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打順シミュレーション

鳥越規央 [ 著者コラム一覧 ]

投稿日時:2011/02/04(金) 10:00rss

1. はじめに

 野球において,打順は勝敗を左右する重要な要素の1つである.効率的に得点することが求められる野球では,選手の打撃能力やプレースタイルを考慮した上で,最も効率的と思われる打順を組む.しかし打者9人による打順の組み合わせは全部で9!=362880通りも存在し,控え選手も考慮すると莫大な打順の組み合わせが存在することになる.このレポートではシミュレーションを用いて,効率良く得点することができる最適な打順を求める方法について説明する.
 今回は福岡ソフトバンクホークスの2010年シーズンの打撃データを基に,打順を入力すると1試合当たりの得点を出力するソフトウェアを作成し,考えられる全ての打順を数千回ずつシミュレーションした.シミュレート結果より,ある打順が1試合当たりに得る平均得点を算出し,それらの順位付けを行った.そして,より多くの得点を得た打順にどのような傾向が見られるかを考察した.
 

2. データ

2.1 対象選手の説明

 研究で使用するデータは,2010年シーズンを対象とした打撃成績に関するものである.この研究では,DH制を採用しているパ・リーグで優勝した福岡ソフトバンクホークスを選択し,主力として活躍した選手の打撃成績を用いてシミュレーションを行っている.
 対象となる選手は,田上秀則,小久保裕紀,本多雄一,松田宣浩,川崎宗則,オーティズ,長谷川勇也,多村仁志,ペタジーニ,山崎勝己,柴原洋,松中信彦,李ボム浩の13人である.

表2.1 対象選手の打撃成績

 

2.2 シチュエーション別打撃成績

 アウトとランナーの状況によって,選手が打席に立ったときのシチュエーションを24の場面に分類する. 表2.2では各シチュエーションに割り当てられたダミー変数を示している.

表2.2 アウトとランナーの状況によるシチュエーションの分類
  
 シミュレーションでは,表2.2で示した各シチュエーションにおける選手の打撃成績を用いて行うことにする.以降,シチュエーション別に分けた打撃成績のことを,「シチュエーション別打撃成績」と呼ぶことにする.表2.3は川崎選手のシチュエーション別打撃成績の抜粋である.
 
表2.3 川崎選手のシチュエーション別打撃成績の一部

 
表2.4では,打撃結果の分類を全て示している.

表2.4 打撃結果の分類



3. シミュレータの信頼性について

 我々が作成したソフトによるシミュレート結果が現実のものとかけ離れていない的確な数値を算出しているかどうか,適合度検定を用いて検証する.
 適合度検定は観測度数と理論度数を基に検定を行う.観測度数にはシミュレート結果をあてはめ,理論度数にはリンゼイの得点確率分布を基にした値をあてはめる.リンゼイの得点確率分布とは,イニング終了時における得点確率のことである.
Xkを先攻チームの第イニングの得点,Ykを後攻チームの第kイニングの得点を表す確率変数とする.またpを第kイニングにおける打者がアウトになる確率とする.
第kイニング時に点獲得する確率を示す関数をとすると,


ここで、




で表される.また,

である.pkの算出方法は,

である.

福岡ソフトバンクホークスの年シーズンのデータから推定される各イニングの打者がアウトになる確率は,表3.1のようになる.
 


以上のことから,試合終了時における得点確率を求めると,



となる.

 観測度数にはシミュレート結果をあてはめ,理論度数にはリンゼイの得点分布を基にした値をあてはめる.シミュレート回数を1シーズン分に値する144回に設定して検証する.
 
図3.3 理論確率の分布

 


図3.4 観測確率の分布
 


図3.5 理論度数と観測度数
 


適合度検定よって,シミュレート結果は信頼できるものといえよう.
 
 
4 シミュレート結果

 野球でスターティングメンバー9人を選ぶ際,打撃能力の他に守備位置なども考慮しなければならない.今回のシミュレーションでは,守備に就く8人の選手を図4.1のように固定した.

図4.1 選手選択画面



 守備に就く必要がないDHで,ペタジーニ,山崎勝己,柴原洋,松中信彦,李ボム浩の5人を起用する. なお,1つの打順につき7500回シミュレートしている.
 

図4.2 打順決定画面
 


図4.3 結果出力画面
 


 これから紹介するシミュレート結果は,1試合当たりの平均得点が高かった打順上位30を順に並べたものである.打順の傾向を視覚的に捉えるため,シミュレート結果を色分けした.打者9人のうち,打率上位の3選手を赤,打率中位の3選手を緑,打率下位の3選手を青で示した.表4.4から表4.8は1試合当たりの平均得点が高かった打順上位30を表したものである.

表4.4 DHでペタジーニを起用したとき


表4.5 DHで山崎を起用したとき


表4.6 DHで柴原を起用したとき


表4.7 DHで松中を起用したとき


表4.8 DHで李ボム浩を起用したとき


 表4.4から表4.8を基に,各打順で打率上位が占める割合,打率中位が占める割合,打率下位が占める割合を算出した.それを表4.9で示す.

表4.9 各打順で打率上位,中位,下位が占める割合


 シミュレート結果と表4.9から,1試合当たりの平均得点が高い打順の傾向を考察する.
1番打者における打率上位が占める割合は0.84であり,打率中位が占める割合も含めると0.97もある.このことから,1番打者は打率が高い打者を起用したほうが良いことが分かる.また,川崎と本多が多く起用されていることを鑑みると,1番打者には機動力も必要である.
 2番打者における打率中位が占める割合は0.62であり,打率上位が占める割合も含めると0.95もある.このことから,1番打者ほど打率は高くなくても良いが,比較的打率が高い打者を起用したほうが良い.また,小久保やオーティズ,ペタジーニが多く起用されていることを鑑みると,あまり機動力は必要ないようである.
 3番打者と4番打者に関しても,2番打者と同様のことが言える.しかし,効率良く得点するためには,2番打者より高い打率の打者を起用したほうが良いことが分かる.また,4番打者に関しては,チームで最も優れた打者が起用される割合が多かった.
5番打者と6番打者に関しては,比較的打率が低い打者を多く起用していた.
7番打者と8番打者に関しては,最も打率が低い打者が割合を多く占めていた.
9番打者における打率下位が占める割合は0.50であるが,打率上位の打者が起用されることも珍しくなかった.これは,9番打者の次は1番打者に戻るためだと考えられる.

 表4.10から表4.14で,打者9人のうちOPSが高い3選手を濃い緑で色分けした.OPSとは打者を評価する指標の1つで,出塁率と長打率を足し合わせた値である.強打者になるほど,OPSの値は大きくなる.
 
表4.10 DHでペタジーニを起用したとき


表4.11 DHで山崎を起用したとき


図4.12 DHで柴原を起用したとき


図4.13 DHで松中を起用したとき


図4.14 DHで李ボム浩を起用したとき


 上で示した表から, OPSの高い打者は2番打者,3番打者,4番打者で集中的に起用される傾向が見て取れる.特に,2番打者と4番打者はOPSが高い強打者が起用される割合が非常に多かった.
 以上のことから,効率的に得点できる打順を組むためには,1番打者から4番打者にかけて打率が高い打者を集中的に起用し,6番打者から8番打者には打率が低い打者を起用したほうが良い.また,1番打者には打率が高く,機動力がある打者を起用し,2番打者と4番打者には出塁率と長打率が高い強打者を起用するべきである.
 
 このコラムは東海大学理学部情報数理学科 薄井一樹君の研究をベースにゼミナール指導教員である鳥越が執筆いたしました.

コメント

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表4.10が間違ってますよ。

Posted by jooolin at 2011/02/04 11:32:51 PASS:

>jooolinさま

ご指摘ありがとうございました。
修正いたしました。

Posted by 岡田友輔 at 2011/02/04 12:29:52 PASS:

 だいたいチームで1番攻撃力のある打者というのは出塁率だけでなく長打力も兼ね備えていないと成立しないので、上位の固まったグループに置くことは分かっても、その中で前の方に置くのか後ろの方に置くのかというのはタイプによって分かれてきそうですね。
「1番攻撃力のある打者よりも出塁率(長打率)では勝る打者」とかがいれば、シンプルに決まりそうなんですけどね^^;

 打順9番も取り扱いが難しい。
 打席数は減るものの、1番の前であります。1番にはそこそこ強力な(あるいは1番強力な)打者が入るので、ここの出塁力が乏しいと損をしそうです。

 パリーグなので「攻撃力のある打者の打順を多く回す」というのと「より効果的な場面で多く回す」というのが重要になりそうですね。
 最強打者が3番バッターなら、最弱打者は9番ではなく7番か8番でしょう。

 セリーグだと投手打順があるので「攻撃力のない打者を多く回さない」比重が上がりそうです。
 多分、代打込みでも投手が2回も回れば8番目の打者には1試合の攻撃力では負けるでしょうし。
 となってくると、9番投手を固定から逆算すると、旧来から言われる4番や5番が最強打者でもおかしくない気が……いやいや、それは1~3番にスタッフが揃った時の話ですね。
 駒が揃っていれば4番もありえそうですが、4番最強打者が成立する打線は凄く贅沢な気がします。

 あと機動力は……数をはかないとダメなので、とにかく前でないと生きそうにないですね。

評価:stars-3-0.gif Posted by せるふぃむ at 2011/02/09 00:45:54 PASS:
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