ベースランニング
岡田友輔 [ 著者コラム一覧 ]
1.走力の測定
プロ野球選手の走力やスピードに関して語られる際は、盗塁数や盗塁成功率が基準になることが多いと思います。盗塁自体は得点期待値を基にした分析で、どのくらい得点に貢献したのか測ることは出来ます。しかし、盗塁以外にも走力が生きる場面は多くあります。走者一塁からヒットで三塁への進塁したり、二塁打で一塁から一気に生還する場面は、走者のベースランニング能力が発揮される機会といえます。今回は盗塁以外の走力の評価について考えていきましょう。
以前、外野手の肩を評価する際に、得点期待値を使用して、走者を抑止した割合や補殺を記録した割合を掛け合わせることで、どれだけ失点を防いだか算出しました。走者のベースランニング評価は、まさに外野手の肩と裏表の関係になります。
使用するデータは外野手の評価と同じで、
①走者が一塁にいて単打を打ったケース(二塁に走者がいる場合は除外)
②走者が二塁にいて単打を打ったケース
③走者が一塁にいて二塁打を打ったケース
④走者が三塁にいて外野フライを打ち上げたケース
になります。
さらにアウトカウント、打球が飛んだ位置(レフト・センター・ライト)に分けて走者の評価をおこないます(アウトカウントや打球が飛んだ方向によって進塁する難易度が変わるためです)。
盗塁王の常連である西武・片岡選手のデータを例にして、どのようにベースランニング能力の評価をするのか見ていきましょう。

上の表は①~④の状況で打球が飛んだ場合のデータになります。アウトカウントと打球方向が基準になります。「機会」はその状況で走塁する機会。「進塁企図」は2つ(二塁打の場合は3つ)以上の進塁を狙った数。「ストップ」は進塁をあきらめた数。「進塁成功」は2つ以上の進塁に成功した数。「走塁死」は2つ以上の進塁を狙ったがアウトになってしまった数になります。「2011年進塁割合」と「2011年走塁死率」は交流戦終了までのNPB全体の数字になります。「進塁±」はNPB全体の進塁割合と片岡選手の進塁した数を比較したもので、プラスだとNPB平均よりも進塁に成功していることを表します。「走塁死±」もNPB全体との比較になり、プラスは走塁死が少なかったことをを意味しています。
細かく片岡選手の走塁を見ていきましょう。片岡選手が一塁にいた際に安打が出たケースは3度ありました(塁が詰まっているケースは除いています)。最初に1アウトでセンターに打球が飛んだ際に、片岡選手は三塁まで進塁しています。NPB全体の進塁割合は23.3%ですから、片岡選手の進塁貢献(進塁±)を
【片岡選手の進塁成功(1)-片岡選手の機会(1)×2011年進塁割合(23.3%)】=0.77
と評価することが出来ます。盗塁死の評価については「機会」を「進塁企図」に変え、2011年走塁死率を掛け合わせることで求めることが出来ます。そのほかの状況でも同じように「進塁±」と「走塁死±」を算出することで、NPB全体に比べどれくらい先の塁を奪えたか見ることが出来ます。
ここで一つ注意が必要です。ここまでの分類は条件がかなり細かく、各チーム50試合前後しか試合を消化しておらずサンプルが極めて少ない状態です。ここで求めた「進塁±」や「走塁死±」が片岡選手のベースランニング能力を表しているのかはわかりません。しかし、片岡選手による一塁から三塁への進塁は、間違いなく得点を増やすのに良い走塁であることも事実です。今回の走塁評価は、能力というよりも、得点に対しての影響を測るものととらえて頂いた方が良いでしょう。

「進塁±」や「走塁死±」を使用して、片岡選手の走塁を得点の形にしていきましょう。得点への変換は得点期待値が基になります(外野手の評価とほぼ同じ工程です)。上の表は、各状況でプレー前と進塁・走塁死した場合の得点期待値を表しています。黄色く色のついた得点換算が、進塁した場合や盗塁死しなかった場合の得点価値となります。
「得点価値」が求められれば、先ほどの「進塁±」と「走塁死±」に掛け合わせれば、状況別にどれくらい得点に貢献できたかがわかります。下の表は片岡選手の走塁が、状況別でどれくらい得点に貢献したのか表しています。

4つの状況でマイナスを計上することがなく、特に二塁から単打が出た場合はNPB全体に比べ1得点以上の利得を挙げています。走塁の結果から見ると、片岡選手は良いベースランナーということが出来そうです。片岡選手がここまで積み上げた走塁での利得は、2.15になり、盗塁の評価と合わせれば走力のかなりの部分を得点への貢献として表すことが出来ます。
下の表は交流戦終了までに走塁で得点貢献が高かった選手のリストです。広島の梵選手を筆頭に、各球団の俊足選手が並んでいます。西武の片岡選手は、パ・リーグで最もベースランニングの貢献が高かったことになります。

2.ベースランニング評価の今後
今回、サンプルは少ないながらも、進塁することを得点への貢献という形で評価してきました。しかし、この計測方法はもう少し改善する余地が残されています。
最初の改善点は計測するベースランニングの範囲になります。今回は4つのケースで走塁の貢献を測ってきましたが、ベースランニングを評価出来る場面は、この4つの状況以外にもあります。セイバーメトリクスの有力サイトのFAN GRAPHSが最近走塁の貢献を総合評価に取り入れています。この計測範囲は
①走者が一塁にいて単打を打ったケース(二塁に走者がいる場合は除外)
②走者が二塁にいて単打を打ったケース
③走者が一塁にいて二塁打を打ったケース
④走者が三塁にいて外野フライを打ち上げたケース
⑤走者が二塁にいて外野フライを打ったケース
⑥走者が一塁にいて内野ゴロを打ったケース
⑦走者が二塁にいて3B、SSへのゴロで三塁に行ったケース
など走塁を評価する場面を多く取り入れています。この様に多様な場面を計測できれば、ベースランニング能力の大部分が評価の対象になります。
さらにこの状況の選択に加え、打球がどこのゾーンに飛んだのかを加えることで、精度がさらに上がります。現在の方法は、レフト・センター・ライトと大まかに飛んだ方向を計測しているだけです。一塁に走者がいるケースで単打がライト方向に飛んだとしても、定位置と一塁線寄りでは走者が次の塁を狙う割合に差が出てしまうでしょう。この点が今回の計測方法の課題です(盗塁のデータだけや印象で走力を語るよりは進歩しているかと思います)。今回貢献が高かった選手は1・2番を打つ選手が多く、走者になった場合にチームの主力が打席に立ち、走塁しやすい状況だった可能性(外野手が通常より深めの位置にいるなど)があります。飛んだゾーンごとに全体の進塁割合を算出できれば、走者のベースランニング能力の解明に近づきそうです(同時に外野手の肩の評価も精度を上げることになります)。
セイバーメトリクスの祖・ビル・ジェームズは、古くから走塁は完全に計測可能で、しっかりとしたデータさえあればその貢献を表すことが出来ると主張しています。選手の走力を評価することは難しいと考えがちですが、盗塁・ベースランニングどちらもかなり高い精度で評価できるようになっています。今後、さらに厳密に走塁を貢献に置き換える時代がすぐそこまできています。
プロ野球選手の走力やスピードに関して語られる際は、盗塁数や盗塁成功率が基準になることが多いと思います。盗塁自体は得点期待値を基にした分析で、どのくらい得点に貢献したのか測ることは出来ます。しかし、盗塁以外にも走力が生きる場面は多くあります。走者一塁からヒットで三塁への進塁したり、二塁打で一塁から一気に生還する場面は、走者のベースランニング能力が発揮される機会といえます。今回は盗塁以外の走力の評価について考えていきましょう。
以前、外野手の肩を評価する際に、得点期待値を使用して、走者を抑止した割合や補殺を記録した割合を掛け合わせることで、どれだけ失点を防いだか算出しました。走者のベースランニング評価は、まさに外野手の肩と裏表の関係になります。
使用するデータは外野手の評価と同じで、
①走者が一塁にいて単打を打ったケース(二塁に走者がいる場合は除外)
②走者が二塁にいて単打を打ったケース
③走者が一塁にいて二塁打を打ったケース
④走者が三塁にいて外野フライを打ち上げたケース
になります。
さらにアウトカウント、打球が飛んだ位置(レフト・センター・ライト)に分けて走者の評価をおこないます(アウトカウントや打球が飛んだ方向によって進塁する難易度が変わるためです)。
盗塁王の常連である西武・片岡選手のデータを例にして、どのようにベースランニング能力の評価をするのか見ていきましょう。

上の表は①~④の状況で打球が飛んだ場合のデータになります。アウトカウントと打球方向が基準になります。「機会」はその状況で走塁する機会。「進塁企図」は2つ(二塁打の場合は3つ)以上の進塁を狙った数。「ストップ」は進塁をあきらめた数。「進塁成功」は2つ以上の進塁に成功した数。「走塁死」は2つ以上の進塁を狙ったがアウトになってしまった数になります。「2011年進塁割合」と「2011年走塁死率」は交流戦終了までのNPB全体の数字になります。「進塁±」はNPB全体の進塁割合と片岡選手の進塁した数を比較したもので、プラスだとNPB平均よりも進塁に成功していることを表します。「走塁死±」もNPB全体との比較になり、プラスは走塁死が少なかったことをを意味しています。
細かく片岡選手の走塁を見ていきましょう。片岡選手が一塁にいた際に安打が出たケースは3度ありました(塁が詰まっているケースは除いています)。最初に1アウトでセンターに打球が飛んだ際に、片岡選手は三塁まで進塁しています。NPB全体の進塁割合は23.3%ですから、片岡選手の進塁貢献(進塁±)を
【片岡選手の進塁成功(1)-片岡選手の機会(1)×2011年進塁割合(23.3%)】=0.77
と評価することが出来ます。盗塁死の評価については「機会」を「進塁企図」に変え、2011年走塁死率を掛け合わせることで求めることが出来ます。そのほかの状況でも同じように「進塁±」と「走塁死±」を算出することで、NPB全体に比べどれくらい先の塁を奪えたか見ることが出来ます。
ここで一つ注意が必要です。ここまでの分類は条件がかなり細かく、各チーム50試合前後しか試合を消化しておらずサンプルが極めて少ない状態です。ここで求めた「進塁±」や「走塁死±」が片岡選手のベースランニング能力を表しているのかはわかりません。しかし、片岡選手による一塁から三塁への進塁は、間違いなく得点を増やすのに良い走塁であることも事実です。今回の走塁評価は、能力というよりも、得点に対しての影響を測るものととらえて頂いた方が良いでしょう。

「進塁±」や「走塁死±」を使用して、片岡選手の走塁を得点の形にしていきましょう。得点への変換は得点期待値が基になります(外野手の評価とほぼ同じ工程です)。上の表は、各状況でプレー前と進塁・走塁死した場合の得点期待値を表しています。黄色く色のついた得点換算が、進塁した場合や盗塁死しなかった場合の得点価値となります。
「得点価値」が求められれば、先ほどの「進塁±」と「走塁死±」に掛け合わせれば、状況別にどれくらい得点に貢献できたかがわかります。下の表は片岡選手の走塁が、状況別でどれくらい得点に貢献したのか表しています。

4つの状況でマイナスを計上することがなく、特に二塁から単打が出た場合はNPB全体に比べ1得点以上の利得を挙げています。走塁の結果から見ると、片岡選手は良いベースランナーということが出来そうです。片岡選手がここまで積み上げた走塁での利得は、2.15になり、盗塁の評価と合わせれば走力のかなりの部分を得点への貢献として表すことが出来ます。
下の表は交流戦終了までに走塁で得点貢献が高かった選手のリストです。広島の梵選手を筆頭に、各球団の俊足選手が並んでいます。西武の片岡選手は、パ・リーグで最もベースランニングの貢献が高かったことになります。

2.ベースランニング評価の今後
今回、サンプルは少ないながらも、進塁することを得点への貢献という形で評価してきました。しかし、この計測方法はもう少し改善する余地が残されています。
最初の改善点は計測するベースランニングの範囲になります。今回は4つのケースで走塁の貢献を測ってきましたが、ベースランニングを評価出来る場面は、この4つの状況以外にもあります。セイバーメトリクスの有力サイトのFAN GRAPHSが最近走塁の貢献を総合評価に取り入れています。この計測範囲は
①走者が一塁にいて単打を打ったケース(二塁に走者がいる場合は除外)
②走者が二塁にいて単打を打ったケース
③走者が一塁にいて二塁打を打ったケース
④走者が三塁にいて外野フライを打ち上げたケース
⑤走者が二塁にいて外野フライを打ったケース
⑥走者が一塁にいて内野ゴロを打ったケース
⑦走者が二塁にいて3B、SSへのゴロで三塁に行ったケース
など走塁を評価する場面を多く取り入れています。この様に多様な場面を計測できれば、ベースランニング能力の大部分が評価の対象になります。
さらにこの状況の選択に加え、打球がどこのゾーンに飛んだのかを加えることで、精度がさらに上がります。現在の方法は、レフト・センター・ライトと大まかに飛んだ方向を計測しているだけです。一塁に走者がいるケースで単打がライト方向に飛んだとしても、定位置と一塁線寄りでは走者が次の塁を狙う割合に差が出てしまうでしょう。この点が今回の計測方法の課題です(盗塁のデータだけや印象で走力を語るよりは進歩しているかと思います)。今回貢献が高かった選手は1・2番を打つ選手が多く、走者になった場合にチームの主力が打席に立ち、走塁しやすい状況だった可能性(外野手が通常より深めの位置にいるなど)があります。飛んだゾーンごとに全体の進塁割合を算出できれば、走者のベースランニング能力の解明に近づきそうです(同時に外野手の肩の評価も精度を上げることになります)。
セイバーメトリクスの祖・ビル・ジェームズは、古くから走塁は完全に計測可能で、しっかりとしたデータさえあればその貢献を表すことが出来ると主張しています。選手の走力を評価することは難しいと考えがちですが、盗塁・ベースランニングどちらもかなり高い精度で評価できるようになっています。今後、さらに厳密に走塁を貢献に置き換える時代がすぐそこまできています。
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野球を客観視した独自の論評、分析、および研究を特徴として、野球に関するさまざまな考察をしています。
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