斎藤佑樹の可能性について
三宅博人 [ 著者コラム一覧 ]
いよいよキャンプイン。東北楽天Gイーグルスも31日朝、仙台駅にて壮行式が行われ同日久米島到着でキャンプ開始です。オフの動きから考えますと、例年ならば最も注目を集めてもよさそうなGイーグルスですが、なぜか地味に感じるのは、自他共に(?)認める”持っている男”の斎藤佑樹の存在があるからでしょう。仙台ローカル局のスポーツ番組でも、ゲスト出演した星野新監督に対して、彼と田中との対決はいつ?という気の早い質問も飛んでいます。星野監督はそれに対し、”斉藤は必ずローテーション入りする”と太鼓判を押し、それに続けて”仙台と札幌でそれぞれ一回ずつ対決させたい”とリップサービス。いずれにしても斎藤の話題は、もうしばらく野球メディアを独占し続けそうな雰囲気です。
1.大学時代の成績
しかし肝心の斎藤が何を”持っている”のか?語られるのは少ないようにも感じます。多少はありますが、例えば良い意味でもその逆でもよく言われるのは”完成された投手”ということでしょうか?打者との駆け引きに優れているという声も聞こえます。最も具体的な評価だったのは、ドラフトで複数のチームが最高の評価をしたということかもしれません。ただ指名した各チームのスカウティングリポートが公表されることはありませんから、どこを評価したのかわかりません。そこで少ないデータからではありますが、彼が今シーズンどの程度活躍できるのか、占ってみたいと思います。
まず彼の大学時代の成績を振り返りましょう。直近の4シーズン、つまり3年と4年生時代の成績は、東京六大学野球連盟の公式サイト(一部筆者が計算したものもあり)によりますとこうなっています。


K/(BB+HBP) 三振と四死球の比率。
(BB+HBP)/9 四死球数を9イニング換算したもの。
K9 三振数を9イニング換算したもの。
BABIP Batting Average on Balls In Play。 詳細は蛭川氏のコラムBABIP Part1,Part2を参照のこと。
今回の計算方法は(安打-被本塁打)/(打者-四死球-三振-被本塁打)
HR/H 安打に対しての被本塁打の割合。
対戦打者数がシーズン毎ですと十分なデータとは言えませんので、計717人の打者と対戦した2年間通算の成績で見るべきですが、それでも気になりますのは、対戦打者数150人である程度の目安が立つと考えられる三振のパフォーマンスがシーズンを追うごとに悪くなっているところです。3年時の2シーズンで計算しますと、K9は9.4とハイレベルですが、最後の2シーズンでは6.14と平凡な数字。四死球の9イニング換算も、4年時では2.89で、三振と四死球の比率は三振を分子にした場合2.15。これらがどのくらい平凡かと言いますと、斎藤が六大学に所属していた8シーズンで公式サイトに記録が出ている投手全員(のべ113人で東大生も含む)の平均を調べたところ・・・
となっており、つまり斎藤の4年生時のパフォーマンスは、これらの数字に関して言えば平均よりもやや良い程度の投手であったということになります。ちなみに3年生までの6シーズン通算の斎藤の数字はK9から順番に8.33、2.58、3.23。四死球に関しては許容できる変化ですが、三振に関して明らかに数字は落ちており、”数字のあや”以外の何らかの原因があるのではないかと想像します。
2.他の投手との比較
この面で、他の投手と比較してみましょう。

大石の数字は、主にリリーフでのものなので多少割引は必要だと思われます。09年にドラフトされた二神や戸村辺りと比較すると10年組のレベルの高さが伺えると思います。しかし同時に10年組を上回る数字の大場のプロ入り後を考慮した場合、プロでの難しさも同時に感じられる数字になっています。ですから余計に斉藤の4年時の奪三振パフォーマンスが気になるところですが、彼に同情的に見れば、1年生から活躍、注目されてきた投手なので、他の投手に比較しライバルチームに研究されつくされた結果とも考えられます。
もう少し他の数字に目を移して見ましょう。3・4年時で目立つのは4年春の防御率です。この4シーズンではベストの1.54をマークしていまして、前段での奪三振パフォーマンスの不安を感じさせないものです。しかしBABIPがこのシーズン0.219と他の3シーズンに比較し突出して低い数字で、打球が斎藤の味方をした可能性が大きいように感じられます。同年秋はBABIPが、彼の平均と考えられるレベルに戻っており、その時の数字3.07が斉藤のその時点での適正な防御率であったと考えられます。ここまで斎藤に関してネガティブな話ばかりになっていますが、ポジティブな部分に触れてみたいと思います。


K/(BB+HBP) 三振と四死球の比率。
(BB+HBP)/9 四死球数を9イニング換算したもの。
K9 三振数を9イニング換算したもの。
BABIP Batting Average on Balls In Play。 詳細は蛭川氏のコラムBABIP Part1,Part2を参照のこと。
今回の計算方法は(安打-被本塁打)/(打者-四死球-三振-被本塁打)
HR/H 安打に対しての被本塁打の割合。
上の表の最後に見慣れない数字HR/Hという項目があります。上でも説明しています通り、全安打に対して本塁打がどの程度の割合になっているか示すものです。この数字はフライボール%とグランド(ゴロ)ボール%と相関がそれぞれプラス0.5、マイナス0.5程度あり、投手のキャラクターを表すことができる数値の一つです。ただ、この程度の相関係数であることや、或いはこの数字はMLBでのデータを元にしていますので、この数字から何かを探るのは他の要素も当然必要になるとは思いますが、斎藤の数字からは、彼がグランドボーラーではないかという可能性が伺えます。ちなみにNPBでの平均値は約0.1つまり約10%となっており、これを越すとフライボーラーの可能性が高まるわけです。斎藤の場合、3・4年での数字は3.5%で、10%からはかなり下回っています。実際のフライ%とゴロ%を知りたいところですが、残念ながらそのデータはありませんが、個人的には、この部分が斎藤の投手としての特徴、つまり彼が”持っているもの”を表現しているのではないかと考えます。ゴロとフライの関係についての詳細は、岡田氏のコラムを参考にされてください。結論のみ引用しますと、フライボールの方が得点(失点)インパクトが強く、フライを多く打たれる投手よりも、ゴロを量産される投手にこの面においては明らかなアドバンテージがあります。斎藤がもしその性質を持っているとしたなら、レベルが高い野球への対応面で、小さくはない助けになるでしょう。
3.斎藤投手の可能性
最後に斎藤の先発ローテーション入りの可能性について。レベルが高い野球へ移った投手に起きる変化として、比較的わかりやすく数字に現れるのは、奪三振率の低下と与四球率の増加です。このコラムの序盤で三振と四球にこだわったのもその為です。勿論BABIPや被本塁打率にも影響は見られますが、両者ともに運に左右されるケースが少なくなく、つまり被安打や被ホームランを少なく抑えることができる能力が備わったとしても、結果的にその変化が数字に現れない場合もあるということです。しかし投打の力が著しく違う場合は、それが明確になることもあり、斎藤の先ほどのBABIPもその一例だと考えられます。蛭川氏のBABIPの説明にもその点に触れています。
残念ながら、大学野球からプロ野球へ移った投手が、それぞれのカテゴリーにおいて、どの程度の割合で数字の変化が起きるのか、現在のところわかっていません。従って、斎藤の大学時代3~4年の数字を、最良の結果(多分達成不可能な)として話を進めることとします。数字は先ほどのように死球数を想定した仮のものになりますが、念のため再計算した数字を以下に書いておきます。
まず上の数字のレベルで既にプロで投げている投手にどんな面子がいるでしょう。2005年からのデータでは該当する選手がいませんでしたが、HR/Hを外すと”想定斎藤”が二人見つかりました。
()内の数字は該当したシーズン年で、二人共に斉藤のそれぞれの数字を基準とした前後5%内に、K9,BB9,BABIPが収まっています。こうなると殆どお遊びですが、斎藤のそれぞれの数字を10%ほど悪くした場合でのシミュレーションをしてみましょう。
投球イニング数等他も考慮しなければなりませんけど、後者のリストが現在の斎藤のレベルを語る上では現実的かもしれませんね。またもしこのレベルで先発として投げることができるのならば、ローテーション入りの可能性も低くはありません。
さてここまで書いてきましたが、これ以上のプロジェクションは、私の能力では限界に近づきつつあります。斎藤に対しての他の方のデータからの解釈も聞いてみたいところです。全体としては面白いパーツを持っている投手だとは思いますが、投手の能力面において並外れた部分は現状ではないかなぁというのが正直な感想です。これは同期の学生のドラフト1位投手に対しても同じ印象で、もしNPBのファンタジーゲームに参加しているのなら、彼らよりもスリーパーとしての可能性を重視し、大場を先に指名したいとも思います。ただこれは飽くまで今シーズンどうなるかで考えた場合であって、数年後の彼らの成長まで否定するものではありません。学生出身の投手の場合、高卒投手に比較し、成長の時間は限られていますけど、まだ「伸び代」があるはずです。今季はその可能性を彼らの投球から是非見てみたいです。
1.大学時代の成績
しかし肝心の斎藤が何を”持っている”のか?語られるのは少ないようにも感じます。多少はありますが、例えば良い意味でもその逆でもよく言われるのは”完成された投手”ということでしょうか?打者との駆け引きに優れているという声も聞こえます。最も具体的な評価だったのは、ドラフトで複数のチームが最高の評価をしたということかもしれません。ただ指名した各チームのスカウティングリポートが公表されることはありませんから、どこを評価したのかわかりません。そこで少ないデータからではありますが、彼が今シーズンどの程度活躍できるのか、占ってみたいと思います。
まず彼の大学時代の成績を振り返りましょう。直近の4シーズン、つまり3年と4年生時代の成績は、東京六大学野球連盟の公式サイト(一部筆者が計算したものもあり)によりますとこうなっています。


K/(BB+HBP) 三振と四死球の比率。
(BB+HBP)/9 四死球数を9イニング換算したもの。
K9 三振数を9イニング換算したもの。
BABIP Batting Average on Balls In Play。 詳細は蛭川氏のコラムBABIP Part1,Part2を参照のこと。
今回の計算方法は(安打-被本塁打)/(打者-四死球-三振-被本塁打)
HR/H 安打に対しての被本塁打の割合。
対戦打者数がシーズン毎ですと十分なデータとは言えませんので、計717人の打者と対戦した2年間通算の成績で見るべきですが、それでも気になりますのは、対戦打者数150人である程度の目安が立つと考えられる三振のパフォーマンスがシーズンを追うごとに悪くなっているところです。3年時の2シーズンで計算しますと、K9は9.4とハイレベルですが、最後の2シーズンでは6.14と平凡な数字。四死球の9イニング換算も、4年時では2.89で、三振と四死球の比率は三振を分子にした場合2.15。これらがどのくらい平凡かと言いますと、斎藤が六大学に所属していた8シーズンで公式サイトに記録が出ている投手全員(のべ113人で東大生も含む)の平均を調べたところ・・・
K9:6.82 |
(BB+HBP)9:3.28 |
K/(BB+HBP):2.08 |
となっており、つまり斎藤の4年生時のパフォーマンスは、これらの数字に関して言えば平均よりもやや良い程度の投手であったということになります。ちなみに3年生までの6シーズン通算の斎藤の数字はK9から順番に8.33、2.58、3.23。四死球に関しては許容できる変化ですが、三振に関して明らかに数字は落ちており、”数字のあや”以外の何らかの原因があるのではないかと想像します。
2.他の投手との比較
この面で、他の投手と比較してみましょう。

大石の数字は、主にリリーフでのものなので多少割引は必要だと思われます。09年にドラフトされた二神や戸村辺りと比較すると10年組のレベルの高さが伺えると思います。しかし同時に10年組を上回る数字の大場のプロ入り後を考慮した場合、プロでの難しさも同時に感じられる数字になっています。ですから余計に斉藤の4年時の奪三振パフォーマンスが気になるところですが、彼に同情的に見れば、1年生から活躍、注目されてきた投手なので、他の投手に比較しライバルチームに研究されつくされた結果とも考えられます。
もう少し他の数字に目を移して見ましょう。3・4年時で目立つのは4年春の防御率です。この4シーズンではベストの1.54をマークしていまして、前段での奪三振パフォーマンスの不安を感じさせないものです。しかしBABIPがこのシーズン0.219と他の3シーズンに比較し突出して低い数字で、打球が斎藤の味方をした可能性が大きいように感じられます。同年秋はBABIPが、彼の平均と考えられるレベルに戻っており、その時の数字3.07が斉藤のその時点での適正な防御率であったと考えられます。ここまで斎藤に関してネガティブな話ばかりになっていますが、ポジティブな部分に触れてみたいと思います。


K/(BB+HBP) 三振と四死球の比率。
(BB+HBP)/9 四死球数を9イニング換算したもの。
K9 三振数を9イニング換算したもの。
BABIP Batting Average on Balls In Play。 詳細は蛭川氏のコラムBABIP Part1,Part2を参照のこと。
今回の計算方法は(安打-被本塁打)/(打者-四死球-三振-被本塁打)
HR/H 安打に対しての被本塁打の割合。
上の表の最後に見慣れない数字HR/Hという項目があります。上でも説明しています通り、全安打に対して本塁打がどの程度の割合になっているか示すものです。この数字はフライボール%とグランド(ゴロ)ボール%と相関がそれぞれプラス0.5、マイナス0.5程度あり、投手のキャラクターを表すことができる数値の一つです。ただ、この程度の相関係数であることや、或いはこの数字はMLBでのデータを元にしていますので、この数字から何かを探るのは他の要素も当然必要になるとは思いますが、斎藤の数字からは、彼がグランドボーラーではないかという可能性が伺えます。ちなみにNPBでの平均値は約0.1つまり約10%となっており、これを越すとフライボーラーの可能性が高まるわけです。斎藤の場合、3・4年での数字は3.5%で、10%からはかなり下回っています。実際のフライ%とゴロ%を知りたいところですが、残念ながらそのデータはありませんが、個人的には、この部分が斎藤の投手としての特徴、つまり彼が”持っているもの”を表現しているのではないかと考えます。ゴロとフライの関係についての詳細は、岡田氏のコラムを参考にされてください。結論のみ引用しますと、フライボールの方が得点(失点)インパクトが強く、フライを多く打たれる投手よりも、ゴロを量産される投手にこの面においては明らかなアドバンテージがあります。斎藤がもしその性質を持っているとしたなら、レベルが高い野球への対応面で、小さくはない助けになるでしょう。
3.斎藤投手の可能性
最後に斎藤の先発ローテーション入りの可能性について。レベルが高い野球へ移った投手に起きる変化として、比較的わかりやすく数字に現れるのは、奪三振率の低下と与四球率の増加です。このコラムの序盤で三振と四球にこだわったのもその為です。勿論BABIPや被本塁打率にも影響は見られますが、両者ともに運に左右されるケースが少なくなく、つまり被安打や被ホームランを少なく抑えることができる能力が備わったとしても、結果的にその変化が数字に現れない場合もあるということです。しかし投打の力が著しく違う場合は、それが明確になることもあり、斎藤の先ほどのBABIPもその一例だと考えられます。蛭川氏のBABIPの説明にもその点に触れています。
残念ながら、大学野球からプロ野球へ移った投手が、それぞれのカテゴリーにおいて、どの程度の割合で数字の変化が起きるのか、現在のところわかっていません。従って、斎藤の大学時代3~4年の数字を、最良の結果(多分達成不可能な)として話を進めることとします。数字は先ほどのように死球数を想定した仮のものになりますが、念のため再計算した数字を以下に書いておきます。
K9:7.82 |
BB9:3.03 |
K/BB:2.93 |
BABIP:0.273 |
HR/H:0.035 |
まず上の数字のレベルで既にプロで投げている投手にどんな面子がいるでしょう。2005年からのデータでは該当する選手がいませんでしたが、HR/Hを外すと”想定斎藤”が二人見つかりました。
岸孝之(2007) |
中田賢一(2010) |
()内の数字は該当したシーズン年で、二人共に斉藤のそれぞれの数字を基準とした前後5%内に、K9,BB9,BABIPが収まっています。こうなると殆どお遊びですが、斎藤のそれぞれの数字を10%ほど悪くした場合でのシミュレーションをしてみましょう。
藤岡好明(2009) |
野口茂樹(2005) |
セラフィニ(2005) |
ラズナー(2010) |
ユウキ(2009) |
山井大介(2010) |
投球イニング数等他も考慮しなければなりませんけど、後者のリストが現在の斎藤のレベルを語る上では現実的かもしれませんね。またもしこのレベルで先発として投げることができるのならば、ローテーション入りの可能性も低くはありません。
さてここまで書いてきましたが、これ以上のプロジェクションは、私の能力では限界に近づきつつあります。斎藤に対しての他の方のデータからの解釈も聞いてみたいところです。全体としては面白いパーツを持っている投手だとは思いますが、投手の能力面において並外れた部分は現状ではないかなぁというのが正直な感想です。これは同期の学生のドラフト1位投手に対しても同じ印象で、もしNPBのファンタジーゲームに参加しているのなら、彼らよりもスリーパーとしての可能性を重視し、大場を先に指名したいとも思います。ただこれは飽くまで今シーズンどうなるかで考えた場合であって、数年後の彼らの成長まで否定するものではありません。学生出身の投手の場合、高卒投手に比較し、成長の時間は限られていますけど、まだ「伸び代」があるはずです。今季はその可能性を彼らの投球から是非見てみたいです。
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