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阿部離脱の影響

岡田友輔 [ 著者コラム一覧 ]

投稿日時:2011/04/15(金) 10:00rss

 4月5日阪神との練習試合で巨人の阿部慎之助捕手(32)が、打球を追った際に右ふくらはぎを痛め、開幕戦から欠場しています。報道によると全治まで6週間、実戦復帰まで最低でも2カ月を要するとのことです。12球団の捕手を見渡しても阿部選手ほど影響力を持っている選手はいません。阿部選手が欠場することは、どのくらいチームに影響をもたらすのか打撃面を中心に考えていきましょう。
 
 
1.阿部選手と代替選手の見込み成績
 
阿部選手欠場の影響を測るには、代替選手との実力差を考慮しなくてはいけません。巨人の2番手捕手は実績を考えると鶴岡一成選手になりそうです。下の表は2008年以降の阿部・鶴岡両選手の打撃成績になります。
 

 
 当然のことですが、阿部選手の打撃成績は素晴らしい内容で、鶴岡選手が同じような成績を残すのは難しいと思われます。過去3年の成績を見比べると基本的な打撃能力の差を大まかに把握することは出来ますが、今季の見込みという点では良い形とは言えません。ここから過去3年の成績を使って2011年の成績見込み見積もることで、具体的に阿部選手が欠場した影響を見ることが出来ます。今回は過去3年のデータから予測をするMarcelと呼ばれる方法で阿部選手と鶴岡選手の成績を占います。
 Marcelで成績を予測する手順はそれほど難しくありません。阿部選手の今季の本塁打を予測する工程を実際に見ていきましょう。本塁打の数を予測する上で必要になるデータは過去3年の打席数・本塁打数・リーグの本塁打割合(リーグ本塁打/リーグ打席数)になります(下の表を参照)。

 

 過去3年の阿部選手は2008年に484打席で24HR、2009年は462打席で32HR、2010年は569打席で44の本塁打を放っています。過去3年のセ・リーグの本塁打割合は、2.34~2.75%で本塁打を打つ割合が高いのがわかります。
 
この基礎データから今季見込まれる本塁打を求めていきます。
過去3年のデータですが、3年前より昨年の成績の方が、阿部選手の能力を示す割合は高いと思われます。そこでこの予測方法では年度ごとに重みづけをしていきます。3年前には3、2年前には4、1年前には5のウェイトがかけられます。打席・本塁打ともに年度別のウェイトをかけてその値を合計します(下の表を参照)。本塁打数を予測する上でこの値が1つ目の要素となります。
 

 
 次に阿部選手が担当した打席をリーグの平均的な選手が担当した場合の本塁打数を求めます。阿部選手の成績予測②と同じように、ここでもウェイトをかけていきます。
 
算出方法は
  3年前のリーグ本塁打割合×3年目の阿部選手の打席×3(ウェイト)
+2年前のリーグ本塁打割合×2年前の阿部選手の打席×4(ウェイト)
+  昨年のリーグ本塁打割合× 昨年の阿部選手の打席×5(ウェイト)
 
になります。
これをすべて合わせると158.2の本塁打となります(一般的な打者なら6145打席で158.2本塁打が見込まれる)。算出上1200打席の割合(1200打席だと30.9本塁打)も出しておきます。これが2つ目の要素となります。
いよいよ最終段階です。先ほど求めた要素1と2を合わせて2011年に阿部選手が本塁打を打つ割合を求めていきます。


 
 阿部選手の重みづけをした過去3年分の成績とリーグの平均的な本塁打割合(1200打席)分を合わせることで、阿部選手の本塁打を打つ割合としています(この過去の成績とリーグの平均を考慮する方法は、予測をする上で基本的な考え方になっています)。
 
本塁打         420+30.9=450.9
打席          6145+1200=7345
本塁打を打つ割合  450.9/7345=0.614
 
 この値が2011年に阿部選手が本塁打を打つ割合の見込みとなります。本来は打席を予測する式を使って本塁打数を計算していきます。今回は鶴岡選手との比較なので、割合の比較で影響を測ることが出来ます。参考までに打席を予測する式は下記の通りになります。
 
打席数=昨年の打席数×0.5+2年前の打席数×0.1+200
 
阿部選手を例にすると

569(昨年の打席数)×0.5+462(2年前の打席数)×0.1+200=530.7

 この打席数算出モデルは2011年に530.7打席を見込んでいます。この530.7打席に見込まれる本塁打割合0.614を掛け合わせることで32.6本の本塁打を打つと予想します。
 
 打席数を算出する上で、前年の0.5や2年前の0.1(200打席を加えるも)をかけるのは過去のデータから数理的な処理をして求められています。本塁打以外の単打・二塁打・三塁打・四球なども同じ工程で割合を求め、打席数とそれぞれの割合をかけ合わせ成績を求めていきます。本来は年齢の調整などがありますが、今回は省略しました。下の表は阿部選手と鶴岡選手の成績予測になります。


 
 成績予測では打席の算出が非常に難しく、鶴岡選手の様な二番手捕手などは数が多く出てしまいます。そのため過去3年の打席数にウェイトを考慮して平均したパターンも併記しています(阿部選手が故障しなかった場合は下の予測が適していたでしょう)。各成績が求められたことで、打率・出塁率・長打率、そして得点を算出する上で欠かせないwOBAを求めることが出来ました(wOBAについて詳しくは蛭川氏の「打撃指標wOBA」を参照)。これが阿部選手欠場を具体的な数字として考えるポイントになります。
 
 
2.欠場試合数を基にした影響の数値化
 
 開幕から阿部選手がどの程度欠場するかはわかりませんが、少なくとも2カ月程度は見ておいた方が良いでしょう。故障から2カ月と考え5月末まで欠場したとすると、37試合は鶴岡選手を中心とした控え捕手が試合に出なければなりません。
 

 
 この期間の打席数は1試合ごとに4打席とすると148打席になります。上の表は阿部選手・鶴岡選手の打席ごとに生み出す得点(wRC)になります。最後の段は阿部選手の生み出す得点(wRC)から鶴岡選手の生み出す得点(wRC)を引いたもので、阿部選手が欠場することで失う得点を現しています。基本的な打撃力に差があるので、打席を重ねれば重ねるほど失う得点は大きくなっていきます。最も少ない見積もりの150打席程度でも9.7得点を巨人は失います。9.7得点を失うことは勝敗にどの程度影響があるのでしょう。これも依然、蛭川氏がコラム「得点と勝利の関連付け」で述べているように、およそ10得点で1勝分の影響があると考えられます。この期間に巨人は少なくとも勝ち星を1勝分(貯金2)取りこぼすことが見込まれます。今回は守備面を考慮に入れていませんが、盗塁阻止率などでも阿部選手は巨人の控え捕手を上回っています(打撃に比べれば影響は少ないですが)。攻守両面で考えるともう少し損害が大きくなるかもしれません。
 
 
3.巨人の対策
 
 捕手の控え選手が阿部選手の穴を埋めるのは不可能でしょう。捕手陣は穴をこれ以上大きくさせない働きが必要です。阿部選手欠場の影響を緩和するにはそのほかのポジションで穴埋めするしかありません。



 ポジション別の得失点貢献を見ると、昨年の阿部選手は40を超える貢献をしています。しかし、今季はこの値が半減する可能性もあります。それに対して一塁・二塁・中堅・右翼など得失点でマイナスを計上してしまったポジションなどで補てん出来れば効率的です。阿部選手の復帰時期がいつになるのかわかりませんが、5月末までの期間は重要です。巨人にとって幸いなのは、交流戦など日程に余裕があり、試合消化がそれほど進まない点です。鶴岡選手をはじめとした巨人の控え捕手陣が、ペナント争いの最初のカギを握っていそうです。

コメント


これは私もちょうど考えていたところでした。
当方のプロジェクションでは阿部がwOBA.405、鶴岡.320で、150打席あたりで「失う得点」は10.3です。
やはりほぼ同じ結果ですね。

Posted by 蛭川皓平 at 2011/04/15 20:10:05 PASS:

蛭川さま

>当方のプロジェクションでは阿部がwOBA.405、鶴岡.320で、150打席あたりで「失う得点」は10.3です。
>やはりほぼ同じ結果ですね。

蛭川さんと結果が近くて安心しました。
年齢の調整部分などで差が出たのかもしれませんね。
成績予測を加味すると幅が広がるのですが、NPB版の予測ロジックに取り組まないといけませんね。
あまりチームにとって良くない話ですが、こういった事例は扱わざるを得ないですね。

Posted by 岡田友輔 at 2011/04/15 22:37:17 PASS:

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Posted by ★小向美奈子 AV第2弾サンプル映像 at 2011/11/16 10:44:56 PASS:
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