好投を表す定規~ドミネイト・スタート~
SHINGO [ 著者コラム一覧 ]
今回は投手別にQSデータを載せる予定でいたが、自前で考案した指標であるドミネイト・スタートについての解説とチーム別データを紹介させていただきたい。
ドミネイト(dominate)=支配する、服従させる、制御する
アメリカのメディアでは、相手チームの打者たちが手も足も出なかったほどの好投をした投手に対し、このような表現をよく用いる。もちろん、基準だとか決まりのようなものはある訳でもなく、記者による感覚的な問題で「相手を寄せ付けない=ドミネイト」ということになのだが、日本の場合だと「2塁を踏ませない好投」と似ている感覚であろうか。
これも、WinやQSでは表しきれない部分を活字上のリップサービスで補おうという情報は、意思として明らかに伝わるものではあるが、このドミネイトに定義を加えることで新しい指標(目安)が生まれるかもしれない。そんな気持ちでドミネイト・スタート(DS)を作り、筆者の管理する拙ブログにて何度か掲載を続け、同時に情報を集めてきた。そして、QSのデータと並行しながらようやく数年分の記録を収集するに至った。
旧来指標の代表格であるWinの不合理的な面は、セイバーメトリクスに精通していなくとも多くのファンが認識していることと思う。そこでQSが脚光を浴びてきたものの、こちらも好投の目安としては今一つ物足りない点が指標をアピールする上での妨げとなっている、と前回までの流れとしてはこのようなニュアンスだろう。ならば、納得の行く基準を設けそれを「好投を表す定規」として使えないだろうか。その考え方として、
「QS以上の投球結果を残す」
「QS以上のチーム勝率を誇る」
「Winと同等の物的量が望ましい」
「動的な指標として意識する」
と想定しながら基準を作ることにした。実際には後付けの理論もある。QS以上の基準というのであれば、6回2自責点でも7回3自責点でも良いが、出来れば最低ラインでクリアという例を減らしたい。DSを作り始めたキッカケはMLBだったので、彼らがQSを念頭に置きながら継投策を講じているイメージを浮かべると、6回よりも長いイニングを最低基準に置くことはしなかった。また、QS以上の勝率を維持するにはイニングを増やすよりも自責点を減らす方が効果的ではないかと考えた。Winと同等の物的量については、全ての投手に関連付けすることは難しいが、より良い投手との格差が生じればと結論を出した。動的なにがしについては、通常のBox Scoreから簡単に読み取れその動向を逐一観察出来る点を指している。Winでも打率でもそうだが、動きがあるからこそファンの注目を浴び、それがタイトル争いの盛り上がりに貢献している点を忘れないようにしたいと思った。
そして出来上がったものは、
<ドミネイト・スタートの基準>
6回以上2自責点以下
ゲームWHIP1.00以下
自責点が3以上になる場合は、ゲーム内防御率3.00以下
イニング数はQSと同じ、自責点を1減らしてWHIP(イニング単位での被出塁率)のフィルターも加えた。こうすることにより、DSの最低ラインが防御率3.00にまで落ち、さらにWHIPも加味することによってイニング精度が向上し(出塁数が少ない分、投球数も効率化する)、実際には7~8回まで続投する可能性も広がってくる。Winの最低ラインは5回なので、そこから大きく離れると物的量に不安が出てくる恐れもあるといった理由も含まれている。また、いくらイニングを稼いでも4自責点以上だと無効となってしまうQSの性格は取り払い、ゲーム内防御率が3.00以下になる結果も加えることにした。これによって、9回3自責点完投勝利はDSのカテゴリに属する。
こうして、見切り発車の状態で集計をすることになったのだが、結果は幸運にも恵まれたものとなった。

上の表はQSデータの時と全く同じフォームで作成したもの。DSはQSの約半分、全試合のおよそ1/4の確率で発生している。4試合に1度というのは決して多くはないが、反対にいえばそれだけ価値のあるアウティング(投球結果)といえよう。そして、DS時の勝率は過去6年で76.14~82.82%の間を推移しており、平均は78.87%と、これもまたQS勝率から10%程度上がっていた。最低イニングが6回ということを考えると、上々の結果だといえる。
また、QS勝率との関連性を調べるため以下のグラフを作成した。

どちらも似た性質を持つ指標の投球結果とあって、上昇下降のカーブは同じような動きをしていることがわかる。ただし、DSの方に若干波の高さが出ている。これはサンプル数的な問題でばらつきが出ているのか、それとも基準が甘いのかは計りかねるが、80%以上の勝率を確定させるにはさらに高い基準を設定する必要があるのではないかと、ここでは疑問を残しながらそうまとめておきたい。
そして、前々回に引き続きMLBのDSデータもご紹介しよう。

DSの発生する比率は、6年間平均にして22.68%でNPBの24.25%より1.57%ほど下がる。それでも投手上位だったといわれた2010年の24.71%など、NPB平均を超えている年もある。DS勝率の方でもNPBとMLBには1.78%と開きは出ているが、こちらも年平均で見るとMLBの方が高い年もある。QS勝率からの引き上げ率についてはNPBが10.37%(68.50⇒78.87)なのに対し、MLBは9.39%である。細かな分析をする余地は残されているものの、大方の目安としてはNPBとMLB、どちらも同じ野球をしているといって良い。
次は、NPBとMLBのDS勝率を年単位で比較したグラフを載せよう。

傾向として、平均得点値が高いとDS勝率が上昇するといったものは感じられる。NPBでいえば2005年と2010年。MLBの場合は2006年のことを指している。だからといって、平均得点とDS勝率が必ずしも比例するとは限らないので、関連性についての言葉は控えておきたい。
もう一つ、MLBと比べるとNPBは波が高い。最も、DSを達成したからといって相手投手も同じ仕事を行えば条件は同じで、勝ちはどちらにしか転がり込んでこない訳だから、巡り合わせの問題も絡んでくる。このささいな違いに大きな秘密が隠されているというのであれば分析しがいもあるが、マネー・ボールからの言葉を借りるなら「選手の活躍を測る尺度は決まりきっている。得点だ。得点は野球で“お金”に相当する(172ページ参照)」であり、勝利を導き出す好投を表す尺度とは自責点でもなく単なる失点のことを表すことになる。
正直な所、投球結果を全て「0」か「1」で置き換えてしまうWinやQS、そしてDSを一緒くたにして勝率を出したところで、正確な査定など出るはずもない。よって、DS勝率のばらつきを解明することはあまり有益ではないといえるだろう。しかし、数字には感覚的なものも必要だと感じるときがある。グラフにして表すということがそれに辺り、要するに受け手である人間の感覚が馴染(なじ)まない限りはどんなに正確なデータでも許容するすき間を生み出さない。指標に求められる役割には、「解かりやすさ」と「臨場感」も加えられるはずだ。
では、次にチーム別のDS運用面を見てみよう。これも前回コラムの応用版としてみてほしい。

まずは年度別にチームDS率とDS勝率をランク形式で表したもの。QSと同様に09年の巨人が高い位置にいるのは同じだが、DS勝率については07年の日本ハムにトップを譲った。これはQS内におけるDSの比率が日本ハムは64.2%なのに対し、巨人の方は53.7%にしか過ぎなかったのでこうした逆転劇が起きた。いわゆる、精度の高いQS=ドミネイトが多かったチームだったという見方が出来る。また、QSの時と同じように量が増せば負けも増えるといった具合の尺度は存在しているので、後はご自由に閲覧いただきたい。

そして最後にDSチーム勝率の合算とシェア率。筆者としてはこちらの方が興味深い。
トップに位置したのはなんと、楽天。QSデータで苦戦し、DS率も最下位なのだがこのカテゴリのみ突出している。シェア率も低いので、データの集計ミスかと思ったくらいだが、「勝てるツボが限りなく狭い割にはツボに入れば獲物を確実に仕留める」という雰囲気であろうか。惜しくも2位となった西武の物量的な条件とはまったくの裏返しにも見えなくはない。阪神も楽天と似た性質を持っているが、ブルペンの精度的な違いから戦い方は異なっていると見た方が良いだろう。
ここでは順位通りの感想とはいえないのだが、筆者としては最も優秀なDSチームは日本ハムとしたい。というのも、QSとは違いDSの場合は勝率が8割近くにもなるため、役割という意味とは分別するべきではないかと思っている。都合上、QS勝率と同じ形式で表示したが、やはり先発がドミネイトしたゲームは勝つべきだと思うのだ。他にも中日やロッテ、ソフトバンク、そして巨人辺りまでのチームは勝つ条件をそろえていて、年間順位もそれなりに反映しているといえないだろうか。
QSと比べ、DSは投手の力量が反映される傾向が強いためチームとしての勝率よりも、個人データを眺めた方が楽しいので、次回はQSも交えて投手別に紹介したい。
ドミネイト(dominate)=支配する、服従させる、制御する
アメリカのメディアでは、相手チームの打者たちが手も足も出なかったほどの好投をした投手に対し、このような表現をよく用いる。もちろん、基準だとか決まりのようなものはある訳でもなく、記者による感覚的な問題で「相手を寄せ付けない=ドミネイト」ということになのだが、日本の場合だと「2塁を踏ませない好投」と似ている感覚であろうか。
これも、WinやQSでは表しきれない部分を活字上のリップサービスで補おうという情報は、意思として明らかに伝わるものではあるが、このドミネイトに定義を加えることで新しい指標(目安)が生まれるかもしれない。そんな気持ちでドミネイト・スタート(DS)を作り、筆者の管理する拙ブログにて何度か掲載を続け、同時に情報を集めてきた。そして、QSのデータと並行しながらようやく数年分の記録を収集するに至った。
旧来指標の代表格であるWinの不合理的な面は、セイバーメトリクスに精通していなくとも多くのファンが認識していることと思う。そこでQSが脚光を浴びてきたものの、こちらも好投の目安としては今一つ物足りない点が指標をアピールする上での妨げとなっている、と前回までの流れとしてはこのようなニュアンスだろう。ならば、納得の行く基準を設けそれを「好投を表す定規」として使えないだろうか。その考え方として、
「QS以上の投球結果を残す」
「QS以上のチーム勝率を誇る」
「Winと同等の物的量が望ましい」
「動的な指標として意識する」
と想定しながら基準を作ることにした。実際には後付けの理論もある。QS以上の基準というのであれば、6回2自責点でも7回3自責点でも良いが、出来れば最低ラインでクリアという例を減らしたい。DSを作り始めたキッカケはMLBだったので、彼らがQSを念頭に置きながら継投策を講じているイメージを浮かべると、6回よりも長いイニングを最低基準に置くことはしなかった。また、QS以上の勝率を維持するにはイニングを増やすよりも自責点を減らす方が効果的ではないかと考えた。Winと同等の物的量については、全ての投手に関連付けすることは難しいが、より良い投手との格差が生じればと結論を出した。動的なにがしについては、通常のBox Scoreから簡単に読み取れその動向を逐一観察出来る点を指している。Winでも打率でもそうだが、動きがあるからこそファンの注目を浴び、それがタイトル争いの盛り上がりに貢献している点を忘れないようにしたいと思った。
そして出来上がったものは、
<ドミネイト・スタートの基準>
6回以上2自責点以下
ゲームWHIP1.00以下
自責点が3以上になる場合は、ゲーム内防御率3.00以下
イニング数はQSと同じ、自責点を1減らしてWHIP(イニング単位での被出塁率)のフィルターも加えた。こうすることにより、DSの最低ラインが防御率3.00にまで落ち、さらにWHIPも加味することによってイニング精度が向上し(出塁数が少ない分、投球数も効率化する)、実際には7~8回まで続投する可能性も広がってくる。Winの最低ラインは5回なので、そこから大きく離れると物的量に不安が出てくる恐れもあるといった理由も含まれている。また、いくらイニングを稼いでも4自責点以上だと無効となってしまうQSの性格は取り払い、ゲーム内防御率が3.00以下になる結果も加えることにした。これによって、9回3自責点完投勝利はDSのカテゴリに属する。
こうして、見切り発車の状態で集計をすることになったのだが、結果は幸運にも恵まれたものとなった。
上の表はQSデータの時と全く同じフォームで作成したもの。DSはQSの約半分、全試合のおよそ1/4の確率で発生している。4試合に1度というのは決して多くはないが、反対にいえばそれだけ価値のあるアウティング(投球結果)といえよう。そして、DS時の勝率は過去6年で76.14~82.82%の間を推移しており、平均は78.87%と、これもまたQS勝率から10%程度上がっていた。最低イニングが6回ということを考えると、上々の結果だといえる。
また、QS勝率との関連性を調べるため以下のグラフを作成した。
どちらも似た性質を持つ指標の投球結果とあって、上昇下降のカーブは同じような動きをしていることがわかる。ただし、DSの方に若干波の高さが出ている。これはサンプル数的な問題でばらつきが出ているのか、それとも基準が甘いのかは計りかねるが、80%以上の勝率を確定させるにはさらに高い基準を設定する必要があるのではないかと、ここでは疑問を残しながらそうまとめておきたい。
そして、前々回に引き続きMLBのDSデータもご紹介しよう。
DSの発生する比率は、6年間平均にして22.68%でNPBの24.25%より1.57%ほど下がる。それでも投手上位だったといわれた2010年の24.71%など、NPB平均を超えている年もある。DS勝率の方でもNPBとMLBには1.78%と開きは出ているが、こちらも年平均で見るとMLBの方が高い年もある。QS勝率からの引き上げ率についてはNPBが10.37%(68.50⇒78.87)なのに対し、MLBは9.39%である。細かな分析をする余地は残されているものの、大方の目安としてはNPBとMLB、どちらも同じ野球をしているといって良い。
次は、NPBとMLBのDS勝率を年単位で比較したグラフを載せよう。
傾向として、平均得点値が高いとDS勝率が上昇するといったものは感じられる。NPBでいえば2005年と2010年。MLBの場合は2006年のことを指している。だからといって、平均得点とDS勝率が必ずしも比例するとは限らないので、関連性についての言葉は控えておきたい。
もう一つ、MLBと比べるとNPBは波が高い。最も、DSを達成したからといって相手投手も同じ仕事を行えば条件は同じで、勝ちはどちらにしか転がり込んでこない訳だから、巡り合わせの問題も絡んでくる。このささいな違いに大きな秘密が隠されているというのであれば分析しがいもあるが、マネー・ボールからの言葉を借りるなら「選手の活躍を測る尺度は決まりきっている。得点だ。得点は野球で“お金”に相当する(172ページ参照)」であり、勝利を導き出す好投を表す尺度とは自責点でもなく単なる失点のことを表すことになる。
正直な所、投球結果を全て「0」か「1」で置き換えてしまうWinやQS、そしてDSを一緒くたにして勝率を出したところで、正確な査定など出るはずもない。よって、DS勝率のばらつきを解明することはあまり有益ではないといえるだろう。しかし、数字には感覚的なものも必要だと感じるときがある。グラフにして表すということがそれに辺り、要するに受け手である人間の感覚が馴染(なじ)まない限りはどんなに正確なデータでも許容するすき間を生み出さない。指標に求められる役割には、「解かりやすさ」と「臨場感」も加えられるはずだ。
では、次にチーム別のDS運用面を見てみよう。これも前回コラムの応用版としてみてほしい。
まずは年度別にチームDS率とDS勝率をランク形式で表したもの。QSと同様に09年の巨人が高い位置にいるのは同じだが、DS勝率については07年の日本ハムにトップを譲った。これはQS内におけるDSの比率が日本ハムは64.2%なのに対し、巨人の方は53.7%にしか過ぎなかったのでこうした逆転劇が起きた。いわゆる、精度の高いQS=ドミネイトが多かったチームだったという見方が出来る。また、QSの時と同じように量が増せば負けも増えるといった具合の尺度は存在しているので、後はご自由に閲覧いただきたい。
そして最後にDSチーム勝率の合算とシェア率。筆者としてはこちらの方が興味深い。
トップに位置したのはなんと、楽天。QSデータで苦戦し、DS率も最下位なのだがこのカテゴリのみ突出している。シェア率も低いので、データの集計ミスかと思ったくらいだが、「勝てるツボが限りなく狭い割にはツボに入れば獲物を確実に仕留める」という雰囲気であろうか。惜しくも2位となった西武の物量的な条件とはまったくの裏返しにも見えなくはない。阪神も楽天と似た性質を持っているが、ブルペンの精度的な違いから戦い方は異なっていると見た方が良いだろう。
ここでは順位通りの感想とはいえないのだが、筆者としては最も優秀なDSチームは日本ハムとしたい。というのも、QSとは違いDSの場合は勝率が8割近くにもなるため、役割という意味とは分別するべきではないかと思っている。都合上、QS勝率と同じ形式で表示したが、やはり先発がドミネイトしたゲームは勝つべきだと思うのだ。他にも中日やロッテ、ソフトバンク、そして巨人辺りまでのチームは勝つ条件をそろえていて、年間順位もそれなりに反映しているといえないだろうか。
QSと比べ、DSは投手の力量が反映される傾向が強いためチームとしての勝率よりも、個人データを眺めた方が楽しいので、次回はQSも交えて投手別に紹介したい。
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