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BATTING AVERAGE ON BALLS IN PLAY ~Part 2

蛭川皓平 [ 著者コラム一覧 ]

投稿日時:2011/02/10(木) 10:00rss

3.日本における傾向
 
 MLBの研究を概観したところで(前回の記事を参照)、NPBにおける各種のデータがどうなっているかについて確認しておこう。まずは指標がその選手の能力をどれだけ反映しているかの目安とするためにyear-to-year correlation(指標のある年と次の年の相関)を見てみる。ここでは2001年から2010年までの間の10年間で、2年連続して対戦打席300以上の出場のある投手(393サンプル)を対象として集めた。
 
 まずは奪三振のレートについて。
 

 
 対象の選手それぞれについて横軸がある年の奪三振率、縦軸がその次の年の奪三振率を表している。なお、ここで奪三振率は打席数に対する割合で計算していて以下与四球・被本塁打についても同様である。
 
 散布図が左下から右上にかけての直線の周辺に集まっているということは、ある年に奪三振率が高かった投手は翌年も高いというような一貫性が傾向としてはあるということを意味している。相関係数は.69。奪三振は投手ごとに能力に差がありそれがだいたい一貫して結果に出てくると考えていいだろう(余談だが、グラフ右上の例外的に傑出した数値は藤川球児)。
 
 続いて与四球率。
 

 
 相関係数は.49。さほど強い相関というわけでもないように思われるが、傾向は出ている。
 
 そして被本塁打率。
 

 
 比較的丸い分布になっておりばらつきがある。本塁打は出現の絶対数が少なく、そのために相対的にノイズの割合が多いのかもしれない。相関係数は.31。
 
 さて、本命のBABIPは以下のようになっている。
 

 
 かなりランダムな分布であり、相関係数は.12、決定係数は.0148である。これだとマクラッケンが示したように、投手のBABIPは年ごとに非常に不安定であるということが日本についても当てはまると言えそうである。ある年BABIPが高い投手は翌年も高い、あるいは逆にある年BABIPが低い投手は翌年も低いという傾向はほとんどない。BABIPの内容についての解釈がどうであろうと、まずこのことは事実として認識されるべきである。したがって、ある年にBABIPが低かったという実績だけをもって翌年も低いだろうと予測するのはほとんど当てずっぽうと変わらないことになる。こういった傾向を根拠として、BABIPのよくある使い方は短い期間での極端に高いまたは低いスコアを「警報」として受け取り、その選手は以降もっと平均に寄る可能性が高いだろうと考えるというものである。
 
 BABIPが低かった投手はその後必ず上がるということではない。そうではなくて、BABIPが低かったことと無関係に、平均程度になるかもしれないし高くなるかもしれないしそのまま低いかもしれないということである。そして確率的な試行の都合上、平均程度になる可能性が最も高く極端な値をとる可能性は低く、極端なスコアだった選手は傾向としては相対的に平均値に寄ることになる。ただしそれでも数百のサンプルを通じて相関係数がゼロではないということは意識する必要があり、そのうち一部がティペットやタンゴタイガーらが示したもの(投手の持つ限定的な支配力)であると考えられる。
 
 各項目の相関係数をまとめておく。繰り返すがこれはNPBで2001年から2010年までの間に連続する2年で対戦打席300以上の出場をしている投手を対象としたものである。
 
 奪三振  :.69
 与四球  :.49
 被本塁打:.31
 BABIP   :.12
 
 これらのデータはリーグ全体の水準などの要素に対して細かい補正はしていないが、取りあえず実際に目にする数字がどれだけ不安定かということはこのデータからわかる。また連続して対戦打席300以上の投手を選んだということはそれ自体がセレクティブ・サンプリングの問題を内包しており、このデータの影にはある年はローテーションで役目を果たしたが次の年300打席分出場させるのに耐えないほどBABIPが急激に悪化して(打たれまくって)二軍暮らしになりサンプルに含まれなかった投手、などもいるかもしれない。
 
 BABIPの気ままな振る舞いは従来の常識からすると不可解である。そしてさらに悪いことに(ここまでの情報から類推はできるのだが)BABIPをその他の要素から「説明」することも難しい。例えば被本塁打の少ない投手は強い打球を打たせない能力があるからグラウンド上に飛んだ打球もヒットになりにくいのではないかと考えてみても、被本塁打率とBABIPの相関係数は-.03と低くそのような傾向は見られない。同様に与四球率とBABIPの相関は.03、奪三振率では-.11といずれも低い(これらの相関係数は2001年から2010年までの間に対戦打席300以上の出場をした全ての投手延べ745サンプルから計算した)。これは「四球を出さない投手はコントロールがいいから当てさせるにしても狙い通りアウトをとるピッチングができる」とか「奪三振の多い投手は当てることさえ難しい強力な投球をしているから当ててもヒットになりにくい」とかいうことが傾向としては言えないことを意味している。
 
 また、投手がゴロを打たせるかフライを打たせるか(ゴロ/フライ比)ということにはかなり一貫した傾向がありもしかすると頻繁にゴロを打たせる投手には印象として「打たせて取るのがうまい」と思いがちかもしれないが、それでも実際にそのゴロがアウトになるかヒットになるかに関しては安定していないというのも面白いところである。いったい投手にとってBABIPとは何なのか。はじめの言葉に戻るが、BABIPは扱いにくい。
 

4.BABIPは運か
 
 ここまで見てきたのは、BABIPに関する研究の歴史と、データの集まりである。ここからはBABIPの直感的な理解、解釈についても少し考えてみたい。
 
 BABIPの議論についてひとつ感じていることは、BABIPの説明に安易に「運」という言葉が用いられてしまうことはもしかすると不要な混乱の元なのではないかということである。選手たちの熱いぶつかりあいの結果を「運」の一言で片付けることに感覚的に問題があるのは自然であるし、実際、BABIPは運ではない。というより、ここまで見てきたように、BABIPが「完全に」運であるという考えは間違っている。
 
 しかし同時に、振る舞いに一貫性がなく系統的な要因で説明できないランダムなその様子を「運」や「偶然」と呼ぶことは表現のひとつとして妥当でもある。試合の中でサイコロを振っているわけではないが、法則性がなく当人の努力ではどうしようもないものを定義上運と呼ぶのである。突き詰めればその都度原因のようなものの説明をつけることは可能かもしれないが、そのこと自体は問題ではない。本質的には運という表現を用いるかどうかはどちらでもよく、肝心なのは運と言うときに具体的に何を意味するのかを確認しておくことなのかもしれない。
 
 そして言葉の表現の仕方に関わらず数字の関連性などのコンテクストを定量的に把握しておくことも重要である。「BABIPは運の要素が大きい」「いや、そんなに大きいとも言い切れない」などは「大きい」が具体的に何を指すかという定義を確認すれば済む言葉上だけの議論かもしれないし、そうでないにしても「程度の問題」である以上定量的に考えるほうが論点を明確にするのに有効である。
 

5.ボールインプレーの力学
 
 プレーの内容として、BABIPが不安定なことをどう考えておけばいいのだろうか。ティペットは、BABIPの不安定な振る舞いは野球の物理に沿うものだと言及している。何しろ高速で動いている丸いボールを、丸いバットでなんとか対応してたたくのである。しかもボールには縫い目という凹凸があり、回転を伴っている。このような条件では仮に投手と打者が協力関係にあったとしても狙い通りのところに正確に打球を送り込むなどということは難しいだろう。各要素のちょっとした差がアウトかヒットかの分かれ目になり得る。
 
 対立する投手と打者の力の均衡という側面から考えることもできる。打者はなんとかヒットを打とうとし、投手や守備者はなんとかそれを防ごうとする。結局両者の力が均衡してどちらにとっても容易に都合の良い結果を出し続けることはできず、長期的に見れば多少は差がつくものの短期的に見れば結果は偶然的な要素によって決まる部分が多いのかもしれない。投手が思ったときに思ったようにアウトになる打球を打たせることができるのであればそもそもBABIPは0%になるはずである。対戦は両方の視点から考える必要がある。投手がボテボテのゴロを打たせたときにアウトになるのは偶然ではないが、ボテボテのゴロを打たせたこと自体は偶然かもしれず都合よくそれを打たせ続けることは難しいらしい。
 
 しかし両者の力が引っ張り合うのはどのプレーでも同じはずで、それなのになぜBABIPが目立ってランダムな振る舞いをするのだろうか。これは少し思いつきだが、BABIPは一定以上力関係が傾いたときに結果が決するものではなくそもそもプレーとして中途半端な位置付けにあることがひとつ関係しているのではないかと考えている。
 
 打席の内容として、打者によって一定以上の力を加えられ成功となった打球はBABIPの枠から外れる(本塁打)。また、打者が力を及ぼせないほど一定以上の優れた投球もBABIPには入らない(空振り・三振)。投球の失敗や打者が見極めた場合もBABIPには関係ない(見逃し・四死球)。結局、BABIPに含まれる打球はBABIPに含まれているというその時点で明確にどちらかの力関係に支配されているとは言えないものであることを意味しているのかもしれない。BABIPはそもそもが「本塁打になるほど打者が勝ってもいないし空振りになるほど投手が勝ってもいない」という微妙な打席だけを舞台にしている。
 
 三振や本塁打や四球など、他の結果にももちろんランダムな要素は無視できないほどに混ざっている。しかし、BABIPはその大きさが、他の項目とは分けて考えることが自然なほどに目立って大きいのである。上記はいくらかその理由の説明になっているのではないだろうか。ただしこのあたりは「解明された」と言えるような瞬間が来る類のものとも思えず、保留をつけておかなければならない。BABIPがランダム的な振る舞いをするのは絶対的な原理・法則のレベルではなく、経験則である。
 

6.評価への適用
 
 BABIPの性質について考えたところで実際にどう選手の評価に用いるかということだが、それにあたってはまず投手のBABIPと打者のBABIPと守備のBABIPを分けて考える必要がある。ここまで言及してきたMLBの研究やNPBのデータは全て投手のBABIPである。
 
 マクラッケンがDIPSを開発したのにはそもそも投手の働きと守備の働きを分けるという問題意識があった。あるアウトの打球に関して、そのアウトは投手の手柄なのか守備の手柄なのかわからない。その点、打者に関して言うと打者のBABIPを決定する攻撃側の要因はその打者自身だけである。だから打者のBABIPの振る舞いがどうであろうと、それを結果としてその打者の評価とすることはその他の項目と比べてこれといった問題があるわけではない(走者の影響は多少あるだろうがそれが理由で年間の結果が大きく偏ることは考えにくい)。責任という観点から言えば打者のBABIPは他と分ける余地がないということである。ちなみに打者側から見たBABIPの一貫性(year-to-year correlation)は投手のそれよりは少し高く、守備に関与しない項目に比べるとかなり低い。だから真の能力を見積もったり未来の成績を予測したりする場合については、やはり打者でもBABIPには注意する必要がある。
 
 守備のBABIPについても一応触れておく。守備のBABIPというのは通常はDERの形で用いられ、ふたつは表現が裏返しなだけで内容としては同一である。「1-BABIP」と計算すればDERの意味になる。つまり守備から見ればBABIPは、グラウンド上に飛んできた打球のうちどれだけをヒットにしてしまったかというチームの守備力を表す数字として使える。ここで重要なのは、守備からすると投手・打者の要素は分散され、かなりの程度平均化されるだろうということ、そして投手や打者個別のBABIPに比べて分母であるBIPの数が多いということである(シーズン全体で見た場合)。これにより守備以外の要素による偏りが減り、守備力の目安とすることが可能となる。
 
 問題はやはり投手個別のBABIPをどう評価するかということである。BABIPに投手の能力が色濃く反映されているとは考えにくいし、ノイズが偶然だけであるならまだしも打球のアウトを成立させているのは最終的には野手である。結局、BABIPの高低についての評価を投手に与えるべきなのか、そうではないのか。実際のところ、現段階でこれについての完全な答えはない。少なくともわかるのは、BABIPを完全に投手の責任とすることは守備を無視する考え方となりおかしいし、逆にBABIPを完全に守備のものと考えるのもおかしいということである(ティペットらが示したように投手ごとに若干ながら異なる傾向は出ている)。理想的な評価はその中間のどこかにある。
 
 そして、現実に可能な選択肢の中で、守備から切り離した投手の評価ということに関してDIPSがひとつの有力な選択肢であることは言えそうである。投手のBABIPが相当にランダムである様子を見ると、DIPSの考え方は完全ではなくとも一定の筋が通るし、打球の処理の結果は野手に評価を与えるという形で一応の体系を作ることもできる。DIPSには、詳細なデータを必要とするものの単にBABIPを無視するのではなく投手が許したゴロ・ライナー・フライ等にそれぞれの一般的な失点を加重する方式もある。あるライナーが結果的にアウトになったかどうかは別としてライナーを打たれたこと自体は投手の責任だというわけである。そういった計算を行うこともより実態に合った評価をするための優れた方法かもしれない。
 
 防御率は失策による失点は排除しているが、失策というのはあくまで守備の一部にすぎずUZRなどの研究によれば守備は失策に表れない部分で失点により大きな影響を与えている。多くの守備の影響は防御率に含まれてしまっていると考えるべきだろう。投手を防御率で評価した上で野手の失策以外の守備を評価すると、全体としては利得の二重カウントが生じてしまい整合性がとれない。またUZRのように守備指標の研究が進んだ現在では、全体の失点から守備による貢献を除いて「平均的な守備の場合に投手が許す失点数」を逆算する手もある。ちなみに現在セイバーメトリクスにおける選手の最終評価として定番のWAR(Wins Above Replacement)を公開しているFanGraphsでは、その投手評価にFIPを採用している。
 

7.おわりに
 
 本稿でこれという決定的な結論が出たわけではない。今のところ、BABIPをいかに扱うかということについては人それぞれに幅があっていいと考えている。しかし結論を出すにあたって論理的な矛盾を招かないために基本的に認識しておくべき事柄はいくつかあり、ここではその整理ができたのではないかと思う。
 
 なお、BABIP/DIPSに関しては意見が分かれるだけに無数の研究があり、ここで紹介しているのはそれらのうちのほんの一部にすぎないことをお断りしておく。派生的な議論まで含めるとその量は想像もつかないし、今回の目的はあくまでも基本を確認することだから最低限おさえておくべきと思われるものを選択した。
 
 ただでさえわかりにくい議論を複雑にしたくない都合上、話を簡略化している面もある。現在やこれからの評価を考えるという意味で今回使用したNPBのデータは直近10年のもので、ここで確認したBABIPのセオリーが往年の投手の評価にまで適切に当てはまる保証はない。その他例えばプロ野球以外でBABIPの傾向がどうなっているかなどについては全くわからない。このあたり、特定のデータから得られた傾向を過度に一般化しない節度が必要だろう。


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