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DERでチーム守備力を計測する

蛭川皓平 [ 著者コラム一覧 ]

投稿日時:2010/12/20(月) 10:00rss

1.DERの考え方
 

 計算法が小難しいものもしばしばあるセイバーメトリクスの指標の中で、前々から簡単なわりに有用性が高いと思っている指標にDER(Defense Efficiency Ratio)がある。
 
 DERとはチーム全体での「本塁打を除いてグラウンド上に飛んできた打球のうち野手がアウトにした割合」を表す指標であり、守備の基本は打球をアウトにすることだからこれはチーム全体の守備力の評価に用いることができる。守備者個人のこのような指標(ゾーンレーティング)は測定に難しい点がつきまとうが、チーム単位でまとめてしまえば結果としてどれだけ打球が飛んだか、そしてそれをアウトにしたかは明確でありごまかしようがない。
 
 DERは以下のようにチームの投手・守備成績から計算できる。
 
 DER=(打席-安打-四球-死球-三振-失策)/(打席-本塁打-四球-死球-三振)
※失策は本来打球の処理にかかわるもののみを計上すべきだが公式記録からは区別不能なためここでは全体の失策数で近似値を計算することとする
 
 分子は打席の結果野手がアウトを取ったもの、分母は本塁打を除く打球を表している。考え方は明快だし、失策についての微細な問題を我慢すれば特殊な記録も複雑な計算も必要ない指標である。
 
 よく各チームの守備について、あのチームは守備力が高い、このチームは守備がザルだ、といった言説が飛び交うが、それらが大筋で正しいかどうかについてはDERを用いれば簡単に確認が可能である。守備範囲の評価がされる分、失点の阻止を考える上では守備率よりも重要な評価と言える。防御率などと同じように、チームの基本的な性質を表す指標として広く利用されてもいいのではないだろうか。進塁の阻止などDERに表れない守備もあるためこれが守備のすべてとは言えないが、基本的かつ重要な部分を表していると受け取ることには問題がないように思われる。
 

2.DERについての議論
 

 もちろん、疑問もあるだろう。なによりグラウンド上に飛んだ打球がアウトになるかどうかは投手がアウトにしやすい打球を打たせているかどうかに依存するのであって守備の問題ではないのではないか、というのがまず考えられる反論である。確かに、他のチームに比べて投手が鋭いライナー性の打球ばかりを打たれるチームであれば、DERは守備力を過小評価することになる。
 
 しかし、これについては、ボロス・マクラッケンからの一連の研究において「グラウンド上に飛んだ打球がアウトになるかどうか」には投手は小さい影響力しか持てないことが実証的に確認されている。従来の常識や感覚には反するが、継続してアウトになりやすい打球ばかりを打たせ続ける投手というのは統計的にはほぼ存在せず打球がアウトになる割合は長期的にはほとんどの投手で大して違いがないのである。ましてや一年を通じれば味方投手や対戦打者の要素はさまざまに分散されるから、打球の分布に人為的な偏りはなくなり、DERの高低に投手の能力が与える影響は小さなものである可能性が高い。
 
 また、上記の理屈を受け入れないとしても、ではDERの変動の多くが投手によるとした場合、それはそれで従来の常識と食い違う面がある。直近5年のデータを見てみると、DERは68.4%を平均として標準的なばらつき(標準偏差)は1.2%程度である。これだけでもチームごとの守備力の差は過去語られてきた内容に比べるとかなり小さいように思えるのであるが、この差自体に投手の能力の影響が大きいのだと考えると、野手の守備力など打球の処理に全くと言っていいほど影響していないという筋が出てきてしまう。ひとつの考え方ではあるかもしれないが、今度は守備指標の研究から見たときに不自然である。
 
 統計的な研究からも論理的な整合性からも、DERへの人為的な偏りはあまり大きくないと考えることが妥当だろう(当然、サンプルサイズが少ない場合のランダムな誤差や球場の性質による影響などどの指標にもあるようないくらかのノイズ・バイアスの影響は考えられる)。
 

3.2010年各チームのDER
 

 2010年だとセ・リーグでDERのトップは中日で.700。失点自体リーグ最小であったが、その失点の少なさには守備力も一因としてあったと考えていいようである。逆に最も悪かったのは横浜の.667で、失点はリーグで最も多い。
 
 パ・リーグは日本ハムが.688でトップ。近年は日本ハムが突出している例が多い。ワーストはオリックスの.665である。
 
 

球団 失点 DER
中  日 521 .700
阪  神 640 .682
ヤクルト 621 .681
巨  人 617 .678
広  島 737 .673
横  浜 743 .667
 
球団 失点 DER
日本ハム 548 .688
ロッテ 635 .680
西  武 642 .677
楽  天 635 .676
ソフトバンク 615 .673
オリックス 628 .665
 
 各チームの守備力を推し量るだけでなく、データとして視野を広げて傾向を見ていくと、前述したようにDERを守備の指標と考えてもチーム間の守備力の差は意外と小さいことなどがわかってくる。打撃力を重視して守備の評判が悪い選手を起用した場合「あのチームは守備が崩壊しているからいくら打ててもダメ」とか、逆に「あのチームは守備力で勝っている」なんていうふうに言われる場合もあるが、DERの計測からすると大げさであることも少なくないのかもしれない。
 

4.DERから得失点への変換
 
 では具体的に、このDERに表現されるプレーの側面は、試合においてどの程度の影響を持っているのだろうか。得点の単位に変換することでこのことについて考えたい。
 
 チーム守備力の得点化は道作氏が「Runs Value増減から見た2010年NPBディフェンス」において詳細な計算によって内・外野に分けて行っている。これはかなり緻密で望ましい計算だと思われるが、チーム全体としていくらか大ざっぱであることを許すならばDERからも守備の得点化が可能であるし、DERを用いるならば算出は容易である。
 
 まず対象チームの守備が平均的な守備に比べて多く許してしまった(または防いだ)出塁数を求める。例えば中日であればリーグ平均DERが.680であるのに対しDER.700で、打球は3862あったから (.700-.680)×3862=76 で、同じ打球の数をリーグの平均的な守備陣が守る場合に比べて76も出塁を防いだと評価される。そして一般に本塁打を除く打球をアウトにできず出塁を許してしまうことの得点価値(守備側から見れば損失)は0.78ほどであるから、76に0.78をかけて得点化すれば、中日が守備によって稼いだ得点(防いだ失点)は59だったと評価できる。
 
 以上のような計算を、2010年を対象にすべてのチームについて行った。利得はあくまでもリーグ内のものである。
 

球団 DER 得点換算
中  日 .700 59
阪  神 .682 5
ヤクルト .681 3
巨  人 .678 -5
広  島 .673 -22
横  浜 .667 -40
 
球団 DER 得点換算
日本ハム .688 35
ロッテ .680 11
西  武 .677 0
楽  天 .676 -1
ソフトバンク .673 -10
オリックス .665 -35
 
 これは単位を変換しただけであるから、優秀さの順番は先ほどの表と変わりはない。しかし、得点の意味でどれだけの意味を持つのかの大きさはわかりやすくなったのではないだろうか。
 
 得点という共通の単位に乗せることにより、さまざまなプレーとの比較が可能となる。例えば、オリックスはこの計算では確かに守備で損失を出してはいるが、それはカブレラが打撃でもたらした利得よりは小さい(「打撃成績を得点換算で評価する」、または分析データのwRAA参照)。つまり、優秀な打者の利得を守備で食ってしまっているとも言えるし、逆に優秀な打者がいれば埋め合わせられる程度であるとも言える。そのため損失が出ているからといって必ずしも直ちに守備を補強しなければならないわけではないという考え方もできる。漠然と守備について考えるだけでなく、こうして定量的に実情を把握できることは有意義だろう。
 
 このように計算された得点の平均からの標準的なばらつきは35点(直近5年)であり、これはチーム別得点数のばらつき63点に比べて小さい。プロ野球においては、野手は守備力よりも打撃力の差のほうが大きいと考えられる。

 
5.各チーム直近5年の推移
 
 最後に、各チームのDER得点化数値が直近5年でどのように推移してきたか、グラフと表を示しておく。
 

 

 


球団 2006 2007 2008 2009 2010 平均
中  日 51 16 -25 25 59 25
ヤクルト -34 21 42 17 3 10
巨  人 -5 24 -4 34 -5 9
広  島 14 12 3 -20 -22 -2
阪  神 2 -28 -10 -11 5 -8
横  浜 -28 -44 -7 -44 -40 -33
 
球団 2006 2007 2008 2009 2010 平均
日本ハム 43 103 92 58 35 66
西  武 4 15 -22 18 0 3
ソフトバンク 7 28 -19 -1 -10 1
ロッテ -29 -13 -12 -34 11 -15
オリックス 27 -33 -1 -40 -35 -16
楽  天 -53 -100 -38 -1 -1 -39
 
 

コメント

みんなの評価:5stars-5-0.gif

今期の中日の得失点差が+18であったということを考えると守備で+59をたたき出しているというのは驚異的ですね。
差し引きで投打による影響は-41だったと考えてもいいのでしょうか?
もしそうだとすれば今期の優勝は守備のおかげですね。

Posted by campus at 2010/12/22 01:45:42 PASS:

>りんちゅー様

数字の変化は各守備者や投手との関連など複合的に考えないと結論は出ないので(偶然という可能性もないわけではないですし)
手間をかけたリサーチなしに無責任な意見は申し上げられないのですが
DERに球場がどう影響しているかに(パークファクター)ついてだけならある程度定量的な結論が出せます。

結論から言うと、広島に関しては特に球場によってDERが影響されている形跡は見られません。
今年に関しては補正をしても.001ポイントしか変化せず、打球を処理する割合が0.1%しか変わらないというのは偶然も含めて考えれば違いがないも同然だと思います。
昨年はもう少し強く有利だった傾向が出ていますが、それが継続していないので現段階ではさほど大きな影響を想定する必要はないと考えられます。
ですから、マツダスタジアムは守備に有利そうに見えるのにそれ以上に守備が悪くなっているのか、逆に実は不利な球場なのだろうか、といったことはあまり考える必要がなくDER変動の要因の大部分は球場以外に求めるべきかと。
パークファクターから言えることはここまでですね。

Posted by 蛭川皓平 at 2010/12/22 18:35:40 PASS:

以下の説明は本文で細かいことを書かなかったので補足の意味で。

【球場の影響】

全体的な傾向で言うと
素のDERの変動のうち球場の影響によるものは10%少しという程度なのではないかと思われます。

2005年から2010年までのデータでDERのパークファクター
(本拠地での自軍のDER+本拠地での相手のDER)/(本拠地以外での自軍のDER+本拠地以外での相手のDER)
を各チームについて算出し、全体のうち本拠地で試合をした割合に応じて補正の係数を算出、それを利用してDERを補正すると
素のDERと補正をしたDERの相関係数は.94、決定係数では.88となります。
グラフで見ても関連はほぼ直線となりますので、だいたい各チームの傾向を捉える上では補正をしなくても問題ない、つまり球場の影響について考慮しなくても問題ないのではないかと考えられます。
一定の影響はあるということを忘れてしまうのは危険ですが。

参考:パークファクターの考え方の説明
http://baseballconcrete.web.fc2.com/alacarte/parkfactor.html


【投手の影響】

さらに補足として投手の影響については、投手ごとにアウトになりやすい打球を打たせる能力に差がありそれが結果に反映されるのであれば優秀な投手は期間をまたいでも優秀なはずですが
2年連続して300以上の打者と対戦した投手のサンプル(2005年~2010年、n=227)を対象にある年のBABIP※と翌年のBABIPの相関係数をとってみると.08とほぼランダムな分布となります。そして長期的にはBABIPはどの投手でもだいたい.300前後に収束します。
インプレー打球がアウトになるかどうかの割合を投手の能力が大きく支配できるのであればこうはならないはずで、逆に能力が反映されているのにこうなっていると考えると投手の能力は年ごとにランダムに変動しまくっている(かつ、長期で見ればみんな似たようなもの)ということになってしまい結論としてはこちらのほうが苦しいように思います。能力が変化するのは当然ですが奪三振率などではこうはなりませんし一定の傾向を持って再現できないものを能力と呼べるかは疑わしいところがあります。

結局のところ、力関係が均衡したプロのレベルにおいてはアウトになりやすい打球ばかりを打たせ続けるということは難しく
一定量の打球を打たれれば、ヒットになりやすい打球やアウトになりやすい打球はどの投手でもだいたい同じくらいの割合で混じってくるようです。
例外的な投手も少数は存在しますしBABIPを下げる能力が全くないとは決して言えませんが、割合として投手の影響力は限定的だというのが現状ではセイバーメトリクスの定説です。
DERからすると投手や対戦打者の要素は分散される効果もあるわけで、DERに関して「投手の優れたチームは有利」といった影響は大きくはないと考えていいのではないかと思われます。

※BABIPは投手や打者の解析で一般的に使われる「インプレー打球がヒットになった割合」を表す指標であり「インプレー打球がアウトになった割合」を表すDERとは意味が逆なだけで分析の対象は同じ。

Posted by 蛭川皓平 at 2010/12/22 18:42:26 PASS:

>campus様

ちょっと不自然なくらいの偏りにも見えますが理論上はそういうことになります。
具体的に計算すると、攻撃ではアウトあたり得点 [得点/(打数-安打+盗塁刺+犠打+犠飛+併殺打] の計算から平均に対して-79。
投手は、守備から独立して投手だけを評価するFIPという指標(投手データ [ 球団別 Advanced ]、説明は用語集参照)から平均に対して+46。
結局 打撃(-79)+投球(46)+守備(59) で合計は+26となり、実際の得失点差+18との違いは十分偶然で説明できる範囲かと(投打だけでの利得は-33)。
守備で勝ったというよりは投球と守備を含めた守り全体で貴重な得点を守り抜いて勝ったという感じでしょうか。

Posted by 蛭川皓平 at 2010/12/22 18:43:46 PASS:

おお、こんなところにDERの議論があった。
DERを得点に換算するのは、分かり易いですね。HPでもコメントいただきましたが、守備が強いチームは、そこにまで力が入れられるのだから、そもそもチーム力があるという考え方は、勝負事の本質かもしれません。最近、ペナントの上位に居座っている中日や日本ハムは、守備力があって、安定したペナントレースが運べています。今年の日本ハムにはびっくりしましたが。

これからは、こちらも拝見いたします。

評価:stars-5-0.gif Posted by hideok at 2011/01/13 22:37:30 PASS:

こちらにもお越しいただきありがとうございます。
強豪チームを見ると守備力がしっかりしている傾向があるから我々も守備力向上をまず目指そう、などということで効率を悪くする例はプロ・アマ問わずあるような気がしますね。まともな試合を成立させるためにはある程度しっかりさせることが必要条件であるということは事実ですが。
バントなども一定の打力と守備力があってはじめて戦略的に使用できるもので、それだけを真似しても状況を悪くするだけなのかもしれません。
思えばこれらの思い切り逆をいったのが『マネー・ボール』のアスレチックスということですね。

Posted by 蛭川皓平 at 2011/01/14 14:24:11 PASS:

>つまり、優秀な打者の利得を守備で食ってしまっているとも言えるし、逆に優秀な打者がいれば埋め合わせられる程度であるとも言える。そのため損失が出ているからといって必ずしも直ちに守備を補強しなければならないわけではないという考え方もできる。

上記はセイバーでは一般的な、守備は野球全体における影響力は比較的小さいということを言っていると思いますが、本記事を読んだ後では異を唱えざるを得ません。一般に優勝するのに+100点程度の得失点差が欲しいと思います。2010のオリックスのDERが-35で日ハムが+35なら相対差は70点。+100点の実に7割です。オリックスが日ハム並の守備を整備すれば優勝まで後一歩のところまで手が届くのであれば、守備のための補強は非常に現実的で有効な判断といえると思います。この記事を重んじるのであれば、OPS6割5分程度だけれど抜群の守備を誇った小坂のような選手の価値を再評価すべきだと思います。特にDHのあるパリーグでは。

もう一つ思いつきですが、並みの守備のチームが堅守になるにはハードルが高いが、横浜のような守備崩壊状態のチームで守備補強をするのはコストパフォーマンス的に、かつ人材を得やすいという意味で非常に有効だろうと思います。

評価:stars-5-0.gif Posted by daimong at 2011/02/07 22:59:56 PASS:

>daimong様

「守備も重要だ」という議論であれば仰る通りだと思います。
ただしプロ野球における守備の影響度が打撃や投球のそれに比べて小さいというのは依然として事実だと考えています。
これは守備による失点数の差が無視できないレベルであるという絶対的な問題ではなく相対的な比較の問題であり
本文中にも示していますがチーム得点数の偏差はDER得点化の偏差より一般にずっと大きくなりますし
守備から独立して投手を評価する手法で計算する失点数の標準偏差も、やはりDERより大きくなる傾向にあります。
偏差から見て守備を改善することの効果は大きいけれども、打撃や投手は一般にそれ以上に差が出ているということです。

実際にどこを強化するのが実現可能性やコストパフォーマンスから見て良いのか、というのは何を根拠として考えるべきか難しいところで
そこを明確にするのが難しいからこそまずはそれぞれで生じている結果としての差を具体的な数値に落としておくことが有効だと思われます。
引用の部分もどちらかというとその考えを意図して書きました。

Posted by 蛭川 at 2011/02/08 14:50:06 PASS:

分母から本塁打数だけ引いて分子から本塁打の数を引かなかったら正確な数値は出ないのではないでしょうか?

Posted by あつかましいひと at 2011/03/07 14:22:50 PASS:

>あつかましいひと さま

分子にも本塁打は含まれていません。具体的に言うと安打の中に含まれているので安打を除外することで本塁打も除外されます。

Posted by 蛭川 at 2011/03/07 16:26:22 PASS:
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