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このサイトの考え方

Baseball Lab「Archives」とは?

Baseball Labは野球に関するwebサービスを創造するための実験室です。Baseball Lab「Archives」では2010~2011年にかけてラボ内で行われた「セイバーメトリクス」のコンテンツを公開しております。

このページでは、野球を客観視して既存の視点とは違う角度から野球を考える「セイバーメトリクス」を扱います。独自の論評、分析、および研究を特徴として、野球に関するさまざまな考察をしております。


このコンテンツの目的は、普通の野球ファンに洞察に満ちた野球リポートを提供することです。さまざまなチーム分析、ニュース、選手の移籍、野球の歴史、そのほか野球に関して多くの題材が語られております。

 

基本的な考え方

勝利を得るために必要な得点と失点の追求
 野球で最終的な目標は勝利を得る事です。チームが勝利を得るには相手より多く得点する(=相手より失点を少なくする)しか方法はありません。それゆえ選手の活躍が得点や失点にどの程度影響があったのかを見極める事が、選手の能力を測る基本となります。
選手の成績を得点や失点に換算することは、セイバーメトリクスの大きな柱で、打撃・投球・守備・走塁など違った能力を得点・失点に置き換える試みがなされています。

 われわれの評価する勝利に結びつく活躍は1試合ごとの印象に残るプレーと一致しない場合もあります。例えば外野手が、フラフラと上がり内野手の頭を越えてポテンヒットになりそうな飛球を猛ダッシュでスライディングキャッチしたとして、そのプレー自体に芸術的な価値はあるかもしれませんが構造的な試合への影響としてはあくまで安打を1本防いだ形にしかなりません。
また、走塁で二塁から間一髪きわどいタイミングで生還しても、1得点を挙げた走塁としての評価になります。

 みなさんには少し腑に落ちないかもしれません。しかし、このようなプレーに対して、構造的に価値を計る方が客観的に選手の能力を評価できると考えています。華麗なファインプレーをする選手やガッツあふれるヘッドスライディングで士気を鼓舞する選手は,ファンに「魅せる」という意味では印象に残るかと思います。しかし、「勝つ」という最終的な目的を杓子として選手を評価するときには,各プレーを冷静かつ公正に扱うべきでしょう。
 

主観の排除

 具体的に主観の排除とは何を指すのでしょう。例えば、バットコントロールがうまい・守備範囲が広い・コントロールが良いといった漠然とした選手のイメージ部分などもそれにあたります。スポーツニュースなどで何度も活躍したシーンを見てしまうと、その選手が良い打者・良い投手と印象付けられてしまうかもしれません(もちろん優秀な選手の場合もあります)。また、ひいきのチームが無死満塁という好機で得点することができなかったということが続けば、チームの得点能力のなさをなげくとともに、「もしかしたら無死満塁っていうのは逆に点が入りにくいのかも?」と誤った認識をうえつけられてしまうかもしれません(実際のデータを見れば、アウトカウント、塁状況を踏まえた24のシチュエーションの中では、得点できる確率や期待得点が非常に高い)。野球を見る上で、このような主観に引きずられない点はセイバーメトリクスの長所です。客観的な記録や構造的に考えることは、野球を理解する上で有用かと思います。
 データを解析する作業も人間が行うことなので、そこにバイアスがかかる可能性もあります。われわれは、いかにそのようなバイアスを排除し、データに内在する「真実」を評価できるかに価値を置いています。セイバーメトリクスを研究するということは、選手やプレーの「真の力」を正当に評価するための一助になるものと確信しています。
 

選手評価における一つの基準

 客観的に勝利への貢献を評価する上で何を基に考えて行けばよいのでしょう。一つの基準として得点期待値は大きな助けになるとわれわれは考えています。これは、アウトカウント・走者状況の局面ごとに、その状況からその後何点を取れるかを表しています。2004年~2010年のNPBデータを基にした得点期待値はこちらになります。

 このデータを使うことで単打・本塁打・四球・三振など各イベントの前後の得点期待値を比較し、その上昇(下降)させた値の平均値を使えば、実態に即したプレーの重みを算出する事ができます。また、この得点期待値はさまざまな野球のプレーに応用が可能です。安打や凡打等の打撃の価値を評価するだけでなく、犠打や盗塁の価値の分析に用いることもできますし、ゴロやフライといった打球の性質を区分けした評価も可能です。さらに、ある地域に飛んだ打球がアウトになる割合・シングルヒットになる割合・長打になる割合から、その地域に飛んだ打球が安打になった場合の失点の上昇などを具体的に知る事が出来ます。つまり、得点期待値は野球におけるさまざまな出来事を得点という共通の単位で評価するための「ものさし」として使うことができるのです。セイバーメトリクスの本家アメリカでも得点期待値は幅広く利用されています。Baseball Labでもこの得点期待値を基にしたリポートは多くなるかと思います。また、当サイトのチーム・選手データでも得点期待値を基にした打者評価、wOBA等を使用しています。
 

相対的な評価

 安打を打つ確率、長打を打つ確率が高い打者は得点に有効です。3割30本といえば、「普通に考えれば」かなりの強打者でしょう。
 ではなぜ3割30本は「普通に考えれば」かなりの強打者なのでしょうか。妙な問いに感じるかもしれませんが、実はここが評価の肝になる部分で、結局「普通」多くの打者はそれほどの打撃成績を収められないからです。
 仮に誰もが4割50本打っているリーグがあるとしたら、そこでの3割30本は評価に値するでしょうか。おそらくしないでしょう。
 並の打者に比べてよく打っている打者がいると相対的にチームが得点力アドバンテージを得られる(ひいては他のチームに比べて勝率が上がる)から勝利という目的が達せられる。そのときその打者は評価に値するのです。実のところ3割30本という数字に単独で価値が見いだせるわけではありません。相対的に優劣を比較するということです。普段あらためて言及されることは少ないですが、選手の有益性というのは相対的に計られるものです。このことを、データを扱う際には積極的に注意しておかないと数字の意味を見誤る危険があります。

 これは傑出度(Relativity)という考え方の歴史的評価にも通じます。傑出度とは異なる年度や異なるリーグの成績は単純比較できないため特定の範囲における相対的な優劣によって選手を評価する考え方です。
 例えば2003年ごろなどNPBが「飛ぶボール」を使っていたということが話題になりましたが、選手の成績はそのように環境の変化などの影響を受けます。パ・リーグの打数あたりの本塁打数は2003~2007年で1%以上低下しましたが、この環境の変化に伴って打撃成績が落ちた選手に対して「能力が落ちた」という評価を下すのは必ずしも適切とは言えないでしょう。
 平均打率.240のときの3割打者と、平均打率.280のときの3割打者なら、前者のほうが傑出しています。リーグの中でそれぞれの持つ影響力は異なるはずです。
 そういった事情を考慮して、成績をリーグ平均で割ったり、リーグの得点の多さによる補正を加えたりすることが行われます。補正を行うことにより異なる年度・リーグの成績でも環境の中での相対的な利得というのは導き出せますし、それを比較することにより時代を超えて選手の貢献度を比較できるということです。
 

数字に表しにくいものなど

 よく言われるところに「流れ」だとか、チームの勢い、勝負強さといったものが数字に表れにくいということがあります。
 ただし従来合言葉のように言われた「数字に表れない働き」の範囲は研究が進むにつれて確実に狭くなってきています。対象がどのようなものであるか定義をして、厳密に統計を取れば多くの要素が数字(結果)に表れてくるからです。逆に、あらゆる研究をしても結果として数字に表れないとなると、ただ単に無意味なものである可能性も考えられます。例えばチームの気分が高揚する何かがあったとしてそれにより勝利確率が高まらないならば結局意味がないと考えられます。
 そしてセイバーメトリクスの基本的な指標では偶然性の排除ということもあり勝負強さの類は考慮されないことが多いです。近年では局面の影響力を測定した指標も多く、勝負強い選手は無視できない程度には存在するとされますが、検出される数字はかなり小さいものであり評価に決定的な影響を与えるものではありません。
 またセイバーメトリクスが精神力といったものを評価しないかと言えばそういうことはなく、むしろ対象とするデータにもともと組み込まれているとみなされます。というのも試合に出場するプレッシャーに耐えられないような選手は解析の対象となる以前に淘汰(とうた)されているもので、逆に強い精神力によって良い結果を残すことができる選手がいればそれは「良い結果」が評価されることで結果的に精神力も評価されるからです。

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Baseball Lab「Archives」では2010~2011年にかけてラボ内で行われた「セイバーメトリクス」のコンテンツを公開しております。

野球を客観視した独自の論評、分析、および研究を特徴として、野球に関するさまざまな考察をしています。