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リプレイスメント・レベル~Part2

蛭川皓平 [ 著者コラム一覧 ]

投稿日時:2011/08/31(水) 10:00rss

1.リプレイスメント・レベルの算定
 
 前回は、リプレイスメント・レベルの考え方を紹介した。リプレイスメント・レベルとは、選手を評価する際に用いられる基準であり、出場選手を置き換える場合に最小のコストで得られる手段に期待される働きの水準のことであった。
 
 今回はリプレイスメント・レベルの議論をさらに進め、具体的にNPBにおいてリプレイスメント・レベルとは(定量的に)どのくらいの水準なのかということを統計データから検討していく。
 

2.打者のリプレイスメント・レベル
 
 まずは打者のリプレイスメント・レベルについて考える。打者は、一口に打者と言っても人材の分布は守備位置に影響される側面が強い。まずは詳しく実態を分析するために守備位置ごとにデータを見ていくことにする。
 
 ここで具体的な統計の対象としてのリプレイスメント・レベルとは何かを定義する必要があるが、これは(前回紹介した理路を説いた)キース・ウールナーの方式に倣うことにする。ウールナー方式は、各チームの各守備位置で最も出場が多い選手をレギュラー、それ以外をリプレイスメント・レベルとして分類しその成績を集計するものである。単純な分類ではあるがその分明快でわかりやすい。理論的なリプレイスメント・レベルというものを厳密に考えると話はややこしいが、現実問題としてレギュラーが怪我をすれば出てくるのは控えの選手であり、その控えの選手の成績を集計していけば実際に選手がリプレイス(取り替え)されたときに何が起こっているのかについてだいたいの傾向は知ることができるだろう。ただし、ここで詳しくは触れないがリプレイスメント・レベルを算定する場合の定義としてこの他にもさまざまなものが提案されており唯一の方法ではないことに注意していただきたい。
 
 ウールナー方式で定義上レギュラーでない選手は該当する守備位置のリプレイスメント・レベルの集合にまとめて放り込まれ、それらの選手の成績の合計から一般的にある守備位置のリプレイスメント・レベルの成績とはどのくらいの水準かが求められる。
 
 今回は1950~2010年のデータを用いて、リプレイスメント・レベルのwOBAを計算してそれをリーグ平均wOBAと比較、その結果として600打席あたりのwRAAがどうなるかということを調べた。この作業の意味をもう少し普通の言葉で言い直せば「リプレイスメント・レベルの打者が年間を通して出場するとリーグ平均の打者に比べてどれだけ得点を少なくするかを計測した」ということである。
 

守備位置 セ・リーグ パ・リーグ
捕手 -31 -29
一塁手 -15 -12
二塁手 -24 -21
三塁手 -20 -20
遊撃手 -26 -26
外野手 -13 -12
DH -- -13
 
 60年分ほどのデータをひとまとめにしているためいくらか乱暴なデータではあるが、一般的な傾向のようなものは見える。これはリーグ平均との比較だが、各守備位置において実際にリプレイスが生じることによる痛手は各守備位置の平均的な打撃成績との比較が有効かもしれない(参考:ポジションに求められる打撃力)。
 
 さらに守備位置の区別なくリプレイスメント・レベルをまとめると、その600打席あたりwRAAは-18となった。これは、控えレベルの選手が年間を通して出場すると平均的な打者が出場する場合に比べて得点を約20少なくするという意味であり、逆に言うと平均的な打者でも控えレベルに比べれば20点は利得を出しているということになる。MLBでも年間でだいたい20点というのは合意を得ている水準のようであり、細かい部分は時代やリーグの事情によって異なるもののこの数字をひとつの目安として考えることはできそうである。
 
 平均的な野手の打率/出塁率/長打率はだいたい.260/.330/.400で、リプレイスメント・レベルだと.230/.290/.340くらいになる。リプレイスメント・レベルのwOBAは野手平均の0.88倍である。
 

3.投手のリプレイスメント・レベル
 
 投手については、起用の実態として先発と救援では異なる点が多いと考えられる。ここではそれを受け、先発と救援の区別のある2004年以降のデータを使用して計算を行なった。
 
 リプレイスメント・レベルの分類は、本家ウールナーの方式とは若干異なるが日本のローテーションの事情を踏まえて先発投手に関しては登板試合数で降順に並べたときに上から6番目までをレギュラー、7番目以降をリプレイスメント・レベルとした。この分類方法を採用した場合、登板試合数ベースで見たときにレギュラーの占める出場割合は8割程度になる。救援投手についてもレギュラーの占める割合が先発と同じく8割程度になるように、登板試合数で8番目までをレギュラー、9番目以降をリプレイスメント・レベルとした。
 
 投手の場合、打者のようにwOBAを使った遠まわしな計算をしなくてもどれくらい失う点に差が出るかは失点率から直接的に計測することができる。サンプルサイズの関係からリーグはまとめて、年度別に平均失点率と先発リプレイスメント・レベルの失点率、救援リプレイスメント・レベルの失点率を示したのが以下のグラフである。
 

 
 先発のリプレイスメント・レベルの失点率は6.00前後を推移している。救援は年によってブレがあるが、失点率はおおむね先発よりも良いようである。全体の数字をまとめるとこの期間の失点率の平均が4.33であるのに対し先発のリプレイスメント・レベルの失点率は6.02、救援のリプレイスメント・レベルは5.67だった。
 
 ざっくり言えば、レギュラークラスが置き換わることによる変化は先発では失点39%増し、救援では31%増しということになる。回帰分析を使ってリプレイスメント・レベルの失点率をリーグ平均失点率の関数として定義すると先発は「0.43×平均失点率+4.16」、救援では「1.25×平均失点率+0.24」となる。これを使って計算すると、リーグ平均失点率が4.50のときに平均と同じ失点率で140回投げた先発投手がリプレイスメント・レベルに比べて防ぐ失点数は25となる。
 

4.評価への適用
 
 最後に、具体的な数値の運用としてリプレイスメント・レベルという基準を選手の評価にどのように用いるかを簡単に考えてみる。
 
 打者に関して、対象の打者がリプレイスメント・レベルに比べてどれだけ利得を生み出したかを評価したい場合、通常はリーグ平均としている基準値をリプレイスメント・レベルに置き換えればいい。具体的にはwRAAの計算は以前に導出した係数に沿えば
 
wRAA=(wOBA-リーグ平均wOBA)/1.24×打席数
 
 だが、リプレイスメント・レベルのwOBAは平均に比べて0.88倍だったのだから
 
 wRAA=(wOBA-0.88×リーグ平均wOBA)/1.24×打席数
 
 とすれば計算できる。この場合、厳密に言えば指標の呼び方はwRAR(Weighted Runs Above Replacement)にすべきだろう。
 
 投手に関しても打者と同じように平均と比べて利得を計算する指標があるため、その基準を入れ替えればリプレイスメント・レベルの投手が登板する場合に比べて稼いだ利得を計算することができる。具体的にはRSAA(Runs Saved Above Average)と呼ばれる指標が一般的である。
 
 RSAA=(リーグ平均失点率-失点率)/9×投球回
 
これを改変して
 
 RSAA=(リプレイスメント・レベル失点率-失点率)/9×投球回
 
 とするだけである。もちろんリプレイスメント・レベルの失点率は、前述した計算でリーグ平均失点率から先発・救援それぞれについて求めることができる。
 
 ただし、リプレイスメント・レベルを使用した評価式は非常にさまざまなものが考えられるのであって、上記の式そのものが選手の評価法として一般に利用されるべきだと主張する意図は本記事にはない。あくまでも原則的な評価の考え方の例である。
 

5.まとめ
 
 打者のリプレイスメント・レベルは、守備位置によっても異なるが一般的には600打席でリーグ平均に比べて-18点の水準、投手は先発で失点がリーグ平均に比べて39%増し、救援では31%増しという結果が出た。この結果は普遍的なものではなく、リプレイスメント・レベルの定義の仕方や対象とする年度・リーグによって異なるからあくまでもひとつ目安と考えていただきたい。
 
 
参考文献
Keith Woolner, "Why Is Mario Mendoze So Important?" Baseball Between the Numbers, Baseball Prospectus, 2007

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