打球の行方~Part.1
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1.はじめに
野手の守備力を測定する指標に,Ultimate Zone Rating(UZR)があります。詳しくは,コラム「日本版Ultimate Zone Rating(UZR)プロトタイプ」を参照してください。
日本版のUZRはフィールドに飛んだ打球を22(C~X)×8(1~8 1が最もホームベースに近く、8はフェンス際)の176ゾーンに切り分けて,各ゾーンに飛んだ打球を処理した野手の守備力を評価しています。ゾーンは以下の図に示されているように分割されています。

このデータを守備力の評価だけに用いるのはもったいなくないか?というのが今回のテーマです。なぜなら,野手が打球を処理するということは,そこに打った打者と,打たれた投手がいるからです。
つまり,打者や投手がどのゾーンに打球を打ったり打たれたりしたかというデータが記録されているわけです。フェアグランドを176分割するわけですから,1つ1つのゾーンを狙って打ったり,打たれたりはできないでしょうが,それでも打席数や対戦打者数が増えてくれば,一定の傾向を見いだせるかもしれません。
ということは,ある打者の打球を飛ばしやすい方向や,平均的な打球の距離を評価できるようになるかもしれません。こうした評価ができれば,ヒットを何本打ったかどうかよりも踏み込んだ評価ができるようになるでしょう。
また,投手の観点から見れば,どれくらいの飛距離を打たれているかを評価できるようになるかもしれません。本塁打を打たれやすい投手は,本塁打にならなかった打球も,遠くまで飛ばされやすいのか?良い投手は遠くまで打たれにくいのか?といった観点からの評価ができるようになると思います。
打球の上がった角度や,速さのデータはないのが玉にキズですが,UZRのデータを応用すれば,打者や投手を新しい観点から評価できるようになるかもしれません。ということで,今回は2009年から2010年のUZRのデータを用いて,打球がどこに飛んだか,その行方を検証してみたいと思います。
まずは,全チームのデータを元に分析し,以降,リーグ別,チーム別,個人別と分析を進めていこうと考えています。今回は始めの一歩です。
2.分析データ
2009年から2010年までのUZRデータ,計93571打席の結果を分析対象としています。内訳は,2009年が46582打席,2010年が46989打席です。
※記録に不備があったデータは除いていますので,全ての打席のデータではありません。
これらのデータを,22(C~X)×8(1~8 1が最もホームベースに近く,8はフェンス際)の176ゾーンに分類しました。
3.分析結果
それでは,データを見ていきたいと思います。まずは,ゾーンと距離を別々に見ていきたいと思います。
まずはゾーンについて,各ゾーンに飛んだ打球(2009と2010年の合計値)の割合を表1と図1-1に示します。


とりあえずこのデータから言えるのは,どのゾーン(方向)も3~5%前後で,10%を越えるような特定のゾーン(方向)に飛びやすいということはないことがわかりました。
このデータは,2009と2010年の合計値でしたが,別々に分析したデータを図1-2に示します。

2009年と2010年でそんなに違いがないことがわかります。
続いて,距離を分析します。各距離に飛んだ打球(2009と2010年の合計値)の割合を表2と図2-1に示します。


距離3の割合が非常に高いことがわかります。この「距離3」というのは,ちょうどベース付近,内野手が守っている辺りです。内野手にキャッチされるか間を抜くのかは定かではありませんが,バットにあたったボールの3割はこの距離に飛ぶことになります。
距離についても2009と2010年を別々に分析したデータをと図2-2に示します。

距離でも,2009年と2010年の違いはほとんど見られませんでした。これらのデータから,2009年と2010年はたまたま打球が同じようなゾーンや距離に飛んだ可能性も考えられますが,データ数から考えてその可能性は低いと思います。それよりも,NPBは1シーズン864試合あるわけですが,これくらいの数をこなすと年間4万件以上のデータが存在します。これだけデータが多いと打球の行方も同じくらいになるのではないかと考えられます。
2011年は統一球の影響が指摘されていますが,こうしたUZRのデータを用いて打球の傾向を調べれば,飛距離などが変わっているかもしれません。
次は,ゾーンと距離を掛け合わせたデータを見ていきたいと思います。
表3-1には,各ゾーンに飛んだ打球の数(2009と2010年の合計値)を示しています。

このデータを,全体に占める割合で示したものを表3-2に示します。

各ゾーンの割合を見れば,最高で2%程度と特定のゾーンに偏ることなく打球が飛んでいることがわかります。これらのゾーンの中で,よく打球が飛んだゾーンに色をつけてみたものを図3に示します。

打球の飛んだ割合が高いゾーンほど濃い色をつけています。この図を見てわかるのは,距離が3のゾーンの割合が高いことです。外野を見ると,レフト・ライト方向には割合の高いゾーンがありますが,センター方向はさほど高い割合ではないようです。
ここには,図示しませんが,2009年と2010年を別々に同様の分析をしても,図3の結果とあまり変わらないものになります。
4.まとめ
以上,打球の行方を分析してみました。
最初に掲げた目標について,今回の分析結果で何か言えることはありません。しかし,打者や投手毎に個別の打球の行方を見ていく上で,今回のデータが基準となっていきますので,一応必要な分析であるわけです。とりあえず,こんな感じで打球は飛んでいるのだな,というのが伝われば今回は目標達成です。
次回は,飛んだ打球を結果別(アウトになったか,ヒットになったか)に分析していきたいと思います。
野手の守備力を測定する指標に,Ultimate Zone Rating(UZR)があります。詳しくは,コラム「日本版Ultimate Zone Rating(UZR)プロトタイプ」を参照してください。
日本版のUZRはフィールドに飛んだ打球を22(C~X)×8(1~8 1が最もホームベースに近く、8はフェンス際)の176ゾーンに切り分けて,各ゾーンに飛んだ打球を処理した野手の守備力を評価しています。ゾーンは以下の図に示されているように分割されています。

このデータを守備力の評価だけに用いるのはもったいなくないか?というのが今回のテーマです。なぜなら,野手が打球を処理するということは,そこに打った打者と,打たれた投手がいるからです。
つまり,打者や投手がどのゾーンに打球を打ったり打たれたりしたかというデータが記録されているわけです。フェアグランドを176分割するわけですから,1つ1つのゾーンを狙って打ったり,打たれたりはできないでしょうが,それでも打席数や対戦打者数が増えてくれば,一定の傾向を見いだせるかもしれません。
ということは,ある打者の打球を飛ばしやすい方向や,平均的な打球の距離を評価できるようになるかもしれません。こうした評価ができれば,ヒットを何本打ったかどうかよりも踏み込んだ評価ができるようになるでしょう。
また,投手の観点から見れば,どれくらいの飛距離を打たれているかを評価できるようになるかもしれません。本塁打を打たれやすい投手は,本塁打にならなかった打球も,遠くまで飛ばされやすいのか?良い投手は遠くまで打たれにくいのか?といった観点からの評価ができるようになると思います。
打球の上がった角度や,速さのデータはないのが玉にキズですが,UZRのデータを応用すれば,打者や投手を新しい観点から評価できるようになるかもしれません。ということで,今回は2009年から2010年のUZRのデータを用いて,打球がどこに飛んだか,その行方を検証してみたいと思います。
まずは,全チームのデータを元に分析し,以降,リーグ別,チーム別,個人別と分析を進めていこうと考えています。今回は始めの一歩です。
2.分析データ
2009年から2010年までのUZRデータ,計93571打席の結果を分析対象としています。内訳は,2009年が46582打席,2010年が46989打席です。
※記録に不備があったデータは除いていますので,全ての打席のデータではありません。
これらのデータを,22(C~X)×8(1~8 1が最もホームベースに近く,8はフェンス際)の176ゾーンに分類しました。
3.分析結果
それでは,データを見ていきたいと思います。まずは,ゾーンと距離を別々に見ていきたいと思います。
まずはゾーンについて,各ゾーンに飛んだ打球(2009と2010年の合計値)の割合を表1と図1-1に示します。


とりあえずこのデータから言えるのは,どのゾーン(方向)も3~5%前後で,10%を越えるような特定のゾーン(方向)に飛びやすいということはないことがわかりました。
このデータは,2009と2010年の合計値でしたが,別々に分析したデータを図1-2に示します。

2009年と2010年でそんなに違いがないことがわかります。
続いて,距離を分析します。各距離に飛んだ打球(2009と2010年の合計値)の割合を表2と図2-1に示します。


距離3の割合が非常に高いことがわかります。この「距離3」というのは,ちょうどベース付近,内野手が守っている辺りです。内野手にキャッチされるか間を抜くのかは定かではありませんが,バットにあたったボールの3割はこの距離に飛ぶことになります。
距離についても2009と2010年を別々に分析したデータをと図2-2に示します。

距離でも,2009年と2010年の違いはほとんど見られませんでした。これらのデータから,2009年と2010年はたまたま打球が同じようなゾーンや距離に飛んだ可能性も考えられますが,データ数から考えてその可能性は低いと思います。それよりも,NPBは1シーズン864試合あるわけですが,これくらいの数をこなすと年間4万件以上のデータが存在します。これだけデータが多いと打球の行方も同じくらいになるのではないかと考えられます。
2011年は統一球の影響が指摘されていますが,こうしたUZRのデータを用いて打球の傾向を調べれば,飛距離などが変わっているかもしれません。
次は,ゾーンと距離を掛け合わせたデータを見ていきたいと思います。
表3-1には,各ゾーンに飛んだ打球の数(2009と2010年の合計値)を示しています。

このデータを,全体に占める割合で示したものを表3-2に示します。

各ゾーンの割合を見れば,最高で2%程度と特定のゾーンに偏ることなく打球が飛んでいることがわかります。これらのゾーンの中で,よく打球が飛んだゾーンに色をつけてみたものを図3に示します。

打球の飛んだ割合が高いゾーンほど濃い色をつけています。この図を見てわかるのは,距離が3のゾーンの割合が高いことです。外野を見ると,レフト・ライト方向には割合の高いゾーンがありますが,センター方向はさほど高い割合ではないようです。
ここには,図示しませんが,2009年と2010年を別々に同様の分析をしても,図3の結果とあまり変わらないものになります。
4.まとめ
以上,打球の行方を分析してみました。
最初に掲げた目標について,今回の分析結果で何か言えることはありません。しかし,打者や投手毎に個別の打球の行方を見ていく上で,今回のデータが基準となっていきますので,一応必要な分析であるわけです。とりあえず,こんな感じで打球は飛んでいるのだな,というのが伝われば今回は目標達成です。
次回は,飛んだ打球を結果別(アウトになったか,ヒットになったか)に分析していきたいと思います。
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野球を客観視した独自の論評、分析、および研究を特徴として、野球に関するさまざまな考察をしています。
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