真の被本塁打率(試案)
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1.はじめに
前回の分析では,
・投手の被本塁打は,投手の実力だけを反映したデータではない
・球場のホームランの出やすさと投球回数によって,被本塁打数は左右される
ということがわかりました。投手の被本塁打と球場のホームランの出やすさと投球回数の関係を以下の図1-1に示します。

PHRFとは球場毎のホームランの出やすさを数値化したものです。このデータに投球回数を掛け算したデータ(PHRF×投球回数)と被本塁打との関係は,相関係数が .608で,球場のホームランの出やすさとそこで登板した投球回数の値が高くなるほど,投手の被本塁打が多くなるということがわかりました。
さて,この分析結果より,投手の被本塁打の中で,球場のホームランの出やすさとそこで登板した投球回数によってどの程度ホームランがもたらされたのかを計算することができます。結果を図1-2に示します。

分析の結果,投手の被本塁打の約37%が球場のホームランの出やすさとそこで登板した投球回数によってどの程度ホームランがもたらされたことがわかります。図中の水色の領域がそれに該当します。ということは,のこりのオレンジの部分が,球場と投球回数の影響を受けていない投手の実力の部分と言えます。
今回の分析は,このオレンジ色の部分を数値化して,球場の影響を受けない投手の被本塁打の指標として用いてみることを目的としています。
2.分析データ
2006年から2010年までに1シーズンに40イニング以上登板した先発投手376名を分析対象としました。この投手達の所属するチームのホームゲームでの成績を分析していきます。PFのデータは,各投手が所属するホームスタジアムのデータを用いています。
3.真の被本塁打率
というわけで,図1-2のオレンジの部分を数値化しました。厳密な意味では,投手の被本塁打から,球場のホームランの出やすさとそこで登板した投球回数の影響を除いたものなので,投手の真の実力と運や偶然性を含んではいますが,謙虚に名付けるとややこしくなるので,便宜上強気に「真の被本塁打率」と名付けたいと思います。
さて,この真の被本塁打率のデータは,投手の被本塁打とPHRF×投球回数のデータから数学的に計算したものです。値が小さいほど優れているのは,普通の被本塁打と同じなのですが,分析の性質上0以下の成績の選手もいます。したがって,このデータは,「本当だったら何本打たれるはずだったデータ」,というよりは,分析対象の投手間の優劣を示すデータと見てください。
では,この真の被本塁打率のデータを見ていきたいと思います。全員のデータを示すことは紙面の都合上できませんので,特徴のある選手を紹介していきたいと思います。まずは,分析対象者の中で被本塁打数が0だった15名の選手の真の被本塁打率を見ていきたいと思います。データを表1に示します。

被本塁打数が0の場合は,それ以上優れた成績はありませんので比較のしようがありませんが,真の被本塁打率を用いれば優劣をつけることができます。表を見ていただければ,PHRF×投球回数のデータが最も大きい2009年の岩田選手がこの中では一番優れているという評価になります。
次に,分析対象者の中での真の被本塁打率TOP15を表2にリストアップします。

真の被本塁打率の隣に,実際の被本塁打率を示しましたが,被本塁打率の低さの順番に並んでいないことがよくわかるリストとなっています。No1は意外といっては失礼かもしれませんが,2008年の内海選手になりました。これは東京ドームのホームランの出やすさが原因であると考えられます。
4. 真の被本塁打率と実際の被本塁打
真の被本塁打率と実際の被本塁打の関係をもう少し検討してみたいと思います。データを図2-1に示しました。

図中の真の被本塁打率はデータが小さいほど,つまり,図中の左に行くほど優れていることを示します。このデータについては,少し気になるところがあります。図2-2は,図2-1と同じデータに赤い丸印を加えたものです。

赤い丸印に注目していただきたいのですが,左側の印では,同じ真の被本塁打率の選手でも,実際の被本塁打数のデータの分布が上下に広く,一方,右側の印では,同じ真の被本塁打率の選手でも,実際の被本塁打数のデータの分布が上下に狭いことがわかります。
これは,真の被本塁打率の優れた投手の中には,実際の被本塁打数が多い選手もいれば,少ない選手もいることを示しています。また,真の被本塁打の劣る選手は,実際の被本塁打数の差が少ないことも示しています。
つまり,真の被本塁打率の優れた投手ほど,球場の影響を受けて実際の被本塁打数が左右されやすいが,真の被本塁打率の劣る投手は球場の影響を受けにくい,といえます。
5.まとめ
以上,これまでの分析結果をまとめると,
・投手の被本塁打は,投手の実力だけを反映したデータではない
・球場のホームランの出やすさと投球回数によって,被本塁打数は左右される
・被本塁打のリスクを左右する球場側の要因は,定量的に評価できそう
・球場側の影響を除いた投手の被本塁打率は推定することができる
・真の被本塁打率の優れた投手ほど,球場の影響を受けやすい。
・真の被本塁打率の劣る投手は,球場の影響を受けにくい
ということがわかりました。
さて,この真の被本塁打率は選手の評価基準としてどのような時に役に立つでしょうか?個人的には,他チームから選手を獲得する際に重要な指標となると思います。良い投手ほど球場の影響を受けるわけですから,本塁打の出にくい球場で投げることの多い投手は過大評価され,本塁打の出やすい球場で投げることの多い投手は過小評価されている可能性が考えられます。FAで投手の獲得を狙う場合,他球団で目を出せないでいる投手を引き抜きたい様な場合には額面通りの成績ではなく,球場の影響も踏まえた評価ができるようになれば,リスクを軽減し,掘り出し者が見つかる可能性も高まるはずです。
しかしながら,今回の真の被本塁打率はまだまだ試作の段階です。分析の便宜上ホーム球場での成績のみを分析ですし,計算方法もまだ公式化できるレベルにありません。実用化に向けては,あと何段階かのステップがあるのが現状です。
とりあえず今のところは,投手の被本塁打が投手の実力そのものを反映しているわけではないこと,球場の影響を除いた投手の実力を評価する方法が必要であることが伝わればと思います。
前回の分析では,
・投手の被本塁打は,投手の実力だけを反映したデータではない
・球場のホームランの出やすさと投球回数によって,被本塁打数は左右される
ということがわかりました。投手の被本塁打と球場のホームランの出やすさと投球回数の関係を以下の図1-1に示します。

PHRFとは球場毎のホームランの出やすさを数値化したものです。このデータに投球回数を掛け算したデータ(PHRF×投球回数)と被本塁打との関係は,相関係数が .608で,球場のホームランの出やすさとそこで登板した投球回数の値が高くなるほど,投手の被本塁打が多くなるということがわかりました。
さて,この分析結果より,投手の被本塁打の中で,球場のホームランの出やすさとそこで登板した投球回数によってどの程度ホームランがもたらされたのかを計算することができます。結果を図1-2に示します。

分析の結果,投手の被本塁打の約37%が球場のホームランの出やすさとそこで登板した投球回数によってどの程度ホームランがもたらされたことがわかります。図中の水色の領域がそれに該当します。ということは,のこりのオレンジの部分が,球場と投球回数の影響を受けていない投手の実力の部分と言えます。
今回の分析は,このオレンジ色の部分を数値化して,球場の影響を受けない投手の被本塁打の指標として用いてみることを目的としています。
2.分析データ
2006年から2010年までに1シーズンに40イニング以上登板した先発投手376名を分析対象としました。この投手達の所属するチームのホームゲームでの成績を分析していきます。PFのデータは,各投手が所属するホームスタジアムのデータを用いています。
3.真の被本塁打率
というわけで,図1-2のオレンジの部分を数値化しました。厳密な意味では,投手の被本塁打から,球場のホームランの出やすさとそこで登板した投球回数の影響を除いたものなので,投手の真の実力と運や偶然性を含んではいますが,謙虚に名付けるとややこしくなるので,便宜上強気に「真の被本塁打率」と名付けたいと思います。
さて,この真の被本塁打率のデータは,投手の被本塁打とPHRF×投球回数のデータから数学的に計算したものです。値が小さいほど優れているのは,普通の被本塁打と同じなのですが,分析の性質上0以下の成績の選手もいます。したがって,このデータは,「本当だったら何本打たれるはずだったデータ」,というよりは,分析対象の投手間の優劣を示すデータと見てください。
では,この真の被本塁打率のデータを見ていきたいと思います。全員のデータを示すことは紙面の都合上できませんので,特徴のある選手を紹介していきたいと思います。まずは,分析対象者の中で被本塁打数が0だった15名の選手の真の被本塁打率を見ていきたいと思います。データを表1に示します。

被本塁打数が0の場合は,それ以上優れた成績はありませんので比較のしようがありませんが,真の被本塁打率を用いれば優劣をつけることができます。表を見ていただければ,PHRF×投球回数のデータが最も大きい2009年の岩田選手がこの中では一番優れているという評価になります。
次に,分析対象者の中での真の被本塁打率TOP15を表2にリストアップします。

真の被本塁打率の隣に,実際の被本塁打率を示しましたが,被本塁打率の低さの順番に並んでいないことがよくわかるリストとなっています。No1は意外といっては失礼かもしれませんが,2008年の内海選手になりました。これは東京ドームのホームランの出やすさが原因であると考えられます。
4. 真の被本塁打率と実際の被本塁打
真の被本塁打率と実際の被本塁打の関係をもう少し検討してみたいと思います。データを図2-1に示しました。

図中の真の被本塁打率はデータが小さいほど,つまり,図中の左に行くほど優れていることを示します。このデータについては,少し気になるところがあります。図2-2は,図2-1と同じデータに赤い丸印を加えたものです。

赤い丸印に注目していただきたいのですが,左側の印では,同じ真の被本塁打率の選手でも,実際の被本塁打数のデータの分布が上下に広く,一方,右側の印では,同じ真の被本塁打率の選手でも,実際の被本塁打数のデータの分布が上下に狭いことがわかります。
これは,真の被本塁打率の優れた投手の中には,実際の被本塁打数が多い選手もいれば,少ない選手もいることを示しています。また,真の被本塁打の劣る選手は,実際の被本塁打数の差が少ないことも示しています。
つまり,真の被本塁打率の優れた投手ほど,球場の影響を受けて実際の被本塁打数が左右されやすいが,真の被本塁打率の劣る投手は球場の影響を受けにくい,といえます。
5.まとめ
以上,これまでの分析結果をまとめると,
・投手の被本塁打は,投手の実力だけを反映したデータではない
・球場のホームランの出やすさと投球回数によって,被本塁打数は左右される
・被本塁打のリスクを左右する球場側の要因は,定量的に評価できそう
・球場側の影響を除いた投手の被本塁打率は推定することができる
・真の被本塁打率の優れた投手ほど,球場の影響を受けやすい。
・真の被本塁打率の劣る投手は,球場の影響を受けにくい
ということがわかりました。
さて,この真の被本塁打率は選手の評価基準としてどのような時に役に立つでしょうか?個人的には,他チームから選手を獲得する際に重要な指標となると思います。良い投手ほど球場の影響を受けるわけですから,本塁打の出にくい球場で投げることの多い投手は過大評価され,本塁打の出やすい球場で投げることの多い投手は過小評価されている可能性が考えられます。FAで投手の獲得を狙う場合,他球団で目を出せないでいる投手を引き抜きたい様な場合には額面通りの成績ではなく,球場の影響も踏まえた評価ができるようになれば,リスクを軽減し,掘り出し者が見つかる可能性も高まるはずです。
しかしながら,今回の真の被本塁打率はまだまだ試作の段階です。分析の便宜上ホーム球場での成績のみを分析ですし,計算方法もまだ公式化できるレベルにありません。実用化に向けては,あと何段階かのステップがあるのが現状です。
とりあえず今のところは,投手の被本塁打が投手の実力そのものを反映しているわけではないこと,球場の影響を除いた投手の実力を評価する方法が必要であることが伝わればと思います。
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野球を客観視した独自の論評、分析、および研究を特徴として、野球に関するさまざまな考察をしています。
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