Baseball Lab守備評価~Third Baseman
蛭川皓平 [ 著者コラム一覧 ]
1.評価の方針
本稿では2010年シーズンにおける各三塁手の守備の働きについて、数字を用いて考える。
過去、守備についての数値的な評価はかなり困難だったが、今回はデータスタジアム社の集計によりUZRのデータが得られたため、基本的にUZRをベースとして評価を行なう。UZRは非常に優れた指標である。特定の指標で一元的に評価を下すことは心許ないと感じる向きもあるかもしれないが、守備の目的を考えたときに、きちんと責任範囲の打球を処理して失点を防いでいればそれが主観的にどう見えようと基本的には問題ないはずである。
ただしサンプルサイズなどの問題もあり現在日本におけるUZRの算出がまだ固まりきっていない面があること、指標ごとに異なる長所・短所があること等を踏まえ、以前のコラム(「守備を得点換算で評価する」)にて紹介したいわゆるレンジ系の守備指標も若干考慮して評価をすることとした。本来はこれに、数字ではなくプレーの観察による評価も適切な塩梅で合わせることが理想だが、それをどのように行なうかは結局恣意的にならざるを得ないため数字以外の部分は数字を解釈する側の余地としておく。
2.リーグごとの守備成績
まずはセ・リーグ。

「守備得点」は以前のコラムで説明した通りチーム全体で受けたゴロに対してどれだけ補殺を稼いだかによる評価、「UZR」はポジション別のUZRを守備機会に応じて個人に分配したもの、「UZR+守備得点」はUZRに大きめのウェイトをかけてふたつの評価を加重平均したものである。ふたつの指標を合わせて見るための目安として用意した。
まずダントツなのが中日の森野将彦。UZRでも守備得点でも文句なしのスコアを叩き出している。一般的な評判はあまり芳しくないように思われるが、当方が2005年から集計している守備得点では2005年から2009年までの5年間も140試合あたりの守備得点が+6と全体的に優れた数字を残している。2年連続で失策数ワーストを記録しているのも、2009年はともかくとして去年は単に出場数が多かったために失策の絶対数が多かっただけである。
他には宮本がやや優れた数字を出しているが、小笠原~小窪あたりまでのUZRからは彼らの間の優劣についてあまり積極的なことは言えそうにない。比較的イニング数の多い村田に関しては平均的なパフォーマンスを発揮していたことに確信を持てる度合いが強いといったことぐらいだろうか。
阪神の新井は守備得点とUZRが一致して悪い評価を示している。隣を守る鳥谷がかなり良いスコアを出しているため阪神の三遊間で打球の分布に偏りが生じている可能性も考えたが、ゾーンのデータから考えると特にそういうわけではないようである。
続いてパ・リーグ。

全体的にあまり差がついていない。中村紀、小谷野、今江など守備に定評のある選手が並ぶ(彼らは過去の守備指標ではいずれも優れている)が、それ故にかえってリーグ内での差がつきにくくなってしまったのかもしれない。
その中で、あえて優秀者を選ぶとすれば松田ということになる。守備得点には元々織り込まれていることだが、松田は犠打を処理してアウトにした数で両リーグ1位など特定の要素で貢献した面も見せている(三塁手が犠打を処理する数は、三塁手の守備力よりも相手側にとって犠打の局面が多く生じるか否かに大きく左右されることはもちろんだが)。三塁手犠打処理数のトップ10は以下の通りである。
バルディリスはパ・リーグでは一人出遅れた形となってしまっている。しかし、UZRの数字を見る限り特別に問題視する必要があるレベルとも言えない。2010年のパ・リーグに関しては、打力の差がそのまま利得の差になっていたと考えられる。
3.両リーグのランキング
今回の企画は最終的に両リーグをまとめてランキングを作成するという主旨になっているため、最後にその結果を示す。

ランキングは前述の通りUZRを基本とし、ゾーンの処理データや野手の中でのアウト関与の比率からパ・リーグのほうがやや水準が高いと思われるためリーグを統合するにあたってパ・リーグの選手に若干のボーナス得点を付与している。
※時間の都合上記事の納入時点で深追いできてなかったことに関して少し整理できたので追記します。
三塁手といえば痛烈なライナーを横っ飛びでキャッチするプレーなども「華」であり、その部分を見るためにはライナーやフライの処理を評価に含めるべきではないかという考え方があります(内野手のUZRは基本的に、併殺処理などのコンポーネントを別としてゴロだけを対象に計算されます)。この影響がどれだけのものなのか、ゾーンのデータで計算してみました。
飛んできた同じ方向・距離・強さの打球で平均的な守備者と比べてどれだけアウトを稼ぎ失点を防いだかという評価でUZRの対象をライナー・フライに広げたものになります。
森野 将彦 1.4 ( 1.1, 0.3 )
今江 敏晃 1.2 ( 0.6, 0.5 )
小笠原 道大 0.8 ( 0.9, -0.1 )
中村 紀洋 0.3 ( 0.7, -0.4 )
宮本 慎也 0.1 ( -0.1, 0.2 )
バルディリス 0.0 ( -0.4, 0.3 )
小谷野 栄一 -0.3 ( -0.7, 0.5 )
新井 貴浩 -0.5 ( -0.3, -0.2 )
小窪 哲也 -0.7 ( -0.8, 0.1 )
村田 修一 -0.9 ( -0.3, -0.6 )
松田 宣浩 -1.8 ( -0.7, -1.1 )
数字はフライとライナーについてのUZRで、カッコ内はその内訳、(ライナーのUZR、フライのUZR)の順です。チームごとの標準的なばらつきは1~2点で、結果を見るとこの部分の影響力はゴロの処理に比べてかなり少ないと考えられます。これは「『遊撃手の守備力評価は,大体はゴロ処理能力で決まる』という,なんとなく常識的に考えられてきたことが,改めて確認できるのではなかろうか」という遊撃手に関する先日の森嶋さんのレポートとも通じるところがあります。
「上手い守備者だとアウトにできて並の守備者ではアウトにできない」ような境界線上にある絶妙なライナーが飛んできてそれを実際にアウトにして差がつく、ということは守備全体を見ればあまりにも稀なことであってそのようなプレーによって確かな利得を出している選手は(少なくとも今シーズンについては)存在しないと考えてよさそうです。ファインプレーを見れば「あの選手は守備がうまい」と印象に残りやすいものですが、そのことと実際にシーズンを通じて失点を防ぐのに貢献しているかとは別の問題であり、利得を冷静に映し出す数値化の面白味が表れるところだと思います。
ただし痛烈なライナーの類は特に、少しの打球方向の違いで捕球のしやすさが大きく異なると思われポジショニング位置の入力がなく、離散的な範囲を区切って処理するUZRではその部分の分解に限界があることは確かでしょう。とはいえ、「ライナー処理能力」を拡大してスポットを当てれば何かしら差が出るかもしれないものの実際のチームの利得がそれによって影響される幅は非常に小さいと考えられることに変わりはありません。結局、ゴロだけを対象とした解析でも守備の働きはほぼ表せるのではないかと考えられます。
事実として選手の守備による結果でありそれで微小とはいえ差がついているのにゴロ以外を除く計算をする理由ですがゾーンを使ったとしても複数の守備者が関与する可能性のある内野フライなどについてはいかにポイントを割り振るかということが微妙な問題としてあり得られる意味のある情報よりもノイズのほうが大きくなってしまう(可能性がある)ためです。
MLBでは内野の飛球を含める指標も含めない指標も両方あり、どちらにもデメリットがあるというのが現状のようです。理想として考えれば、れっきとした守備の仕事である飛球の処理を含めない理由はないと個人的には思いますがなかなか難しいところです。
本稿では2010年シーズンにおける各三塁手の守備の働きについて、数字を用いて考える。
過去、守備についての数値的な評価はかなり困難だったが、今回はデータスタジアム社の集計によりUZRのデータが得られたため、基本的にUZRをベースとして評価を行なう。UZRは非常に優れた指標である。特定の指標で一元的に評価を下すことは心許ないと感じる向きもあるかもしれないが、守備の目的を考えたときに、きちんと責任範囲の打球を処理して失点を防いでいればそれが主観的にどう見えようと基本的には問題ないはずである。
ただしサンプルサイズなどの問題もあり現在日本におけるUZRの算出がまだ固まりきっていない面があること、指標ごとに異なる長所・短所があること等を踏まえ、以前のコラム(「守備を得点換算で評価する」)にて紹介したいわゆるレンジ系の守備指標も若干考慮して評価をすることとした。本来はこれに、数字ではなくプレーの観察による評価も適切な塩梅で合わせることが理想だが、それをどのように行なうかは結局恣意的にならざるを得ないため数字以外の部分は数字を解釈する側の余地としておく。
2.リーグごとの守備成績
まずはセ・リーグ。

「守備得点」は以前のコラムで説明した通りチーム全体で受けたゴロに対してどれだけ補殺を稼いだかによる評価、「UZR」はポジション別のUZRを守備機会に応じて個人に分配したもの、「UZR+守備得点」はUZRに大きめのウェイトをかけてふたつの評価を加重平均したものである。ふたつの指標を合わせて見るための目安として用意した。
まずダントツなのが中日の森野将彦。UZRでも守備得点でも文句なしのスコアを叩き出している。一般的な評判はあまり芳しくないように思われるが、当方が2005年から集計している守備得点では2005年から2009年までの5年間も140試合あたりの守備得点が+6と全体的に優れた数字を残している。2年連続で失策数ワーストを記録しているのも、2009年はともかくとして去年は単に出場数が多かったために失策の絶対数が多かっただけである。
他には宮本がやや優れた数字を出しているが、小笠原~小窪あたりまでのUZRからは彼らの間の優劣についてあまり積極的なことは言えそうにない。比較的イニング数の多い村田に関しては平均的なパフォーマンスを発揮していたことに確信を持てる度合いが強いといったことぐらいだろうか。
阪神の新井は守備得点とUZRが一致して悪い評価を示している。隣を守る鳥谷がかなり良いスコアを出しているため阪神の三遊間で打球の分布に偏りが生じている可能性も考えたが、ゾーンのデータから考えると特にそういうわけではないようである。
続いてパ・リーグ。

全体的にあまり差がついていない。中村紀、小谷野、今江など守備に定評のある選手が並ぶ(彼らは過去の守備指標ではいずれも優れている)が、それ故にかえってリーグ内での差がつきにくくなってしまったのかもしれない。
その中で、あえて優秀者を選ぶとすれば松田ということになる。守備得点には元々織り込まれていることだが、松田は犠打を処理してアウトにした数で両リーグ1位など特定の要素で貢献した面も見せている(三塁手が犠打を処理する数は、三塁手の守備力よりも相手側にとって犠打の局面が多く生じるか否かに大きく左右されることはもちろんだが)。三塁手犠打処理数のトップ10は以下の通りである。

バルディリスはパ・リーグでは一人出遅れた形となってしまっている。しかし、UZRの数字を見る限り特別に問題視する必要があるレベルとも言えない。2010年のパ・リーグに関しては、打力の差がそのまま利得の差になっていたと考えられる。
3.両リーグのランキング
今回の企画は最終的に両リーグをまとめてランキングを作成するという主旨になっているため、最後にその結果を示す。

ランキングは前述の通りUZRを基本とし、ゾーンの処理データや野手の中でのアウト関与の比率からパ・リーグのほうがやや水準が高いと思われるためリーグを統合するにあたってパ・リーグの選手に若干のボーナス得点を付与している。
※時間の都合上記事の納入時点で深追いできてなかったことに関して少し整理できたので追記します。
三塁手といえば痛烈なライナーを横っ飛びでキャッチするプレーなども「華」であり、その部分を見るためにはライナーやフライの処理を評価に含めるべきではないかという考え方があります(内野手のUZRは基本的に、併殺処理などのコンポーネントを別としてゴロだけを対象に計算されます)。この影響がどれだけのものなのか、ゾーンのデータで計算してみました。
飛んできた同じ方向・距離・強さの打球で平均的な守備者と比べてどれだけアウトを稼ぎ失点を防いだかという評価でUZRの対象をライナー・フライに広げたものになります。
森野 将彦 1.4 ( 1.1, 0.3 )
今江 敏晃 1.2 ( 0.6, 0.5 )
小笠原 道大 0.8 ( 0.9, -0.1 )
中村 紀洋 0.3 ( 0.7, -0.4 )
宮本 慎也 0.1 ( -0.1, 0.2 )
バルディリス 0.0 ( -0.4, 0.3 )
小谷野 栄一 -0.3 ( -0.7, 0.5 )
新井 貴浩 -0.5 ( -0.3, -0.2 )
小窪 哲也 -0.7 ( -0.8, 0.1 )
村田 修一 -0.9 ( -0.3, -0.6 )
松田 宣浩 -1.8 ( -0.7, -1.1 )
数字はフライとライナーについてのUZRで、カッコ内はその内訳、(ライナーのUZR、フライのUZR)の順です。チームごとの標準的なばらつきは1~2点で、結果を見るとこの部分の影響力はゴロの処理に比べてかなり少ないと考えられます。これは「『遊撃手の守備力評価は,大体はゴロ処理能力で決まる』という,なんとなく常識的に考えられてきたことが,改めて確認できるのではなかろうか」という遊撃手に関する先日の森嶋さんのレポートとも通じるところがあります。
「上手い守備者だとアウトにできて並の守備者ではアウトにできない」ような境界線上にある絶妙なライナーが飛んできてそれを実際にアウトにして差がつく、ということは守備全体を見ればあまりにも稀なことであってそのようなプレーによって確かな利得を出している選手は(少なくとも今シーズンについては)存在しないと考えてよさそうです。ファインプレーを見れば「あの選手は守備がうまい」と印象に残りやすいものですが、そのことと実際にシーズンを通じて失点を防ぐのに貢献しているかとは別の問題であり、利得を冷静に映し出す数値化の面白味が表れるところだと思います。
ただし痛烈なライナーの類は特に、少しの打球方向の違いで捕球のしやすさが大きく異なると思われポジショニング位置の入力がなく、離散的な範囲を区切って処理するUZRではその部分の分解に限界があることは確かでしょう。とはいえ、「ライナー処理能力」を拡大してスポットを当てれば何かしら差が出るかもしれないものの実際のチームの利得がそれによって影響される幅は非常に小さいと考えられることに変わりはありません。結局、ゴロだけを対象とした解析でも守備の働きはほぼ表せるのではないかと考えられます。
事実として選手の守備による結果でありそれで微小とはいえ差がついているのにゴロ以外を除く計算をする理由ですがゾーンを使ったとしても複数の守備者が関与する可能性のある内野フライなどについてはいかにポイントを割り振るかということが微妙な問題としてあり得られる意味のある情報よりもノイズのほうが大きくなってしまう(可能性がある)ためです。
MLBでは内野の飛球を含める指標も含めない指標も両方あり、どちらにもデメリットがあるというのが現状のようです。理想として考えれば、れっきとした守備の仕事である飛球の処理を含めない理由はないと個人的には思いますがなかなか難しいところです。

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野球を客観視した独自の論評、分析、および研究を特徴として、野球に関するさまざまな考察をしています。
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