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Baseball Lab守備評価~First Baseman

三宅博人 [ 著者コラム一覧 ]

投稿日時:2011/01/26(水) 10:00rss

 一塁手の守備としての重要度は別として、守備能力よりも打撃能力が優先されオーダーが決まるケースの多いポジションであると言えます。2010年のゴールデングラブ賞を見ましてもセリーグは該当者なし、パリーグも小久保が選定はされていますが、該当者なしへの投票が45票と、セリーグのそれに続いて2番目の多さでした。
 
 
1.刺殺の扱い
 
 補殺数が守備の負担を一部表現していることはよく言われることですが、昨シーズンの一塁手の合計は984であったのに対し、二塁手と遊撃手は五千を超え、三塁手も三千を越しています。ただそれら一塁手以外の補殺の大部分を刺殺として受け止めるのがその役目でもありますので、補殺の数だけを見て負担の表現はできないとは思いますが、ベテランスラッガーの守備の終着駅として一塁のポジションが語れるのが少なくないのも事実です。そんな状況下での私の一塁手ランキングですが、以下の通りとなっています。
 

 
 今回のランキングは量重視で主に補殺の内容を評価しました。刺殺を加えなかったのは、現在のところ刺殺を正当に評価できる指標がないからです。RRFのような手法を使うことも考えられなくはありませんが、本当に評価するとなると野手からの送球への対応などワンプレイ毎にデータを集積することが必要になるでしょう。UZR等のゾーン系の評価軸から導かれた一塁手の補殺能力から、刺殺(捕球)能力を想像するのが現状ですが、もし一塁手の他の野手からの捕球能力を測ることができれば、”終着駅”と言う認識もあるいは変わってくるのかもしれません。


2.評価について
 
 さて上のランキングの基準となりましたポイントの算出方法ですが、それに行く前にUZRについて若干復習します。詳細は岡田氏のコラムに譲りますが、基本的な考え方は以下となります。
 
☆対象となる野手が平均的な野手に比較し、どの程度打球処理が多いか(あるいは少ないか)を算出したもの。
 
 処理数の比較は、対象ポジションの守備範囲を、ある基準によりゾーンとして分割されたエリア毎に行い、その結果を合計したものとなります。例えば二塁手の守備範囲中のあるゾーンの安打も含めた総打球数を100%とします。その内平均的な二塁手が80%の打球をアウトとした時、ある二塁手のアウト率が85%だった場合は、その二塁手は5%分、平均的な二塁手より優れていたこととなるわけです。その5%分の表現を、野球の得点と同じ価値になるよう変換したものがUZR Runsで、その計算方法は岡田氏のコラムによります。また以前に私がベースボール・シンク・ファクトリーでの説明を翻訳したものもありますので、それもご参考にされてください。
 
 ランキングのポイント算出方法の説明に戻りますが、UZR Runsのそれとは違うことを念のために断っておきます。上のランキング表は、それぞれの選手がゴロの補殺によって防いだ失点の合計となっています。UZR Runsの計算手法に倣い、ゾーン毎に安打となった場合の失点価値を割り出し、それを当該一塁手が実際に処理したゴロ数と掛け算し、さらに他のゾーンと合計して算出したシンプルなものです。二塁手や投手等他のポジションと守備範囲と重なるゾーンは、2010年NPB全体でのそれぞれのゴロ処理数の割合により、失点価値を分担しました。
以下が2010年の一塁手のゾーン毎の失点価値の一覧です。
 

 
 なお、今回は打球の強さは考慮していません。言葉の遊びになりますが、上の表は一塁手のそのゾーンにおける”責任の重さ”と言い換えられるでしょう。私のランキングの場合、その責任をどれだけ果たせたかを単純に示したもの、一方UZR Runsの場合は、平均的な野手が当該選手と同程度の処理をこなした場合、どんな差になるかを示したもので、その点が両者の違うところです。正直に書きますと、UZR Runsにて評価をしたかったのですが、今回の場合は私個人の能力を超えていたため、実現できませんでした。
 また上の表をご覧いただいてお気づきかもしれませんが、”責任の重さ”は、定位置から遠くなるほど軽くなります。その結果、守備機会が多ければ、いわゆるファインプレーが少ない選手でも、定位置近辺を堅実に守ることにより、ランキング上位に顔を出すことも可能なので、無事これ名馬的なランキングとも言えるかもしれませんね。今回の一塁手のランキングはまさしくそれが現れた結果のようにも思います。
 

3.一塁手評価の難しさ

 一塁手は打撃優先のポジションと冒頭に書き、その認識は変わっていませんが、同時に守備力の評価は難しいとあらためて感じました。それは、一塁手の特殊性によるものでしょう。理由は大きく3つ考えられますが、一つは先にも触れた刺殺が多くその評価法が定まっていないこと。の二つはいずれも補殺絡みですが、補殺機会が少ないため安定したデータが得られないこと、そしてUZRに代表される守備範囲評価が一塁手には通じない部分があるということです。
 

 
 上は2010年の一塁手と三塁手がゴロ処理をしたゾーン毎の分布を抜粋したものです。ゾーンはThe Hardball Timesが定めたものによっています。実際にはもう少し別な観点からのデータが必要になりますが、一塁手の場合はV3とW3近辺が、三塁手の場合はE3ゾーン内が定位置なのではないかと推理できます。注目してもらいたいのは一塁手のU3とV3の差の極端さ。三塁手もE3から三塁線方向にあたるD3ゾーンの頻度が極端に少なくなっていますが、D2ゾーンの数字はそれほど低くなっておらず、積極的にボールを追っている姿勢がうかがわれます。しかし一塁手の場合は三塁手とは違い、U2ゾーンの数字も低く、また一塁線方向のX2、X3の数字と比較しても控えめで、少なくとも一塁線重視で守っている姿勢を匂わせます。一塁手の場合、刺殺への準備が必要となるため、二塁方向の打球は自制する場合が少なからずあることは承知の事実ですが、それが数字には出てきているということが言えそうにも思います。打球を追うか追わないか、そのさじ加減も一塁手の腕の良しあしで、これを守備範囲系の数字で評価することは難しく、逆に反対の評価をしてしまうことも考えられるでしょう。
ちなみに以下の表は、私のランキング上位4人の処理数分布の抜粋となります。
 

 
 栗原を加えたのは個人的な興味からですが、守備機会の不足の弊害が出ているようなデータですね。ブラゼルとブランコは平均よりも二塁方向の打球を多く追っていて、また小久保の場合は見切りが早めである可能性があることがこの表からわかります。ただ繰り返しますが、これを検証するには安打も含めた総打球数等の別角度からのデータが必要になります。
 
 守備ランキングについてというよりも、一塁手守備能力の評価の難しさについて主に書いてしまいましたが、UZRについての批判を書いたものではありません。それどころか、ともすれば三振数のみを見て打者を評価するようなレベルから、飛躍的に信頼に値する評価軸として今後も大いに期待するものです。実際にファングラフやハードボールタイムズでは、wOBA等の打者の総合評価には信頼度で劣るもののかなりの再現性があることは証明されています。
 
http://www.fangraphs.com/blogs/index.php/uzr-2008-to-2009/
http://www.hardballtimes.com/main/blog_article/how-reliable-is-uzr/
 
 同時に改良の余地があることも事実ではありますが、まずそのスタートラインをNPBにて切ったデータスタジアム社に敬意を表し了とします。

コメント


カープファンなのでカープ贔屓な目線になってしまうのですが
今年の栗原選手の補殺100というのはどれくらいの価値があるのか凄く興味があります
もし今シーズンのデータが見れるようでしたら
宜しくお願いします

Posted by you2000 at 2011/12/23 17:26:12 PASS:
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