70年代以降の捕手守備指標
蛭川皓平 [ 著者コラム一覧 ]
1.歴代捕手を評価する
以前に、捕手の打撃と守備それぞれを得点化して評価するということを行なった(「捕手の総合力比較」)。ここで私が興味を持ったのは、これらの守備の得点化を過去にさかのぼって適用したらどうなるのか、ということである。すなわち名捕手として名高い古田敦也や伊東勤などの歴代の捕手たちは客観的に得点化を行なうとどれほどのスコアになるのだろうか。
この疑問に答えを出すため本稿では、データが得られた1970年代以降の捕手の守備成績について、守備の得点化を行なう。
2.評価の方法
評価の方法は、基本的に以前のコラム「捕手の総合力比較」に準じる。ここでその評価法を簡単に説明すれば、許盗塁-0.17、盗塁刺0.31、捕逸-0.29、失策-0.30の係数をかけてイニングベースでその多さを評価するというものである。盗塁を多く刺す捕手、捕逸をしない捕手、失策をしない捕手にはそれがどれだけ失点を防ぐかに見合った分の貢献値が付与される。一言で言えば「同じ出場機会分をリーグの平均的な捕手が出場する場合に比べてどれだけチームの失点を減らしたか」の意味である。この評価法について、「リード」をブラックボックスとしているのはともかくとしても盗塁阻止に比重がかかりすぎではないかとか打球の処理に関するプレーを全く無視しているのはいかがなものかといった課題は考えられるのだが、とりあえず「シンプルにやるとこうなる」というものとして見ていただきたい。
なお、2003年以前については個別守備イニングの記録が得られないためチームとしての守備イニング数を捕手の刺殺のシェアに応じて割り振っている。すなわち、チームの守備イニングが1250、チームの捕手の合計刺殺数が1000、対象の捕手の刺殺数が900であれば 1250×(900/1000)=1125 で対象の捕手は1125イニングの出場があったと推定する。荒っぽい手法ではあるが守備イニングのデータがあるシーズンで確認するとかなり精度は高いため分析上問題はないものとして考える。
3.70年代以降の守備得点ランキング
上記の手法によって計算される守備得点を、1970年代以降で500試合以上の出場がある全ての捕手について集計してみた。盗塁阻止・捕逸・失策の項目はそれぞれの要素で防いだ失点数であり、守備得点はそれらの合計である。

この数値で正の値を残している捕手は歴代で名手の部類と考えていいだろう。なお、70年代以上を対象としているのは単純に入手できたデータの関係であり、晩年だけが対象に含まれてしまった捕手などは過小評価されがちなことに注意していただきたい。
さて、トップの数字を残しているのは大方の予想通り古田敦也。現役生活を通じて平均的な捕手に比べて78も失点を防いでいる。シーズンあたりにすれば約5点であり、この指標の分布からすると一般的に言ってリーグトップレベルである。つまり、古田の守備は現役生活を通じて“平均的に”リーグトップレベルのパフォーマンスを発揮したことに相当する。
2位は現役ながら59点で谷繁元信。数字のペースと年齢を考えると古田を超えることは難しいと思われるが、盗塁阻止をメインに非常に優れた成績を残している。
3位の伊東勤は上位ランクの捕手としては異色で、守備得点のうち盗塁阻止の占める割合が少ない。捕逸・失策で防いだ失点はそれぞれ対象選手中トップであり、盗塁阻止では目立たないが「何も起こさない」ことによって失点を防ぐタイプの捕手であると言える。チームに安心を与えるのは、実はこのようなタイプの捕手なのかもしれない。
その他意外な選手が好成績を残していたり、そうでなかったりするので、気になる選手の数値を眺めていただければと思う。
4.リプレイスメント・レベルの導入
ところで、選手の価値を考えるとき、平均的な水準と比較してのプラスマイナスが全てとは必ずしも言えない。たとえば、シーズンあたり平均と比較して-1の捕手はもちろん平均より劣る捕手であるが、仮にチームのそれ以外の捕手が-5のレベルであれば出場しないよりはしたほうがチームにとって(4点分)プラスである。
このようなことを踏まえて、選手を平均レベルと比較するのではなく一般的な控えレベル(リプレイスメント・レベル)の選手を出場させる場合と比較して評価する手法がある。守備のリプレイスメント・レベルは考慮されないことも多いが捕手の通算成績を評価するときには無視できないものと考えたため試験的に評価に導入してみる。
控えレベルがどのくらいの能力水準かということははっきりしない問題ではあるが、ここでは各年度・各球団で最も多くのイニング守備に就いた捕手をレギュラー、残りを控えとして集計し一般的な捕手守備の控えレベルを算出した。これは『Baseball Between the Numbers』に掲載されているキース・ウールナーの手法を参考にしたものである。
集計の結果、一般的に控えレベルの捕手は140試合(1260イニング)あたり平均的な捕手に比べて失点を3.6多くすることがわかった。つまり、仮に平均と比較してプラスマイナスゼロの捕手でも、単純に140試合出場すればそれだけで控えレベルに比べると3.6点のプラスだと評価することができる。積極的に良いプレーをしたわけではなくとも、しっかりと出場し続けて力の劣る捕手を出場させないことはそれ自体チームに利得を与えているということである。
出場するだけで付与されるこの控えレベルと比較しての利得を「出場価値」として守備得点に加算すると、新たな「守備得点’」は以下のようになる。

平均と比較して優れていることも重要だがどちらかといえばこの控えレベルとの差も考慮した守備得点’が、その選手が存在したことのありがたみというか、その選手からチームが受けた恩恵といったものの実態に近いのではないかと思う。
5.年代別優秀者
最後に、70年代以降とひとまとまりではなく70年代・80年代・90年代・2000年代と10年ごとに区切って守備指標’の優秀者トップ3を掲載する。ここでもまた区切りは恣意的なものであり「1975年から1984年にかけて大活躍した捕手」などが仮にいた場合損をする可能性があるが、上位3名まで記載することによりその時代に支配的な活躍をした捕手が誰だったかはだいたいわかるのではないかと思う。

6.おわりに
以上、比較的簡単な分析手法ではあるが、歴代捕手の守備について評価を行なった。このネタの発展的な話題としては、たとえば打撃についても控えレベルの捕手が打席に立つ場合に比べてどれだけ得点を増やしたかという観点から評価し攻守を総合して「歴代で最強の捕手は誰か」を計算するといったものが考えられる。そのような評価を行なった場合に城島健司や阿部慎之助あたりが古田を超えることがあるのかなどは興味深いところである。今後Baseball Lab内でそういった観点の分析が出てくるかもしれないし、個人的にも機会があれば探ってみたいと考えている。
以前に、捕手の打撃と守備それぞれを得点化して評価するということを行なった(「捕手の総合力比較」)。ここで私が興味を持ったのは、これらの守備の得点化を過去にさかのぼって適用したらどうなるのか、ということである。すなわち名捕手として名高い古田敦也や伊東勤などの歴代の捕手たちは客観的に得点化を行なうとどれほどのスコアになるのだろうか。
この疑問に答えを出すため本稿では、データが得られた1970年代以降の捕手の守備成績について、守備の得点化を行なう。
2.評価の方法
評価の方法は、基本的に以前のコラム「捕手の総合力比較」に準じる。ここでその評価法を簡単に説明すれば、許盗塁-0.17、盗塁刺0.31、捕逸-0.29、失策-0.30の係数をかけてイニングベースでその多さを評価するというものである。盗塁を多く刺す捕手、捕逸をしない捕手、失策をしない捕手にはそれがどれだけ失点を防ぐかに見合った分の貢献値が付与される。一言で言えば「同じ出場機会分をリーグの平均的な捕手が出場する場合に比べてどれだけチームの失点を減らしたか」の意味である。この評価法について、「リード」をブラックボックスとしているのはともかくとしても盗塁阻止に比重がかかりすぎではないかとか打球の処理に関するプレーを全く無視しているのはいかがなものかといった課題は考えられるのだが、とりあえず「シンプルにやるとこうなる」というものとして見ていただきたい。
なお、2003年以前については個別守備イニングの記録が得られないためチームとしての守備イニング数を捕手の刺殺のシェアに応じて割り振っている。すなわち、チームの守備イニングが1250、チームの捕手の合計刺殺数が1000、対象の捕手の刺殺数が900であれば 1250×(900/1000)=1125 で対象の捕手は1125イニングの出場があったと推定する。荒っぽい手法ではあるが守備イニングのデータがあるシーズンで確認するとかなり精度は高いため分析上問題はないものとして考える。
3.70年代以降の守備得点ランキング
上記の手法によって計算される守備得点を、1970年代以降で500試合以上の出場がある全ての捕手について集計してみた。盗塁阻止・捕逸・失策の項目はそれぞれの要素で防いだ失点数であり、守備得点はそれらの合計である。

この数値で正の値を残している捕手は歴代で名手の部類と考えていいだろう。なお、70年代以上を対象としているのは単純に入手できたデータの関係であり、晩年だけが対象に含まれてしまった捕手などは過小評価されがちなことに注意していただきたい。
さて、トップの数字を残しているのは大方の予想通り古田敦也。現役生活を通じて平均的な捕手に比べて78も失点を防いでいる。シーズンあたりにすれば約5点であり、この指標の分布からすると一般的に言ってリーグトップレベルである。つまり、古田の守備は現役生活を通じて“平均的に”リーグトップレベルのパフォーマンスを発揮したことに相当する。
2位は現役ながら59点で谷繁元信。数字のペースと年齢を考えると古田を超えることは難しいと思われるが、盗塁阻止をメインに非常に優れた成績を残している。
3位の伊東勤は上位ランクの捕手としては異色で、守備得点のうち盗塁阻止の占める割合が少ない。捕逸・失策で防いだ失点はそれぞれ対象選手中トップであり、盗塁阻止では目立たないが「何も起こさない」ことによって失点を防ぐタイプの捕手であると言える。チームに安心を与えるのは、実はこのようなタイプの捕手なのかもしれない。
その他意外な選手が好成績を残していたり、そうでなかったりするので、気になる選手の数値を眺めていただければと思う。
4.リプレイスメント・レベルの導入
ところで、選手の価値を考えるとき、平均的な水準と比較してのプラスマイナスが全てとは必ずしも言えない。たとえば、シーズンあたり平均と比較して-1の捕手はもちろん平均より劣る捕手であるが、仮にチームのそれ以外の捕手が-5のレベルであれば出場しないよりはしたほうがチームにとって(4点分)プラスである。
このようなことを踏まえて、選手を平均レベルと比較するのではなく一般的な控えレベル(リプレイスメント・レベル)の選手を出場させる場合と比較して評価する手法がある。守備のリプレイスメント・レベルは考慮されないことも多いが捕手の通算成績を評価するときには無視できないものと考えたため試験的に評価に導入してみる。
控えレベルがどのくらいの能力水準かということははっきりしない問題ではあるが、ここでは各年度・各球団で最も多くのイニング守備に就いた捕手をレギュラー、残りを控えとして集計し一般的な捕手守備の控えレベルを算出した。これは『Baseball Between the Numbers』に掲載されているキース・ウールナーの手法を参考にしたものである。
集計の結果、一般的に控えレベルの捕手は140試合(1260イニング)あたり平均的な捕手に比べて失点を3.6多くすることがわかった。つまり、仮に平均と比較してプラスマイナスゼロの捕手でも、単純に140試合出場すればそれだけで控えレベルに比べると3.6点のプラスだと評価することができる。積極的に良いプレーをしたわけではなくとも、しっかりと出場し続けて力の劣る捕手を出場させないことはそれ自体チームに利得を与えているということである。
出場するだけで付与されるこの控えレベルと比較しての利得を「出場価値」として守備得点に加算すると、新たな「守備得点’」は以下のようになる。

平均と比較して優れていることも重要だがどちらかといえばこの控えレベルとの差も考慮した守備得点’が、その選手が存在したことのありがたみというか、その選手からチームが受けた恩恵といったものの実態に近いのではないかと思う。
5.年代別優秀者
最後に、70年代以降とひとまとまりではなく70年代・80年代・90年代・2000年代と10年ごとに区切って守備指標’の優秀者トップ3を掲載する。ここでもまた区切りは恣意的なものであり「1975年から1984年にかけて大活躍した捕手」などが仮にいた場合損をする可能性があるが、上位3名まで記載することによりその時代に支配的な活躍をした捕手が誰だったかはだいたいわかるのではないかと思う。


6.おわりに
以上、比較的簡単な分析手法ではあるが、歴代捕手の守備について評価を行なった。このネタの発展的な話題としては、たとえば打撃についても控えレベルの捕手が打席に立つ場合に比べてどれだけ得点を増やしたかという観点から評価し攻守を総合して「歴代で最強の捕手は誰か」を計算するといったものが考えられる。そのような評価を行なった場合に城島健司や阿部慎之助あたりが古田を超えることがあるのかなどは興味深いところである。今後Baseball Lab内でそういった観点の分析が出てくるかもしれないし、個人的にも機会があれば探ってみたいと考えている。
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野球を客観視した独自の論評、分析、および研究を特徴として、野球に関するさまざまな考察をしています。
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