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ダルビッシュは20勝できるのか? Part.2

Student [ 著者コラム一覧 ]

投稿日時:2011/06/09(木) 10:00rss

1.はじめに
 
 前回の分析では,投手の防御率と援護率から予想される勝率を計算してみました。その分析の結果を元に,ダルビッシュ選手が20勝できるかどうかを検証してみましたが,残念ながら2006年から2010年までの成績では20勝に届かないということがわかりました。では,ダルビッシュ選手が20勝するためには何が足りないのか?というのを今回は分析してみたいと思います。
 
分析データは,前回の分析と同様です。
 
 
2.分析
 
まずは,ダルビッシュ選手の2006年~2010年までの成績を表1に示します。
 

 
次に,各投手がどのような防御率と援護率であるかを分類してみました。データを表2に示します。
 

 
 この表の見方は,例えば,防御率が3.00 - 4.00,援護率が3.00 - 4.00の欄の値が38となっていますが,これは,防御率が3.00 - 4.00で援護率が3.00 - 4.00の投手が38人いることを示しています。
 
 防御率も援護率も3.00から6.00までの投手が多いことがわかります。表中で黄色に塗りつぶしてある欄は,2006年~2010年までのダルビッシュ選手の成績が該当する箇所です。
 
 では,各欄に所属する投手の勝率はどのようになっているでしょうか?データを表3に示します。
 

 
 当たり前ですが,防御率が低く,援護率が高いほど勝率は高くなります。したがって,表中の右上の欄ほど勝率が高く,左下の欄ほど勝率は低くなります。勝率だと勝ち星の数がわかりにくいので,次は平均勝利数を表4に示します。
 

 
 該当する選手は2人しかいませんが,赤字の箇所が最も20勝を期待できる成績です。一方,表中で黄色に塗りつぶしてある欄は,2006年~2010年までのダルビッシュ選手の成績が該当する箇所です。
 
 最も20勝を期待できる成績と2006年~2010年までのダルビッシュ選手の成績を比較すると,防御率は同程度でありながら,援護率が低いことがわかります。したがって,
 
ダルビッシュ選手が20勝するために足りないものは打線の援護である。
 
と,いえます。援護率があと1点加われば20勝を狙える条件が満たされます。
 
 日本ハムは、どちらかというと攻撃力に長けたチームというよりは守備力のチームなのですが,これはそうしたチームの攻撃力だけを反映したものとはいえません。援護率が5点を超える投手は,日本ハムにもいます。
 
 ダルビッシュ選手の援護率が低い理由は,彼が先発する試合は相手も実力のある投手を先発させてくることが多いことが考えられます。
 
「3連戦の初戦で相手のエースと投げ合う役割を背負うのがエース」というエース論をどこかで聞いた覚えがあるのですが,こうしたエースの役割が,ダルビッシュ選手の登板時に援護率が低くなる原因であると考えられます。
 
 
3.まとめ
 
というわけで,ダルビッシュ選手が20勝するためには,もう少し打線からの援護が必要であることがわかりました。しかし,相手チームのエースクラスとの対戦が多い事情を考慮すると援護率のアップを期待することは難しいかもしれません。
 
 単純に勝ち星を増やすためであれば,強力な投手との対戦を避けるようなローテーションを組めば良いと思います。しかし,確実に勝ちを狙うというのは,日本ハムの戦略としては正しいのかもしれませんが,個人的には,楽な相手からとった20勝よりも,相手のエースと投げ合っての10勝の方が価値はあるというか,野球の試合として面白いと思います。
 
 どちらが正しいとは一概にいえませんが,とりあえずこれまでの分析を通していえることは,勝ち星で投手の評価をすることはあまり意味がないということです。メディアでは,投手は何勝したか?という観点から語られることが多いのですが,そうした現状が変わると良いなぁと思います。
 
 
 さて,ここまでは防御率と援護率と投手の勝ち星の関係を分析してきました。これは,防御率は投手側の要因,援護率は打者側の要因という位置づけだったのですが,厳密にいえば,防御率は投手だけの責任とはいえません。守備時の失点は,投手の実力と野手の守備力によって起こります。
 
 というわけで,次回の分析は投手側の要因を,防御率ではなく,投手の実力と野手の守備力から分析していきたいと思います。

コメント

みんなの評価:5

Student様

ご返答が遅れまして、申しわけございません。

統計学のおもしろい所なのでしょうか?

ダルビッシュ投手は、現在8勝です。
例年どうり援護率が3、00ー4、00だとすると、
最終的にダルビッシュ投手は21勝に到達する計算になります。
(今後19試合登板するとして)
つまり、Student様はいままでは援護に恵まれていたけれど、
今後その「付け」が回ってくるという推察なのでしょう。
逆に、武田勝投手の方に援護が期待できるような。


>強力な投手との対戦を避けるような
ローテーションを組めば良いと思います。

おそらく、その反対ではないかと。
ダルビッシュ投手が中六日のローテーションを崩したことなど、
ほとんど記憶になく、
逆に相手がエースをぶっつけてくるのか否か。
要は、選択権は相手チームの監督に委ねられるのか、
と思います。

評価: Posted by 素人のナックルボール視点 at 2011/06/11 16:39:49 PASS:

素人のナックルボール視点様

 現在(2011.6.11)のダルビッシュ投手の援護率は3.43です。
 援護に恵まれていないわけではないですが,多いわけでもありません。

 というわけで,ダルビッシュ投手の現在の成績は,援護に恵まれたというよりは,
 現在5試合連続無失点という本人の活躍よるところが大きいと思います。

 この勢いは当面衰えそうにないのですが,残りの試合を全て無失点で切り抜けるというのは少しできすぎな予想だと思います。
 おそらく,残りの試合では1点2点と失点するケースが出てくると思います。また,無失点に抑えていても打線の援護のない試合も出てくると思います。

 一応勝率計算では,残り19試合に登板すれば21勝となりますが,勝敗のつかない試合も出てきますので20勝行くかどうかはきわどいラインになるのではないでしょうか?
 個人的には今の勢いのまま20勝まで行ってほしいところですが,データを見るとやはり打線の援護が心許なく感じられます。

 強力な投手との対戦を避ければよいといったのは,これまでは自分のローテーションを崩すことなく投げてきたので強力な投手との対戦が多かったわけですから,
 それを避けるためには自らローテーションを崩すようなことはしないと,いつもどおり強力な投手との対戦が多くなってしまうからです。

 しかし,コラムの結論にも書いたとおり,勝ち星を挙げるためにダルビッシュ投手ができることは既に最大限やっており,
 これ以上の勝ち星を上積みするためには,ダルビッシュ投手以外の要因を何とかしなくてはならないということになっています。

 結局本人の努力以外のところで勝ち星が結構左右されてしまうことのおかしさが伝わればと思います。
 20勝にこだわるよりは,もっとダルビッシュ投手自身の実力を正確に見ていくほうが重要ではないかと思います。

 まぁタイトルに20勝できるか?と書いたのは私なのですが……。

Posted by Student at 2011/06/11 20:28:13 PASS:

興味深く拝見いたしました。
「ダルビッシュ選手が20勝するために足りないものは打線の援護である」という結論はスッパリと切っていて気持ちがいいですね。

私の場合理論を使った概算ですが「20勝は投手の実力で達成可能か?」を考えてみたことがあります。
仮に投手の成績が200投球回・失点率2.00、リーグの平均得点が4.50とすると
約9イニングにつきひとつの勝敗が生じる野球の性質からして当該投手に記録される勝敗の合計は22.2。
平均的な援護における勝率はピタゴラス勝率式等の計算からだいたい8割と見積もられ
勝利数は22.2×0.8=17.8と18勝弱。

200投球回・失点率2.00という相当に良い仮定でも打線の援護が平均的なら20勝に届かない計算になるわけで(計算は大雑把ではありますが)
現代の野球では、Studentさんが仰るように、20勝は打線の援護に恵まれないことには達成が難しいかなと思います。

Posted by 蛭川皓平 at 2011/06/12 11:55:22 PASS:

蛭川皓平様

ダルビッシュ選手の今年の好投を見るに,久方ぶりの防御率0点台も射程距離に捉えているといってよいのかもしれませんが,今回の分析データを見るに,それでもそれなりの援護をもらえないと難しい気がしたので,ここはひとつすっぱりと言い切ってしまいました。また,結論が明快な方が読んでくれた方が批判をしやすいというのもあります。

そして,理論的な裏付けをありがとうございます。個人的には20勝できてもできなくてもダルビッシュ選手の価値は変わらないと思うのですが,野球メディアを見ているとどうしても勝ち星を中心に評価されているように感じますので,そういった傾向が今後改まってくると良いのではないかと思います。

Posted by Student at 2011/06/12 23:16:45 PASS:

Student様
ご返答ありがとうございます。


>残りの試合を全て無失点で切り抜けるというのは少しできすぎな予想だと思います。

願望も多分に含んでいるようですね。
失礼しました。
因みに、今後の私の予想は、

防御率・・・0、5-1、5
援護率・・・2、5-3、0

どちらも統一球の影響を加味した予想です。
防御率に関しては、ダルビッシュ投手自身が体重10キロ増の影響か
パワーアップ(スピードが増したような)を果たしているように見受けるため、
1点前後の数字で収まるのかと思います。
もちろん、私の印象にすぎず、競馬の予想のようなものです。

>打線の援護が心許なく感じられます。

もっと掘り下げるならば、「“犠打”による援護」が問題かと。
とにもかくにも、梨田監督は犠打を多用する監督です。
あの強かった頃の、森西武のあこがれ(トラウマ)でしょうか。
近鉄出身の人とは思えないほどの犠打の多さです。
おそらく、今後1点が重要になる試合が見込まれますので、
ますます送りバントを頻繁に使うのではないでしょうか。
その戦法が、本当に虎の子の“1点”に結び付くのか???

>ダルビッシュ投手自身の実力を正確に見ていくほうが
重要ではないかと思います。

“重要です”と言ってしまえば、ナックル視点ではなくなるので、
あえて別意見を言わせて貰えれば、
一般ファンが興味が湧く「数字」も公表すべきかと思います。

失策は、誰も好んで見たいとは思いません。
その失策の回数は、公式記録にも記しますし、新聞にも掲載しています。
一方、ファインプレーは、野球の醍醐味であり誰もが見たいプレーであります。
いわずもがな、その「ファインプレー数」は、残念ながら知ることができません。
(実際は、記録されているのかもしれませんが)
プロ野球は興行である以上、「ファインプレー数」も記録してもよいのかと思います。

もう一段ジャンプアップするならば、
エラーも「積極エラー」と「凡エラー」に分類すべきかと。
そして、「ファインプレー数」と合わせて公表するならば、
その当該選手の大まかな特徴が掴めて、おもしろいのかと思います。

評価: Posted by 素人のナックルボール視点 at 2011/06/13 21:07:21 PASS:

素人のナックルボール視点様

今年は例年とは事情が異なるので予想は難しいですね。
とりあえず、今シーズンの終わりを期待して待ちたいと思います。

>「“犠打”による援護」が問題かと。

犠打は有効な戦術か?というのは奥が深いテーマですね。
私も犠打については何度か分析したことがあるのですが、分析結果はなかなか複雑で、単純に損な戦術とはいえないという結果が出たこともあります。

>失策は、誰も好んで見たいとは思いません。

見たくないものから目を背けることをあまり肯定はできませんが、
失策については、ご指摘のように「積極エラー」と「凡エラー」が混同してしまうことから、守備力の指標としての信頼性に疑問がもたれていますね。

Posted by Student at 2011/06/14 21:33:29 PASS:

Student様
お世話になっております。

>見たくないものから目を背けることをあまり肯定はできませんが、

専門家は、言わずもがな選手の価値を客観的に見なければいけません。
ただ、ファンの立場ではどうか、ということです。

“エラーの回数をスコアボードに掲示する”

毎日毎日、このゲームに接していれば、
見慣れた風景かもしれません。
しかし、少し突き放して客観的に見た場合、
余りにも常識から逸脱していると思うんですよ。
たとえば、エンターティメント産業の覇者、
ディズニーランドに置き換えたとしましょう。
従業員の“ミス”、或いはミッキーやドナルドの振り付けの“誤り”を、
カウント表示されたならば、どうでしょうか。
監視員がいたる所に配置して、
「はい、そこミス!」としてカウントされるのです。
こんなことしたならば、ディズニーランドの雰囲気が壊れ、
現実社会に引き戻される感を受けるのではないでしょうか。
それは、サッカー、ラグビー、バスケットなどでも同様で、
いくら試合内容の一端を判ることができたとしても、
そこまで、“チクチク”した観戦を強制することはないと思うんですよ。
(ベースボールだけでしょうか、失策を掲示するのは)

元を辿れば、ヘンリーチャドウィックからの慣習でしょうか。
よしんば、その慣習を認めるとしても、
同時にファインプレー回数も掲示した方がよいと私なんぞは思います。
そのほうが、選手だって励みになるかと。

(今晩、ダルビッシュは援護なく負けました。笑)

評価: Posted by 素人のナックルボール視点 at 2011/06/15 22:49:17 PASS:

素人のナックルボール視点様

 そいえばなんでスコアボードにエラー数が表示されるのでしょうね。

 他の有益な情報を表示しても良いと思いますが、伝統とはなかなか変更しにくいものです。
 ファインプレーを表示するのも良い案かもしれませんが、ファインプレーもエラーと似た問題を抱えていますね。

Posted by Student at 2011/06/16 21:38:32 PASS:

ご返答ありがとうございました。

評価: Posted by 素人のナックルボール視点 at 2011/06/16 22:58:00 PASS:
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