勝利投手のカラクリ~Part2
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昨日のコラムはそのシステム(規定)が現在プロ野球のゲーム上で、どのように生産されているのかを検証しました。昨日途中になっていた各球団のエース(田中・成瀬・金子投手)のデータを見ると同時に、勝利という指標について引き続き考えていこうと思います。分析方法に関しては昨日のコラム(勝利投手のカラクリ~Part1)を参照してください。
1.田中将大のケース

デビューした2007年からの2年間はそれなりに打線のサポートを得ていたようですが、その後の3年間は厳しい状況が続いています。その中で最も対戦相手防御率(2.65)が良かった2009年に15勝6敗という成績だったのには正直驚かされました。対戦間防御率は僅か0.31(グラフ①-②)で、田中将自身と相手の防御率に優位性が見出せない以上、別の要因を考えざるを得ません。今の時点ではただ「勝負強かった」としか言い表せないのですが、何れはこの点についても分析してみたいと思います。今回の検証を覆すような傾向として、非常に参考となるデータでした。
この年と比べると、今季の対戦間防御率は今のところ1.09ですので現在の勝敗(9-3)も納得の範囲と考えられますが、対戦相手の防御率は2009年を超える2.32とかなり低いため、田中将自身の防御率が落ちてくるとこれまで通りに勝ち星を稼げなくなるかもしれません。
2.成瀬善久のケース

2007年に驚異的な勝率(16勝1敗で.941)を残し球界の注目を一身に集めました。この年の対戦相手はリーグ平均から-0.05ポイントとやや落ちる印象。そこから対戦防御率5.81と打線の攻略が成功し、対戦間防御率は3.99(グラフ①-②)と今回の分析では最も大きなものとなりました。これは成瀬自身の成績が素晴らしかったことは言うまでもありませんが、この頃はまだエースとして投げていた訳ではなかったので(実質2年目)、対戦相手も比較的組易いものだった点がありました。今回の分析で登場しているエース達との対戦も、涌井(1)ダルビッシュ(1)と2度ほどでした(いずれも勝利)。
その後は対戦相手のレベルが上がり、勝率自体はかなり下がりました。しかし、エースとして実績を積重ねている点は疑いようも無い事実です。
今季については、対戦相手の防御率が優っているという現時点での経過なので、負け越しているのは致し方ないという見方も出来ますが、これもシーズン最後まで見届けたい点です。
3.金子千尋のケース

本格的に一軍選手となった2007年ではシーズン途中からの先発起用だったため、7試合分とサンプル数が極めて少なくなっています。そこで稼いだ6勝はリーグ平均から0.47ポイントも下回る相手を打線が打ち崩し、対戦間防御率(グラフ①-②)は今回の分析中最も高い数値を叩きだしてはいますが(5.07)、登板数からいって参考記録として扱うべきでしょう。
翌2008年は対戦間防御率がかなり接近したため10勝9敗という成績となり、最多勝のタイトルを獲得した2010年ではリーグ平均を0.31ポイント(グラフ③-④)上回る対戦相手から4.78というサポートを得て17勝8敗という成績を挙げました。
今季は2008年と似た状態でありながら4勝1敗と効率良く勝ち星を拾っていますが、この傾向が続くと勝敗上では苦戦する可能性があるでしょう。
4.対戦間防御率のベスト、ワースト
ごく一部の例外を除き、勝敗上で大幅な貯金を得ているシーズンでは対戦相手の投手がかなり打ち込まれていたことがわかりました。対戦間防御率の比較として、下に一覧を並べてみましょう。

近年では出色の出来といわれている2007年の成瀬、2008年の岩隈の非常に高い勝率と勝利数は、対戦間防御率でもベストに位置しています。試合開始からの投げ合いでこれだけの差がつくと、勝利数及び勝率に対し非常に大きな影響を及ぼすものと捉えるべきでしょう。金子のケースはエースと呼ばれる前のものであり、またサンプル数がかなり少ないため参考記録としていますが、対戦間防御率の効果を示す格好の材料となっています。仮にエースでなくとも勝利数の多い投手を発見したら、こうした傾向が現れる可能性はかない高いものだと考えられます。
反対に、ワーストの部類では金子と2010年岩隈の勝敗が全く同じものなのに、防御率では大きな差がついている点に注目しましょう。これも、対戦間防御率の影響が勝敗に強く関与しているケースです。防御率が良い割には勝利数が伸びない、或いは勝率が物足りないといったことが起きた場合、大抵はこの対戦間防御率に原因があると思って良いかもしれません。例外として、2009年の田中将の成績は対戦間防御率のハンディを物ともせず、15勝と高い勝率を達成しています。
因みに、今回使った対戦間防御率とRS(ランサポート)は行き着くところは同じですが、両者のメリット、デメリットをおさらいしてみます。
1、RSは純粋な得点数だが対戦間防御率は非自責点を対象としていないため、援護点としての分析では矛盾が生じてくる。
2、先発投手が投げ合った結果としては、互いの防御率を競う意味でも対戦間防御率に分がある。
3、RSには相手投手の質を考慮していないが、対戦間防御率ではリーグ平均と合わせることで比較が可能になる。
これらのことから打線に視点を置きたい場合はRS、相手投手とのマッチングに注目したいのであれば対戦間防御率を見ることで住み分けが出来るでしょう。
5.最後に
野球に限らず、「運も実力のうち」という言葉がありますが、投手の勝敗はその運にとても大きく影響を受ける指標ということが様々な検証で浮き彫りにされてきています。コラム中、運という表現は使わないで置きましたが、対戦間防御率などは明らかに運の要素が色濃く反映されています。その運という実力が本当の実力のように思われ続けているのはあまり良いことではないように思います。これは、仕事でも勉強でも或いは娯楽でも「評価」という捉え方がある以上、それが公平に行なわれることで評価される側にとっての達成感や実績が生まれる大事なものです。運を実力に置き換えることは、実は評価する立場の者がそれを実行出来ていないことに繫がるのではないでしょうか。
「あまりにも運が良過ぎる」とは12勝目を挙げたときのダルビッシュのコメントですが、どれだけ良い結果を残しても運だけは手玉に取れないと教えてくれるような言葉だと受け止めました。
1.田中将大のケース

デビューした2007年からの2年間はそれなりに打線のサポートを得ていたようですが、その後の3年間は厳しい状況が続いています。その中で最も対戦相手防御率(2.65)が良かった2009年に15勝6敗という成績だったのには正直驚かされました。対戦間防御率は僅か0.31(グラフ①-②)で、田中将自身と相手の防御率に優位性が見出せない以上、別の要因を考えざるを得ません。今の時点ではただ「勝負強かった」としか言い表せないのですが、何れはこの点についても分析してみたいと思います。今回の検証を覆すような傾向として、非常に参考となるデータでした。
この年と比べると、今季の対戦間防御率は今のところ1.09ですので現在の勝敗(9-3)も納得の範囲と考えられますが、対戦相手の防御率は2009年を超える2.32とかなり低いため、田中将自身の防御率が落ちてくるとこれまで通りに勝ち星を稼げなくなるかもしれません。
2.成瀬善久のケース

2007年に驚異的な勝率(16勝1敗で.941)を残し球界の注目を一身に集めました。この年の対戦相手はリーグ平均から-0.05ポイントとやや落ちる印象。そこから対戦防御率5.81と打線の攻略が成功し、対戦間防御率は3.99(グラフ①-②)と今回の分析では最も大きなものとなりました。これは成瀬自身の成績が素晴らしかったことは言うまでもありませんが、この頃はまだエースとして投げていた訳ではなかったので(実質2年目)、対戦相手も比較的組易いものだった点がありました。今回の分析で登場しているエース達との対戦も、涌井(1)ダルビッシュ(1)と2度ほどでした(いずれも勝利)。
その後は対戦相手のレベルが上がり、勝率自体はかなり下がりました。しかし、エースとして実績を積重ねている点は疑いようも無い事実です。
今季については、対戦相手の防御率が優っているという現時点での経過なので、負け越しているのは致し方ないという見方も出来ますが、これもシーズン最後まで見届けたい点です。
3.金子千尋のケース

本格的に一軍選手となった2007年ではシーズン途中からの先発起用だったため、7試合分とサンプル数が極めて少なくなっています。そこで稼いだ6勝はリーグ平均から0.47ポイントも下回る相手を打線が打ち崩し、対戦間防御率(グラフ①-②)は今回の分析中最も高い数値を叩きだしてはいますが(5.07)、登板数からいって参考記録として扱うべきでしょう。
翌2008年は対戦間防御率がかなり接近したため10勝9敗という成績となり、最多勝のタイトルを獲得した2010年ではリーグ平均を0.31ポイント(グラフ③-④)上回る対戦相手から4.78というサポートを得て17勝8敗という成績を挙げました。
今季は2008年と似た状態でありながら4勝1敗と効率良く勝ち星を拾っていますが、この傾向が続くと勝敗上では苦戦する可能性があるでしょう。
4.対戦間防御率のベスト、ワースト
ごく一部の例外を除き、勝敗上で大幅な貯金を得ているシーズンでは対戦相手の投手がかなり打ち込まれていたことがわかりました。対戦間防御率の比較として、下に一覧を並べてみましょう。

近年では出色の出来といわれている2007年の成瀬、2008年の岩隈の非常に高い勝率と勝利数は、対戦間防御率でもベストに位置しています。試合開始からの投げ合いでこれだけの差がつくと、勝利数及び勝率に対し非常に大きな影響を及ぼすものと捉えるべきでしょう。金子のケースはエースと呼ばれる前のものであり、またサンプル数がかなり少ないため参考記録としていますが、対戦間防御率の効果を示す格好の材料となっています。仮にエースでなくとも勝利数の多い投手を発見したら、こうした傾向が現れる可能性はかない高いものだと考えられます。
反対に、ワーストの部類では金子と2010年岩隈の勝敗が全く同じものなのに、防御率では大きな差がついている点に注目しましょう。これも、対戦間防御率の影響が勝敗に強く関与しているケースです。防御率が良い割には勝利数が伸びない、或いは勝率が物足りないといったことが起きた場合、大抵はこの対戦間防御率に原因があると思って良いかもしれません。例外として、2009年の田中将の成績は対戦間防御率のハンディを物ともせず、15勝と高い勝率を達成しています。
因みに、今回使った対戦間防御率とRS(ランサポート)は行き着くところは同じですが、両者のメリット、デメリットをおさらいしてみます。
1、RSは純粋な得点数だが対戦間防御率は非自責点を対象としていないため、援護点としての分析では矛盾が生じてくる。
2、先発投手が投げ合った結果としては、互いの防御率を競う意味でも対戦間防御率に分がある。
3、RSには相手投手の質を考慮していないが、対戦間防御率ではリーグ平均と合わせることで比較が可能になる。
これらのことから打線に視点を置きたい場合はRS、相手投手とのマッチングに注目したいのであれば対戦間防御率を見ることで住み分けが出来るでしょう。
5.最後に
野球に限らず、「運も実力のうち」という言葉がありますが、投手の勝敗はその運にとても大きく影響を受ける指標ということが様々な検証で浮き彫りにされてきています。コラム中、運という表現は使わないで置きましたが、対戦間防御率などは明らかに運の要素が色濃く反映されています。その運という実力が本当の実力のように思われ続けているのはあまり良いことではないように思います。これは、仕事でも勉強でも或いは娯楽でも「評価」という捉え方がある以上、それが公平に行なわれることで評価される側にとっての達成感や実績が生まれる大事なものです。運を実力に置き換えることは、実は評価する立場の者がそれを実行出来ていないことに繫がるのではないでしょうか。
「あまりにも運が良過ぎる」とは12勝目を挙げたときのダルビッシュのコメントですが、どれだけ良い結果を残しても運だけは手玉に取れないと教えてくれるような言葉だと受け止めました。
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野球を客観視した独自の論評、分析、および研究を特徴として、野球に関するさまざまな考察をしています。
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