ポジションに求められる打撃力
岡田友輔 [ 著者コラム一覧 ]
打率や本塁打などの打撃成績は一律で比べるのが一般的です。しかし、守備の負担の重い捕手・遊撃手・二塁手と比較的守備の比重が小さい一塁手・指名打者・左翼手では求められる攻撃力が違います。今回はポジションに求められる打撃力がどのように変わってきたのか大まかに見ていきたいと思います。
1.ポジション別のwOBA
ポジションの攻撃力を測るうえで今回参考にするのはwOBAです。当サイトの基本的な打撃指標でもあり、蛭川氏のコラム「打撃指標wOBA」においてNPB版のwOBA算出が可能にもなっているため、より日本の実情に即した変化を見ることができるでしょう。NPB版のwOBA算出の工程は以下の通りになります。
wOBA(NPB版)=(0.69×(四球-故意四球)+0.73×死球+0.92×失策出塁+0.87×単打+1.29×二塁打+1.74×三塁打+2.07×本塁打)/(打数+四球-故意四球+死球+犠飛)
本来なら各年度・リーグで係数を算出することが理想ですが、残念ながらそこまでデータがそろわないため上記の係数を基に算出しました。過去データでは失策出塁をまとめたデータがないため、失策出塁部分は削除して計算を行っています。またポジション別の打撃成績は、個人の守備出場試合数を基に打撃成績を合計し求めました。少し強引な手法ですが、2リーグ制以降のセ・パ両リーグ合わせたポジション毎のwOBAを表したのが下のグラフになります。

赤いラインが全体の平均となります。2リーグ制間もない時期に飛ばないボールの影響でwOBAが年度で最低を記録してから70年代中盤にかけ右肩上がりの時代になります。70年代後半から現在に至るまでおおよそ3割2分~3割3分あたりで推移しています(失策出塁を計上しいていないためやや当初想定よりも値が低くなっています)。
リーグの平均よりもポジションのwOBAを大きく上回っているのは、一塁手・指名打者が挙げられます。三塁手・外野手は平均よりもやや高いwOBAを求められるのがわかります。それに対して捕手・遊撃手は平均と大きくwOBAの値がかい離しているのがわかります。二塁手も平均よりやや劣る打撃成績が続いているようです(近年は下落傾向)。得点の環境(得点が入りやすいor入りにくい)が変わってもポジションに求められる打力の順番は現在の認識に近いと思われます(外野手は3ポジションの合計となっています。実際はレフト・ライト・センターの順でwOBAの値が高くなると思われます)。
ポジション毎のwOBAを全体のwOBAと相対的に見たのが下のグラフです。1が平均で、1から遠ざかるほどその値が大きく(小さく)なっていきます。

こちらで見た方が大まかにポジションに求められる打撃力を把握できます。一塁手や指名打者でレギュラーを取るには少なくともリーグ全体の10%増しの打撃力が必要になりそうです。この様なポジションで一流選手となるにはさらなる数字の積み増しが必要で、それを実現できれば一般的な打撃成績で上位に来る割合は高いでしょう。逆に平均的な捕手として求められる攻撃力は全体の10%減程度と低いです。こういったポジションの選手は(リーグで)平均的な打撃成績を残すだけで、大きな利得を生み出すことになります。
2.ポジション毎の打撃貢献
それぞれのポジションに求められる打撃力をベースに、どれだけ打撃成績に価値があるのか見ていきましょう。最も攻撃力を求められる一塁手と攻撃力に重きをおかれていない捕手で比較をしていきましょう。この2つのポジションでNPB史上最も優れた選手は王貞治・野村克也両氏と多くの方が考えるのではないでしょうか。両氏は通算本塁打をはじめ各打撃成績でトップクラスの数字を残しています。比較の基になる打席数もほぼ同数で、ポジションを加味した打撃成績を考えるうえでこれ以上ないくらいのサンプルになります。
野村氏の年度別のwOBAとリーグの平均的な捕手のwOBAを表したのが下の表になります。

野村氏は捕手ながら4割を超えるwOBAを記録するシーズンが多くあり、全盛期はリーグ平均に比べwOBAが0.1以上の差がありました。wRAAはリーグ平均捕手のwOBAと野村氏のwOBAから平均的な捕手に比べどれだけ得点を生み出したかを表しています。1962年シーズンはリーグの平均的な捕手に比べ66.3得点を上乗せした驚異的なシーズンです。52本塁打を打った1963年でも三冠王になった1965年よりも貢献が大きいのは面白いところです(リーグの他の捕手の成績が低かったことが考えられます)。野村氏は26年の現役生活で平均的な捕手に比べ815もの得点を上乗せをしました。蛭川氏のコラムや以前のコラムで10得点でチームには1勝の改善が見込めることを思い出してください。このことから野村氏は平均的な捕手に比べ81.5勝をもたらした計算です。野村氏がいることで毎年チームは3~4勝程度の利得を得ていたことになります(シーズン140試合で5割のチームを74勝66敗と貯金8にする位の影響力)。

対する王貞治氏ですが、1974年にwOBAが.515と規格外の数字を残しています。王氏はピークが二つの時期に分かれ、wOBAも4割後半の数字を多く残しています。攻撃力の高い一塁手の中でも圧倒的な数字で、1968年にはリーグの平均的な一塁手に比べ73.4もの得点を上乗せしています。wRAA(リーグの平均的な一塁手に比べて生み出した得点)が70得点以上を記録したシーズンが5度もあり、キャリア通算で1045.5もの得点を上乗せした計算になります。10得点でチームには1勝の改善を見込めることから、王氏はリーグの平均的な一塁手に比べ104.5勝をもたらしたことになります。王氏が在籍中に巨人は少なく見積もっても毎年5勝程度のマージンを得ており、王氏以外が平均的な選手で構成されていた場合でも、年間で10の貯金を作れたことになります。
この様な手法を使えば、ポジションの影響を加味したうえで選手間の攻撃力を比較することができます。比較対象をリーグ平均で算出すると、野村氏のwRAAは736.4、王氏は1479.3とその差は大きく広がります(この見方もひとつの有力な観測方法です)。守備力を求められるポジションでは充分な攻撃力を備えた選手が少ないため希少性が上がります。捕手や遊撃手など守備のスキルポジションで、攻撃でも貢献できる選手を確保出来たチームは、編成の自由度が広がります。
3.NPBポジション事情
現在のNPBではセ・パでポジション別に求められる攻撃力に差があるケースもあります。セ・パ各ポジション別wOBAをリーグのwOBAと相対的に見たのが下のグラフです。

セ・リーグで最も特徴的なのは二塁手になります。二塁手に攻撃的な人材が少なく、最近は捕手と同等の攻撃力しか有していません。NPB全体でも言えることですが、二塁手の人材不足はかなり深刻です。守備のウェイトが大きかった遊撃手にパワーを備えた選手が増え、攻撃力が増加しているのとは対照的です。パ・リーグの二塁手はここ数年でかなり改善されていますが、セ・リーグではその兆しが見えません。逆にいえば、攻撃力を備えた二塁手が現れた際の利得は非常に大きなものになります。
MLBでも二塁手の人材不足がささやかれていますが、それでも遊撃手に比べ二塁手の攻撃力の方が高くなっています。遊撃手に比べ身体的に劣る選手(または遊撃からのコンバートを含め)が務めることも多いですが、長期的に見てこのポジションの強化は国際野球を勝ち抜く上でも強化ポイントになるかもしれません。

パ・リーグで最も特徴的なのは捕手になるでしょう。近年パ・リーグは捕手を除くポジションの打力差が縮小傾向にあります。遊撃・二塁手に攻撃面での人材が増えていることが一因ですが、捕手に関しては2リーグ制以降でリーグの平均から最もかい離しています。捕手は守備面での負担も大きく攻撃は二の次にされがちですが、現在のパ・リーグで打てる力を持った捕手は大きな利得を稼げる可能性を秘めています。
4.ポジションを加味した打撃評価
これまで見てきたように打撃成績をポジションで加味した方が選手の希少性を考慮できます。攻撃面のみの評価になりますが、ポジションの平均的な攻撃力を基に控え選手との差を算出するにも有用なデータとなります。ポジションの影響を加味し、控え選手との差を算出し、最後に守備成績を加えれば野手の総合的な価値評価WAR(Win Above Replacement=控え選手に比べた選手の勝利貢献)になります。ポジションを加味した打撃評価は選手の影響力を測る上で不可欠ですが、WAR算出のためにも無くてはならないものです。また、現在の各種打撃成績を選手のポジションを意識してみることができれば、その選手の実像が違って見えるかもしれません。
1.ポジション別のwOBA
ポジションの攻撃力を測るうえで今回参考にするのはwOBAです。当サイトの基本的な打撃指標でもあり、蛭川氏のコラム「打撃指標wOBA」においてNPB版のwOBA算出が可能にもなっているため、より日本の実情に即した変化を見ることができるでしょう。NPB版のwOBA算出の工程は以下の通りになります。
wOBA(NPB版)=(0.69×(四球-故意四球)+0.73×死球+0.92×失策出塁+0.87×単打+1.29×二塁打+1.74×三塁打+2.07×本塁打)/(打数+四球-故意四球+死球+犠飛)
本来なら各年度・リーグで係数を算出することが理想ですが、残念ながらそこまでデータがそろわないため上記の係数を基に算出しました。過去データでは失策出塁をまとめたデータがないため、失策出塁部分は削除して計算を行っています。またポジション別の打撃成績は、個人の守備出場試合数を基に打撃成績を合計し求めました。少し強引な手法ですが、2リーグ制以降のセ・パ両リーグ合わせたポジション毎のwOBAを表したのが下のグラフになります。

赤いラインが全体の平均となります。2リーグ制間もない時期に飛ばないボールの影響でwOBAが年度で最低を記録してから70年代中盤にかけ右肩上がりの時代になります。70年代後半から現在に至るまでおおよそ3割2分~3割3分あたりで推移しています(失策出塁を計上しいていないためやや当初想定よりも値が低くなっています)。
リーグの平均よりもポジションのwOBAを大きく上回っているのは、一塁手・指名打者が挙げられます。三塁手・外野手は平均よりもやや高いwOBAを求められるのがわかります。それに対して捕手・遊撃手は平均と大きくwOBAの値がかい離しているのがわかります。二塁手も平均よりやや劣る打撃成績が続いているようです(近年は下落傾向)。得点の環境(得点が入りやすいor入りにくい)が変わってもポジションに求められる打力の順番は現在の認識に近いと思われます(外野手は3ポジションの合計となっています。実際はレフト・ライト・センターの順でwOBAの値が高くなると思われます)。
ポジション毎のwOBAを全体のwOBAと相対的に見たのが下のグラフです。1が平均で、1から遠ざかるほどその値が大きく(小さく)なっていきます。

こちらで見た方が大まかにポジションに求められる打撃力を把握できます。一塁手や指名打者でレギュラーを取るには少なくともリーグ全体の10%増しの打撃力が必要になりそうです。この様なポジションで一流選手となるにはさらなる数字の積み増しが必要で、それを実現できれば一般的な打撃成績で上位に来る割合は高いでしょう。逆に平均的な捕手として求められる攻撃力は全体の10%減程度と低いです。こういったポジションの選手は(リーグで)平均的な打撃成績を残すだけで、大きな利得を生み出すことになります。
2.ポジション毎の打撃貢献
それぞれのポジションに求められる打撃力をベースに、どれだけ打撃成績に価値があるのか見ていきましょう。最も攻撃力を求められる一塁手と攻撃力に重きをおかれていない捕手で比較をしていきましょう。この2つのポジションでNPB史上最も優れた選手は王貞治・野村克也両氏と多くの方が考えるのではないでしょうか。両氏は通算本塁打をはじめ各打撃成績でトップクラスの数字を残しています。比較の基になる打席数もほぼ同数で、ポジションを加味した打撃成績を考えるうえでこれ以上ないくらいのサンプルになります。
野村氏の年度別のwOBAとリーグの平均的な捕手のwOBAを表したのが下の表になります。

野村氏は捕手ながら4割を超えるwOBAを記録するシーズンが多くあり、全盛期はリーグ平均に比べwOBAが0.1以上の差がありました。wRAAはリーグ平均捕手のwOBAと野村氏のwOBAから平均的な捕手に比べどれだけ得点を生み出したかを表しています。1962年シーズンはリーグの平均的な捕手に比べ66.3得点を上乗せした驚異的なシーズンです。52本塁打を打った1963年でも三冠王になった1965年よりも貢献が大きいのは面白いところです(リーグの他の捕手の成績が低かったことが考えられます)。野村氏は26年の現役生活で平均的な捕手に比べ815もの得点を上乗せをしました。蛭川氏のコラムや以前のコラムで10得点でチームには1勝の改善が見込めることを思い出してください。このことから野村氏は平均的な捕手に比べ81.5勝をもたらした計算です。野村氏がいることで毎年チームは3~4勝程度の利得を得ていたことになります(シーズン140試合で5割のチームを74勝66敗と貯金8にする位の影響力)。

対する王貞治氏ですが、1974年にwOBAが.515と規格外の数字を残しています。王氏はピークが二つの時期に分かれ、wOBAも4割後半の数字を多く残しています。攻撃力の高い一塁手の中でも圧倒的な数字で、1968年にはリーグの平均的な一塁手に比べ73.4もの得点を上乗せしています。wRAA(リーグの平均的な一塁手に比べて生み出した得点)が70得点以上を記録したシーズンが5度もあり、キャリア通算で1045.5もの得点を上乗せした計算になります。10得点でチームには1勝の改善を見込めることから、王氏はリーグの平均的な一塁手に比べ104.5勝をもたらしたことになります。王氏が在籍中に巨人は少なく見積もっても毎年5勝程度のマージンを得ており、王氏以外が平均的な選手で構成されていた場合でも、年間で10の貯金を作れたことになります。
この様な手法を使えば、ポジションの影響を加味したうえで選手間の攻撃力を比較することができます。比較対象をリーグ平均で算出すると、野村氏のwRAAは736.4、王氏は1479.3とその差は大きく広がります(この見方もひとつの有力な観測方法です)。守備力を求められるポジションでは充分な攻撃力を備えた選手が少ないため希少性が上がります。捕手や遊撃手など守備のスキルポジションで、攻撃でも貢献できる選手を確保出来たチームは、編成の自由度が広がります。
3.NPBポジション事情
現在のNPBではセ・パでポジション別に求められる攻撃力に差があるケースもあります。セ・パ各ポジション別wOBAをリーグのwOBAと相対的に見たのが下のグラフです。

セ・リーグで最も特徴的なのは二塁手になります。二塁手に攻撃的な人材が少なく、最近は捕手と同等の攻撃力しか有していません。NPB全体でも言えることですが、二塁手の人材不足はかなり深刻です。守備のウェイトが大きかった遊撃手にパワーを備えた選手が増え、攻撃力が増加しているのとは対照的です。パ・リーグの二塁手はここ数年でかなり改善されていますが、セ・リーグではその兆しが見えません。逆にいえば、攻撃力を備えた二塁手が現れた際の利得は非常に大きなものになります。
MLBでも二塁手の人材不足がささやかれていますが、それでも遊撃手に比べ二塁手の攻撃力の方が高くなっています。遊撃手に比べ身体的に劣る選手(または遊撃からのコンバートを含め)が務めることも多いですが、長期的に見てこのポジションの強化は国際野球を勝ち抜く上でも強化ポイントになるかもしれません。

パ・リーグで最も特徴的なのは捕手になるでしょう。近年パ・リーグは捕手を除くポジションの打力差が縮小傾向にあります。遊撃・二塁手に攻撃面での人材が増えていることが一因ですが、捕手に関しては2リーグ制以降でリーグの平均から最もかい離しています。捕手は守備面での負担も大きく攻撃は二の次にされがちですが、現在のパ・リーグで打てる力を持った捕手は大きな利得を稼げる可能性を秘めています。
4.ポジションを加味した打撃評価
これまで見てきたように打撃成績をポジションで加味した方が選手の希少性を考慮できます。攻撃面のみの評価になりますが、ポジションの平均的な攻撃力を基に控え選手との差を算出するにも有用なデータとなります。ポジションの影響を加味し、控え選手との差を算出し、最後に守備成績を加えれば野手の総合的な価値評価WAR(Win Above Replacement=控え選手に比べた選手の勝利貢献)になります。ポジションを加味した打撃評価は選手の影響力を測る上で不可欠ですが、WAR算出のためにも無くてはならないものです。また、現在の各種打撃成績を選手のポジションを意識してみることができれば、その選手の実像が違って見えるかもしれません。
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