Baseball Lab優秀守備者賞~総評Part2
Baseball Lab [ 著者コラム一覧 ]
昨日に引き続いて守備評価に対するまとめです。
今回の守備特集において多くの成果と課題が浮き彫りになっています。この点をまとめておきましょう。
最初にランキング全体を見渡して「各著者の評価にばらつきがある。」などのご意見を頂きました。これは各著者が重視するポイントや視点がそれぞれ違う事が理由です。Baseball Lab優秀守備者賞の冒頭で「各著者の複合的な分析で実力を少しでも明らかにしていければと考える」というコンセプトに違う事ではありません。また、複数の違う視点があるからこそ、選手の守備力を客観的に見つめられると考えています。
しかし、説明不足の部分もあり、森嶋さまからも「評者間の評価の差について、守備位置によっては評者間の差がかなりありましたが、個々人間の差の要因や値の大小は明らかにした方がいいのであろう」との指摘をいただきました。確かに分析する視点を事前に明らかにした方が誤解を少なく出来たと反省しています。来年同じような特集をする際は、この点に留意し改善したいと思います。
◎評価についての視点の違い(森嶋さまの総評から)
差の最大の要因はUZR的評価法を中心にしたかそうでないかにあるわけです。自分の算出法に関しては,例えば出塁関連以外のエラーを計算する時間がなかったこと等計算していない部分もある。岡田様と蛭川様の評価は私同様UZR的評価がベースであったため,大差はありませんでしたが、それでも差は存在しますし、道作様はrange系指標をベースにした上でzone系指標と照らし合わせておりました。私自身もコラム内でrange系指標、error系指標との差に言及しておいた方がよかったかなとも思います。
差異の要因を明らかにした上で、「どの値が実態に近いのか?」というところの比較まで行ければいいのですが、これを判断するのはなかなか難しいです。打撃指標などでよく行われるのは、個人成績の年度間相関をとる方法ですが、プロとしてトップクラスの遊撃手でも、けがや不調によって、プロ最低レベルの遊撃手としてシーズンを過ごすこともあり得る(2008年中日の井端選手など)となると,はてさてどうやって指標の「正しさ」を証明したものやら。今後考えてみたいと思います。
続いて各著者から寄せられた問題点・見解が一致した事例・今後期待される事(リポートから抜粋)を見ていきましょう。
1.問題点
問題点①道作氏
「レンジとゾーンの齟齬を考えると、守備指標は1年で結論を得るのは難しいのかもしれない。」
◎現時点での見解
データ自体がまだ2年分しかなく、守備力をより正確に表すと断言するには課題のあるNPBでのゾーンデータ。これはデータの容量を増やして検証していくしか解決方法がないのが現状です。ゾーンデータの分析方法確立までは、これまでのレンジデータ(アウトをどのくらい取ったのか)やBatted Ballデータ(ゴロ・フライ・ライナー別に処理した割合)と組み合わせて複合的に分析をすることが有用ではないかと思われます。
問題点②森嶋氏
「捕手の守備貢献の内容はいかにも多様そうである.まず全野手に共通する,打球をうまく処理して出塁と進塁を許さないこと.これはゾーンデータと既存データから計算できそうである.さらに,捕手独特の出塁・進塁阻止関係指標として,許盗塁,盗塁刺,捕逸等が挙げられる.」
問題点③三宅氏
「一塁手は打撃優先のポジションと冒頭に書き、その認識は変わっていませんが、同時に守備力の評価は難しいとあらためて感じました。それは、一塁手の特殊性によるものでしょう。理由は大きく3つ考えられますが、一つは先にも触れた刺殺が多くその評価法が定まっていないこと。の二つはいずれも補殺絡みですが、補殺機会が少ないため安定したデータが得られないこと、そしてUZRに代表される守備範囲評価が一塁手には通じない部分があるということです。」
◎現時点での見解
残念ながら、ゾーンデータは捕手の守備を測るのにそれほど適していません。また、一塁守備については各著者もかなりデータの処理で苦戦した形跡が見られます。一塁手は走者の影響や他の内野手との連携の影響をより受けるポジションで、守備隊形を含めもう少し評価の内容の吟味をしなくてはいけないでしょう。
2.各著者の見解一致
これに対して、今回の守備データ分析によって各著者の見解がおおむね一致したのは年齢の影響についてです(特に外野手)。
道作氏
「守備は一般に思われているより若い時期に盛りを迎え、名手として認知される頃には既に下り坂になっている事。そして打撃面でピークを迎える頃には既に下り坂になっている例が多く、守備で最も優れている時期にはレギュラーを奪いにくい。これらは、打撃と守備は相反する資質を要求される事を示し、今年のパリーグのスタッツはこういった事情を反映している。」
蛭川氏
「現実は意外と単純なものというか、外野の守備指標に関しては細かい技術云々よりも脚力・若さと正の相関が強いように思われる。技術論も大切だが野球でも基本的な運動能力は重要な位置を占めるようである。赤松は卓越した脚力の裏打ちがあり、今後もどれだけの数字を出すか楽しみな選手である。」
岡田氏
「二人とも若く、まだまだ守備の名声を得ていない点が受賞に対してマイナスに作用してしまったのかもしれません。実はMLBでも知名度のない選手が優秀な守備成績を残したにも関わらず、ゴールド・グラブを受賞できない事例が数多くあります。」
外野手の評価を見るとコンバート1年目の聖沢選手や打撃のイメージが強いT-岡田選手など若い外野手が高い評価をされています。一般的な守備はベテランになるほど評価が固まっていきますが、優秀な守備者は若い時期にこそ、その能力を見せるのかもしれません。ゴールデングラブ賞の選出に至らなかった若手選手が、今回のBaseball Labの評価で世評の一部を変える事が出来るのならこれほど意義深い事はありません。
3.今後期待される事
森嶋氏
「今回の企画を踏まえ,今後できそうな分析について。まず、コメントでパークファクターについての質問が多かったように感じました。これに関しては、今回のデータはプレーが記録された球場も特定出来ることを利用し、ゾーンパークファクターがゾーン指標の上下に大きく影響するほどのものか、ということについて近々分析出来たらなと思います。」
「守備体系や走者状況で打球分布はどう変わるのか」「試合中の野手間の送球はどうなっているのか」など,ゾーンデータからわかる事はまだまだてんこ盛りである。
NPB版のUZRを作る上で走者状況などの補正をどの程度にするべきか考えていかなければなりません。また、球場・天然芝/人工芝などの影響についても同じように補正が必要なのか検討されるべきでしょう。実は各著者に今回のゾーンデータを分析いただいたのは年末からで、時間的に手のつけられなかった項目があるのも事実です。各著者がさらに解析を進める事で、新たな発見があるかもしれません。
蛭川氏
「指標を理解する事はわずらわしく感じられるかもしれないが、根本的には野球の世界で起きている出来事をいかに整理し解釈していくかという広い意味の問題である。客観的に野球を分析しようとするとき、UZRなどの指標は強力な武器になり得る。」
守備面での失点化を正確にする事で野球の構造理解は一段と進みます。失点は投手と守備側の責任を切り分けしていかなければなりませんが、UZRなどはその足がかりとなります。さらに選手の活躍を勝利に変換する指標でも守備の正確な評価は欠かせません。2010年度の個人UZRがある程度算出出来たため、ここからはWAR(Win Above Replacement)と呼ばれる、ポジションの控え選手に比べてどれくらい勝利に貢献したのかを表す総合評価に取り組む事も出来そうです。
守備評価特集の最後に2010年のチームポジション別UZRを掲載いたします。これはデータスタジアムの岡田氏の算出方法で求められたものです。今回は以前紹介した算出方法に打球の強さと走者状況(走者が一塁にいるかorいないか)を補正して評価をしています。各著者と評価が違う点もあるかと思いますが、チームの守備力を考える上で一つの参考としていただければ幸いです。
今回の守備特集において多くの成果と課題が浮き彫りになっています。この点をまとめておきましょう。
最初にランキング全体を見渡して「各著者の評価にばらつきがある。」などのご意見を頂きました。これは各著者が重視するポイントや視点がそれぞれ違う事が理由です。Baseball Lab優秀守備者賞の冒頭で「各著者の複合的な分析で実力を少しでも明らかにしていければと考える」というコンセプトに違う事ではありません。また、複数の違う視点があるからこそ、選手の守備力を客観的に見つめられると考えています。
しかし、説明不足の部分もあり、森嶋さまからも「評者間の評価の差について、守備位置によっては評者間の差がかなりありましたが、個々人間の差の要因や値の大小は明らかにした方がいいのであろう」との指摘をいただきました。確かに分析する視点を事前に明らかにした方が誤解を少なく出来たと反省しています。来年同じような特集をする際は、この点に留意し改善したいと思います。
◎評価についての視点の違い(森嶋さまの総評から)
差の最大の要因はUZR的評価法を中心にしたかそうでないかにあるわけです。自分の算出法に関しては,例えば出塁関連以外のエラーを計算する時間がなかったこと等計算していない部分もある。岡田様と蛭川様の評価は私同様UZR的評価がベースであったため,大差はありませんでしたが、それでも差は存在しますし、道作様はrange系指標をベースにした上でzone系指標と照らし合わせておりました。私自身もコラム内でrange系指標、error系指標との差に言及しておいた方がよかったかなとも思います。
差異の要因を明らかにした上で、「どの値が実態に近いのか?」というところの比較まで行ければいいのですが、これを判断するのはなかなか難しいです。打撃指標などでよく行われるのは、個人成績の年度間相関をとる方法ですが、プロとしてトップクラスの遊撃手でも、けがや不調によって、プロ最低レベルの遊撃手としてシーズンを過ごすこともあり得る(2008年中日の井端選手など)となると,はてさてどうやって指標の「正しさ」を証明したものやら。今後考えてみたいと思います。
続いて各著者から寄せられた問題点・見解が一致した事例・今後期待される事(リポートから抜粋)を見ていきましょう。
1.問題点
問題点①道作氏
「レンジとゾーンの齟齬を考えると、守備指標は1年で結論を得るのは難しいのかもしれない。」
◎現時点での見解
データ自体がまだ2年分しかなく、守備力をより正確に表すと断言するには課題のあるNPBでのゾーンデータ。これはデータの容量を増やして検証していくしか解決方法がないのが現状です。ゾーンデータの分析方法確立までは、これまでのレンジデータ(アウトをどのくらい取ったのか)やBatted Ballデータ(ゴロ・フライ・ライナー別に処理した割合)と組み合わせて複合的に分析をすることが有用ではないかと思われます。
問題点②森嶋氏
「捕手の守備貢献の内容はいかにも多様そうである.まず全野手に共通する,打球をうまく処理して出塁と進塁を許さないこと.これはゾーンデータと既存データから計算できそうである.さらに,捕手独特の出塁・進塁阻止関係指標として,許盗塁,盗塁刺,捕逸等が挙げられる.」
問題点③三宅氏
「一塁手は打撃優先のポジションと冒頭に書き、その認識は変わっていませんが、同時に守備力の評価は難しいとあらためて感じました。それは、一塁手の特殊性によるものでしょう。理由は大きく3つ考えられますが、一つは先にも触れた刺殺が多くその評価法が定まっていないこと。の二つはいずれも補殺絡みですが、補殺機会が少ないため安定したデータが得られないこと、そしてUZRに代表される守備範囲評価が一塁手には通じない部分があるということです。」
◎現時点での見解
残念ながら、ゾーンデータは捕手の守備を測るのにそれほど適していません。また、一塁守備については各著者もかなりデータの処理で苦戦した形跡が見られます。一塁手は走者の影響や他の内野手との連携の影響をより受けるポジションで、守備隊形を含めもう少し評価の内容の吟味をしなくてはいけないでしょう。
2.各著者の見解一致
これに対して、今回の守備データ分析によって各著者の見解がおおむね一致したのは年齢の影響についてです(特に外野手)。
道作氏
「守備は一般に思われているより若い時期に盛りを迎え、名手として認知される頃には既に下り坂になっている事。そして打撃面でピークを迎える頃には既に下り坂になっている例が多く、守備で最も優れている時期にはレギュラーを奪いにくい。これらは、打撃と守備は相反する資質を要求される事を示し、今年のパリーグのスタッツはこういった事情を反映している。」
蛭川氏
「現実は意外と単純なものというか、外野の守備指標に関しては細かい技術云々よりも脚力・若さと正の相関が強いように思われる。技術論も大切だが野球でも基本的な運動能力は重要な位置を占めるようである。赤松は卓越した脚力の裏打ちがあり、今後もどれだけの数字を出すか楽しみな選手である。」
岡田氏
「二人とも若く、まだまだ守備の名声を得ていない点が受賞に対してマイナスに作用してしまったのかもしれません。実はMLBでも知名度のない選手が優秀な守備成績を残したにも関わらず、ゴールド・グラブを受賞できない事例が数多くあります。」
外野手の評価を見るとコンバート1年目の聖沢選手や打撃のイメージが強いT-岡田選手など若い外野手が高い評価をされています。一般的な守備はベテランになるほど評価が固まっていきますが、優秀な守備者は若い時期にこそ、その能力を見せるのかもしれません。ゴールデングラブ賞の選出に至らなかった若手選手が、今回のBaseball Labの評価で世評の一部を変える事が出来るのならこれほど意義深い事はありません。
3.今後期待される事
森嶋氏
「今回の企画を踏まえ,今後できそうな分析について。まず、コメントでパークファクターについての質問が多かったように感じました。これに関しては、今回のデータはプレーが記録された球場も特定出来ることを利用し、ゾーンパークファクターがゾーン指標の上下に大きく影響するほどのものか、ということについて近々分析出来たらなと思います。」
「守備体系や走者状況で打球分布はどう変わるのか」「試合中の野手間の送球はどうなっているのか」など,ゾーンデータからわかる事はまだまだてんこ盛りである。
NPB版のUZRを作る上で走者状況などの補正をどの程度にするべきか考えていかなければなりません。また、球場・天然芝/人工芝などの影響についても同じように補正が必要なのか検討されるべきでしょう。実は各著者に今回のゾーンデータを分析いただいたのは年末からで、時間的に手のつけられなかった項目があるのも事実です。各著者がさらに解析を進める事で、新たな発見があるかもしれません。
蛭川氏
「指標を理解する事はわずらわしく感じられるかもしれないが、根本的には野球の世界で起きている出来事をいかに整理し解釈していくかという広い意味の問題である。客観的に野球を分析しようとするとき、UZRなどの指標は強力な武器になり得る。」
守備面での失点化を正確にする事で野球の構造理解は一段と進みます。失点は投手と守備側の責任を切り分けしていかなければなりませんが、UZRなどはその足がかりとなります。さらに選手の活躍を勝利に変換する指標でも守備の正確な評価は欠かせません。2010年度の個人UZRがある程度算出出来たため、ここからはWAR(Win Above Replacement)と呼ばれる、ポジションの控え選手に比べてどれくらい勝利に貢献したのかを表す総合評価に取り組む事も出来そうです。
守備評価特集の最後に2010年のチームポジション別UZRを掲載いたします。これはデータスタジアムの岡田氏の算出方法で求められたものです。今回は以前紹介した算出方法に打球の強さと走者状況(走者が一塁にいるかorいないか)を補正して評価をしています。各著者と評価が違う点もあるかと思いますが、チームの守備力を考える上で一つの参考としていただければ幸いです。
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