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「EXTRA 2%」

三宅博人 [ 著者コラム一覧 ]

投稿日時:2011/07/12(火) 10:00rss

 野球ファンは勿論、球団関係者に是非読んでもらいたい一冊。残念ながら翻訳版はないようだが、多少英語に自信のある方は挑戦して欲しい。
 


  •  この本は、レイズのサクセスストーリーを綴ったドキュメント本。同じくMLBを舞台としたサクセスストーリーとしては、セイバーメトリックスを世に広げた有名な「マネーボール」がある。レイズもまたチーム編成にはこの手法を採用していることは知っていたので、「マネーボール」から時間が経った今、このメトリックスがどんな形でこの本に登場するかは興味があった。
     
     「マネーボール」にはその手法についてかなり多くのことが書かれていて、ビル・ジェームスはあるチャプターにおいては主役であったように、セイバーメトリックスの紹介本と言う一面があった。「EXTRA 2%」にはさらに多くのメトリシャンの名前(多くはレイズのスタッフ)や、或いは様々なメトリックスが登場するが、趣は違っている。チームの躍進の重要な要素ではあるが、それだけではなく、オーナー初め経営陣のビジネスの手法などと相まって、商業的なものも含め現在の成功があるとしている。つまりセイバーメトリックスは既に特別なものではなく(本書ではボストン、オークランド、ミネソタなどがセイバーメトリックスを使用しているチームとして挙げられていた)、当然のツールとしての紹介で、改めてMLBの中でのセイバーメトリックスの定着ぶりを感じた。
     
     また本書で野球のシチュエーションなどを説明する際も、ごく当たり前にセイバーメトリックスが使われている。余談になるが、私はESPNのPODCAST、「Baseball today」や「Fantasy focus」などを聞いているが、選手評価に使われるのはやはりセイバーメトリックスである。「Baseball today」にはセイバーメトリックスを過信することに対して快く思っていないアナリストも登場するが、そんな人たちでさえ公平に判断する材料として認めざるを得ない存在になっている。
     
     考えてみれば、何かで効果的に成功を収めようと思えば、下準備として統計的手法をとるのは当然で、特にマーケッティングなどのビジネスシーン、宣伝目的ではない薬品などの効果、工業製品などの品質評価などなど統計が使われるケースは無数にある。野球選手の評価にそれが使われないのはむしろ不思議と言える。
     
     ただ過信は禁物で、例えば数字のマジックと言われる統計もどきには気をつけなければならない。送りバントの効果について書かれた本を読んだことがあるが、そこでは送りバントしたケースとそうでなかったケースとの比較で、どちらが効果があるか数字を上げて紹介していた。一見公平な比較で、結論は前者に軍配が上がったわけだが、それは当然である。なぜなら送りバントしたケースとは、つまりすべてが成功した事例で、失敗は含まれていない・・・失敗はなんと”そうでなかったケース”に含まれているわけであるから。
     
    余談が長くなったが、本題に戻るとして、本のタイトルの「EXTRA 2%」とは、ブックカバーの後に書いている紹介文を引用すると・・・

    「限界と思えるところからのもう少しの何か、努力、ノウハウ、或いは幸運」という意味。

    レイズのここ最近の成功はマジックではなく、このタイトルに表現されるところのあと僅かの何かが産んだものだと紹介している。
     
     全体で12章からなるが、大きくは誘致からチームの低迷期と現オーナー体制に移行してからの成功の二つに分かれている。ネタばれの関係であまり多くのことは書けないが、前半部で興味を引いたエピソードとして、担当のスカウトがプーホルズ(現セントルイス・カージナルス)に無名時代から目をつけておきながら、ドラフトで指名できなかったことがあった。個人的には現在のレイズの成功は、過去の低迷期と切り離せない・・・つまり完全ウエーバー方式のドラフトにより、有力なプロスペクト(有望株選手)を数多く指名できたからとも考えていたが、デビルレイズ時代のドラフトでの無戦略ぶりも書かれていて、プーホルズの件はその一つである。
     
     全体を読んで感じたことは、チームが躍進するためには、一つのパーツ、或いは一人の人間を変えただけではだめなのだ、ということだ。例えばチーム編成にセイバーメトリックスを使い始めたとして、チームの弱点を埋める選手をリストアップできたとしても、その選手を獲得する為の交渉力や情報収集能力、或いは資金力がなければ実現しない。また監督を代え、仮に成績の向上や商業的な成功があったとしても、その監督が代わった時点でそのアドバンテージが失われる。チームとして経営陣が確固たる目的を掲げ、それに沿った具体的なノウハウを持ち、そして適材適所の人間を配置する・・・とどのつまりこの言い古されながらも実現が難しい体制を築くことが大切である。
     
     本書によると、監督を選択する条件として、裏表がなく柔軟であるといったキャラクター的なものの他、セイバーメトリックスを初めとする新手法に明るいあるいは理解のある人物、そして思いやりを持ちながらも鋭敏な感覚で若い選手たちとうまくやっていける人物ということが上げられていた。当時のチーム状況を考えるとリーズナブルな選択条件である。そして第一候補に挙がったのが、現ヤンキース監督のジョー・ジラルディ。残念ながらそれは適わなかったが、結局ジョー・マドンというジラルディと甲乙つけがたい人物を得ることになった。トレードしてまでオールドスタイルのピネラを、その名声だけで獲得した旧体制とは対照的である。
     
     さらに商業的にも、コンサートとのタイアップなどにより、集客を増やし成功しつつある。誘致初年度の1ゲーム当たり3万人という記録には及ばないが、低迷期に半分以下に落ち込んだものを2万3千人程度まで戻している。
     
     勿論すべてレイズの戦略がうまく行ったわけではない。例えばオーナー交代後の初年度の成績は、シーズン途中まで見所はあったが、結局は指定席の最下位であった。この状況については本書で詳しく触れられている通り、前経営陣から負の遺産を多く抱えてもいたが。またトレードではエドウィン・ジャクソンとマット・ジョイスの例が失敗としてウィキにのっている。ただジョイスも徐々に力を発揮してきていて、この結論を出すのは早計であろう。
     
     また本書では触れられていないサイドストーリーとして、スターンバーグは現状のマーケット規模に満足しておらず、他チームの買収に動きつつあるといった状況もある。さらにトランザクションの成功例として上げられていて、リーグ初優勝当時の立て役者でもあったガーザやバートレット、或いはカルロス・ペーニャなどは他のチームに移動している。恐らく日本では考えられない状況で、これらはファンの同意が得られるのかは疑問なところだ。
     
     つまりはレイズの成功はアメリカ的と考えられるかもしれないし、一部はその通りであろうと個人的にも考える。しかし日本の風土の中でも成功しえることは、本サイトライターの岡田友輔氏の著作「日本ハムに学ぶ 勝てる組織づくりの教科書」でもわかる。実際のところ、日本の球団経営陣がどのような考えでどのように動いているかはわからないが、球団の優勝=監督の成功と捉えられ、また失敗の責任も監督が負うことが多いように感じる。それはそれで潔いのだろうが、それを繰り返している間は、少なくともレイズのような成功をそのチームが遂げることはできないであろう。

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