被本塁打とパーク・ファクター
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1.はじめに
投手の成績の評価基準としては,勝ち星や防御率が代表的ですが,これらの指標は投手の実力以外にも,打線の援護や野手の守備力に左右されてしまうという欠点があります。
こうした投手の伝統的指標の問題を改善するために様々な試みがなされてきたわけですが,中でも,「奪三振」・「与四(死)球」・「被本塁打」は,野手の守備力の影響を受けていない,投手の実力を示す指標と考えられています。
DIPS,FIPなどは,これらの3つの指標を元に作成された指標で,投手の総合力を示すデータとして重宝されています。今回はこれら3つの指標のうち,「被本塁打」に注目していきたいと思います。
打球がスタンドインする過程で野手ができることはほとんどありません。ごく稀に,ホームランになるはずの打球を外野手がキャッチしたり,逆に外野手が飛球をトスしてスタンドインする場合もありますが,これは考えないものとします。したがって,「被本塁打」を守備力の影響を受けないというのは正しいと思うのですが,被本塁打が全て投手の責任であるとは言い切れません。球場の影響があるからです。
球場によって本塁打の出やすい球場と出にくい球場があることを私たちは経験的に知っています。この球場別の得点の入りやすさや,本塁打の出やすさを数値化したものをパーク・ファクターといいます。詳しくはコラム一覧にある「パーク・ファクター」をご覧ください。
では,このパーク・ファクター(以下PF)と投手の被本塁打の間にはどのような関係があるのでしょうか?ということをテーマに今回は分析していきたいと思います。
2.分析データ
2006年から2010年までに1シーズンに40イニング以上登板した先発投手376名を分析対象としました。この投手達の所属するチームのホームゲームでの成績を分析していきます。PFのデータは,各投手が所属するホームスタジアムのデータを用いています。
3.投手の被本塁打とPF
まずは,投手の被本塁打とPFの関係を分析します。データを図1-1に示します。

相関分析の結果,相関係数は .251で弱い正の相関関係が認められました。この結果は,PFの値が高いほど,被本塁打が多くなることを示しています。
さて,このPFの値は,球場別に得点の入りやすさを数値化したものですが,これを本塁打の出やすさで数値化したものに,パーク・ホームラン・ファクター(以下,PHRF)というものがあります。次に,投手の被本塁打とPHRFの関係を分析します。データを図1-2に示します。

分析結果は,PFとそんなに変わりませんが,相関係数が .326と高くなっているので,こちらの方が投手の被本塁打との関係は強いといえます。
以上の結果より,投手の被本塁打は登板する球場の影響を受けているといえます。当たり前のことではありますが,投手の実力と考えられている指標で,投手の実力以外の要因が影響しているのであれば,その影響を除いた評価方法が必要になってきます。
4.投球回数の影響
さて,各球場のホームランの出やすさが,投手の成績に影響することがデータの上でも確認できました。しかし,東京ドームで投げる投手が全て同じ影響を受けるとは考えられません。各投手とも登板している長さが異なるからです。
図2に投手の被本塁打と投球回数の関係を示しました。

分析の結果は,相関係数が .536で,まずまず高い正の相関関係が認められました。この結果は,投球回数が長くなると被本塁打数が増えることを示しています。
このように,球場とは別に投球回数が長くなることでも被本塁打は増えることがわかりました。ということは,本塁打の出やすい球場で,長く投げることが一番本塁打が多くなるリスクが高くなるとは考えられないでしょうか?そこで,PHRFのデータに投球回数を掛け算したデータ(PHRF×投球回数)と,被本塁打との関係を検討してみました。結果を図3に示します。

分析の結果,相関係数が .608で,これまでで一番高い正の相関関係が認められました。この結果より,球場のホームランの出やすさとそこで登板した投球回数の値が高くなるほど,投手の被本塁打が多くなることがわかりました。
5.まとめ
以上の相関分析の結果を,表1に示しておきます。

さて,今回の分析は,ホームランの出やすい球場で長く投げるほど,被本塁打が多くなるという,いちいちデータで示すまでもないことがわかりました。しかし,この結果から以下の様なことがいえます。
・投手の被本塁打は,投手の実力だけを反映したデータではない
・球場のホームランの出やすさと投球回数によって,被本塁打数は左右される
・被本塁打のリスクを左右する球場側の要因は,定量的に評価できそう
投手の実力を測る三種の神器のように思われていた「奪三振」」・「与四(死)球」・「被本塁打」の中で,被本塁打はどうも投手の実力だけを反映しているとは言えないようです。
しかし,(PHRF×投球回数)のデータの様に,被本塁打のリスクを左右する球場側の要因を定量的に評価できるようであれば,球場側の要因の影響を除いた被本塁打を推定することは可能です。次回は,この推定値を計算してみたいと思います。あくまで推定値なので,数字遊びにすぎないのですが,しっかり数字遊びをすることが実際に役に立つデータを作るための第一歩になる,と信じてひとつ分析してみたいと思います。
投手の成績の評価基準としては,勝ち星や防御率が代表的ですが,これらの指標は投手の実力以外にも,打線の援護や野手の守備力に左右されてしまうという欠点があります。
こうした投手の伝統的指標の問題を改善するために様々な試みがなされてきたわけですが,中でも,「奪三振」・「与四(死)球」・「被本塁打」は,野手の守備力の影響を受けていない,投手の実力を示す指標と考えられています。
DIPS,FIPなどは,これらの3つの指標を元に作成された指標で,投手の総合力を示すデータとして重宝されています。今回はこれら3つの指標のうち,「被本塁打」に注目していきたいと思います。
打球がスタンドインする過程で野手ができることはほとんどありません。ごく稀に,ホームランになるはずの打球を外野手がキャッチしたり,逆に外野手が飛球をトスしてスタンドインする場合もありますが,これは考えないものとします。したがって,「被本塁打」を守備力の影響を受けないというのは正しいと思うのですが,被本塁打が全て投手の責任であるとは言い切れません。球場の影響があるからです。
球場によって本塁打の出やすい球場と出にくい球場があることを私たちは経験的に知っています。この球場別の得点の入りやすさや,本塁打の出やすさを数値化したものをパーク・ファクターといいます。詳しくはコラム一覧にある「パーク・ファクター」をご覧ください。
では,このパーク・ファクター(以下PF)と投手の被本塁打の間にはどのような関係があるのでしょうか?ということをテーマに今回は分析していきたいと思います。
2.分析データ
2006年から2010年までに1シーズンに40イニング以上登板した先発投手376名を分析対象としました。この投手達の所属するチームのホームゲームでの成績を分析していきます。PFのデータは,各投手が所属するホームスタジアムのデータを用いています。
3.投手の被本塁打とPF
まずは,投手の被本塁打とPFの関係を分析します。データを図1-1に示します。

相関分析の結果,相関係数は .251で弱い正の相関関係が認められました。この結果は,PFの値が高いほど,被本塁打が多くなることを示しています。
さて,このPFの値は,球場別に得点の入りやすさを数値化したものですが,これを本塁打の出やすさで数値化したものに,パーク・ホームラン・ファクター(以下,PHRF)というものがあります。次に,投手の被本塁打とPHRFの関係を分析します。データを図1-2に示します。

分析結果は,PFとそんなに変わりませんが,相関係数が .326と高くなっているので,こちらの方が投手の被本塁打との関係は強いといえます。
以上の結果より,投手の被本塁打は登板する球場の影響を受けているといえます。当たり前のことではありますが,投手の実力と考えられている指標で,投手の実力以外の要因が影響しているのであれば,その影響を除いた評価方法が必要になってきます。
4.投球回数の影響
さて,各球場のホームランの出やすさが,投手の成績に影響することがデータの上でも確認できました。しかし,東京ドームで投げる投手が全て同じ影響を受けるとは考えられません。各投手とも登板している長さが異なるからです。
図2に投手の被本塁打と投球回数の関係を示しました。

分析の結果は,相関係数が .536で,まずまず高い正の相関関係が認められました。この結果は,投球回数が長くなると被本塁打数が増えることを示しています。
このように,球場とは別に投球回数が長くなることでも被本塁打は増えることがわかりました。ということは,本塁打の出やすい球場で,長く投げることが一番本塁打が多くなるリスクが高くなるとは考えられないでしょうか?そこで,PHRFのデータに投球回数を掛け算したデータ(PHRF×投球回数)と,被本塁打との関係を検討してみました。結果を図3に示します。

分析の結果,相関係数が .608で,これまでで一番高い正の相関関係が認められました。この結果より,球場のホームランの出やすさとそこで登板した投球回数の値が高くなるほど,投手の被本塁打が多くなることがわかりました。
5.まとめ
以上の相関分析の結果を,表1に示しておきます。

さて,今回の分析は,ホームランの出やすい球場で長く投げるほど,被本塁打が多くなるという,いちいちデータで示すまでもないことがわかりました。しかし,この結果から以下の様なことがいえます。
・投手の被本塁打は,投手の実力だけを反映したデータではない
・球場のホームランの出やすさと投球回数によって,被本塁打数は左右される
・被本塁打のリスクを左右する球場側の要因は,定量的に評価できそう
投手の実力を測る三種の神器のように思われていた「奪三振」」・「与四(死)球」・「被本塁打」の中で,被本塁打はどうも投手の実力だけを反映しているとは言えないようです。
しかし,(PHRF×投球回数)のデータの様に,被本塁打のリスクを左右する球場側の要因を定量的に評価できるようであれば,球場側の要因の影響を除いた被本塁打を推定することは可能です。次回は,この推定値を計算してみたいと思います。あくまで推定値なので,数字遊びにすぎないのですが,しっかり数字遊びをすることが実際に役に立つデータを作るための第一歩になる,と信じてひとつ分析してみたいと思います。
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Baseball Lab「Archives」では2010~2011年にかけてラボ内で行われた「セイバーメトリクス」のコンテンツを公開しております。
野球を客観視した独自の論評、分析、および研究を特徴として、野球に関するさまざまな考察をしています。
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