先発投手のローテーション間隔について②~Part1
SHINGO [ 著者コラム一覧 ]
今回は個性的なローテ編成を組む点は似ているが、その方法は正反対といわれていた2チームである広島とロッテについて2日間にわたって分析してみたい。
《広島東洋カープ》
カープといえば、前年まで監督を務めたマーティ・ブラウンと今季から采配を振るっている野村謙二郎。この両監督のローテーション運用面に違いがあったかどうかが興味の視点ではないか。

単刀直入に結果から申し上げると、上の統計グラフを見る限りではほとんど変化が見られなかったといって良い。実は昨年、拙ブログにて退団したコルビー・ルイスの穴埋めは先発三人分に相当するかもしれないという説を立ててみたのだが、その解釈とは昨年までブラウン前監督が企画していたローテ配分から野村監督が他球団同様、中6日で運用するのであれば前田健太、大竹寛、齋藤悠葵以外にも3名ほど補充しなければならないとの意味であった。また、昨年はルイスを含めた4人で111/144試合ものゲームを占有していたため、翌年のデプスが心配された。
そしてオフの間に新外国人投手としてジオを補強し、キャンプ中に肩の不調を訴えた大竹の穴を埋めるために開幕直前、MLBのドジャースで25人ロースター(開幕ベンチ入り枠)から漏れたエリック・スタルツを獲得する経緯から想像して見ると、野村監督は最初から中5日体制を考えていたのではないだろうか。仮に、大竹の故障に関係無くもう一枚先発を加えたいと考えていたのであれば、遅くとも開幕に照準を合わせた獲得でなければ成り立たない。また、スタルツ獲得に費やした年俸は7000万円(推定)と報道されていたが、これは現在の外国人獲得レートとしては高額な部類に入り、さらにシーズン途中補強の実労働期間マイナス分を考えると割高感は増す。スタルツ側から見ても、メジャー最低年俸(40万㌦、日本円だと約3,300万円)の粋を出なかった選手が即座に首を縦に振るような提示だったというのは容易に想像出来る。まさに「是が非でも」という獲得劇だった。
今季の結果が芳しくなかったので、カープファンからすればにわかに信じ難いと思われるかもしれないが、スタルツは投手力に定評のあるドジャース先発陣の一角に何度か食い込んだこともある実力派投手だった。今春のロースター漏れは、マイナーオプション(労使協定で結ばれた降格制限)というMLB独特のシステムに前途を遮られたと解釈しても良く、その意味ではルイスも類似点があった。そうした投手でなければ恐らく大竹の穴は埋まらなかったと思われる。成績が追いついていないと指摘されるかもしれないが、年間21度の先発機会とその内3度の中4日、6度の中5日登板を担える投手は、果たして簡単に見つかっただろうか?
こうした台所事情の苦しさは、単にデプスの薄さに止めを指す。大竹一人の離脱でここまで苦しむとはさすがに予測出来なかったが、残された実績者は前田健のみで後はすべて未知の戦力だったといっても良い。そこにはカープならではのお家事情が存在しているのだが、それは慢性的な少数精鋭体制だったということ。

上の表は「中5日以内での登板比率」というもので、カープ主力投手と他球団から最も稼働したとされるエース格の投手を2005年から2010年までの6年間で<中5日以内登板÷(すべての先発登板-年度初先発)>という比率を出してみた。その中では、カープで1番手ないしは2番手クラスの投手は他球団の1番手よりも過密に起用されてきたことになる。理由はもちろん冒頭の統計グラフに表れている。前回コラムの統計も参考にしていただきたいが、カープは他球団に比べて過密なローテーションを長年続けてきたといっても良いだろう。
象徴的だったのが、ブラウンが就任当時に大々的アピールした中4日起用法だ。筆者は最初、この案に賛成だった。そのころはセイバー的な感覚も乏しく、ただエース格の登板機会が増えることに対し単純に好ましいと思っていた。間隔を狭める代償として、投球数は100球をめどに交代といったまさにメジャー方式の採用も、それで登板回数が増えるのであれば同じことではないかと。
しかし、ブラウン前監督の目論(もくろ)みは見事に外れた。

これは2006年セリーグでの投手稼働実績。ここでは勝敗や防御率などは除外して考えてもらいたい。先発登板回数の多い順に並べている。トップの横浜三浦大輔はカープ先発陣にも引けを取らないほどの登板間隔だったので似たような境遇ともいえるが、中6日以上の方が圧倒的に多い阪神の井川慶や中日の川上憲伸などもほぼ変わらない登板数を記録している。ちなみに、カープで最多先発登板だった大竹との登板間隔にも注目いただきたいが、井川や川上とは密度が明らかに違う。それでいて年間での投球回数は水を大きく開けられている。チーム2番目に多く登板した佐々岡にしても、往年の力が無かったにせよ平均イニングや投球数を見ても著しく物足りない。さすがに黒田だけは内容も濃いものであったが、8/31を最後に登板が無く結局25試合でシーズンエンド。
結論を言ってしまえば、カープの中4日プランというものはほとんど無意味なものだったと厳しい表現ではあるが、そう指摘したい。従来の間隔より2日間も短くするのだから、せめて(先発)登板機会だけは一歩抜け出ていなければならない(仮に、レギュラーシーズン中6日で25試合先発する投手の間隔を1日詰めると25日間分の猶予を作ることが出来るので、それを中4日に必要な日数(5日間)を割り当てると5機会分の割り増し)。それが他球団の主力投手たちと同程度というのは合点がいかない。また、大竹、佐々岡の平均投球回は6イニング持たないことを示しており、ブルペンの負担を増大させる弊害をもたらしている結果も見えてくる。
そして、井川や川上のように長いイニングを投げ、無用に間隔を詰めなくても適所で登板させることが出来ればより多くの稼働を期待出来るといった証明にもなっている。結局、ブラウンの敷いたプランとは投手陣のコマ不足を補うのみに終始したといっても良い。 その後も幸か不幸かルイス、前田健とリーグ随一の働きをするエースの台頭で健闘してはいるものの、デプスの改革やリスクヘッジ(ここでは故障者に対する回避の意味)への対策が大きな課題となっている。野村監督に交代して、練習中においての投球制限撤廃は実現されたが、ローテーション編成までは改革することが不可能に近い状態だったともいえるだろう。
一方でブラウンも楽天の監督へとシフトしていった訳だが、そこでも通称メジャー方式を採用するのではなく、野村克也監督時代の起用方法から自己流への改革をすることは無かったようだ。
《広島東洋カープ》
カープといえば、前年まで監督を務めたマーティ・ブラウンと今季から采配を振るっている野村謙二郎。この両監督のローテーション運用面に違いがあったかどうかが興味の視点ではないか。

単刀直入に結果から申し上げると、上の統計グラフを見る限りではほとんど変化が見られなかったといって良い。実は昨年、拙ブログにて退団したコルビー・ルイスの穴埋めは先発三人分に相当するかもしれないという説を立ててみたのだが、その解釈とは昨年までブラウン前監督が企画していたローテ配分から野村監督が他球団同様、中6日で運用するのであれば前田健太、大竹寛、齋藤悠葵以外にも3名ほど補充しなければならないとの意味であった。また、昨年はルイスを含めた4人で111/144試合ものゲームを占有していたため、翌年のデプスが心配された。
そしてオフの間に新外国人投手としてジオを補強し、キャンプ中に肩の不調を訴えた大竹の穴を埋めるために開幕直前、MLBのドジャースで25人ロースター(開幕ベンチ入り枠)から漏れたエリック・スタルツを獲得する経緯から想像して見ると、野村監督は最初から中5日体制を考えていたのではないだろうか。仮に、大竹の故障に関係無くもう一枚先発を加えたいと考えていたのであれば、遅くとも開幕に照準を合わせた獲得でなければ成り立たない。また、スタルツ獲得に費やした年俸は7000万円(推定)と報道されていたが、これは現在の外国人獲得レートとしては高額な部類に入り、さらにシーズン途中補強の実労働期間マイナス分を考えると割高感は増す。スタルツ側から見ても、メジャー最低年俸(40万㌦、日本円だと約3,300万円)の粋を出なかった選手が即座に首を縦に振るような提示だったというのは容易に想像出来る。まさに「是が非でも」という獲得劇だった。
今季の結果が芳しくなかったので、カープファンからすればにわかに信じ難いと思われるかもしれないが、スタルツは投手力に定評のあるドジャース先発陣の一角に何度か食い込んだこともある実力派投手だった。今春のロースター漏れは、マイナーオプション(労使協定で結ばれた降格制限)というMLB独特のシステムに前途を遮られたと解釈しても良く、その意味ではルイスも類似点があった。そうした投手でなければ恐らく大竹の穴は埋まらなかったと思われる。成績が追いついていないと指摘されるかもしれないが、年間21度の先発機会とその内3度の中4日、6度の中5日登板を担える投手は、果たして簡単に見つかっただろうか?
こうした台所事情の苦しさは、単にデプスの薄さに止めを指す。大竹一人の離脱でここまで苦しむとはさすがに予測出来なかったが、残された実績者は前田健のみで後はすべて未知の戦力だったといっても良い。そこにはカープならではのお家事情が存在しているのだが、それは慢性的な少数精鋭体制だったということ。

上の表は「中5日以内での登板比率」というもので、カープ主力投手と他球団から最も稼働したとされるエース格の投手を2005年から2010年までの6年間で<中5日以内登板÷(すべての先発登板-年度初先発)>という比率を出してみた。その中では、カープで1番手ないしは2番手クラスの投手は他球団の1番手よりも過密に起用されてきたことになる。理由はもちろん冒頭の統計グラフに表れている。前回コラムの統計も参考にしていただきたいが、カープは他球団に比べて過密なローテーションを長年続けてきたといっても良いだろう。
象徴的だったのが、ブラウンが就任当時に大々的アピールした中4日起用法だ。筆者は最初、この案に賛成だった。そのころはセイバー的な感覚も乏しく、ただエース格の登板機会が増えることに対し単純に好ましいと思っていた。間隔を狭める代償として、投球数は100球をめどに交代といったまさにメジャー方式の採用も、それで登板回数が増えるのであれば同じことではないかと。
しかし、ブラウン前監督の目論(もくろ)みは見事に外れた。

これは2006年セリーグでの投手稼働実績。ここでは勝敗や防御率などは除外して考えてもらいたい。先発登板回数の多い順に並べている。トップの横浜三浦大輔はカープ先発陣にも引けを取らないほどの登板間隔だったので似たような境遇ともいえるが、中6日以上の方が圧倒的に多い阪神の井川慶や中日の川上憲伸などもほぼ変わらない登板数を記録している。ちなみに、カープで最多先発登板だった大竹との登板間隔にも注目いただきたいが、井川や川上とは密度が明らかに違う。それでいて年間での投球回数は水を大きく開けられている。チーム2番目に多く登板した佐々岡にしても、往年の力が無かったにせよ平均イニングや投球数を見ても著しく物足りない。さすがに黒田だけは内容も濃いものであったが、8/31を最後に登板が無く結局25試合でシーズンエンド。
結論を言ってしまえば、カープの中4日プランというものはほとんど無意味なものだったと厳しい表現ではあるが、そう指摘したい。従来の間隔より2日間も短くするのだから、せめて(先発)登板機会だけは一歩抜け出ていなければならない(仮に、レギュラーシーズン中6日で25試合先発する投手の間隔を1日詰めると25日間分の猶予を作ることが出来るので、それを中4日に必要な日数(5日間)を割り当てると5機会分の割り増し)。それが他球団の主力投手たちと同程度というのは合点がいかない。また、大竹、佐々岡の平均投球回は6イニング持たないことを示しており、ブルペンの負担を増大させる弊害をもたらしている結果も見えてくる。
そして、井川や川上のように長いイニングを投げ、無用に間隔を詰めなくても適所で登板させることが出来ればより多くの稼働を期待出来るといった証明にもなっている。結局、ブラウンの敷いたプランとは投手陣のコマ不足を補うのみに終始したといっても良い。 その後も幸か不幸かルイス、前田健とリーグ随一の働きをするエースの台頭で健闘してはいるものの、デプスの改革やリスクヘッジ(ここでは故障者に対する回避の意味)への対策が大きな課題となっている。野村監督に交代して、練習中においての投球制限撤廃は実現されたが、ローテーション編成までは改革することが不可能に近い状態だったともいえるだろう。
一方でブラウンも楽天の監督へとシフトしていった訳だが、そこでも通称メジャー方式を採用するのではなく、野村克也監督時代の起用方法から自己流への改革をすることは無かったようだ。
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