Baseball Lab守備評価~Catcher
森嶋俊行 [ 著者コラム一覧 ]
ここまで皆さま方の力を合わせて行われてきたこの企画だが,ついに捕手編に至った.この捕手というポジションの守備力評価,私の知る限り,分析家の間では,打順の議論などと並び,「色々めんどくさいことを考えないといけない割にいまひとつ結果に実りがない分野」とされ,話を進めることができていなかった分野である.今回は,その理由,要するに「色々いじってもいまひとつ新しいことが出てこない」ということを,分析結果を示しながら述べるとともに,それだけではあまり面白くないので,ゾーンデータを用いて今後どんな捕手守備力の分析ができそうか考えてみた.
捕手の守備貢献の内容はいかにも多様そうである.まず全野手に共通する,打球をうまく処理して出塁と進塁を許さないこと.これはゾーンデータと既存データから計算できそうである.さらに,捕手独特の出塁・進塁阻止関係指標として,許盗塁,盗塁刺,捕逸等が挙げられる.
もう一つ,捕手の守備の話題には必ず出てくる話で,道作氏が「ブラックボックス」と評する「リード・配球」という分野がある.この分野,これまで多くの評者が多くのことを語り続けてきた分野である.しかし,少なくとも,ここ数年のプロ野球で,捕手の守備力について論じたい,という時にこの話はもはやあまり意味がないのでは,というのが私の見解である.小林信也『データで読む常識を覆す野球』にもあったが,少なくともここ数年のMLBではデータに基づいた「ベンチ主導の野球」が浸透し,バレンタイン・ロッテがこれを導入していたように日本でも「ベンチ主導の野球」ができる環境は整っている.この状況では配球に責任を負うのはベンチであるべきだし,例え配球に関し,捕手に大きな権限を未だに持たせているチームがあったとしても,このような環境が整っているにもかかわらずそうしているのであれば,やはり責任はベンチに行きつくべきであろう.これが昔のプロ野球であるとか,高校野球の話になるとわからないが,今回の話であれば,議論する必要はないと考えている.まあ議論する必要はないと同時に議論できないわけだが.
1.結果
1)フィールディング
今回のゾーンデータから新たに判明したのが,捕手のフィールディングによる得失点である.以下に,ゾーンごとの結果を個人別にグラフ化した.

左側が三塁線,右側が一塁線である.ちなみにこのグラフ,ゴロとフライ(当然ライナーは存在しない)も距離帯も打球の強さも区別をつけていないのだが,実はそのことはほとんど問題ない.まず、捕手の処理する打球は9割以上が距離1に含まれる弱い打球である。そのうちフライはほぼ100パーセントアウトになる上,もし取れなくとも大体ファウルになるだけであり,結局この距離帯でいくらフライをとろうが守備貢献得点の差はつかないためである.そういうわけで,このグラフは,ほぼ距離1の弱いゴロの処理実績を表しているものであると言ってよい.
ここから,捕手が処理する打球で比較的差がつきやすいのが三塁線,マウンドとホームベースの間,一塁線の打球であることや,「的場直樹は三塁線のゴロ処理で年間約1点の利得をチームにもたらした」などということが一応は読み取れる.しかし,このグラフを見て一番目立つのは,明らかにところどころマイナス方向に大きく突き出している出っ張りである.この正体は,失策,内野安打,または野選である.
そもそも,この距離1のゾーンにおいて,失点期待値の高い打球はそうは多くない.比較的失点期待値が高いのが三塁線のボテボテのゴロ(ゾーンデータ上の表現は「距離1ゾーンC~D強さ1のゴロ」)で,これをうまくアウトにできるとプラスプレー1につき約0.2の守備貢献得点が得られる.しかし,これに対し,この距離での失策や内野安打は,ほぼ確定していたアウトを台無しにしてしまうため,マイナス幅が大きい.その幅はおよそ-0.6~-0.7である.
要するに,このゾーンでは,失策や内野安打の影響が極めて大きいのである.結局道作氏が自身のホームページやBaseball Times記事で述べていたように,「守備範囲も打球の強さも守備機会数にあまり影響しない捕手に限っては,失策で守備力を測るのもそれなりに有効.ただし逆に失策が全体の数値に表す影響が過大になる恐れあり」というのがよく表れたのがこの結果であると言える.
対象選手のフィールディング得点算出結果は以下のとおりである.

一応一位は阿部慎之助.ただし最下位の城島健司との差は2.86にすぎない.遊撃手評価で上位と最下位の差で10,20も差が付いていたのと比較すると,その差がわずかであることがわかろう.冒頭,捕手の守備評価についての言「色々めんどくさいことを考えないといけない割にいまひとつ結果が出ない」というのはこういうことなのである.
2) 進塁阻止
現在捕手の守備力を評価できるデータは,このフィールディング得点と進塁阻止得点である.この進塁阻止得点の指標として,盗塁関係の指標と捕逸関係の指標が取りあえず挙げられる.捕逸に関しては,イニングあたり平均値との乖離(かいり)から傑出を求める.係数は過去の道作氏の研究から-0.33とする.
許盗塁・盗塁刺に関しても,基本的には平均からの傑出を求めることになるが,これも道作氏の過去の分析に習い,評価に「自軍選手盗塁補正」と「捕手ホールド」を追加した.「自軍選手盗塁補正」とは要するに,「阪神捕手陣は赤星と対戦していないんだからその分盗塁阻止は楽なはずだろ」という考え方で,その分阪神捕手陣のノルマを高めにとる,といった補正である.「捕手ホールド」は,「あまりに強肩の場合,そもそも走者が盗塁してこなくなる」という点を捕手の貢献と考え,相手の盗塁企図数自体の多寡を評価するというものである.
ここではLWTS『メジャーリーグの数理科学』と道作氏の研究より,許盗塁の係数を-0.3,盗塁刺の係数を0.6,捕手ホールドの係数を0.03とした.2010年度の,これら進塁阻止に関する評価は以下のとおりである.

この評価法では,おおむね盗塁阻止率が高い選手が高い評価を得ることになる.ただ,ここに見られるように城島健司や鶴岡慎也,大野奨太は対戦相手に盗塁を思いとどまらせることに成功しているようで,盗塁阻止率で勝るが盗塁企図される数の多い阿部慎之助より高い値となる.数年にわたり高い盗塁阻止率を維持し,リーグ内で強肩捕手として知れ渡っている阿部慎之助に挑んでくる走者がこれだけいる理由というのも気になるところだが….
いずれにしろ,この進塁阻止得点分散はフィールディングの得点分散に比べはるかに高い.今回は,この二つを足して総合評価としたので,進塁阻止能力が大きく影響する評価となった.

今回は全ポジションを通じて「同じ能力なら多く試合に出ている方がそれだけ評価されるべき」という観点から,素の総合得点をランキングの基準にしている.下のランキング発表後,係数の調整を行い,順位が前後している点,ご容赦願いたい.
2.今後の評価基準の可能性
で,ここで困った.ここまでやってきたことで得られた結論が,「フィールディング評価は大体失策で決まる」「進塁阻止評価は盗塁・捕逸関連の値で決まる」である.これではわざわざ詳細データを貰った意味がないではないか.他のポジションと並列するという点からはこれが限界にしても,もうちょっと何かわからんのか.というわけで,せっかくの日本初のゾーンデータ,捕手評価に使えそうなところはないものか,何か新しい部分はないか.というわけで,わかる範囲でできそうなことを試してみた.手をつけてみたばかりにつき,まだ得点化に至っていないが,今後評価の中に組み入れられないか考えてみたい.
1)ファウルフライ
今回のデータにはファウルフライが含まれていたのであるが,ランキング作成の際は一切評価しなかった.私の評価法はこれまで説明したとおり「○○な打球がいくつあってそのうちいくつを××して…」という感じで決定するのであるが,ファウルフライに関しては「○○な打球がいくつあって~」の部分,つまり「各守備位置の選手が取れそうなファウルボールがいくつあったか」までデータがない.まあこれをとるためには1打席ごとではなく1球ごとの結果を見た上,ファウルグラウンドまでゾーン分割しないといけなくなるわけで,フェアグラウンドに増して球場ごとに形が違いすぎるし,非現実的である.ただ,データを見ると,捕手のフィールディングにおいて,ファウルフライの重要度は結構高そうに見える.

なんと前節で分析した打球は,捕手の処理した打球全体の半分にも満たなかったわけだ.というわけで,ここではファウルフライの処理状況についても一応概況を述べてみる.

IN/邪飛は,何イニングに1回の割合でファウルフライを捕球しているかを示したものである.傑出得点は,NPB平均のイニングあたりファウルフライ数を基準に,1プラスプレーにつき1アウトの平均的価値である0.28点を掛けて計算したものである(実際には,フライを捕球できなくとも1ストライク増える分,取れた場合と取れなかった場合の得点差はこれより小さくなるだろう.
これが例えば,ファウルグラウンドの広い球場が本拠地のチームの選手が上位にずらっと並び,下位は逆などの形になれば,あまり求める意味がないということが言えるが,自分の見る限りそこまで単純ではなさそうである.もちろん投手の投球も結構影響していそうなので.ここでの得点=実力とも言い切れないわけであるが,最高値と最低値でIN/邪飛にして3倍以上,得点にして7点以上の差がある.これは馬鹿にできない.何らかの形で評価に組み込んだ方がいいかもしれない.
2)犠打処理
ここまで,アウト数,走者数ごとの状況差については,話を単純にするため考えてこなかった.しかし,捕手のフィールディングに関しては,この差が他の守備位置と比べても大きそうである.

捕手が打球を処理したケースについて,犠打や進塁打,併殺打が考えられ結果のパターンが増える「無死か一死で有走者」とその他のケースに分けてみた.まず注目すべきは,前者の処理数の多さである.前者の状況は打席全体の28パーセントにすぎないのに,前者の方が捕手の打球処理数が多い.原因は言うまでもなく,犠打にあると考えられる.「犠打」と記録されている打球はもちろん,フライやゴロ,被出塁も単純に割合から想定されるより多く,これらもバント打球の処理が大きく影響しているものと考えられる.要するに,捕手のフィールディングにおいて,「犠打の打球を処理する」というプレーは結構重要な割合を占めるのであるということである.
前に述べたフィールディング得点においては,犠打成功も犠打失敗もアウトさえ取れていれば評価を等しくしている.それは,そもそも犠打と記録された打球以外の打球がバント打球なのかどうかわからないこと,いずれにしろアウト打球である以上,そこまで得点価値に差がないと思われることによる.ただ,上の状況別打球数を見る限り「無死か一死で有走者,という状況で捕手が処理した打球は,結構な割合がバント打球なのではないか」ということがうかがえる.とすれば,この打球を分析することにより,捕手のバント打球処理能力を分析できそうだ.そこで,各捕手に打球処理の結果の割合を算出してみた.

送球とアウトに関する記録から,併殺(ゴロ併殺とフライ併殺を含む),進塁打(走者が一塁にいる時発生するゴロで,二塁でアウトがとられず,一塁でアウトがとられている打球について進塁打と判断した)の分類を増やし,(併殺+単純アウト)/全打球処理数で犠打阻止率とした.「肩による貢献度を見たい」とかであれば,単純フライアウトを除外してもいいかもしれない.
細川亨が極端に高い進塁阻止率を記録している.この状況で取っているアウトの大半がフライなので,先ほどのファウルフライの分析結果ともかぶるが,1シーズンを通じて細川に守備範囲にバント打球を転がして進塁に成功したのが5回というのもびっくりである.進塁阻止率の上位と下位を見ると,実に4倍近い差がある.
もちろん,見てのとおりサンプル数が少なすぎるので,これまた結果の数値通りに受け取ってしまってよいのかという問題は残る.さらにこれが失点の増減とどう結びついているのかをまだ計算しきれていない.率直に言って,そこまで大した影響はないだろう,と思うのだが,「影響がないことを示す」というのもセイバーメトリクス発展には必要か,というわけで,いずれ機会があれば掘り下げて評価に組み入れる機会があれば,と思っている.
捕手の守備貢献の内容はいかにも多様そうである.まず全野手に共通する,打球をうまく処理して出塁と進塁を許さないこと.これはゾーンデータと既存データから計算できそうである.さらに,捕手独特の出塁・進塁阻止関係指標として,許盗塁,盗塁刺,捕逸等が挙げられる.
もう一つ,捕手の守備の話題には必ず出てくる話で,道作氏が「ブラックボックス」と評する「リード・配球」という分野がある.この分野,これまで多くの評者が多くのことを語り続けてきた分野である.しかし,少なくとも,ここ数年のプロ野球で,捕手の守備力について論じたい,という時にこの話はもはやあまり意味がないのでは,というのが私の見解である.小林信也『データで読む常識を覆す野球』にもあったが,少なくともここ数年のMLBではデータに基づいた「ベンチ主導の野球」が浸透し,バレンタイン・ロッテがこれを導入していたように日本でも「ベンチ主導の野球」ができる環境は整っている.この状況では配球に責任を負うのはベンチであるべきだし,例え配球に関し,捕手に大きな権限を未だに持たせているチームがあったとしても,このような環境が整っているにもかかわらずそうしているのであれば,やはり責任はベンチに行きつくべきであろう.これが昔のプロ野球であるとか,高校野球の話になるとわからないが,今回の話であれば,議論する必要はないと考えている.まあ議論する必要はないと同時に議論できないわけだが.
1.結果
1)フィールディング
今回のゾーンデータから新たに判明したのが,捕手のフィールディングによる得失点である.以下に,ゾーンごとの結果を個人別にグラフ化した.
左側が三塁線,右側が一塁線である.ちなみにこのグラフ,ゴロとフライ(当然ライナーは存在しない)も距離帯も打球の強さも区別をつけていないのだが,実はそのことはほとんど問題ない.まず、捕手の処理する打球は9割以上が距離1に含まれる弱い打球である。そのうちフライはほぼ100パーセントアウトになる上,もし取れなくとも大体ファウルになるだけであり,結局この距離帯でいくらフライをとろうが守備貢献得点の差はつかないためである.そういうわけで,このグラフは,ほぼ距離1の弱いゴロの処理実績を表しているものであると言ってよい.
ここから,捕手が処理する打球で比較的差がつきやすいのが三塁線,マウンドとホームベースの間,一塁線の打球であることや,「的場直樹は三塁線のゴロ処理で年間約1点の利得をチームにもたらした」などということが一応は読み取れる.しかし,このグラフを見て一番目立つのは,明らかにところどころマイナス方向に大きく突き出している出っ張りである.この正体は,失策,内野安打,または野選である.
そもそも,この距離1のゾーンにおいて,失点期待値の高い打球はそうは多くない.比較的失点期待値が高いのが三塁線のボテボテのゴロ(ゾーンデータ上の表現は「距離1ゾーンC~D強さ1のゴロ」)で,これをうまくアウトにできるとプラスプレー1につき約0.2の守備貢献得点が得られる.しかし,これに対し,この距離での失策や内野安打は,ほぼ確定していたアウトを台無しにしてしまうため,マイナス幅が大きい.その幅はおよそ-0.6~-0.7である.
要するに,このゾーンでは,失策や内野安打の影響が極めて大きいのである.結局道作氏が自身のホームページやBaseball Times記事で述べていたように,「守備範囲も打球の強さも守備機会数にあまり影響しない捕手に限っては,失策で守備力を測るのもそれなりに有効.ただし逆に失策が全体の数値に表す影響が過大になる恐れあり」というのがよく表れたのがこの結果であると言える.
対象選手のフィールディング得点算出結果は以下のとおりである.
一応一位は阿部慎之助.ただし最下位の城島健司との差は2.86にすぎない.遊撃手評価で上位と最下位の差で10,20も差が付いていたのと比較すると,その差がわずかであることがわかろう.冒頭,捕手の守備評価についての言「色々めんどくさいことを考えないといけない割にいまひとつ結果が出ない」というのはこういうことなのである.
2) 進塁阻止
現在捕手の守備力を評価できるデータは,このフィールディング得点と進塁阻止得点である.この進塁阻止得点の指標として,盗塁関係の指標と捕逸関係の指標が取りあえず挙げられる.捕逸に関しては,イニングあたり平均値との乖離(かいり)から傑出を求める.係数は過去の道作氏の研究から-0.33とする.
許盗塁・盗塁刺に関しても,基本的には平均からの傑出を求めることになるが,これも道作氏の過去の分析に習い,評価に「自軍選手盗塁補正」と「捕手ホールド」を追加した.「自軍選手盗塁補正」とは要するに,「阪神捕手陣は赤星と対戦していないんだからその分盗塁阻止は楽なはずだろ」という考え方で,その分阪神捕手陣のノルマを高めにとる,といった補正である.「捕手ホールド」は,「あまりに強肩の場合,そもそも走者が盗塁してこなくなる」という点を捕手の貢献と考え,相手の盗塁企図数自体の多寡を評価するというものである.
ここではLWTS『メジャーリーグの数理科学』と道作氏の研究より,許盗塁の係数を-0.3,盗塁刺の係数を0.6,捕手ホールドの係数を0.03とした.2010年度の,これら進塁阻止に関する評価は以下のとおりである.
この評価法では,おおむね盗塁阻止率が高い選手が高い評価を得ることになる.ただ,ここに見られるように城島健司や鶴岡慎也,大野奨太は対戦相手に盗塁を思いとどまらせることに成功しているようで,盗塁阻止率で勝るが盗塁企図される数の多い阿部慎之助より高い値となる.数年にわたり高い盗塁阻止率を維持し,リーグ内で強肩捕手として知れ渡っている阿部慎之助に挑んでくる走者がこれだけいる理由というのも気になるところだが….
いずれにしろ,この進塁阻止得点分散はフィールディングの得点分散に比べはるかに高い.今回は,この二つを足して総合評価としたので,進塁阻止能力が大きく影響する評価となった.
今回は全ポジションを通じて「同じ能力なら多く試合に出ている方がそれだけ評価されるべき」という観点から,素の総合得点をランキングの基準にしている.下のランキング発表後,係数の調整を行い,順位が前後している点,ご容赦願いたい.
2.今後の評価基準の可能性
で,ここで困った.ここまでやってきたことで得られた結論が,「フィールディング評価は大体失策で決まる」「進塁阻止評価は盗塁・捕逸関連の値で決まる」である.これではわざわざ詳細データを貰った意味がないではないか.他のポジションと並列するという点からはこれが限界にしても,もうちょっと何かわからんのか.というわけで,せっかくの日本初のゾーンデータ,捕手評価に使えそうなところはないものか,何か新しい部分はないか.というわけで,わかる範囲でできそうなことを試してみた.手をつけてみたばかりにつき,まだ得点化に至っていないが,今後評価の中に組み入れられないか考えてみたい.
1)ファウルフライ
今回のデータにはファウルフライが含まれていたのであるが,ランキング作成の際は一切評価しなかった.私の評価法はこれまで説明したとおり「○○な打球がいくつあってそのうちいくつを××して…」という感じで決定するのであるが,ファウルフライに関しては「○○な打球がいくつあって~」の部分,つまり「各守備位置の選手が取れそうなファウルボールがいくつあったか」までデータがない.まあこれをとるためには1打席ごとではなく1球ごとの結果を見た上,ファウルグラウンドまでゾーン分割しないといけなくなるわけで,フェアグラウンドに増して球場ごとに形が違いすぎるし,非現実的である.ただ,データを見ると,捕手のフィールディングにおいて,ファウルフライの重要度は結構高そうに見える.
なんと前節で分析した打球は,捕手の処理した打球全体の半分にも満たなかったわけだ.というわけで,ここではファウルフライの処理状況についても一応概況を述べてみる.
IN/邪飛は,何イニングに1回の割合でファウルフライを捕球しているかを示したものである.傑出得点は,NPB平均のイニングあたりファウルフライ数を基準に,1プラスプレーにつき1アウトの平均的価値である0.28点を掛けて計算したものである(実際には,フライを捕球できなくとも1ストライク増える分,取れた場合と取れなかった場合の得点差はこれより小さくなるだろう.
これが例えば,ファウルグラウンドの広い球場が本拠地のチームの選手が上位にずらっと並び,下位は逆などの形になれば,あまり求める意味がないということが言えるが,自分の見る限りそこまで単純ではなさそうである.もちろん投手の投球も結構影響していそうなので.ここでの得点=実力とも言い切れないわけであるが,最高値と最低値でIN/邪飛にして3倍以上,得点にして7点以上の差がある.これは馬鹿にできない.何らかの形で評価に組み込んだ方がいいかもしれない.
2)犠打処理
ここまで,アウト数,走者数ごとの状況差については,話を単純にするため考えてこなかった.しかし,捕手のフィールディングに関しては,この差が他の守備位置と比べても大きそうである.
捕手が打球を処理したケースについて,犠打や進塁打,併殺打が考えられ結果のパターンが増える「無死か一死で有走者」とその他のケースに分けてみた.まず注目すべきは,前者の処理数の多さである.前者の状況は打席全体の28パーセントにすぎないのに,前者の方が捕手の打球処理数が多い.原因は言うまでもなく,犠打にあると考えられる.「犠打」と記録されている打球はもちろん,フライやゴロ,被出塁も単純に割合から想定されるより多く,これらもバント打球の処理が大きく影響しているものと考えられる.要するに,捕手のフィールディングにおいて,「犠打の打球を処理する」というプレーは結構重要な割合を占めるのであるということである.
前に述べたフィールディング得点においては,犠打成功も犠打失敗もアウトさえ取れていれば評価を等しくしている.それは,そもそも犠打と記録された打球以外の打球がバント打球なのかどうかわからないこと,いずれにしろアウト打球である以上,そこまで得点価値に差がないと思われることによる.ただ,上の状況別打球数を見る限り「無死か一死で有走者,という状況で捕手が処理した打球は,結構な割合がバント打球なのではないか」ということがうかがえる.とすれば,この打球を分析することにより,捕手のバント打球処理能力を分析できそうだ.そこで,各捕手に打球処理の結果の割合を算出してみた.
送球とアウトに関する記録から,併殺(ゴロ併殺とフライ併殺を含む),進塁打(走者が一塁にいる時発生するゴロで,二塁でアウトがとられず,一塁でアウトがとられている打球について進塁打と判断した)の分類を増やし,(併殺+単純アウト)/全打球処理数で犠打阻止率とした.「肩による貢献度を見たい」とかであれば,単純フライアウトを除外してもいいかもしれない.
細川亨が極端に高い進塁阻止率を記録している.この状況で取っているアウトの大半がフライなので,先ほどのファウルフライの分析結果ともかぶるが,1シーズンを通じて細川に守備範囲にバント打球を転がして進塁に成功したのが5回というのもびっくりである.進塁阻止率の上位と下位を見ると,実に4倍近い差がある.
もちろん,見てのとおりサンプル数が少なすぎるので,これまた結果の数値通りに受け取ってしまってよいのかという問題は残る.さらにこれが失点の増減とどう結びついているのかをまだ計算しきれていない.率直に言って,そこまで大した影響はないだろう,と思うのだが,「影響がないことを示す」というのもセイバーメトリクス発展には必要か,というわけで,いずれ機会があれば掘り下げて評価に組み入れる機会があれば,と思っている.

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野球を客観視した独自の論評、分析、および研究を特徴として、野球に関するさまざまな考察をしています。
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