先発ローテーションの実情を統計化する
SHINGO [ 著者コラム一覧 ]
唐突ではあるが、筆者はセイバーメトリクス(以下セイバー)を扱っている自覚があまり無い。
もちろん、好むか好まないかという境目であれば好む方を選択するだろうし、実際にもRCやOPSなどを使ったデータを閲覧したり検出したりもしている。
では、どうして自覚が無いのかというと、従来のセイバー系指標をのぞき込むよりも自分自身でデータを採集する方に興味が起こっているからだと思う。
私見ではあるが、セイバー系指標の意義を大ざっぱに分類するとすれば、
1、選手の能力判定
2、チームおよび選手同士の優劣判断
3、プレーや采配(さいはい)における実情
これらを統計することにより、チーム強化および球団の経営状況を良質なものにするための有効な手段であることはMLBにおけるセイバー的な手法で実証されているが、ファンの間で興味が集中しているのは1ないしは2ではないかと思う。
もちろん、そこにセイバーの意義が存分に詰め込まれているのは確かであるが、その出発点となるのは3であり、ゲーム中のプレーに関する疑問点やチーム編成上の問題点などを探るには「データ」という名の事実を知ることから始まるといえる。
その事実を知るためには、兼ねてから存在している公式記録だけでは不十分であったことが、今日のセイバー躍進で半ば証明しているといっても良いだろう。
しかし、筆者の考えでは今現在世に出ているセイバー系指標が野球のすべてを映し出しているとは思っていない。このように書いてしまうと、「記録に表れないプレー」という言葉が頭に浮かんでしまい、数字だけでは野球を語れないといった論調につながってしまうのかもしれないが、実はそうではない。野球の試合におけるプレーのすべては記録に置き換えることが出来るはずで、公式記録や現存するセイバー指標以外にも埋もれた記録がふんだんに詰まっているのが野球というスポーツ(競技)なのではないかと思う。例えば犠打と同じ性質を持った進塁打などは「記録に残らない」のではなく、単に「記録していない」だけであり、もし記録が残っていれば誰かがセイバー的観点から分析をすることが可能だったであろう。
そうしたセイバー的発想の元、当サイトでのコラムを担当させていただきたいと思っている。
さて、前述の進塁打と同じように、記録として残されていないデータの一つに先発投手の登板間隔がある。
慣例のようになってしまっているが、NPBでは「先発投手は中6日」というイメージがあり、MLBでは中4日で回すことが知れ渡っている。日本で最初にローテーションという発想を持ち込んだのは、巨人軍初代監督でもあった藤本定義が後の阪急、阪神監督時代に実行したものであり、他球団も徐々にそれに倣っていったという歴史がある。ただし、昭和50年代まではせいぜい4~5名の投手で中4日も空いていれば十分な間隔といわれていたこともあった。
筆者の記憶範囲内で中6日のローテーションを施行していたのは、1985年のロッテ村田兆治投手が「サンデー兆治」と呼ばれていた、毎週日曜日に登板間隔を設けられていたのが最初だった。もちろん、この背景にはトミー・ジョン手術(側副靱帯(じんたい)再建手術)を行った影響から、十分な休養を与えるために登板間隔を空けて起用するというものであったが、チーム単位で意図的に行ったものとしては、確か西武ライオンズ監督時代の森祇晶だったと思う。渡辺久信、工藤公康、郭泰源、渡辺智男らを軸に最も充実していた1991年ではチーム最初先発機会が23度(渡辺久、工藤、郭の3人が同数)と、リーグ優勝をしたにも関わらず酷使の跡が見られない。その代わりに最多勝のタイトルが近鉄の野茂英雄に持っていかれたという経緯もある。
・3投手の比較
工藤 23先発 175.1回 16勝3敗
郭 23先発 184.1回 15勝6敗
野茂 29先発 242.1回 17勝11敗
こうして見ると一目瞭然(りょうぜん)だが、工藤や郭が野茂と同程度の先発機会を得ていれば勝利数を逆転させることも十分可能であったと思われる(郭についてはシーズンMVPを獲得した)。そして、このシーズンを前後にライオンズは10年間で9度のリーグ優勝ならびに6度の日本一を成し遂げた。当時のチームは緻密(ちみつ)な戦略が売り物とされる趣もあるが、実際には投手のコンディションを整えるといった合理的な側面が支えていた部分がかなり大きいと思う。
そうした背景から他球団もまたこのシステムを追従する形となり、現在では一部(一時期)の球団を除いて中6日の登板間隔を作ることが主流とされてきた。しかし、このシステムでは先発投手を6人も養成することが必要とされ、また週一度(毎週同じ曜日)に必ず登板機会が訪れるかと思いきや、日程の関係や雨天順延の影響もあってこの形態でも合理的に進めることは難しい。
では、本年度における先発ローテーションの実態について、チーム単位で統計化したものを見ていただきたい。

まずはパ・リーグの方から見てもらいたいが、分類する間隔を6つに分けた。現在のシステムと現状からいって中3日以内の登板機会というものはよほどのことが無い限り起こりえない。今ではどんなに短くても中4日からであり、最も多いのが中6日で次いで中5日となる。中7日については日程の関係で間隔が詰められないという事情を考慮して加えてみた。それに関しては中8日以上でも(順番通りに)回ってこない状況もあり得るが、グラフの視覚上からシンプルにまとめる方が良いと感じ、混在させている。また、投手ごとのシーズン初登板試合については統計から除外した。
傾向としてはどの球団も似たようなものを示している中で、中6日の機会が最も多かったソフトバンクでも80試合と、全体の61.5%(初登板試合14を除く)にすぎない。もう一つ、中5日以内での機会ではオリックスの35試合が最多となっており、最も少ないソフトバンク(13試合)との開きは22試合もある。
この違いを事細かに分析するのは容易ではないが、この表を見る限りではローテーションの間隔を空けているチームほど年間の順位では上に来るという傾向がある。変な話ではあるが、勝ちたがっているチーム(間隔を詰めている)ほど順位が下がっている。実際にはそこまで単純な背景は無いに等しいが。

続いてセ・リーグ。パとは打って変わり、チームごとにローテ編成の色合いが異なり、全体的な傾向ではセの方が中5日以内での登板数が多い。これについては、例えば投手が打席に入ることによって交代機が早まる(代打起用)など、先発投手への稼働量に違いが見られることも考えられるが、現実にはヤクルトのようなケース(中6日登板機会76試合は12球団で2番目)もあり、決定的な違いだとは考え難い。
ここで、NPBにおける登板間隔のズレについてあらためて考えて見たいと思う。
①中6日のローテーションを実行するに辺り、6人の先発投手を用意しなければならないが、必ずしも6人の投手を必要としない時期が多くあること。
象徴的な例が交流戦の時期。2005年度から施行されたこの企画は当初3連戦を組んでいたが、2007年から2連戦に変更されている。これにより、6人もの先発を必要としなくなりチームごとに編成が組み直される時期が多く発生するようになった。他にも地方遠征のカードやシーズン末期での消化試合ではローテーションを絞る必要がある。
②中止順延の影響
交流戦の一部を除き、公式戦の期間で雨天などによる順延が決まると、予定されていたゲームは大概にして9月以降に組み直される。そのため、中止順延をにらんでの日程が組まれている模様。また、中止になりやすいカード(屋外球場)との環境差を補う理由からか、屋内球場でのカードの中には3連戦を組まないものがある。中止カードに登板を予定していた投手はスライドする場合もあるが、次回予定日まで飛ばされることもある。
ここでMLBとの比較をしてみたいが、メジャーリーグではレギュラーシーズン日程の最終日があらかじめ決められており(今季でいえば10/3)、中止順延となった試合は最終日までに消化しなければならないというものがある。その場合、空き日が少ないため(大体172日で20日間程度)に、連戦の最終日でなければ大概はダブルへッダーを組んだ形式を取っており、連戦内で調整が付かなければ空き日に繰り越すようになっている。そうしたこともあり、ローテーションの運営自体に影響を及ぼすことが極力少ない。また、気候の違いのせいなのか、MLBと比較してNPBは中止の試合数が実に多い。
※、中止順延の試合数(2010年度)
MLB38回 NPB61回(セ38回、パ23回)
一チーム辺り、MLBは1.27回でNPBは5.08回となる
このように、NPBにおける先発ローテーションの運営は均等かつ平等に実施することが困難な作業といっても良いだろう。チーム事情によって単純には比較出来ない部分もあり、結論を出すことは容易ではないかもしれないが、そこには各チーム首脳陣の工夫とアイデアがひねり出されており、プロ野球を楽しむ上では欠かせないデータ(事実)ではないかと思う。次回はチーム単位でのデータを紹介していきたい。
もちろん、好むか好まないかという境目であれば好む方を選択するだろうし、実際にもRCやOPSなどを使ったデータを閲覧したり検出したりもしている。
では、どうして自覚が無いのかというと、従来のセイバー系指標をのぞき込むよりも自分自身でデータを採集する方に興味が起こっているからだと思う。
私見ではあるが、セイバー系指標の意義を大ざっぱに分類するとすれば、
1、選手の能力判定
2、チームおよび選手同士の優劣判断
3、プレーや采配(さいはい)における実情
これらを統計することにより、チーム強化および球団の経営状況を良質なものにするための有効な手段であることはMLBにおけるセイバー的な手法で実証されているが、ファンの間で興味が集中しているのは1ないしは2ではないかと思う。
もちろん、そこにセイバーの意義が存分に詰め込まれているのは確かであるが、その出発点となるのは3であり、ゲーム中のプレーに関する疑問点やチーム編成上の問題点などを探るには「データ」という名の事実を知ることから始まるといえる。
その事実を知るためには、兼ねてから存在している公式記録だけでは不十分であったことが、今日のセイバー躍進で半ば証明しているといっても良いだろう。
しかし、筆者の考えでは今現在世に出ているセイバー系指標が野球のすべてを映し出しているとは思っていない。このように書いてしまうと、「記録に表れないプレー」という言葉が頭に浮かんでしまい、数字だけでは野球を語れないといった論調につながってしまうのかもしれないが、実はそうではない。野球の試合におけるプレーのすべては記録に置き換えることが出来るはずで、公式記録や現存するセイバー指標以外にも埋もれた記録がふんだんに詰まっているのが野球というスポーツ(競技)なのではないかと思う。例えば犠打と同じ性質を持った進塁打などは「記録に残らない」のではなく、単に「記録していない」だけであり、もし記録が残っていれば誰かがセイバー的観点から分析をすることが可能だったであろう。
そうしたセイバー的発想の元、当サイトでのコラムを担当させていただきたいと思っている。
さて、前述の進塁打と同じように、記録として残されていないデータの一つに先発投手の登板間隔がある。
慣例のようになってしまっているが、NPBでは「先発投手は中6日」というイメージがあり、MLBでは中4日で回すことが知れ渡っている。日本で最初にローテーションという発想を持ち込んだのは、巨人軍初代監督でもあった藤本定義が後の阪急、阪神監督時代に実行したものであり、他球団も徐々にそれに倣っていったという歴史がある。ただし、昭和50年代まではせいぜい4~5名の投手で中4日も空いていれば十分な間隔といわれていたこともあった。
筆者の記憶範囲内で中6日のローテーションを施行していたのは、1985年のロッテ村田兆治投手が「サンデー兆治」と呼ばれていた、毎週日曜日に登板間隔を設けられていたのが最初だった。もちろん、この背景にはトミー・ジョン手術(側副靱帯(じんたい)再建手術)を行った影響から、十分な休養を与えるために登板間隔を空けて起用するというものであったが、チーム単位で意図的に行ったものとしては、確か西武ライオンズ監督時代の森祇晶だったと思う。渡辺久信、工藤公康、郭泰源、渡辺智男らを軸に最も充実していた1991年ではチーム最初先発機会が23度(渡辺久、工藤、郭の3人が同数)と、リーグ優勝をしたにも関わらず酷使の跡が見られない。その代わりに最多勝のタイトルが近鉄の野茂英雄に持っていかれたという経緯もある。
・3投手の比較
工藤 23先発 175.1回 16勝3敗
郭 23先発 184.1回 15勝6敗
野茂 29先発 242.1回 17勝11敗
こうして見ると一目瞭然(りょうぜん)だが、工藤や郭が野茂と同程度の先発機会を得ていれば勝利数を逆転させることも十分可能であったと思われる(郭についてはシーズンMVPを獲得した)。そして、このシーズンを前後にライオンズは10年間で9度のリーグ優勝ならびに6度の日本一を成し遂げた。当時のチームは緻密(ちみつ)な戦略が売り物とされる趣もあるが、実際には投手のコンディションを整えるといった合理的な側面が支えていた部分がかなり大きいと思う。
そうした背景から他球団もまたこのシステムを追従する形となり、現在では一部(一時期)の球団を除いて中6日の登板間隔を作ることが主流とされてきた。しかし、このシステムでは先発投手を6人も養成することが必要とされ、また週一度(毎週同じ曜日)に必ず登板機会が訪れるかと思いきや、日程の関係や雨天順延の影響もあってこの形態でも合理的に進めることは難しい。
では、本年度における先発ローテーションの実態について、チーム単位で統計化したものを見ていただきたい。

まずはパ・リーグの方から見てもらいたいが、分類する間隔を6つに分けた。現在のシステムと現状からいって中3日以内の登板機会というものはよほどのことが無い限り起こりえない。今ではどんなに短くても中4日からであり、最も多いのが中6日で次いで中5日となる。中7日については日程の関係で間隔が詰められないという事情を考慮して加えてみた。それに関しては中8日以上でも(順番通りに)回ってこない状況もあり得るが、グラフの視覚上からシンプルにまとめる方が良いと感じ、混在させている。また、投手ごとのシーズン初登板試合については統計から除外した。
傾向としてはどの球団も似たようなものを示している中で、中6日の機会が最も多かったソフトバンクでも80試合と、全体の61.5%(初登板試合14を除く)にすぎない。もう一つ、中5日以内での機会ではオリックスの35試合が最多となっており、最も少ないソフトバンク(13試合)との開きは22試合もある。
この違いを事細かに分析するのは容易ではないが、この表を見る限りではローテーションの間隔を空けているチームほど年間の順位では上に来るという傾向がある。変な話ではあるが、勝ちたがっているチーム(間隔を詰めている)ほど順位が下がっている。実際にはそこまで単純な背景は無いに等しいが。

続いてセ・リーグ。パとは打って変わり、チームごとにローテ編成の色合いが異なり、全体的な傾向ではセの方が中5日以内での登板数が多い。これについては、例えば投手が打席に入ることによって交代機が早まる(代打起用)など、先発投手への稼働量に違いが見られることも考えられるが、現実にはヤクルトのようなケース(中6日登板機会76試合は12球団で2番目)もあり、決定的な違いだとは考え難い。
ここで、NPBにおける登板間隔のズレについてあらためて考えて見たいと思う。
①中6日のローテーションを実行するに辺り、6人の先発投手を用意しなければならないが、必ずしも6人の投手を必要としない時期が多くあること。
象徴的な例が交流戦の時期。2005年度から施行されたこの企画は当初3連戦を組んでいたが、2007年から2連戦に変更されている。これにより、6人もの先発を必要としなくなりチームごとに編成が組み直される時期が多く発生するようになった。他にも地方遠征のカードやシーズン末期での消化試合ではローテーションを絞る必要がある。
②中止順延の影響
交流戦の一部を除き、公式戦の期間で雨天などによる順延が決まると、予定されていたゲームは大概にして9月以降に組み直される。そのため、中止順延をにらんでの日程が組まれている模様。また、中止になりやすいカード(屋外球場)との環境差を補う理由からか、屋内球場でのカードの中には3連戦を組まないものがある。中止カードに登板を予定していた投手はスライドする場合もあるが、次回予定日まで飛ばされることもある。
ここでMLBとの比較をしてみたいが、メジャーリーグではレギュラーシーズン日程の最終日があらかじめ決められており(今季でいえば10/3)、中止順延となった試合は最終日までに消化しなければならないというものがある。その場合、空き日が少ないため(大体172日で20日間程度)に、連戦の最終日でなければ大概はダブルへッダーを組んだ形式を取っており、連戦内で調整が付かなければ空き日に繰り越すようになっている。そうしたこともあり、ローテーションの運営自体に影響を及ぼすことが極力少ない。また、気候の違いのせいなのか、MLBと比較してNPBは中止の試合数が実に多い。
※、中止順延の試合数(2010年度)
MLB38回 NPB61回(セ38回、パ23回)
一チーム辺り、MLBは1.27回でNPBは5.08回となる
このように、NPBにおける先発ローテーションの運営は均等かつ平等に実施することが困難な作業といっても良いだろう。チーム事情によって単純には比較出来ない部分もあり、結論を出すことは容易ではないかもしれないが、そこには各チーム首脳陣の工夫とアイデアがひねり出されており、プロ野球を楽しむ上では欠かせないデータ(事実)ではないかと思う。次回はチーム単位でのデータを紹介していきたい。
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