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NPBここまでの投手運用(稼動量とプロジェクション)

SHINGO [ 著者コラム一覧 ]

投稿日時:2011/06/22(水) 10:00rss

 今回はこれまで各球団のピッチャーが投じてきた投球回数、投球数から最終的な稼動量をプロジェクション(予想)することにします。DIPSやFIPなどによる防御率の予測は浸透している最中ですが、投球回数、投球数についてはまだまだそうとはいえない状況です。しかし、近年酷使にたいする関心度が高まっていることから、そろそろこの分野にも目を向ける必要があるのではないかと感じております。
 
 一覧は、交流戦終了時までの先発回数、投球回数、投球数とそこから計算した年間プロジェクション、さらに平均化した投球内容をまとめたものです。投球回数以外のものについては一般的に馴染みが薄いため、ガイドライン的なものを添えながら説明させていただきます。

 
1.今シーズンの投球回数と投球数を予測
 

 
 先ずはプロジェクションの算出方法について。現時点での消化試合数をベースにした計算方法(登板数×(年間試合数/消化試合数))を使うと、現実的ではない数字が弾き出されてしまいます。これは、交流戦の日程が影響しているため(ローテーションの人数を絞った運用をしている球団が多数を占めている)、今後消化する日程に合せた計算をする必要がありました。そこで、ややアナログ的な方法ですが、各球団の日程に沿って先発枠を嵌め込む作業をし、且つ球団毎の起用パターンをイメージしながら年間登板数予測を立てました。その機会数から年間の投球回数と投球数を割り出しています。
 
また、一試合辺りの消費量は投球内容の根幹となるべく重要な指標ですので、それにも注目していきましょう。
 
<IP/GS> 一先発あたりの平均投球回数 
<P/GS> 一先発あたりの平均投球数
<P/IP> イニング平均投球数
 
集計の結果、例年と比べて負担が軽くなると思われる投手、オーバーワークの傾向が見られる投手が見えてきました。
 

2.前田健の酷使は避けられる見込み
 
【負担が軽くなりそうな投手】
 
杉内(ソフトバンク)・・・・昨年まで4年連続して3000球を投げてきましたが、全体層がグレードアップしたチームのお陰で今季はそれを回避できそうです。本人の投球内容についてもP/IPが格段に向上しており(2010年17.06、キャリア16.68)、昨年よりも多いイニングを少ない球数で消化することも十分可能でしょう。
 
和田(ソフトバンク)・・・・同じく、好調なチームからの恩恵をあずかる見込みが強いと思われます。こちらも杉内ほどではありませんがP/IP(2010年16.41、キャリア16.70)が良くなり、奪三振率をキープしながら球数を抑えています。
 
涌井(西武)・・・・球界一タフネスな右腕も今季は省エネ投球が着実に進行しています。今季は完投しても130球が最多で、このペースだと200回を越えても投球数は3000を超えずに済みそうです。ただし、戦況によって登板数が増える可能性はソフトバンクの投手陣よりも高いと予想します。
 
前田健(広島)・・・・昨年の沢村賞投手で、なおかつ両リーグ最多投球回数(215.2回)及び最多投球数(3340)という事情から故障への懸念が最も心配された投手でしたが、今の所はほぼ毎試合無難な投球数に落ち着いていて、一度だけ中4日での登板がありましたが120球を越えるゲームは一試合だけと、ベンチの配慮が感じられます。成績は若干奮わないかもしれませんが、オーバーワークは避けられているので、巻き返すチャンスは十分あると思います。

 
【負担が圧し掛かりそうな投手】
 
成瀬(ロッテ)・・・・プロジェクションでは両リーグ最多の投球数を予測。大きな原因は、一試合辺り123.2球を費やしていることで、完投を要求されているせいかIP/GSも相当高めです。また、杉内などに見られるP/IPの向上は見られず(2010年15.91、キャリア16.04)、チーム事情を考えると他球団よりも多い28度以上の先発機会が巡ってくるかもしれません。要注意です。
 
唐川(ロッテ)・・・・チームでは成瀬に次ぐ2番手として、同じような負荷が掛けられる可能性はかなり高いと思われます。故障明けのシーズンで、キャリアを大幅に更新する投球数も心配な部分でしょう。
 
攝津(ソフトバンク)・・・・先発転向初年度のため、杉内や和田とは事情が違います。年間プロジェクションはオーバーワークに見えないかもしれませんが、P/GSが110球を越える状態が果たして続くのか?といった懸念材料はあると思います。
 
田中将(楽天)・・・・ロッテの2投手と似たような背景で先発機会数が多くなると予想し、投球回数は両リーグで最多のものとなっています。ダルビッシュと同程度のヴォリュームで登板数が増えるといったイメージで、救いは投球効率の良さ(P/IP13.91)でしょう。
 
牧田(西武)・・・・一年目から200回オーバーの予測が出ています。新人で200イニング超えを記録すると1990年の野茂英雄(近鉄、235回)以来で、過去30年間でも1987年の阿波野秀幸(249.2回)と同じ年の西崎幸弘(221.1回)と僅か3人しかいません。もちろん、そうした記録に届くような活躍ぶりではありますが、耐久性としてはどうでしょうか。
 
澤村(巨人)・・・・こちらもルーキーで3000球に近いプロジェクション。完投が続けばそれを超えることも有り得るでしょう。新人王の呼び声が高い投手ですが、それに惑わされずしっかりとペース配分をしてもらいたいと思う一人です。そういった意味で6/19の登板(7回無失点で降板)は、加減を利かせた好ジャッジです。
 
高崎(横浜)・・・・人材不足なチームにあって、登板機会数が両リーグ最多タイ(ネルソン、同僚の山本も同じく)となりました。これについては今後も中5日対策を続けるかどうかにかかっているといえます。
 

3.3000球超えは危険の前兆?
 
 昨年の投球数が3000を超えた投手は、前田健(3340)、金子千(オリックス、3311)、涌井(3308)、成瀬(3241)、ダルビッシュ(日本ハム、3222)、久保(阪神、3163)、杉内(3117)、村中(ヤクルト、3042)、永井(楽天、3083)岩隈(3013)と10名を数えました。この中で金子千、村中、岩隈が故障を患い、前田健と久保はやや苦戦している状態。岩隈を除けばいずれも初めて3000球をクリアした投手達です。
 
 だからといって、3000球超えが即危険なラインとは申しませんが、現在のNPBでは耐久性が試される一種の境界線のようなものです。26先発だと一試合辺り115.38球、28先発でも平均107.14球放らないと届かないので到達するだけでも大変ですが、今季に限っていえば投高打底現象の影響を受けて、この分野でも数字(消費)が伸びる可能性が高いかもしれません。
 
 この3000球をクリアした投手が翌年どの程度稼働しているか、かなり大雑把な計算ではありますが2005年から2010年の間で集計してみるのと同時に、今季プロジェクションでも試してみましょう。
 

 
 過去6年間で3000球をオーバーした投手は述べ32人いて、その内翌年MLBに移籍した井川慶(当時阪神)の分を省き31人の稼働分となります。先発機会数で前年対比83%、投球回数では78%と大きく数字を落としています。平均イニングも7.08から6.65と下がっています。比較対象が「前年フル回転」となっているため下がって当然ともいえますが、フル稼働した投手の穴埋めが容易でないことも確かです。今季も例に漏れず、プロジェクションを使った予想でも先発機会数前年対比78%、投球回80%と似たような減少値となっています。
 
 最も痛手となっているのが由規、村中を欠いているヤクルトで、彼らが予定通り(報道上では7/12からの9連戦から復帰)に戻り、その後欠かさず登板したとしてもプロジェクション上では合せて225回に過ぎず、昨年の345.2回から計算すると実に35%も減ってしまいます。こうなると「昨年は投げさせ過ぎ」との見解が出されますが、彼らにとっても3000球以上投げる資質が試されている考えもありますし、オーバーワークの影響は直ぐに出ないこともあると思います。一つ気になる点は、昨年は追う立場今年は追われる立場ということで、フィジカル面に沿ったマネジメントが行なわれるか心配なことです。
 
 得点力が低いシーズンとはいえ、先発投手に多くの球数を投げさせ過ぎると翌年以降何かしらの影響が出てくるかもしれません。特に、耐久性が証明されていない若い投手についてはファンも注意しながら見ていくことを勧めたいと思います。
 
 
4.IP/Pは投球スタイルの基盤
 
 今度は投球効率についての話になりますが、投手指標の中で比較的安定しているのが奪三振と与四球率で、これを基にFIP(仮想防御率)が計算されているのは有名ですが、結果に囚われずただ投げた数のみに着目するとそれ以上に安定した数値が存在しています。それがP/IP(イニング平均投球数)です。最も、この指標は出塁というノイズに影響されるためWHIPが悪くなれば同時にP/IPも下がるため、投球スタイルそのもの効率を図るにはP/PA(一打席ごとの球数)の方が優れています。
 
 しかし、「ゲーム中の観察」という着眼点において、イニング辺り何球放っているかによってその投手が何イニングまで安心して見ていられるのか、或いはオーバーワークの懸念が生じないかなどの予測には十分役立つと考えております。また、平均値を出すと各投手のカラーが色濃く出ている点も有用な指標となるべき点があります。
 

 
 これはパ・リーグの著名なエース達のP/IP。ハッキリしていることは、『投球効率については武田勝が他の追従を許さない』ことです。軟投派でゴロを打たせる割合の高い武田勝は、常に少ない投球数で打者を抑えてきました。WHIPでは遥かに優るダルビッシュも、この数値だけは届きません。また、三振を取るタイプの和田、杉内らはこの値が常に高く今季は改善されていますが、幾分か球数を消費しながら打者を抑えるタイプと呼んで構わないでしょう。同じタイプと見られるダルビッシュは三振を奪いながら球数も抑えるといった理想的な状態を残しています。ただし、昨年については他球団から研究されたせいかP/IPが急激に悪化していました。
 
そして、今季はほぼ全員がこの値を上昇されているのも特徴です。
 

 
 今度はセ・リーグに移ります。パ・リーグのようなハッキリとした傾向がなり代わりに、格差も少ないのが特徴です。近年で特に安定感の強い館山は常に完投が視野に入る内容を残していて、多少バラツキがあるものの今季のチェンも良い内容です。由規は荒れ球速球投手のイメージから進化する途中という傾向も現れています。パと比較すると経験の浅い投手中心で作成しているため、傾向が安定するのは数年後になるものと思われます。
 
 ここでメジャーリーグに目を移しますが、1990年代から2000年代に掛けて300勝以上を挙げた大投手である、グレッグ・マダックスとランディ・ジョンソンの比較をしてみたいと思います。
 

 
 「精密機械」の異名を持っていたマダックスは、抜群の制球力もさることながらいかに早打ちさせるかを念頭に投げていたといわれています。「1試合27球で完投が目標」、「盗塁に関心無し」といった逸話も彼のスタイルを現す表現で、ローテーション入りしてからP/IPは一度も14.00を下回ることはありませんでした。最も効率的だった1997年はイニング辺り11.29という途方も無い値を記録しています。一方、史上2位通算4875奪三振の記録を持つジョンソンは、デビュー間もない頃は荒れ球投手として有名で、多くの球数を消費して多くの三振を奪ってきました。キャリア内で年間4000球を超えること5度、球数制限が厳しくなったとされる2001年から次第に効率を重視した兆候が感じ取れます。
 
 この2人のP/IPが最も近付いた2004年でも、(マダックス13.77、ジョンソン14.71と)約1球分の開きがあり、投球効率上では常にマダックスが優勢でした。ただし、投手最高の賞とされるサイヤング・アワードについてはマダックス4回、ジョンソン5回と全く引けを取っていません。このように、P/IPは決して投手の能力判別に使う指標ではなく、投球スタイルの基盤として捉えることが大事かと思います。その値が正常値から著しく掛け離れた場合、「成績が上昇(下降)する」「オーバーワークの可能性がある」といった変化が生じているものと察することが出来るでしょう。

コメント


http://www.baseball-lab.jp/files/user/pitch-manegement-total03.jpgの画像が岩隅になってますよ。

Posted by あ at 2011/06/22 23:37:03 PASS:

大変失礼いたしました。
修正させていただきました。

Posted by 岡田友輔 at 2011/06/23 02:14:48 PASS:
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