Baseball Lab守備評価~Left Fielder
道作 [ 著者コラム一覧 ]
1.レフトで起用される選手の考察
最も攻撃的なポジションの一つとしてファンの間でも定着しているポジションである。
そして実際にも世間の常識とあまり変わらない結果が出ている。外野のうちで最も打球に関与する頻度が低く、ラミレスや金本などのように隣のセンターに相当のカバーが必要とされる例もある。しかし、すべてのポジションにスピード系の選手を揃えた場合、チームの攻撃力に問題を生じることが考えられるので、メンバー構成によってはレフトをこのような状況にすることは避けられない場合もある。
算出方法はレンジファクターの手法にBatted Ball Stats を取り入れ、イニング当たりの数値を算出して順位づけを行った。積み上げ式の累計スコアとでは異なる順位になる例も多い。サンプルスケールの関係から、一応500イニングを超えた選手を対象としている。
2.レフトを守った選手の評価

トップの3人である嶋(広島)、T-岡田(オリックス)、和田(中日)が得点換算にして10点を超える利益をもたらしたと評価できるが、これは比較対象がラミレスや金本、スレッジといった得点換算マイナス20点レベルの選手になっているためでもある。特にDHのないセリーグでは水準程度の守備力があれば大きなプラスを計上することもできるようだ。
また、外野には「どちらでも取れるボールはまずセンターが取る」といったような約束事または暗黙の了解が時に存在し、プラスマイナスの数字の大きさは額面通りには取れない場合もある。ゾーンデータを確認したところ、セリーグでは巨人・阪神・広島に「約束事」の傾向が強く、パリーグでは日本ハム・ロッテ・ソフトバンクにこのような傾向がやや薄くではあるが見られた。これに対してヤクルト・横浜・オリックスには(そしておそらくは楽天にも)このような「暗黙の了解」は無いか、あっても拘束力は薄いと考えられる。
特に中堅と左翼が交錯しやすい位置のとあるゾーンでは、ヤクルトやオリックスは年間たった1回しかセンターが関与していないのに対し、ロッテは14回、日本ハムは11回関与している。その周辺のゾーンを加算しても、センターの関与がヤクルトは12回、オリックスは15回に対して日本ハム51回、ロッテ49回、阪神42回などと、球団ごとにはっきりとした傾向が出ている。オリックスのT岡田が好スコアをマークしているのにはこの影響もあるだろう。
もしも左翼中堅ともに標準又はそれ以上の守備力を有していた場合、両者でアウトの食い合いになる場合も予想されるところである。今年で言うならばヤクルト・広島・オリックスの左翼が記録した刺殺のうち、いくばくかは他の球団であればセンターが獲得したアウトとしてクレジットされているだろう。このため、左翼に実際より高く、中堅に低い数値が検出されている可能性は高い。
このうちヤクルトは青木を擁しながら近年は続けて約束事がユルめのチームとなっているようだ。2007年には外野の布陣が左からラミレス・青木・ガイエルとなっていた。左がラミレスとあれば中間の打球は基本的に中堅手が捕りに行くのは避けられないとして、右側にはそういう事情はなく、左右のテリトリーは異なる了解の下にあったようである。このような左右非対称のルールの下、打球分布の偏りまでもが重なった結果、この年のヤクルトは中堅青木のRFより右翼ガイエルのRFの方が高いという、いびつを通り越した異様な守備スタッツを記録した。


左中間・右中間の打球に関する外野手の守備関与を表にしてみた。いずれも中堅手と左翼手、中堅手と右翼手守備位置の中間付近に位置するゾーンである。Iが左翼手寄り、KとPが中堅手寄り、Rが右翼手寄りである。KとPの間に中堅手の正面ゾーンがある。打球の距離は両者が普通に追いつくことができる5~7に限った。
全体として外野の守備は左右非対称になっている。外野手同士の中間近くのゾーンでは僅かながら右翼手よりも左翼手の方が関与する割合が高いことは、印象からは予想外だったのではないかと思う。
これを見ると中間位置の打球に対する各球団ポジション別の温度差が激しいことは明らかである。
特に驚くべきは巨人。中堅手が最もよく両翼を助けており、その関与率が、例えばヤクルトに比べて1.4倍、両リーグ平均の1.2倍に上っている。にも関わらずアウト獲得率は巨人がNPB随一の数字となっているのである。これは、「約束事」の存在を否定した場合、巨人の中堅であった松本・長野が圧倒的な能力を示したことになってしまう。時に両翼を守り、助けられていたのがその長野自身であるのにも関わらず、である。また、batted ball stats においても巨人の外野守備は破綻しているどころか、プラスを計上している。
実際にはこれは、暗黙の了解が人により変わり得ることの他に、今年の巨人投手陣が危険なゾーンへの致命的な打球を余り許さなかったことが原因となっている。
結果としてこれは(少なくとも外野守備における)守備指標の合算が難しいことにもつながる。両翼が共にプラスマイナスゼロ、中堅がプラス10、チーム合計プラス10の布陣のチームに、プラス10の守備指標を示した左翼手が新加入したとしてもチーム全体の外野守備指標に10点の改善がみられることは期待できない。全員が全て前年と同様の状態をキープしていたとしても。このへんはあらゆる守備指標についての今後の課題になってきそうだ。

各球団で最も顕著な相違を示したゾーン(I:5~7)を抽出。
ここではヤクルトの青木及び日本ハムの糸井が2人合わせて飛球処理が1つのみと、積極的には関わっていない様子がうかがえる。チームとしてここは基本的に左翼のゾーン。両者ともにまず左翼が追い、取れなかった場合に落ちたボールをこの2人が拾っているだけである。
3.守備力のピーク
ライトの話が出たので担当外ではあるが少し。
今年の右翼はパリーグのレギュラー級全員にマイナス評価を下す解析者も多く居るはずである。これはもちろん控え選手の多くが優秀な守備スタッツを記録したためだが、このような例は歴史的にそう珍しいことではない。守備は一般に思われているより若い時期に盛りを迎え、名手として認知される頃には既に下り坂になっていること。そして打撃面でピークを迎える頃には既に下り坂になっている例が多く、守備で最も優れている時期にはレギュラーを奪いにくい。これらは、打撃と守備は相反する資質を要求されることを示し、今年のパリーグのスタッツはこういった事情を反映している。
最も攻撃的なポジションの一つとしてファンの間でも定着しているポジションである。
そして実際にも世間の常識とあまり変わらない結果が出ている。外野のうちで最も打球に関与する頻度が低く、ラミレスや金本などのように隣のセンターに相当のカバーが必要とされる例もある。しかし、すべてのポジションにスピード系の選手を揃えた場合、チームの攻撃力に問題を生じることが考えられるので、メンバー構成によってはレフトをこのような状況にすることは避けられない場合もある。
算出方法はレンジファクターの手法にBatted Ball Stats を取り入れ、イニング当たりの数値を算出して順位づけを行った。積み上げ式の累計スコアとでは異なる順位になる例も多い。サンプルスケールの関係から、一応500イニングを超えた選手を対象としている。
2.レフトを守った選手の評価

トップの3人である嶋(広島)、T-岡田(オリックス)、和田(中日)が得点換算にして10点を超える利益をもたらしたと評価できるが、これは比較対象がラミレスや金本、スレッジといった得点換算マイナス20点レベルの選手になっているためでもある。特にDHのないセリーグでは水準程度の守備力があれば大きなプラスを計上することもできるようだ。
また、外野には「どちらでも取れるボールはまずセンターが取る」といったような約束事または暗黙の了解が時に存在し、プラスマイナスの数字の大きさは額面通りには取れない場合もある。ゾーンデータを確認したところ、セリーグでは巨人・阪神・広島に「約束事」の傾向が強く、パリーグでは日本ハム・ロッテ・ソフトバンクにこのような傾向がやや薄くではあるが見られた。これに対してヤクルト・横浜・オリックスには(そしておそらくは楽天にも)このような「暗黙の了解」は無いか、あっても拘束力は薄いと考えられる。
特に中堅と左翼が交錯しやすい位置のとあるゾーンでは、ヤクルトやオリックスは年間たった1回しかセンターが関与していないのに対し、ロッテは14回、日本ハムは11回関与している。その周辺のゾーンを加算しても、センターの関与がヤクルトは12回、オリックスは15回に対して日本ハム51回、ロッテ49回、阪神42回などと、球団ごとにはっきりとした傾向が出ている。オリックスのT岡田が好スコアをマークしているのにはこの影響もあるだろう。
もしも左翼中堅ともに標準又はそれ以上の守備力を有していた場合、両者でアウトの食い合いになる場合も予想されるところである。今年で言うならばヤクルト・広島・オリックスの左翼が記録した刺殺のうち、いくばくかは他の球団であればセンターが獲得したアウトとしてクレジットされているだろう。このため、左翼に実際より高く、中堅に低い数値が検出されている可能性は高い。
このうちヤクルトは青木を擁しながら近年は続けて約束事がユルめのチームとなっているようだ。2007年には外野の布陣が左からラミレス・青木・ガイエルとなっていた。左がラミレスとあれば中間の打球は基本的に中堅手が捕りに行くのは避けられないとして、右側にはそういう事情はなく、左右のテリトリーは異なる了解の下にあったようである。このような左右非対称のルールの下、打球分布の偏りまでもが重なった結果、この年のヤクルトは中堅青木のRFより右翼ガイエルのRFの方が高いという、いびつを通り越した異様な守備スタッツを記録した。


左中間・右中間の打球に関する外野手の守備関与を表にしてみた。いずれも中堅手と左翼手、中堅手と右翼手守備位置の中間付近に位置するゾーンである。Iが左翼手寄り、KとPが中堅手寄り、Rが右翼手寄りである。KとPの間に中堅手の正面ゾーンがある。打球の距離は両者が普通に追いつくことができる5~7に限った。
全体として外野の守備は左右非対称になっている。外野手同士の中間近くのゾーンでは僅かながら右翼手よりも左翼手の方が関与する割合が高いことは、印象からは予想外だったのではないかと思う。
これを見ると中間位置の打球に対する各球団ポジション別の温度差が激しいことは明らかである。
特に驚くべきは巨人。中堅手が最もよく両翼を助けており、その関与率が、例えばヤクルトに比べて1.4倍、両リーグ平均の1.2倍に上っている。にも関わらずアウト獲得率は巨人がNPB随一の数字となっているのである。これは、「約束事」の存在を否定した場合、巨人の中堅であった松本・長野が圧倒的な能力を示したことになってしまう。時に両翼を守り、助けられていたのがその長野自身であるのにも関わらず、である。また、batted ball stats においても巨人の外野守備は破綻しているどころか、プラスを計上している。
実際にはこれは、暗黙の了解が人により変わり得ることの他に、今年の巨人投手陣が危険なゾーンへの致命的な打球を余り許さなかったことが原因となっている。
結果としてこれは(少なくとも外野守備における)守備指標の合算が難しいことにもつながる。両翼が共にプラスマイナスゼロ、中堅がプラス10、チーム合計プラス10の布陣のチームに、プラス10の守備指標を示した左翼手が新加入したとしてもチーム全体の外野守備指標に10点の改善がみられることは期待できない。全員が全て前年と同様の状態をキープしていたとしても。このへんはあらゆる守備指標についての今後の課題になってきそうだ。

各球団で最も顕著な相違を示したゾーン(I:5~7)を抽出。
ここではヤクルトの青木及び日本ハムの糸井が2人合わせて飛球処理が1つのみと、積極的には関わっていない様子がうかがえる。チームとしてここは基本的に左翼のゾーン。両者ともにまず左翼が追い、取れなかった場合に落ちたボールをこの2人が拾っているだけである。
3.守備力のピーク
ライトの話が出たので担当外ではあるが少し。
今年の右翼はパリーグのレギュラー級全員にマイナス評価を下す解析者も多く居るはずである。これはもちろん控え選手の多くが優秀な守備スタッツを記録したためだが、このような例は歴史的にそう珍しいことではない。守備は一般に思われているより若い時期に盛りを迎え、名手として認知される頃には既に下り坂になっていること。そして打撃面でピークを迎える頃には既に下り坂になっている例が多く、守備で最も優れている時期にはレギュラーを奪いにくい。これらは、打撃と守備は相反する資質を要求されることを示し、今年のパリーグのスタッツはこういった事情を反映している。

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Baseball Lab「Archives」では2010~2011年にかけてラボ内で行われた「セイバーメトリクス」のコンテンツを公開しております。
野球を客観視した独自の論評、分析、および研究を特徴として、野球に関するさまざまな考察をしています。
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