して使い、盗塁の選択が多かったようです。高田監督から小川監督になって、投手起用や作戦面でかなりの変化があったのが分かります。
巨人・原監督と西武・渡辺監督は平均的な先発の起用法と盗塁を好むようです。ソフトバンク・秋山監督と広島・野村監督は投手交代がやや早く、攻撃で盗塁を積極的に使っています。阪神・真弓監督とロッテ・西村監督がオーソドックスな戦法と言えます(今回は先発起用・盗塁・バントという項目をとりましたが、監督の傾向をみるほんの一例でしかありません。ほかの軸を取ることで新たな分類ができるかもしれません)。
このデータは1年だけのもので、監督が本当に意図して采配をしていたのかはわかりません。もう少し長い期間のデータを参考にして、監督の采配傾向を見ていきましょう。
4.複数年の傾向

上の表は最近セ・リーグで長く監督を務めている原・落合・岡田監督それぞれの先発起用方法です。チームによって選手の入れ替わりもありますが面白い傾向が出ています。

こちらは三監督の作戦についてまとめたものです。落合・岡田両監督は年代によって、採用する作戦の割合に変化があります。

3人の監督を年代別にプロットしたのが上の図です。巨人・原監督は采配方針が一貫しています。これは同じような采配を貫いたともいえますし、同じような采配を続けることができる状況にあったととることができます。
興味深いのは中日・落合監督です。2005年から毎年采配の傾向が変わっていきます。一つには福留・ウッズが在籍し、攻撃が強かった時代から、パークファクターでもふれたように、広いナゴヤドーム&ボールを含め得点を取りにくい環境への適応を毎年行っていた結果なのかもしれません。2008年以降は先発陣の起用方法が安定してきているのがわかります。
阪神時代の岡田監督もおもしろい推移をたどっています。2005年の優勝から作戦のアプローチが変わったのが特長的です。阪神も得点を取りにくい環境に移行したので、落合監督と同じ様に環境に適応しようと必死だったのかもしれません。また、JFKに代表されるブルペンを前面に出して戦う特徴も伺えます。リーグが変わりましたが、2010年のオリックスでは先発投手を長く起用する傾向がありました(これは今までとは大きく異なる運用になります)。今後この傾向が続くのか、阪神時代の様にブルペンに比重をかけていくのかは注目したいところです。
三人の監督の采配傾向は時代背景を考慮するとなかなか興味深いものです。明日はパ・リーグで長く指揮を執った監督や外国人監督に明確な違いがあるのかなどを見ていきましょう。
一般的に監督はチームの勝敗に対し大きな影響を持っていると考えられています。しかし、客観的に見ていくと監督のできることは戦術面に限られています(NPBには編成権【戦略面】を持つ全権監督も存在します)。戦術面を担当する監督が主体的に選択できることを挙げてみました。
・打線のラインナップを決めるとこ
・投手陣の配置を決めること
・投手の継投について決めること
・各種作戦の企図
・選手(一軍と二軍の)の入れ替え
上記の項目は12球団で監督を務めるほどの人物ならそれほど差異を生むものではないかもしれません。しかし、大きな差に現れないとしてもそこに監督のこだわりや考え方が見えてきます。
1.先発投手の起用法

上の表は先発投手の起用方法についてまとめたものです。試合数の隣から見慣れない項目が続きます。DMはダメージ・スコアと呼ばれるもので、Bill James Handbookに掲載されている、監督が先発投手をどの様に扱っているのか見る指標になります。算出式は単純で、先発投手の失点に10を掛けた値と投球数を足したものです(試合ごとに集計しています)。たとえば102球で2失点ならDMの値は122になります。一般的にこの値が高ければ、先発投手に長いイニングか、失点をしても交代させなかったことになります。昨シーズンのセ・リーグでは広島の野村監督、パ・リーグでは楽天・ブラウン監督やオリックス・岡田監督が先発投手に長くマウンドを任せていたようです(投手の多投球による酷使などの影響について今回は触れません)。
次の2つの項目はダメージ・スコアが基になって算出されます。SHはスロー・フックで先発投手の登板毎のDMを計算し、DMの値がリーグの上限25%だった場合に記録されます(一般的な登板よりも、負担のかかった起用と考えます)。QHはクイック・フックと呼ばれ、SHとは逆にDMの値がリーグの下限25%だった場合に記録されます(負担をかけなかった登板)。SHとQHの割合をみるとこでDMとは別に先発投手の起用方法を見ています。
さらに110+~140+は先発投手の球数を表します(巨人の原監督なら110球以上が27回、120球以上が11回、130球以上が7回、140球以上が1回)。SHでひとくくりにされてしまった投球数を細分化してみることができます。
上記の項目で各監督を見ていくと、原・真弓・梨田監督は先発投手から早い継投が多いようです(もちろん先発陣の力も影響しています)。ブラウン監督はDMが最多(かなり意外な結果です)ですが、130球以上の投球にかなり高いハードルがあるのがわかります(彼のポリシーと言えるかもしれません)。監督それぞれで起用法が異なり、先発投手の起用について各監督の考え方に違いを感じます。
2.攻撃における作戦の選択

次は作戦面についてです。今回は盗塁・代打・バントを取り上げてみました。代打は先発投手の影響を受けてしまいます(特にセ・リーグ)が、盗塁とバントの企図は監督毎に差異がありそうです。セ・リーグでは真弓・野村の三盗が特徴的です。二人は現役時代、球界を代表するトップバッターだった影響があるかもしれません。逆にオリックス・岡田監督は盗塁企図が極めて少なくなっています。「機動力に対して過度な期待をかけない」とする信条なら、ひとつの見識といえるでしょう。日本ハムの梨田監督は野手が試みたバントが176回と突出しています。
3.監督版スターマップ
ここまで見てきた要素のうち、先発起用法・盗塁・バントの数字を基に、監督の采配傾向をプロットしてみました(大里君が以前紹介したスターマップと同じ方法でプロットしています)。先発投手起用なら、図の上部に行く(中央から離れる)ほど、リーグの平均に比べ先発投手のDMが高いことを表します。逆に図の下部にさがっていけば、先発のDMが平均に比べ低かったことを表します。盗塁やバント軸も同じで、リーグの平均に対して傑出するほど中央から離れてプロットされます(特徴的と言い換えられるかもしれません。スターマップでは選手の働きをwRC=円の大きさで表せましたが、このプロットは監督の能力を表すものではなく、あくまでタイプ分けになります)。

もっとも特徴的なのは日本ハムの梨田監督でしょう。先発投手の継投が早く、犠打を多く指示する傾向がよく出ています。横浜・尾花監督とヤクルト・小川監督の用兵はやや似ているようです。先発投手の交代時期などは平均的で、犠打を多く行うタイプのようです。オリックス・岡田監督や中日・落合監督は程度の差はありますが、先発を我慢して起用し、攻撃ではバントが多い傾向です。昨シーズン途中で辞任した高田前監督は先発を我慢して使い、盗塁の選択が多かったようです。高田監督から小川監督になって、投手起用や作戦面でかなりの変化があったのが分かります。
巨人・原監督と西武・渡辺監督は平均的な先発の起用法と盗塁を好むようです。ソフトバンク・秋山監督と広島・野村監督は投手交代がやや早く、攻撃で盗塁を積極的に使っています。阪神・真弓監督とロッテ・西村監督がオーソドックスな戦法と言えます(今回は先発起用・盗塁・バントという項目をとりましたが、監督の傾向をみるほんの一例でしかありません。ほかの軸を取ることで新たな分類ができるかもしれません)。
このデータは1年だけのもので、監督が本当に意図して采配をしていたのかはわかりません。もう少し長い期間のデータを参考にして、監督の采配傾向を見ていきましょう。
4.複数年の傾向

上の表は最近セ・リーグで長く監督を務めている原・落合・岡田監督それぞれの先発起用方法です。チームによって選手の入れ替わりもありますが面白い傾向が出ています。

こちらは三監督の作戦についてまとめたものです。落合・岡田両監督は年代によって、採用する作戦の割合に変化があります。

3人の監督を年代別にプロットしたのが上の図です。巨人・原監督は采配方針が一貫しています。これは同じような采配を貫いたともいえますし、同じような采配を続けることができる状況にあったととることができます。
興味深いのは中日・落合監督です。2005年から毎年采配の傾向が変わっていきます。一つには福留・ウッズが在籍し、攻撃が強かった時代から、パークファクターでもふれたように、広いナゴヤドーム&ボールを含め得点を取りにくい環境への適応を毎年行っていた結果なのかもしれません。2008年以降は先発陣の起用方法が安定してきているのがわかります。
阪神時代の岡田監督もおもしろい推移をたどっています。2005年の優勝から作戦のアプローチが変わったのが特長的です。阪神も得点を取りにくい環境に移行したので、落合監督と同じ様に環境に適応しようと必死だったのかもしれません。また、JFKに代表されるブルペンを前面に出して戦う特徴も伺えます。リーグが変わりましたが、2010年のオリックスでは先発投手を長く起用する傾向がありました(これは今までとは大きく異なる運用になります)。今後この傾向が続くのか、阪神時代の様にブルペンに比重をかけていくのかは注目したいところです。
三人の監督の采配傾向は時代背景を考慮するとなかなか興味深いものです。明日はパ・リーグで長く指揮を執った監督や外国人監督に明確な違いがあるのかなどを見ていきましょう。
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野球を客観視した独自の論評、分析、および研究を特徴として、野球に関するさまざまな考察をしています。
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