先発投手のローテーション間隔について
SHINGO [ 著者コラム一覧 ]
前回に引き続き、先発投手のローテーション間隔について書いて参りたいが、その前に「登板間隔のズレについて」の項目で一件追加記述したい。
③対戦相手やチームの状況により意図的に順番を差し替える起用方法
簡単に言えばエースを強敵にあてるといった必勝方法のことや、特定チームに極めて相性の良い投手を集中して起用することを指している。また、シーズン終盤でローテーションを絞った上で登板間隔を縮めることも良く見かける。心配な点はエスカレートしてしまうと酷使につながる結果を生んでしまう可能性もあることだ。
さて、今回からチーム別ローテーション間隔を紹介することになるが、あえて四つのチームを選びその特色について触れていきたい。
※、今回の統計はすべて2005年から2010年までのもの。

《中日ドラゴンズ》
投手有利な本拠地などといった好条件もあるが、一般的にはリーグきっての投手王国だという認識が強いチーム。実際、2005年からの6年間におけるチーム防御率は12球団中2位の3.47で(1位は阪神の3.43)、先発投手に限った場合の防御率でも日本ハムの3.585とは僅差での2位(3.587)とあって、結果もついてきていることは間違いない。
そのドラゴンズのローテーションは毎年似たようなバランスを保っており、北京五輪の行われた2008年を除けば中6日登板を中心とした編成を組み続けている。これは5人ないし6人の投手が満遍なくシフトされ、常に余裕のある編成を組んできた証拠であろう。こうした傾向は現監督の落合博満が就任して以来、特に際立っている点でもある。
ところが、この6年間の中である二つのデータが投手王国とは呼べないような現象として残っている。

上のデータは先発投手のデプスに相当するものとして集計してみた。20試合以上先発機会の人数は、年間ほぼローテーションに加わっていた投手の人数を計るものとして見ていただきたいのと、優秀なスターターをどれだけ抱えていたかという目安にもなる。もう一つ、規定投球回の人数はわかりやすいだろう。
両方とも一位はロッテ。前回の日本一だった2005年には6人もの10勝投手を輩出したことなど、投手のコマが豊富だったというイメージと合致することは可能。そのほか、ソフトバンクや巨人、西武など上位にランクされているチームもリーグを代表する先発投手を多数抱えていたことがこうしたデータにも表れている。
では、ドラゴンズの場合はどうかというと、こちらも川上憲伸という好投手がMLBに移籍した直後に吉見一起とチェンらへの世代交代がうまく運んだ事実はあるのだが、こうした部分だけを切り取って見るのであれば、投手王国の名にふさわしいかどうかといった疑問も生まれてくる。この間、規定投球回に到達したのは川上と朝倉健太(3度)、チェンと吉見(2度)、そして大ベテランの山本昌と中田賢一がそれぞれ一度記録しているのみ。かつての日本シリーズであわや完全試合という好投を見せたこともある山井大介などは、キャリアを通じても規定投球回に入ったことは一度も無い。
しかし、その山井や中田、そして小笠原孝のような中堅投手たちをまるでテストするかのように毎年交互に入れ替えては100イニング前後の投球回数で無難な成績を収めさせている。規定投球回に到達しないと投手成績のランクに入ってこないので、あいまいな表現ではあるが一般的なファンからの視点では「一人前の投手」として見てもらえない分、彼らの存在はかなり地味な印象しか得られていない。しかし、しっかり抑えるところは抑えているというか、チームの戦力としては十分成り立っていたことを強調しておきたい。

この件についてもう一つデータを出してみる。先発3番手以降の防御率と題して、各チームのエース級もしくは今季優秀だった2人の投手を抜いた後の防御率を計算してみたのだが、ドラゴンズはここで圧倒的に優位な立場でいることが判明した。昨年に比べ吉見がやや精彩を欠いたといっても3.50の数字は平均以上の成績と言っても良いだろうから、先発投手毎の戦力値においては極端に下がることなくゲームメークしていたことがわかる。これと対極だったのが日本ハムで、ダルビッシュ、武田勝以外の投手が先発すると防御率は1.20も跳ね上がってしまっていた。
結果、今季のドラゴンズは誰が出て来ても1・2番手ないしはそれに近い仕事をしていたと言るだろう。圧巻だったのはマキシモ・ネルソンと山本昌の投入時期。それぞれ7/20と8/7に初めて先発してきた訳だが、2人合わせて104.1回を投げ防御率2.93の成績を残したのだから、他球団から見れば相当脅威に感じたであろう。加えて岩田慎司や伊藤準規ら将来が有望視される若手がデプスとして控えているこのチームのローテーションは、マネジメントさえ取り違えなければ本拠地のパークファクターも含めてしばらくの間は強力なアドバンテージとなるのではないかと思う。

《福岡ソフトバンクホークス》
続いて今季パリーグの覇者、ホークス。
こちらも中日同様中6日のサイクルが確立している球団の一つであり、特に4本柱(斉藤和巳、杉内俊哉、和田毅、新垣渚)の存在が際立っていたことから2000年代のディケイド(10年周期での単位に使われる言葉)では最も豪華なスタッフを抱えていたと言っても過言ではないだろう。
そのホークスの先発陣は2005年をピークに下がり傾向にある。原因は言うまでもなく、斉藤和と新垣の離脱が予期せぬ早さで訪れたこと。そのリカバリーを外国人投手の補強で埋めていたことはこの球団の資金的な強みが出ている一面ではあるが、それでも2007年はコマ不足を解消出来ず中5日体制を強化していた。その中にはもちろん現在もエースである杉内が当然含まれているが、彼のキャリア内ではこの年の中5日登板確率が飛びぬけている。

杉内はこの年、前半戦の防御率1.75に対し後半戦は3.92と非常に温度差の激しいシーズンを送っていたのだが、こうした例も含めた過去の経緯については通常の記録面からは読み取ることが困難だ。杉内の年間防御率2.46は誰が見ても優秀な成績であり、また投球回数197.2回と先発機会28度というのも彼のキャリアハイであるのは確かだが、他の年度と比べてそれほど大きな開きは無い(手数ではあるが年度別個人成績は公式サイトなど別URLで確認いただきたい)。また中5日での登板間隔がこの年だけ突出しているのも登板数や投球回数からは察することが不可能に近い。それ故にデータ追求の価値および楽しみがあると言っても良いが、このような投手のデリケートな部分について細かく追求することは、チームの戦い方を知る上で極めて重要なことかと思う。
和田については極端な変化こそ見られなかったが、その後の比率を見てみるとチームが負荷を徐々に取り除いていったことも見えてくるのではないだろうか。 今季は最多勝のタイトルとMVPに選出されるなど、自身の復活と共にチームにとってこの上ない貢献が評価された訳であるが、その前にチームが二人のコンディションを整える配慮をしていたことも見逃してはならない。
反面、両エース以外の投手が登板した試合では中日の項でも載せた通り、大変苦労をしていた。3番手以降の防御率5.46は、6点以上取らなければ勝てないとの証しでもある。事実、杉内と和田が先発した試合でのチーム成績が36勝16敗1分なのに対し、それ以外の試合は40勝47敗4分と非常に分が悪かった。ちなみに、中日の場合は吉見、チェン以外の先発試合で49勝38敗3分の成績を残していた。

ということで、ホークス先発陣の課題は浮き彫りになっている。そして、チームとしての課題としてもう一つ、四球の損得勘定についても言及しておきたい。上の表は与えた四球(投手側)と奪った四球(打者側)を差し引いた集計となっており、その結果としてホークスは両リーグワーストをはじき出してしまっている。昨今のマネーボール的な考え方が浸透しつつある中、これは誰が見ても不経済な戦い方だと言よう。これについては先発陣のみならず、バッテリーや攻撃陣など、チーム全体として改善していく必要があるのではないかと思う。
③対戦相手やチームの状況により意図的に順番を差し替える起用方法
簡単に言えばエースを強敵にあてるといった必勝方法のことや、特定チームに極めて相性の良い投手を集中して起用することを指している。また、シーズン終盤でローテーションを絞った上で登板間隔を縮めることも良く見かける。心配な点はエスカレートしてしまうと酷使につながる結果を生んでしまう可能性もあることだ。
さて、今回からチーム別ローテーション間隔を紹介することになるが、あえて四つのチームを選びその特色について触れていきたい。
※、今回の統計はすべて2005年から2010年までのもの。

《中日ドラゴンズ》
投手有利な本拠地などといった好条件もあるが、一般的にはリーグきっての投手王国だという認識が強いチーム。実際、2005年からの6年間におけるチーム防御率は12球団中2位の3.47で(1位は阪神の3.43)、先発投手に限った場合の防御率でも日本ハムの3.585とは僅差での2位(3.587)とあって、結果もついてきていることは間違いない。
そのドラゴンズのローテーションは毎年似たようなバランスを保っており、北京五輪の行われた2008年を除けば中6日登板を中心とした編成を組み続けている。これは5人ないし6人の投手が満遍なくシフトされ、常に余裕のある編成を組んできた証拠であろう。こうした傾向は現監督の落合博満が就任して以来、特に際立っている点でもある。
ところが、この6年間の中である二つのデータが投手王国とは呼べないような現象として残っている。

上のデータは先発投手のデプスに相当するものとして集計してみた。20試合以上先発機会の人数は、年間ほぼローテーションに加わっていた投手の人数を計るものとして見ていただきたいのと、優秀なスターターをどれだけ抱えていたかという目安にもなる。もう一つ、規定投球回の人数はわかりやすいだろう。
両方とも一位はロッテ。前回の日本一だった2005年には6人もの10勝投手を輩出したことなど、投手のコマが豊富だったというイメージと合致することは可能。そのほか、ソフトバンクや巨人、西武など上位にランクされているチームもリーグを代表する先発投手を多数抱えていたことがこうしたデータにも表れている。
では、ドラゴンズの場合はどうかというと、こちらも川上憲伸という好投手がMLBに移籍した直後に吉見一起とチェンらへの世代交代がうまく運んだ事実はあるのだが、こうした部分だけを切り取って見るのであれば、投手王国の名にふさわしいかどうかといった疑問も生まれてくる。この間、規定投球回に到達したのは川上と朝倉健太(3度)、チェンと吉見(2度)、そして大ベテランの山本昌と中田賢一がそれぞれ一度記録しているのみ。かつての日本シリーズであわや完全試合という好投を見せたこともある山井大介などは、キャリアを通じても規定投球回に入ったことは一度も無い。
しかし、その山井や中田、そして小笠原孝のような中堅投手たちをまるでテストするかのように毎年交互に入れ替えては100イニング前後の投球回数で無難な成績を収めさせている。規定投球回に到達しないと投手成績のランクに入ってこないので、あいまいな表現ではあるが一般的なファンからの視点では「一人前の投手」として見てもらえない分、彼らの存在はかなり地味な印象しか得られていない。しかし、しっかり抑えるところは抑えているというか、チームの戦力としては十分成り立っていたことを強調しておきたい。

この件についてもう一つデータを出してみる。先発3番手以降の防御率と題して、各チームのエース級もしくは今季優秀だった2人の投手を抜いた後の防御率を計算してみたのだが、ドラゴンズはここで圧倒的に優位な立場でいることが判明した。昨年に比べ吉見がやや精彩を欠いたといっても3.50の数字は平均以上の成績と言っても良いだろうから、先発投手毎の戦力値においては極端に下がることなくゲームメークしていたことがわかる。これと対極だったのが日本ハムで、ダルビッシュ、武田勝以外の投手が先発すると防御率は1.20も跳ね上がってしまっていた。
結果、今季のドラゴンズは誰が出て来ても1・2番手ないしはそれに近い仕事をしていたと言るだろう。圧巻だったのはマキシモ・ネルソンと山本昌の投入時期。それぞれ7/20と8/7に初めて先発してきた訳だが、2人合わせて104.1回を投げ防御率2.93の成績を残したのだから、他球団から見れば相当脅威に感じたであろう。加えて岩田慎司や伊藤準規ら将来が有望視される若手がデプスとして控えているこのチームのローテーションは、マネジメントさえ取り違えなければ本拠地のパークファクターも含めてしばらくの間は強力なアドバンテージとなるのではないかと思う。

《福岡ソフトバンクホークス》
続いて今季パリーグの覇者、ホークス。
こちらも中日同様中6日のサイクルが確立している球団の一つであり、特に4本柱(斉藤和巳、杉内俊哉、和田毅、新垣渚)の存在が際立っていたことから2000年代のディケイド(10年周期での単位に使われる言葉)では最も豪華なスタッフを抱えていたと言っても過言ではないだろう。
そのホークスの先発陣は2005年をピークに下がり傾向にある。原因は言うまでもなく、斉藤和と新垣の離脱が予期せぬ早さで訪れたこと。そのリカバリーを外国人投手の補強で埋めていたことはこの球団の資金的な強みが出ている一面ではあるが、それでも2007年はコマ不足を解消出来ず中5日体制を強化していた。その中にはもちろん現在もエースである杉内が当然含まれているが、彼のキャリア内ではこの年の中5日登板確率が飛びぬけている。

杉内はこの年、前半戦の防御率1.75に対し後半戦は3.92と非常に温度差の激しいシーズンを送っていたのだが、こうした例も含めた過去の経緯については通常の記録面からは読み取ることが困難だ。杉内の年間防御率2.46は誰が見ても優秀な成績であり、また投球回数197.2回と先発機会28度というのも彼のキャリアハイであるのは確かだが、他の年度と比べてそれほど大きな開きは無い(手数ではあるが年度別個人成績は公式サイトなど別URLで確認いただきたい)。また中5日での登板間隔がこの年だけ突出しているのも登板数や投球回数からは察することが不可能に近い。それ故にデータ追求の価値および楽しみがあると言っても良いが、このような投手のデリケートな部分について細かく追求することは、チームの戦い方を知る上で極めて重要なことかと思う。
和田については極端な変化こそ見られなかったが、その後の比率を見てみるとチームが負荷を徐々に取り除いていったことも見えてくるのではないだろうか。 今季は最多勝のタイトルとMVPに選出されるなど、自身の復活と共にチームにとってこの上ない貢献が評価された訳であるが、その前にチームが二人のコンディションを整える配慮をしていたことも見逃してはならない。
反面、両エース以外の投手が登板した試合では中日の項でも載せた通り、大変苦労をしていた。3番手以降の防御率5.46は、6点以上取らなければ勝てないとの証しでもある。事実、杉内と和田が先発した試合でのチーム成績が36勝16敗1分なのに対し、それ以外の試合は40勝47敗4分と非常に分が悪かった。ちなみに、中日の場合は吉見、チェン以外の先発試合で49勝38敗3分の成績を残していた。

ということで、ホークス先発陣の課題は浮き彫りになっている。そして、チームとしての課題としてもう一つ、四球の損得勘定についても言及しておきたい。上の表は与えた四球(投手側)と奪った四球(打者側)を差し引いた集計となっており、その結果としてホークスは両リーグワーストをはじき出してしまっている。昨今のマネーボール的な考え方が浸透しつつある中、これは誰が見ても不経済な戦い方だと言よう。これについては先発陣のみならず、バッテリーや攻撃陣など、チーム全体として改善していく必要があるのではないかと思う。
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