阪神・藤川投手のストレート
時光順平 [ 著者コラム一覧 ]
1.はじめに
今回は、阪神タイガースの藤川球児投手に注目をしたいと思う。藤川投手は、1998年にドラフト1位で阪神に入団。2005年には「JFK」の一角としてチームのリーグ優勝に貢献した。2007年からは守護神を務めている。そんな藤川投手だが、最大の武器はストレートであろう。「分かっていても打てない」や「浮き上がるように見える」と対戦する打者そのように表現する。しかしここ最近、そのストレートが打たれる場面が多くみられる印象がある。そこで、藤川投手のストレートは年とともにどのように変化しているかを見ていこう。
2.基本的な成績
まず、過去5年間の藤川投手の成績を見ていこう。まずは、基本的な成績である。

2007から本格的に守護神を務めいきなり、最多セーブの記録を獲得した。ちなみに46セーブは、2005年中日・岩瀬投手と並ぶ1シーズンの最多記録である。
では、次に藤川投手の球種の割合を見ていこう。藤川投手の主な持ち球は、ストレート、カーブ、フォークである。

ストレート約7割。フォークが約2割、カーブが約1割といった感じだろう。次に、球種別の被打率と球種別の三振数を見てみよう。


ストレートの被打率は.150から.190と言ったところであり、年々、打たれる割合が高くなっているが分かる。逆にフォークに関しては、2010年こそ.211であるが、それ以前はかなり低い。三振を奪った球種の大部分がストレートとフォークである。
ここまでのデータを見ると藤川投手の最大の武器であるストレートが、年を重ねるごとに打者に対応される割合が高くなっているのではないだろうか。特に、昨年の成績はここ5年間で最も悪い成績であった。そこで藤川投手が年度ごとにストレートでどのくらい打者を抑えてきたのかを見ていこう。
3.ストレートで抑える確率
では、藤川投手のストレートはどのくらいの確率で打者を抑えることが出来るのか見ていこう。ここでの分析方法は、ロジスティック回帰分析である。ロジスティック回帰分析は以前、鳥越規央先生が掲載したコラムの中でも使われていた分析方法であり、複数の変数からある事象がおこる確率を推測するというものである。今回は、ストレートの球速とストレートが投げられたコースから、どのくらいの確率で抑えることが出来るのかを推測する。
使用するデータは、過去5年間藤川投手がストレートを投げた際の打席結果である。今回は、四死球、犠打は対象データから外した。球速はそのままの値を使用し、コースは、25分割にし、それぞれにコースに番号を割り当てている。各コースの番号は表3.1である。黄色いゾーンはストライクゾーンを表している。コース内の番号1、2、3が右打者から見てインコース、左打者から見てアウトコースである。

なお、分析する際には各コースを高低と左右というように2つの数字を使って表すことにした。各コースの数字を表3.2に示す。

つまり、球速とコース(高低)とコース(左右)の3つの変数で分析を行うことになる。3つの変数を使用してロジスティック回帰分析を行うと以下のような結果になった。

今回は、150キロのストレートを投げたと仮定している。表3.3から各年の平均をその年のストレートで抑える確率とすると、2006年から2010年のストレートで抑える確率の推移は以下のようになる。

過去5年間で最も良い成績を収めた2008年が約81%。逆に、最も成績が悪かった2010年が約74%であった。
では、今度はコースを絞って見ていこう。藤川投手の場合、捕手は高めへストレートを要求することが多い。そこで、高めのストレートに注目する。コース番号で言うと、1、4、7、10、11、15、17、19、21、22である。ここでは、高め全体のゾーン、高めのストライクゾーン(1、4、7)、高めのボールゾーン(10、11、15、17、19、21、22)、この3つを比較してみる。

先ほど見た数値よりも、全体的に高くなっていることが分かる。また、ストライクゾーンよりもボールゾーンで抑える確率の方が高い。高めのストレートで抑える確率では、2009年が1番低い数字となった。
ストレートで抑える確率は2010年が最も低かった。2010年が1番低かった原因はなんだろうか。先ほどは高めのゾーンを見たが、低めのゾーンにその理由があるのかもしれない。低めのゾーンは、コース番号で言うと3、6、9、14、16、18、20、24、25である。ここでも、低め全体のゾーン、低めのストライクゾーン(3、6、9)、低めのボールゾーン(14、16、18、20、24、25)、この3つを比較してみてみよう。

低めのストレートは、高めの時と逆でボールゾーンよりもストライクゾーンのストレートの方が打ち取れる確率が高い。ここで、2010年を見るとすべての項目で打者を抑える確率が低くなっている。つまり、低めのストレートで打者を抑える割合が低くなり、全体に影響したと考えられる。
4.まとめ
今回は、藤川投手のストレートについて見てきた。藤川投手のストレートは、少しずつではあるが、打者に対応される割合が高くなっている事が数字にも表れている。最もストレートが良かったと思われる2008年のようになるには、年齢を考えると難しいかもしれない。
ストレートで抑える確率が下がることは、成績にも少なからず影響してくるだろう。特に、防御率には大きく影響してくる。ストレートで抑える確率と防御率との相関は-0.8962であった。これは、ストレートで抑える確率が上がると、防御率が下がるということである。藤川投手にとってストレートは生命線なのだ。
しかし、ストレートばかりに頼っていてはいずれ打たれてしまうだろう。そこで、藤川投手のもう1つの持ち球である、フォークが重要になってくるだろう。2009年のストレートで抑える確率は、1番悪いとされている2010年とあまり差がない。しかし、成績を見ると、2009年と2010年では、2009年の成績が全般的に良くなっている。また、表2.3を見ると2009年のフォークの被打率は.086である。ストレートの威力が陰りを見せる中で、打者を抑えていくには、フォークの力が必要になるだろう。そこで次回は、今回のストレートと同様に藤川投手のフォークについて見ていこうと思う。
今回は、阪神タイガースの藤川球児投手に注目をしたいと思う。藤川投手は、1998年にドラフト1位で阪神に入団。2005年には「JFK」の一角としてチームのリーグ優勝に貢献した。2007年からは守護神を務めている。そんな藤川投手だが、最大の武器はストレートであろう。「分かっていても打てない」や「浮き上がるように見える」と対戦する打者そのように表現する。しかしここ最近、そのストレートが打たれる場面が多くみられる印象がある。そこで、藤川投手のストレートは年とともにどのように変化しているかを見ていこう。
2.基本的な成績
まず、過去5年間の藤川投手の成績を見ていこう。まずは、基本的な成績である。

2007から本格的に守護神を務めいきなり、最多セーブの記録を獲得した。ちなみに46セーブは、2005年中日・岩瀬投手と並ぶ1シーズンの最多記録である。
では、次に藤川投手の球種の割合を見ていこう。藤川投手の主な持ち球は、ストレート、カーブ、フォークである。

ストレート約7割。フォークが約2割、カーブが約1割といった感じだろう。次に、球種別の被打率と球種別の三振数を見てみよう。


ストレートの被打率は.150から.190と言ったところであり、年々、打たれる割合が高くなっているが分かる。逆にフォークに関しては、2010年こそ.211であるが、それ以前はかなり低い。三振を奪った球種の大部分がストレートとフォークである。
ここまでのデータを見ると藤川投手の最大の武器であるストレートが、年を重ねるごとに打者に対応される割合が高くなっているのではないだろうか。特に、昨年の成績はここ5年間で最も悪い成績であった。そこで藤川投手が年度ごとにストレートでどのくらい打者を抑えてきたのかを見ていこう。
3.ストレートで抑える確率
では、藤川投手のストレートはどのくらいの確率で打者を抑えることが出来るのか見ていこう。ここでの分析方法は、ロジスティック回帰分析である。ロジスティック回帰分析は以前、鳥越規央先生が掲載したコラムの中でも使われていた分析方法であり、複数の変数からある事象がおこる確率を推測するというものである。今回は、ストレートの球速とストレートが投げられたコースから、どのくらいの確率で抑えることが出来るのかを推測する。
使用するデータは、過去5年間藤川投手がストレートを投げた際の打席結果である。今回は、四死球、犠打は対象データから外した。球速はそのままの値を使用し、コースは、25分割にし、それぞれにコースに番号を割り当てている。各コースの番号は表3.1である。黄色いゾーンはストライクゾーンを表している。コース内の番号1、2、3が右打者から見てインコース、左打者から見てアウトコースである。

なお、分析する際には各コースを高低と左右というように2つの数字を使って表すことにした。各コースの数字を表3.2に示す。

つまり、球速とコース(高低)とコース(左右)の3つの変数で分析を行うことになる。3つの変数を使用してロジスティック回帰分析を行うと以下のような結果になった。

今回は、150キロのストレートを投げたと仮定している。表3.3から各年の平均をその年のストレートで抑える確率とすると、2006年から2010年のストレートで抑える確率の推移は以下のようになる。

過去5年間で最も良い成績を収めた2008年が約81%。逆に、最も成績が悪かった2010年が約74%であった。
では、今度はコースを絞って見ていこう。藤川投手の場合、捕手は高めへストレートを要求することが多い。そこで、高めのストレートに注目する。コース番号で言うと、1、4、7、10、11、15、17、19、21、22である。ここでは、高め全体のゾーン、高めのストライクゾーン(1、4、7)、高めのボールゾーン(10、11、15、17、19、21、22)、この3つを比較してみる。

先ほど見た数値よりも、全体的に高くなっていることが分かる。また、ストライクゾーンよりもボールゾーンで抑える確率の方が高い。高めのストレートで抑える確率では、2009年が1番低い数字となった。
ストレートで抑える確率は2010年が最も低かった。2010年が1番低かった原因はなんだろうか。先ほどは高めのゾーンを見たが、低めのゾーンにその理由があるのかもしれない。低めのゾーンは、コース番号で言うと3、6、9、14、16、18、20、24、25である。ここでも、低め全体のゾーン、低めのストライクゾーン(3、6、9)、低めのボールゾーン(14、16、18、20、24、25)、この3つを比較してみてみよう。

低めのストレートは、高めの時と逆でボールゾーンよりもストライクゾーンのストレートの方が打ち取れる確率が高い。ここで、2010年を見るとすべての項目で打者を抑える確率が低くなっている。つまり、低めのストレートで打者を抑える割合が低くなり、全体に影響したと考えられる。
4.まとめ
今回は、藤川投手のストレートについて見てきた。藤川投手のストレートは、少しずつではあるが、打者に対応される割合が高くなっている事が数字にも表れている。最もストレートが良かったと思われる2008年のようになるには、年齢を考えると難しいかもしれない。
ストレートで抑える確率が下がることは、成績にも少なからず影響してくるだろう。特に、防御率には大きく影響してくる。ストレートで抑える確率と防御率との相関は-0.8962であった。これは、ストレートで抑える確率が上がると、防御率が下がるということである。藤川投手にとってストレートは生命線なのだ。
しかし、ストレートばかりに頼っていてはいずれ打たれてしまうだろう。そこで、藤川投手のもう1つの持ち球である、フォークが重要になってくるだろう。2009年のストレートで抑える確率は、1番悪いとされている2010年とあまり差がない。しかし、成績を見ると、2009年と2010年では、2009年の成績が全般的に良くなっている。また、表2.3を見ると2009年のフォークの被打率は.086である。ストレートの威力が陰りを見せる中で、打者を抑えていくには、フォークの力が必要になるだろう。そこで次回は、今回のストレートと同様に藤川投手のフォークについて見ていこうと思う。
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野球を客観視した独自の論評、分析、および研究を特徴として、野球に関するさまざまな考察をしています。
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